1 可愛い子を見つけました
「誕生パーティってあと一ヶ月後のやつじゃないのーーーーッッッッ!!!!」
衝撃的な事実に思わず叫ぶと、部屋の隅にいた侍女がビクリと驚いたようにこちらを見る。
「あっ・・・ご、ごめんなさいケリー」
その侍女の名前はケリー。歳は十五だったような気がする。私の侍女を幼い頃からやってくれているのだが・・・、ケリーが私の謝罪にぽかんとしている。あれ?何か変な事言った?
「あの・・・ケリー?」
呼びかけると彼女はハッとすると、慌てた様子でなんでもありませんと口にした。
(そんなに変な事言ったかしら?ただ驚いたようだったから謝っただけ・・・・・・)
そこまで考えて私はハッとした。
そうだ、今までのリリアーナは悪役令嬢らしい性格をしていたから、謝るなんて事しなかったんだ!
前世を思い出すまでの私といえば、それもう酷かったとしか言えない。我儘放題で高慢、使用人なんて自分のために働いて当然だと思っていた。だからケリーに対しても配慮するなんて事はなく、まして謝罪などするわけもなかったのだ。
(けど、いまさらそんな風にはなれないわよ・・・。私、見た目は八歳だけど、前世思い出したせいでプラス成人済みよ?無理)
精神年齢が跳ね上がり、常識ある日本人として生きていた記憶がある今、以前の我儘お嬢様で過ごせるはずがなかった。どうしたものか、と思いながらもケリーが気になってじいっと見つめてしまう。彼女はどうにも落ち着かないらしく、あわあわとしている。以前までやりたい放題だった主人に見つめられたらまぁ、そうなるだろう。
(・・・よく見てみると、ケリーって可愛いわ)
前世での私といえば、男女問わず(二次元限定の)面食いで、可愛い子も大好きだった。そんな私からしてみればケリーも十分に可愛らしい。彼女の栗色の髪はふわふわしていてそれを結っているのだが、そばかすのある愛らしい顔立ちによく似合っている。くりっとした碧色の瞳は綺麗で素敵だ。どうしよう、鑑賞対象がこんな所にもいたなんて!
「・・・ケリー、可愛い」
「え!?」
思わずぼそ、と呟くと彼女は顔を真っ赤にして驚く。やだ、照れてる表情も可愛いなんて・・・!私の侍女、可愛い!精神年齢が跳ね上がった今、ケリーも歳下にしか見えないので、可愛いという表現は適切なはずだ。私はつい先程までのパーティへの衝撃なんてどこかに追いやって、ケリーの可愛さに浸る。私は彼女に先程思ったことを全て口にして褒め立てた。すると、とんでもない!とばかりに頭と手を振られる。
「リリアーナ様の銀の御髪はとても美しいですし、サファイアのような瞳も素敵ですし、私なんかとても・・・!」
あら、と私は瞬きする。そう言えば私は“リリアーナ”だった。リリアーナは輝かしい銀の髪にサファイアのような蒼い瞳をもつ、まぁ、俗に言う美人である。ゲームの主要キャラクターだし、ある程度の美貌は約束されている。個人的には“悪役令嬢”ポジションなだけあって、つり目気味であるのが少々惜しいところだ。
「う〜ん、ありがとう、でも私はケリーが可愛いと思うわ」
プシューと音がしそうなくらい真っ赤になっている。私が男だったら「真っ赤な君も可愛いよ☆」とか言いたい。ちなみに口説き文句にセンスがないのは分かっている。
*
あれからしばらく。
ケリーの可愛さに気づいたのは収穫だったが、パーティのことはなにも解決していない。だというのに、現在私は父親に呼ばれてパーティのことをあれこれ言われている。いけない、可愛い子を目の前に欲求に正直になりすぎた。流石に解決策、練ろう。
「──と言うわけだから、リリアーナは当日グウェインと行動するように」
「・・・・・・あっ、はい!分かりましたわお父様!」
考え込んでいてちっとも話を聞いていなかった。反射で返事をすると、父はおや、と目を丸くしている。
「お父様?」
「・・・あ、ああいや、お前のことだからてっきりグウェインと行動したくないと言うかと思ってな」
「・・・・・・」
グウェイン──グウェイン・オルコットは私の三個上の兄だ。ゲームでは仲は良くない、というか、リリアーナが兄を嫌っていた。実際、今までの私も兄を避けていたし、どちらかと言えば嫌いだった。
「まぁ、リリアーナがいいなら何も問題はないね。もう行っていいよ」
「ええ、失礼致します」
こくり、と頷いて、リリアーナは部屋を後にする。後ろから着いてきたケリーはやっぱり驚いたようだった。
父と話してしばらく。
「リリ」
「!お、おにいさま・・・」
私は兄に呼び止められた。ギギギ、と音がしそうなくらいゆっくりと私は振り返る。
「お前、俺と一緒でいいのか」
兄は淡々とした口調で訊く。兄は私と同じく銀髪の蒼い瞳で、美人だ。美人に見つめられた普段の私なら舞い上がっただろうけど、残念ながらこんなに無表情で見つめられても怒ってるようにしか見えない。美人の真顔怖い。
「え、ええ。もちろんですわ。・・・何か問題でも?」
そう答えれば兄は一瞬驚いたような顔をした。しかし、すぐに元の無表情に戻る。
「・・・いや、そうか。ならいい」
短く答えた兄は要件はそれだけだと踵を返した。後ろ姿でもわかる美人っぷりには感服する、が。
(そういうところ!そういうところよお兄様!)
リリアーナが兄を避けていた理由の大元はこの態度である。幼いリリアーナからしてみれば、冷たくされた兄に近づこうなど思わないし、拗れるだけだ。
(悪役令嬢にならないためにも、これは何とかしないと・・・)
悪役令嬢に繋がるものは全て排除したい。ということで、兄との関係の改善問題が新たに浮上した。
ちなみに、パーティまでは残り二週間をきっている。