13 テストの次は
「おかえりなさいませ、リリアーナ様」
「ただいま、ケリー」
寮の部屋に着くと、ケリーが笑顔で出迎えてくれた。ケリーはこの寮に入ってからも私の侍女をしてくれている。すっかり大人になったケリーは、可愛いよりも美人という言葉が合う。もちろん可愛らしさも残っているが。
「勉強会は如何でしたか?」
「捗った・・・とはちょっと言えない気もするけれど・・・。でもテストは大丈夫よ。あと、図書室でお兄様に会ったわ」
「まあ、グウェイン様と?」
「ええ、でも忙しくしていたから教えて貰ったりはしなかったわ」
そう言うと、ケリーはほう、とうっとりした顔をする。
「グウェイン様とリリアーナ様がお並びになられたら、さぞかしお美しいのでしょうね・・・!」
「へ?」
私は首を傾げる。いやまあ、兄の美貌は分かるが、何故そこに私まで?
「え、私もなの?」
「当たり前です!リリアーナ様はこの学園の女子生徒の中でも随一と謳われる美しさの持ち主なのですから!」
「え、そうなの!?」
ケリーの言葉に私はびっくりして大声を出してしまう。いや、そんな事は聞いたことないのだが・・・。
「そうなのって・・・、リリアーナ様・・・・・・」
ケリーは信じられないという顔をしている。
「お兄様は超絶美形だけど、だからこそ私がお兄様と並んだら霞むわよ」
一応、この見た目は悪役令嬢リリアーナと同じだ。美人の部類には入る。だが、あの兄と並んで同じほど輝けるわけがない。
「・・・殿下が必死になるのもわかります・・・」
ケリーはどこか遠い目をしている。なんだと言うのか。
「リリアーナ様は今年の“クローディア祭”の“プリンセス”最有力候補だと噂されているんですよ」
「え、ええ!?私が!?」
クローディア祭とはいわゆる文化祭で、プリンセスは日本で言うミスコンの優勝者にあたる。確かそれはゲームでも春のイベントとして開催されていた。リリアーナも参加していた気がするが、もちろん優勝者はニーナだ。
「・・・う〜ん、どうかしらね、たぶん優勝者になるのは無理よ?」
私があんな可愛い子に勝てる訳が無い。首を振ると、ケリーは眉を寄せた。
「リリアーナ様ったら、ご謙遜を・・・」
「いやいやそういうのじゃなくて」
私は手をパタパタ降って笑う。
「可愛いケリーが私をそう言ってくれただけで嬉しいわ。ありがとう」
「! そ、そういう事をさらりと言うのは反則ですわ・・・!」
「なんで!?」
ケリーはボフッと顔を赤くしてそう言った。
うーん、何がいけなかったのか分からない。
*
翌日。テストが終わり、私はミアとニーナを連れてカフェテリアに来ていた。
「勉強会のおかげで悪い点数では無いと思います!本当にありがとうございました!」
「ウッ・・・、んんっ!どういたしまして」
不意打ちの笑顔に呻きながらも何とか耐える。ニーナの感謝の笑顔にむしろこちらが感謝したくなる。素敵な笑顔をありがとうニーナ。
「テストが終わったという事は、もうすぐクローディア祭の準備が始まりますわね〜。この時期は特に忙しいですわ」
ミアが疲れたように言う。クローディア祭という聞き慣れない単語にニーナがハテナを浮かべたので、学園で行うお祭りなのだと教えてあげる。
「お祭り!素敵ですね!」
「クローディア祭の目玉と言えば、やっぱり“マドンナリリーコンテスト”ですわ」
「マドンナリリーコンテスト?」
「この学園の十六歳以上の女子生徒を対象に、エントリーした方々の中から特に美しい方、“プリンセス”を選ぶ催し物なのですよ」
ミアが楽しそうに話す。
「マドンナリリーの花言葉は“天界の美”。それを由来としたコンテストなだけあって、毎年レベルの高いものになっているんですよ」
「へぇ・・・!見てみたいです・・・!」
キラキラと瞳を輝かせるニーナが、ふと私を見た。
「リリアーナ様ならきっとプリンセスになれますね!」
「っ!?げほっ!」
その言葉に私は飲んでいた紅茶でむせた。
「な、何を言っているの・・・。それならニーナさんの方が適任だわ」
「え!?私ですか!?」
ニーナは目をぱちくりさせる。可愛い。いやそうではなく。
「出るのは自由だし、ニーナさんも出てみなさいな。きっとプリンセスも夢じゃないわ」
夢じゃないというか、ニーナならほぼ確定でなれる。
「ニーナさん、出るのでしたら全力で応援しますわ!」
ミアは楽しみが増えたとばかりにぎゅっとニーナの手を握る。と、
「へぇ、リリアはマドンナリリーコンテストに出るの?」
「あら、ルーク。それにサイラス、ディランも」
カフェテリアに入ってきたルーク達がこちらに来て話しかけてきた。
私が座っている席の隣に腰を下ろしたルークが興味深そうにこちらを見る。
「リリアちゃんが出るならほとんどの女子生徒は敵じゃないね〜。ていうか、優勝確定かな? ね?ディランくん」
「ええ、リリアーナ様でしたら」
後ろにいたサイラスやディランも納得したように頷く。いやいや、あなた達の目は節穴か?私の隣にめちゃくちゃ可愛い子がいるじゃないか。
「私は出ないわよ、優勝もしないし」
そう告げて、きゅっと隣のニーナの手を握る。
「私も、もしニーナさんが出るなら全力で応援するわ。頑張って」
「え、あ、はい!」
ニーナは背筋を伸ばして返事をする。外堀を埋めたようになったのは少し申し訳ないと思ったが、プリンセスになるニーナを見たい気持ちもあるので仕方ない。
ちらりとルークを見ると、何故かどこか安心した顔をしていたし、その隣でサイラスが彼に、「ルークとしては複雑な感じ〜?」とよく分からないことを言っていた。
件のクローディア祭開催まで、あと1ヶ月である。