序章 私、悪役令嬢!?
「はぁ・・・なんて素敵なゲームなんだろう・・・。やっぱり第一王子×ヒロインのルートは最高だわ・・・推し・・・尊い・・・・・・」
一人部屋で悶えている女性。その手には先月発売されたばかりの乙女ゲーム。
「悪役令嬢リリアーナ・オルコットをものともしないこの愛!推せる・・・!」
なるほど。どうやら、リリアーナ・オルコットという人物は悪役らしい。
──え・・・・・・?リリアーナ・オルコットですって?
*
リリアーナ・オルコット、それが今の私の名前だ。歳は八つの公爵令嬢。そんな私は現在高熱によりうなされていて──そんな馬鹿なと思うかもしれないが、前世の記憶を思い出してしまった。
どうやらここは、前世でプレイしていた乙女ゲームの世界らしい。そして何より衝撃的だったのは、『リリアーナ・オルコットは悪役令嬢』という事実である。
(そんな・・・私は悪役令嬢だったの・・・?)
突然突きつけられた現実に八歳の頭はついていけなかったらしく、余計に熱をあげてさらに三日寝込むこととなる。
*
なんとか熱が下がった私だが、寝込んでいる間に色々と整理した結果、衝撃的な事実をさらに思い出した。それは、
『リリアーナは断罪イベントののち処刑される』
というものである。一体どんな酷いことをすればそんな事になるのか・・・頭が痛い。何故八歳にしてこんなことに悩まなければならないのだろう。まぁ、中身は年相応じゃなくなってしまったけれど。
(たしか・・・断罪イベントのとき、私はこの国の第一王子との婚約を破棄されて、結局処刑されるんだったわね・・・)
となると、その死亡フラグを回避するためにとる行動も自ずと見えてくる。
「そうだわ!第一王子との婚約をしなければいいのよ!」
我ながらなんとも素敵なアイデアに、思わず大声をあげる。だって、婚約さえしなければ、公爵令嬢という立場上完全に会わないとは行かずとも、必要以上に会うこともない。ヒロインとの泥沼恋愛をする必要はないし、婚約破棄されることもなければ、処刑されることもないのだ!
(それに・・・、前世の私は第一王子とヒロインの関係を好んでいた・・・。つまり、傍観者に徹した方が明らかに幸せじゃない!)
まさか生まれ変わって推しと推しがラブラブしている所を間近で見れる日が来るなんて・・・!自分が悪役令嬢になるかもしれない点を除けば、百点満点の転生である。グッジョブ神様、ありがとう。
(そうと決まれば、第一王子との婚約が決まる場でなにも起こさず私は関わりませんの意思表示をしなくては・・・。ええと、確かリリアーナと第一王子が婚約するのって・・・)
必死にプレイしていて見たキャラクターの過去を思い出す。確か、この二人の婚約が決まるのは幼少期。第一王子が十一歳になる誕生パーティで決まった、第一王子はそう言っていた気がする。
「・・・・・・誕生・・・パーティ?それも・・・十一歳・・・?」
背中を嫌な汗が流れる。第一王子とリリアーナは二個差なので、現在の第一王子は十歳という事になる。
つまり、
「誕生パーティってあと一ヶ月後のやつじゃないのーーーーッッッッ!!!!」
広い屋敷にリリアーナの叫びがこだました。