15 クローディア祭
ポンポンと青空に音が鳴った。
「クローディア祭、始まったわね」
そう、今日はいよいよクローディア祭当日である。
(今日の目玉はなんと言ってもマドンナリリーコンテスト!可愛いニーナを拝むために頑張ったも同然・・・!!)
実際そんなことする訳にはいかないので、心の中で私はばっと腕を広げてスキップしている。素敵なシーンを思い描いて楽しみだわ!とソワソワしていると、
「リリアーナ様〜!」
「!ミア!」
「今お時間よろしいですか?お見せしたいものがあって!」
「ええ、大丈夫よ」
頷くとぱあっと嬉しそうに彼女の顔が輝く。そしてそのままの勢いで木陰に小走りで向かっている。一体何を見せたいのだろうか?
「ニーナさん!ほらほら!」
「ひぇ、ミア様っ!」
「え、ちょっとミア?どうしグッフ・・・!!」
楽しげなミアに引っ張られてやってきたのは、
(ぎゃあああああ!!!!着飾ったニーナ・・・!!)
あまりの推しの可愛さに耐えきれず変な声を出してしまったが、そんな事はどうでもいい。
(この衣装、このイベントのミッションまんまだわ・・・!!)
ニーナはいかにも女の子といったデザインの白いふわふわした裾のワンピースに、小ぶりな花を模した髪飾りを付けている。いつもは下ろしっぱなしの綺麗な髪はポニーテールにされていて、明るい彼女に良く似合っている。忘れるわけがない、記憶に違わぬその姿。
「リリアーナ様、あの、どうでしょうか・・・?」
「んんっふ・・・よく似合ってるわ・・・」
不安そうにこちらを見る天使のようなニーナに、私はにやける口元を手で隠して答える。まずい、興奮で鼻血が出そうだ。
「私としても自信作です!ニーナさんは素材がとてもいいですから、とても楽しかったですわ!」
「あ、ありがとうございます・・・」
ニーナはミアの言葉に照れたように笑っている。ああなるほど、天使だ。
(そういえば、この衣装の場合の攻略対象って・・・)
ふと我に返って思い出す。白いワンピースコーデでこのイベント──マドンナリリーコンテストに出る選択をした場合は確か・・・、
「あら、リリアーナ様、あれはルーク殿下ではないですか?」
ミアが後ろの存在に気づいて私に話しかける。
そう、このイベントにおいて白いワンピースの時、それは──
(ルークルートじゃないのーーーーーーーーーーッ!!!!)
私はガバッと顔を手で覆った。絶叫しなかっただけ成長したし、なんなら褒めて欲しいところだ。
あれから、マドンナリリーコンテストまではまだ時間があるため、それまでは一緒に回ろうという事になった。
「リリアーナ様には本当にいつもお優しくして頂いてて・・・。素敵な方だなって」
「ふふ、僕の婚約者を褒めてくれて嬉しいな」
一緒に回ろうということはそれ即ち推しが最推しと同じ空間にいるということである。私はついつい隣を歩く二人を食い入るように見てしまう。
(っあーーー、麗しい・・・輝いているわ・・・。並んでいると煌めき倍増・・・)
ニーナとルークの会話すらもはや耳に入っていない。もういっそ私は彼らの周りを漂う空気でいい。
「────ね?リリア?」
「っえ!?あ!ええ、そうね!」
すると突如話しかけられて反射で返事をする。その反応にルークはふふ、と笑った。ちなみに目はあんまり笑っていない。・・・・・・確実に聞いていなかったのがバレている。
「リリア、適当に返事をしたね?」
「・・・・・・」
無言は肯定である。ルークは考え込むのは悪い癖だよ、と言ってぽんと頭に手を乗せた。
「何を話していたの?」
「ああ、そうそう。君のことを話していたんだ。君────」
「リリアーナ様!!」
ルークが言いかけたところで誰かの声に遮られた。その声はクローディア祭の実行委員の生徒のものだった。慌てている生徒を見てただ事ではない雰囲気を感じ取る。
「ええと、なにかしら?」
私は努めて冷静に訊く。すると、生徒から思いもよらない事を言われた。
「実はですね、マドンナリリーコンテストの参加者の一人が熱を出してしまって・・・!参加者に穴が空いてしまったんです!なので是非、リリアーナ様のお力を貸して頂きたく・・・!」
「・・・・・・なんですって?」
これはまさに、青天の霹靂というやつである。
*
ゲームにおいて、“リリアーナ”がコンテストに出る、そういった展開は確かにある。だがそれは、事前に申し込んだ上でのイベントであったし、“私”は申し込んでいない。話の道筋から逃れられないのか、偶然なのかは分からない。とにかく、あんなに必死に頼まれて断ることは出来なかった。
「リリアーナ様が出ると聞いて、私もういてもたってもいられなくて!」
「・・・手伝ってくれてありがとう、ケリー」
更衣室で私は代打で参加するために制服から着替えている。代打で参加する事になった後、ケリーは私の元にすっ飛んできてくれた。
「お美しいリリアーナ様をさらにお美しくできるこの瞬間こそ、私の楽しみの一つです」
「ふふ、ケリーはお世辞が上手いわね」
「もう、リリアーナ様。本当のことですわ」
そして、ケリーに最後の仕上げの髪留めを付けてもらう。
「はい!終わりましたわ!」
「ありがとう」
私は鏡の前に立ち、その姿を眺める。そこには、瞳の色と同じような青色の上品なデザインのパーティドレスを纏い、長い銀髪を緩く巻いてリボンを付けた自分がいる。ケリーの腕前のおかげで、いつもより華やかに見えるような気がする。
コンコンと扉が叩かれて、いよいよコンテストが開始することを告げられる。
ごちゃごちゃ考えるのは向いていない。
私はとにかく与えられた代打の役割をこなすために、真っ直ぐ前を向いてステージへと歩き出したのだった。
感想を頂いたことに驚いています・・・!とても嬉しいです!ありがとうございます!
これを書き始めた当初は逆ハー要素がある予定はなかったのですが、リリアーナは活発なので私の予想の斜め上を行ってしまいます・・・笑