12 続・勉強会
昨日に引き続き、今日も放課後に私達は勉強会をしている。昨日と同じメンバーなのだが、昨日と違う点がある。
「ちょっとルーク」
「うん?どうしたの?分からない?」
「いやそうじゃなくて・・・」
ルークは私の顔を見て微笑んでいる。それも、至近距離で。
昨日の一件から、ルークは私の講師役を頑なに誰にも譲らず、そして至近距離で問題を解いている時でさえ見つめられ続けている。正直落ち着かないなんてもんじゃない。
「そ、そんなに近くで見られてると落ち着かないのよ・・・」
「そう言われてもなぁ」
指摘しても全くやめる気のないルークに、私は諦めて問題に視線をやる。
「だから言ったんだよ〜。後でどうなっても知らないからねって〜」
隣でニーナの講師役をしているサイラスに小声で呆れたように言われて、私はムッとする。
「だって、こんなふうになるなんて思わないじゃない。何でこんなことになってるのかよく分からないわ」
「・・・・・・あーあ、ルークってば本当に・・・。同情するよ〜」
サイラスはお手上げとばかりに肩をすくませる。
「仲がいいのは良いことですわ」
そんな私達を見て、ふふ、と向かいに座るミアが笑っている。
「今度はアルお兄様も誘ってみようかしら?きっと楽しいですわ」
素敵なことを思いついたとばかりにミアは笑って提案する。アルお兄様というのは、ミアの三個上の兄、アルフレッド・ラドクリフだ。私の兄とも友人らしく、顔を合わせる頻度は高い。
「でもアルフレッドさんを呼んだら確実に私のお兄様も来るじゃない?面倒な事になるわよ」
「グウェイン様はリリアーナ様に過保護ですものね」
微笑ましそうに言うミアだが、私はちっとも微笑ましくない。
「アルフレッドはともかく、グウェインは呼んだらダメだよ。あれは居ると厄介だからね」
ルークは困るとばかりに首を振る。と、
「誰がいたら厄介なんです、殿下」
「やあ、ミア、リリちゃん」
「! お、お兄様!?それにアルフレッドさんまで!」
パタンと扉が閉まる音と共に、兄とアルフレッドが入ってきた。私は目を丸くして問いかける。
「お兄様達、どうしてここに?」
「俺達、次の課題に必要な本を取りに来たんだ。そしたらたまたまバッタリ」
私の問いにアルフレッドが答えた。そして流れるような動作で私の手を取る。
「今日も綺麗だね、リリちゃん。よかったらこの後──」
「アルフレッド?」
パチンとウインクをしたアルフレッド。アルフレッドもミアも、赤髪に黄色の瞳でお揃いの容姿なのだが、雰囲気は似ても似つかない。なんというか、色気の塊。そんなアルフレッドをルークの声が制する。
「あのね、リリアは僕の婚約者なんだよ」
「ええ、承知しておりますよ殿下」
「なら僕の前でぬけぬけと誘わないことだね」
ルークは有無を言わさない笑顔を浮かべている。だと言うのにアルフレッドは面白そうに笑っている。
私の周りは心臓に毛が生えてる人達が多すぎるような気がする。と、そこでアルフレッドがニーナに気づいておや、と言う顔をした。
「はじめまして、俺はアルフレッド・ラドクリフ。で、こっちの仏頂面がグウェイン・オルコットだよ。よろしくね、可愛いお嬢さん」
アルフレッドは兄の肩に腕を回して紹介しつつ、パチンとまたウインクをかます。兄とアルフレッドは爵位的には上下関係があるものの長年の付き合いで対等な関係を築いているため、兄も渋い顔をしているがこれは単に絡み方がウザったいのだろう。
「あ、私はニーナ・ダンヴィルと申します!よろしくお願いします!」
アルフレッドと兄に慌ててニーナはお辞儀をする。そんな慌てた姿も可愛い。
「リリ」
「あっ、はい!なんですかお兄様」
ニーナに見惚れていると、兄に突然呼ばれて私は背筋を伸ばす。
「殿下にはくれぐれも気をつけるんだぞ」
「・・・?はい・・・」
兄はそう言い残して、アルフレッドを引っ張りながら図書室を後にした。出る時に、兄がルークと若干睨み合っていたように見えたのはきっと気のせいだ。
*
「皆さん、ありがとうございました。これならきっとテストも大丈夫です!」
帰り際、ニーナはそう言ってお辞儀する。
「そう、よかったわ。どういたしまして」
にこ、と笑って私も応える。推し相手に変な笑顔になっていないか心配だ。
「ルークもサイラスも教え方は上手いから、きっと本番も大丈夫ね」
「は、はい!あの、ルーク殿下、サイラス様、ありがとうございます!」
ニーナはルークとサイラスに微笑みを携えてお辞儀する。
「君が頑張っていたからだよ。僕は手伝っただけだ」
ルークはそう言ってふっと笑った。煌めき倍増である。
「はは、まぁ頑張って〜」
サイラスはそう言って興味なさげにヒラヒラと手を振る。
ニーナが去った後、サイラスはぐだっと急に姿勢を崩してルークの背に寄っかかった。
「サイラス、重いんだけど」
「煩い〜、俺ルークのせいでめっちゃ疲れたから〜。もう無理〜ヤダ〜。あんな純粋培養された女の子の相手したくないよ退屈だった〜」
サイラスはぐりぐりと頭を押し付けている。
「あの手のタイプは俺一番苦手なんだよ〜」
「へぇ、意外ね。苦手とかあるの」
「あるよそりゃ〜。ああいうのはヤダ。純粋で汚れを知らないのは面倒。リリアちゃんみたいなのが俺は一番好き〜」
そおれ、とサイラスは私の手を引っ張る。
「ちょ、わぁ!」
踏ん張り切れず、私はルークに寄っかかってるままのサイラスの元へ飛び込む。必然的に三人でくっつく事になる。
「・・・・・・の・・・しい・・・“ ”・・・」
「え、なに?」
サイラスは私とルークをぎちっと抱き締めて何かをボソボソと呟いている。聞き取れずに聞き返すが、サイラスはううん、と首を振る。
「・・・俺はね、君らがいればいいんだ」
ぱっと手を離され解放される。尚、ルークは未だにサイラスの腕に拘束されて寄っかかられている。
「・・・サイラス、いい加減重いよ」
すると、今まで黙っていたルークが再び口を開く。仕方ないなぁ、とサイラスは拘束を解いた。
「帰ろうか〜」
ふふ、とサイラスは笑っている。不可解なサイラスの行動に疑問を持ちながら、私達は寮に向かったのだった。