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19 クローディア祭、閉幕


ルークに「秘密の場所」と言われて連れられてきたのは、生徒会室だった。

「生徒会室?でもここ、生徒会の人達以外は・・・」

「大丈夫、グウェインには許可を得ているし、何よりどうせ次期生徒会長は俺だからね」

「え、そうなの?」

頷きつつ彼は私の手を引いて生徒会室に入っていく。素直に従って私も入った直後、部屋の窓がパッと光って、


──ドンッ!


「えっ!?」

大きく響いた音に驚いて声を上げる。そしてすぐにその正体はわかった。

「・・・花火だわ」

「驚いた?」

ルークはふふ、と楽しそうに笑って私を見ている。

「ええ、とても。・・・凄いわね、生徒会室からなら花火がよく見えるわ」

クローディア祭の夜は例年花火が打ち上がる。それはもちろん覚えていたが、まさか生徒会室が穴場スポットだったとは。

「穴場スポットだから“秘密の場所”なんて言ったのね?」

「まぁそれもあるけど、何より答えを言ったら面白くないじゃないか」

そういうルークに私はそうね、と笑う。と、

「ようやく笑ってくれた」

私の頬を彼の手が撫でる。それに反応してピクリと肩が揺れた。

「・・・まるで笑っていなかったみたいじゃない」

「笑っていなかったよ、少なくとも・・・機材が落ちてくる事故の後からはね」

「! だってそれは・・・っ!」

ピンポイントでそこを言われて動揺した私は、余計なことを口走りかけて慌てて口を噤む。しかし、ルークはそれで追求しないでいてくれるような男では無い。恐る恐る目の前を見ると、

「うん?それは、何?」

気になるなぁ、と彼は予想通り怪しく笑う。

(ああ、まずい!これは言わないとまずい展開・・・ッ!!でも言いたくない!)

外では相変わらず花火が打ち上がっている。華やかで綺麗で、私とルークの空気とは正反対だ。久しぶりに味わう蛇に睨まれたような感覚・・・いや、蛇なんかよりずっと怖いものに睨まれたような・・・。

退路など最初からないのだ。私は俯きながらも諦めて口を開く。どうせ怪訝な顔をされるだろうが。

「・・・ルークがニーナさんを助けた時・・・なんていうか、胸の中がモヤモヤってしたのよ・・・。それで、顔を合わせにくくて・・・」

まさかそれがゲームのスチルと全く同じで、それがモヤモヤを余計に感じさせたとは言えない。問題のなさそうな所を打ち明ける。

しかし、せっかく打ち明けたというのに、ルークは何も発してくれない。

(ちょっと、言わせておいてだんまりってなんなのよ・・・)

むっとして顔を上げると、

「・・・え」

私は目の前の光景にぽかんとしてしまった。

ルークは何故か顔を真っ赤にして驚いたふうに目を見開いて、手は口を押えていた。

彼の赤面なんて見た事がなくて、私は呆気にとられてしまったのだ。でも、突然のUR級の最推しの赤面に思考が停止するのも無理ないと思う。耐えられるオタクはいるのだろうか。

「・・・えっ・・・と、ルーク?どうかしたの?」

「・・・いや、ちょっと・・・、長年の苦労が少し報われた事に感動したよ・・・」

「???」

ルークの答えに私はハテナしか浮かばないが、彼は何故か嬉しそうに笑った。

「分からない?」

ルークの問いに私は頷く。すると彼は、意地悪そうに微笑む。

「それはね、リリア。ヤキモチって言うんだよ。リリアは俺に対してそう感じたってこと」

「・・・・・・うん?」

言われた事を理解するのに十秒くらいかかった。そして、理解した私はケトルのように湯気を出したんじゃないかと言うくらい赤面した。

「な、何言って・・・ッ!!ルークに対してヤキモチって・・・!そんなわけないでしょう!!そういうのじゃないわよ!!!!」

違う、違う!!ルークはそういうのじゃない。ルークはニーナと結ばれるべきで、私は単に死亡フラグを回避したくて・・・!あれ、死亡フラグとか思い出したの久しぶりのような・・・。

色々な思いで混乱しつつ、ポカポカと彼を力のない拳で殴る。彼はそれはそれは楽しそうにしていた。──くそう、さてはSか、Sなんだな。

最後の大きな花火がちょうど彼の楽しそうな笑顔と重なって、より一層綺麗に見えたのは気のせいではないだろう。



花火が打ち上がっているその頃。

人気のない一つの教室で、開け放たれた窓からそれを見る人影があった。

「──マドンナリリープリンセス、リリアーナ・オルコット公爵令嬢・・・・・・」

リリアーナの写真と共に書かれた結果発表の紙を手に、ボソリと呟かれる。

「・・・・・・こいつが兄上の婚約者、か・・・」

紙に落とされた視線は再び夜空へ戻る。月光に照らされた輝く金髪がサラサラと夜風でなびき、それは“彼”を彷彿とさせた。

「兄上、久しぶりの再会をしようじゃないか」



これにてクローディア祭は、華やかに幕を下ろした。

しかし、リリアーナの知らぬ間に新たな“ゲーム”が幕を開けていたのだった。



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