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24 掻き乱される心


(ど、ど、どうしようーーー!?咄嗟にルークから逃げてきてしまったわ・・・!!)

あれから寮に向かうわけでもなく、走った先は学園の中庭だった。

(ルークから逃げたなんて、絶対、ぜーーったい面倒な事になるわね・・・)

黒い笑みを浮かべるルークを容易に想像できてしまい、私はがっくりと肩を落とす。先程走ったことで乱れた息を整えながら、私は空を見上げた。

婚約が契約だのなんだのと第三者から言われただけで、こうも動揺してしまうなんて思いもしなかった。私は利用されているだけだったのに、今までが楽しすぎていつの間にか忘れてしまっていたのだ。この関係の前提を。


婚約なんて、ただの契約だろう。


「・・・・・・ああ、痛いわ」

きゅ、と胸の辺りを押さえる。どうしてこんなにも心が痛いのだろう。それに、ロイの言葉がこびりついて消えない。

ああ、だけど。それでも。

(・・・あの時心配してくれていた表情は、本物だわ)

私のためを思って行動してくれているルーク。彼の行動全てが嘘ではないのは、よく分かっている。

ままならないものだ。私の気持ちも、婚約者という関係も。

モヤモヤするのは好きじゃない。なんだか色々な事が嫌になってしまう。──全部捨てられたら楽になるのだろうか。そう思った時だった。

「見つけた・・・!」

「・・・っ!」

突然の背中からの温もりと、私を抱きしめた腕に目を見開く。顔を見なくても分かる。多分、声を聞かなくても、その温もりで分かってしまう。

「ルーク・・・・・・」

私が名前を呟くと、腕にやや力が込められる。はぁ、とため息をつくと、温もり──ルークは安堵したようにただ一言、「・・・よかった」と呟いた。

「・・・あ、えっと・・・さっきはごめんなさい。ちょっと、その・・・色々あって、あなたからつい逃げてしまったの」

「・・・俺もごめんね。顔色が悪かったから、焦ったんだ。ロイに何かされたんじゃないかと思って・・・。実際何かされたみたいだけどね」

「うっ・・・」

私はバツが悪くて目を逸らす。それを見逃さないのがルークだ。

「ねぇリリア、君に何かあってからでは遅いんだ。俺は君に何かあったら・・・確実に正気ではいられないよ」

「・・・っ」

わかりやすく心配だ、とルークの顔に書かれている。だが婚約の前提を思い出した今、優しくされる事すら私の心を掻き乱した。

「も、もう!大丈夫よ!そんなに言われなくても、ヘマはしないわ!」

どうして、こんなにも動揺するのか。

「その言葉がちょっと信じられないくらいには、君と長く付き合ってきてるよ」

どうして、こんなにも痛いのか。

分からない。・・・分からない。

「全く・・・、とにかくリリア、君は必要以上にあいつに近づいてはいけないからね」

そう言って、ぽんと頭に手を乗せる。その必要があるのかと彼の顔を見た。しかしそれが、余計に私の心を掻き乱した。

(なによ、それ)

だって、私の頭に手を乗せるルークは、まるで慈しむような、大切なものを見るような、蕩けるくらい優しい瞳で私を見ていた・・・気がしたのだ。

「・・・・・・気、をつけるわ・・・」

おかしい。こんなのはおかしい。

私は混乱する。だって今まで、ルーク相手にこんなもの感じたことなどなかったじゃないか。いつもより早く脈打つ鼓動を感じる。

痛いのも、悲しいのも、今の状況に説明がついてしまう感情を、私は──否、前世の“私”は知っていた気がする。気がするのに、ちっとも思い出せない。今の“私”がまだ知らないそれはなんなのだろうか。

「あれ・・・リリア?顔が赤いけど、本当に体調大丈夫?」

「だ、大丈夫よ!ピンピンしてるわ!」

またひとつモヤモヤを抱えたまま、私はルークと寮に向かって歩いたのだった。





そんなことのあった日の翌日。

私は今猛烈に困っている。目の前の存在に困らされている。

「あの、そんなに見られていると食べづらいです、ロイ殿下」

「気にするな」

(気になるから言ってるんでしょーが!!)

私はなんてことない顔をして言い放つ目の前の男、ロイに手を焼いていた。お昼ご飯を食べるためにカフェテリアに来たというのに、さあ食べ始めようという所で何故か目の前の椅子にロイが座ってきたのだ。ルークから必要以上に近づくなと言われているし、何より昨日の事がある。早急に立ち去って欲しいのだが・・・。

本当に不思議なことにこの王子、私のことを穴があくほど見てくるのである。

「・・・あの、楽しいですか?」

「別に」

(じゃあやめてくださいよ!!!!)

沈黙に耐えきれず話しかけてもこの有様で、完全にお手上げである。

(今日、ミアはアルフレッドさんの生徒会のお手伝いだし、ニーナも用事があるとかでぼっち飯だと思っていたのに、まさかこんな事になるなんて・・・!)

何が楽しくてこんなことに耐えねばならないのか。ルークを呼んだら絶対険悪になるし、せめてディランかサイラスを誘えばよかった〜〜!と後悔した時だった。

「失礼。こちらに座っても?」

ふと私たちのテーブルにカチャリと軽い音をたてて置かれたカップ。視線をあげた先には──

「クララ様・・・」

ロイの婚約者、クララ・バチュラーその人がいた。




ようやく、ようやくリリアにそれらしい心の動きが出てきましたよー!


スピンオフの件なのですが、リリアと誰のものを書くかで悩んでいてちっとも進まない笑 誰と組みあわせてもわちゃわちゃしてはくれそうですが笑

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