18 マドンナリリー
区切りの問題でいつもより少し短めです。
早足の兄にわけも分からず連れられている途中、景色でどこに向かっているのか察した。
(もしかして、マドンナリリーの会場に行こうとしているの?)
兄は私がいないと始まらないと言っていた。ま、まさか・・・、
(最下位もステージに立たされるの・・・!?)
サッと顔が青くなる。いやいやいや、ちょっと待って欲しい。そんな公開処刑みたいなことされなきゃいけないの!?
「お、お兄様!あの!」
止めようとして話しかけたのと、会場に着いたのは同時だった。
「リリ、ステージに行ってくれ」
「・・・・・・どうしてもですか」
渋る私に兄は不思議そうに眉を寄せる。しかし頷く兄を見て、私は腹を括った。重い足取りでステージに立つと、パッと私にスポットライトが当たった。
(!?ま、眩しい・・・!)
突然の光に驚いていると、司会がさらに驚くべきことを告げた。
「それではこれより、今年のマドンナリリープリンセスであるリリアーナ・オルコット様の表彰を行います!」
「へっ?」
──表彰?・・・マドンナリリーコンテストのプリンセスが、私?
「え、いや!いやいやいや!私!?何かの間違いではなくて!?だってあんなに会場しらけてたじゃない!ねえ、お兄様!」
ステージ上だが、それ所ではなくて近くに控えていた兄に問いつめる。
「間違いではない。マドンナリリープリンセスはリリだ」
驚愕で私は声も出ない。
どうして。私には優勝の理由が全く分からない。
「リリアーナ・オルコット様、こちらへ」
司会に促されるままに私はステージの中央に足を運ぶ。すると、プリンセスに贈られるティアラを持った兄がこちらへ来た。働かない頭でぼんやりと、そういえば表彰は生徒会長がやるんだったと思い出す。
「おめでとう、リリ」
どこか誇らしげに微笑む兄はそっと私の頭にティアラをつけた。呆然としながらも、公爵令嬢としての作法が嫌というほど身についているこの身体は勝手にこなしてくれる。この全自動公爵令嬢作法モードをコンテストで発揮出来ていたらなぁと思いつつ、その優雅なお辞儀をすると会場は拍手で包まれた。
こうして、マドンナリリーコンテストは幕を下ろしたのである。
「おめでとうございます、リリアーナ様!」
「さすがリリアーナ様ですわ!」
表彰を終えてヘロヘロになった私の元に一目散に駆けつけてくれたニーナとミアがキラキラの笑顔で祝ってくれる。その可愛らしい笑顔に疲れた私は救われる。
「てっきり最下位かと思っていたのに・・・まさかこんな事になるなんて」
「最下位なんてある訳ないじゃないですか!」
ニーナがありえないという風に首を振る。
「あんなに美しい笑顔をされていたのに優勝じゃなかったら私、抗議しに行こうかと思いましたわ!」
ミアも興奮したようにそう言ったが、引っかかる言葉があった。
「美しい笑顔・・・?」
そんなもの見せただろうか?緊張でカッチンコッチンな表情ならいくらでも晒した自信がある。
「ええ!ルーク様と目が合った時のあの笑顔です!」
「あ、あれ!!?」
私はギョッとする。“あれ”が美しい笑顔ですって!?
「絶対に顔が緩んでだらしがない顔だったと思ってたわ・・・。会場も静まり返っていたし・・・」
「それは天使の微笑みすぎて皆さんが見惚れてしまったんですよ!」
ニーナが信じられないことを、それこそ天使の微笑みで言う。天使の微笑みはやはりニーナの担当だ、などと余計なことを考える。
──とはいえ、優勝したのもまた事実。
(うーん、ゲームビジュアルのリリアーナは美人だし有り得なくはないのかしらね・・・)
うん、これ以上悩むのも面倒なのでそういうことにしよう。
「リリア」
考えることを放棄した私の元に、聞きなれた、けれど今は何となく聞きたくなかった声の主がやってきた。
「・・・・・・ルーク」
モヤ、とまた謎のモヤモヤが現れて目を逸らす。するとその反応をどう思ったのか、ルークはニーナ達に視線を向ける。彼女達は分かっているという風に頷くとそそくさと別の場所に移動してしまった。
(ちょ、ちょっと!二人きりにさせられるのは何となく嫌なのだけれど・・・!)
ああ・・・!と彼女達の背中を目で追うと、「行くよ」と短く告げたルークに手を引かれて歩き出さざるを得なくなる。
「ルーク、どこに行くの・・・!?」
焦った私が尋ねると、ルークはこちらを見て、
「秘密の場所」
と言った。それだけ答えた彼はまた無言で私の手を引いて前を向いて歩き出した。