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14 準備は大変です


「ニーナさん、これを隣の部屋にお願い」

「はい!」

「それからミア、先程頼んだ必要なもののメモは?」

「ええ!もちろんできましたわ!」

「ありがとう」

クローディア祭に向けて私達生徒は大忙しである。これらは主催を生徒──それも立場が上の者たちに任されるため、私やミアは特に忙しい。

偉そうにしているだけが権力のある者ではないということを教えるためでもある(らしい)のだが、それにしたってハード過ぎる。

「よし、じゃあこれを交渉してくるわ」

私はミアに作ってもらったメモを見て外へ出る準備をする。

「リリアーナ様、私も行きましょうか?」

ミアが心配そうにこちらを見るが、私は首を横に振る。

「大丈夫よ、街に出ると言ってもすぐそこだし。それに──」

「お待たせ致しました」

今ガラリと扉を開けて美しいお辞儀をした人物こそ、私が言いかけていた事の答え合わせである。

「ディラン、早かったわね」

「サイラス様が予定より早くルーク様と合流なさったので。もう出発致しますか?」

「ええ、お願い」

私はそう返事をしてミアに顔を向ける。彼女は「ディランが護衛なら大丈夫ですわね!」と安心したように言った。

私はそんなに危なっかしく見えているんだろうか。



「ねぇディラン、私はそんなに一人だと心配かしら?」

「そうですね、ルーク様もとても心配していらっしゃいました。本来なら自分が行きたいとも」

「あー・・・」

私はそれが容易に想像できて苦笑いをする。

「リリアーナ様はルーク様の婚約者です。日頃から狙われている事をもう少し自覚なさってください」

「分かってはいるのよ、一応。でもなんだかそれが日常になるとかえって気が緩むというか・・・」

「リリアーナ様」

「・・・キヲツケマス」

私が仕方ないという風に笑うとすかさずディランに釘を刺された。ディランは主人のルークにも必要とあらばしっかり物申す頼りになる存在だ。私よりも歳は一つ上で身近な存在なので、時々兄のようにも思える。──そんなことを実際に言うと実の兄が眉を顰めて面倒な事になるので心に留めているのだが。

「あ、この店だわ」

そうこうしているうちに目的の店まで来た。交渉は、伊達に公爵令嬢をやっていないんだぞという腕の見せ所である。

「ああ、この店・・・。ここの店主は気難しいと聞いた事が有ります」

「えっ」

ディランの補足に意気揚々と店に入ろうとしていた私は頬をひきつらせる。

「ま、まあ!どんな方であろうとも頑張るわ!」

ここで物怖じしていても仕方ない。思い切って私は扉を開けた。



「それでは、こちらをこのようにお願いできますか」

「ふん、それなら構わない」

「ありがとうございます」

結論から言うと、失敗した。気難しいというのは本当で、きつい口調でやれこれでは金額に合わないだのなんだのと。店主相手に私はたじたじであった。見かねたディランが助けてくれなければ、交渉は決裂していたかもしれない。

「ありがとうディラン・・・助かったわ・・・」

ヘトヘトになりながらもお礼をすると、ディランは「お力になれたのなら良かったです」と灰色の瞳を細めて微笑した。不意打ちでくらった美形の微笑に心の中で拝みつつ、帰りましょうと学校へ足を向けた、のだが。

「・・・あら」

私は一軒のカフェの前で足を止めた。

「・・・ディラン、まだ時間はあったかしら」

「はい、むしろ余るくらいです」

「なら、ここ入りましょう」

ディランの腕を引いて、私はカフェに入る。彼は少し不思議そうな顔を一瞬した。

「お供してくれたのと、助けてくれたお礼みたいなものよ。あなた甘いもの、好きでしょう」

「・・・よく覚えていらっしゃいますね」

ディランは懐かしそうに目を細める。というのも、彼と出会って少しの頃に、彼を顔がいいので観察していた時に発見したのだ。内ポケットに常に一つか二つチョコレートが入っていたことに気づいた私が甘いものが好きなのかと問うた。頷く彼にしばらくチョコレートをプレゼントし続けたらルークが何故だか分からないけれどムッとした顔をして、「リリアはディランを甘やかしたらダメ」と言われてしまった。それ以降はディランが申し訳なさそうに断るようになってしまったためにしなかった。

「チョコレートプレゼントはそれっきりだったけど・・・。ま、たまには良いでしょう。カフェですしね」

「・・・ありがとうございます」

そう言ってメニューを渡すと、ディランは嬉しそうに笑った。

そんなに甘いものが嬉しいのだろうか。入って良かったなぁとほっこりする。

「リリアーナ様は昔からお優しいですね」

「えっ、そうかしら?」

私はぱちくりと瞬きする。ディランはええ、と頷く。

「お優しくとても聡明な方だと、昔から思っていました。それに──・・・」

「・・・それに?」

優しく聡明だなんて言われた私は照れて顔が熱い。パタパタと手で仰ぎつつ続きを促す。

「・・・いえ、なんでもございません。・・・これ以上はルーク様にお叱りを受けてしまう」

「え・・・」

ディランはそう言うと意味深に笑った。そういうのはやめて欲しい。美形の意味深な笑顔は本当に大変なのだ、主に私の心が。

「・・・・・・困ったな」

ボソリと、さして困った風でもなく呟かれた彼の声は、必死に平常心を保とうとする私の耳には届かなかった。



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