失敗勇者と逃亡者
今回のセクメトリー教徒暴動騒ぎは、首謀者が逃走した為指名手配がなされた。
しかし、この指名手配は国内でしか有効ではなく関所などでは検問所はあるが、この文明が発達な世界ではある意味逃亡は簡単なのだろう。
そして合流したグランツ達から聞いた話だが、この時俺は順調に洗脳されたセクメトリー教徒を無力化出来ていると思っていたのだが、こちらに向かって来ていない人達も結構いたらしい。
その人たちは完全に暴徒と化し街の破壊や暴力行為を行ってしまっていた。
ただし、冒険者達が防衛網を敷いた事と領主の指示で衛兵も動いたおかげで、死人などは出なかったとの事だ。
そのため、暴動に参加した人達にはそこまで重い処分は言い渡されなかったらしい。
ただ、破壊行為や傷害などで捕まった人達は罰金刑か強制労働が言い渡されたとの事で、罰金が払えなかった人たちは強制労働に――とはならなかった。
今回の事件がセクメトリー教の司祭が起こした事件であり、その事が露見する事を恐れたセクメトリー教総本山から被害者と町の住民へ見舞金、領主と冒険者ギルドにかなりの額の賠償金が支払われたとの事だ。
ただし、この取引が行われたのは事件後数日たった後で、その間暴動に参加不参加問わずセクメトリー教徒が肩身が狭くなっていたり、収監されていたりしたのだが――この命の価値が軽い世界でこの程度で済んだのは僥倖だったとしか言えないだろう。
それにしても本当の目的は一体何だったのか、いつかセクメトリーに確認したいものだ。
アメトリンは力尽きたようにしゃがみ込み、ガーネットが心配そうに彼女に寄り添っている。
「大丈夫、少し力を使いすぎただけだから。八咫烏様のおかげでそれ程力は消耗しなかったけど、久々のまとものな浄化だったから疲れただけ」
疲労困憊ながらも、神としての力はチュンちゃんのおかげで保たれた様だ。
そして、チュンちゃんのおかげと言われ、幼女八咫烏は無い胸を張りどや顔をして「流石チュン様です~」とアオイちゃんがチュンちゃんを讃えていい子いい子している。
この二人は仲が良いのは良いのだが、流石に時と場合を考えて欲しい。
仲良し主従のやり取りを意識から外し、アメトリン達の様子に戻る。
「――それならいいのだけど。でも、少し休みなさい」
「そうね……でも、もう少しだけやることがあるのよ」
彼女はそう言って、フリーダーに再び手をかざした。
掌からでた先程と同じ様な黄色と紫色の光が青白い顔をしたフリーダを包み込む。
ただし、今回はさっきよりも穏やかな優しさを感じられる様な光で、フリーダーの顔色が徐々に良くなっていくのが見て取れた。
「――これでよしっと。少ししたら目を覚ますから、トマはこの子から話を聞いた方が良いわ」
「え、ああ、うん? フリーダーの調子が悪いなら体調が回復してからでも良かったんじゃないの?」
「それじゃダメなのよね。よいしょ……さっき浄化している時に私に流れ込んできたのだけど、あなたを追っているのは他にもいるらしいのよ。この子はその子の事を知っているみたいただから、話を聞けるときに聞いておいた方がいいわ。それと、今回の黒幕も確認した方が良いわ。」
腰を草原に下ろして話すアメトリンの言葉に疑問符を浮かべながらも頷いた。
俺を追っている人と言うと――恐らくアイリスの事だろう。
なぜ彼が知っているかはわからないが聞いておいて損はなさそうだ。
それに、フリーダーを薬で操っていた者の事は流石に聞けるなら早めに聞いておいて損はない出そうしね。
ただ、アメトリンが言うにはフリーダーの回復は一時的な物で、今後長期的な浄化と療養が必要になりそうだとの事だ。
それほどまでにセフトランドという薬物の副作用は激しいようで、完全に浄化しきるまで彼がまともに動くことが出来ないらしい。
フリーダーは顔色は良くなったが目を中々覚ます様子が無いので、流石に一旦場所を移動しようと言う事になった。
俺がフリーダーを背負い、ガーネットがアメトリンを抱えてアメトリンの神殿へと向かう。
俺達は徒歩で向かうが、ガーネットは流石に神と言う事だけあって空を浮かびながらアメトリンを運んでいる。
因みにだが、チュンちゃんはアオイちゃんが抱っこして連れて行くみたいだ。
しばらく歩くとガーネットの神殿が見えてくるが、先程の戦闘の影響で結構建物自体が崩れてしまっているのだが――。
「これっていったい何が起きてるの」
「……壊れた神殿が元通りに戻って行ってますね」
廃墟のようになっていた神殿が逆再生をして居るかのように、徐々にではあるが元の姿へと戻って行っているし、神殿を中心に周囲の陥没した地面や焼け野原も元の草原へと戻って行っている様だ。
マリア達は驚愕した様子で眺めている二人に「この程度の損傷なら数時間で元に戻せるよ」とアメトリンは自慢げに話していた。
ガーネットがため息を付きながらペチンとアメトリンのおでこを叩き「だったら神殿を先に直しなさい」と言われていた。
「私頑張ったんだからもう少し優しくしても良いんじゃない」
「……(ニコ)」
「わ、わかりました! 先に修復いたします!」
文句を言ったアメトリンに中々迫力のある笑顔でガーネットが答えると、怯えながらラジャーの様なポーズを取って神殿を先に修復させていく。
すると、先程のスロー逆再生の様な状態ではなく、気持ちが悪い速度で一気に神殿が元の姿に戻って行った。
アメトリンはこれでよろしいでしょうかと言った感じで恐る恐るガーネットを見ると、にこやかな顔で頷き神殿の中へと運んで行った。
俺達も二人に続いて中に入るが、中は長椅子が並んでいるだけの普通の教会っぽい内装だ。
――まあ、最奥にある像がアメトリンそっくりなのは、そう言う事なのだろう。
先に入っていたアメトリン達は、像がある手前の辺りにある祭壇の手前にどこから出したのかベットとテーブルが並び、アメトリンはベットに寝かされガーネットはこれもどこからか出したのか、ティーセットでお茶を飲んでいる。
「トマ、その子はそこの椅子に寝かせて皆はこっちに座って」
ガーネットに席を勧められるまま席に着き、他の皆も空いている席に各々座る。
皆が席に着くと机から浮かび上がるようにティーカップが現れ、カップの中には紅茶と思われるもので満たされている。
「うむ、頂くのじゃ――なかなか良いものじゃな」
「八咫烏様にお口に合ったようでよかったです。よろしければこちらもいかがですか?」
この怪しげな液体をマリアたちは凝視するだけだったが、アオイちゃんの膝の上に乗ったチュンちゃんは気にせず飲み始め、ガーネットのお茶を褒めた。
チュンちゃんの反応に少しほっとした感じで次にお茶菓子のクッキーを薦める。
これも躊躇せず食べ始め「うまいのじゃ」などと言いながら、貪る様に口に押し込める。
まるでリスのように頬膨らませながら食べる幼女は少しかわいいんだけど……なぜこうなったんだと疑問がわいた。
「そういえばチュンちゃんは何で人型になってるんだ?」
「んぐ! ま、まあ、あれじゃ、あの神から少々力を奪い取っただけじゃ。そのおかげで中途半端な具現化から開放されたのじゃ」
「そうですよ! あなたはあの神に召喚されたから手心を加えて追い払うだけにしそうだったから、私がチュン様と話をして全力で力をチュン様の為に奪っただけです! そうするとチュン様がとても可愛らしいお姿に変化できるといわれたので、怖かったですけどこのお姿を愛でられるだけで私は満足です!」
「こ、こりゃアオイ! 」
「――あ!」
「……どういうことだい?」
やさしく笑顔で聞き出すと、俺の代わりにフリーダーとの戦いに赴いたのはこのためだったらしい。
二人はひそかに念話で会話をしていたらしく、チュンちゃんが元の姿に戻る為にセクメトリーから力を奪い取ろうと画策したらしい。
住民たちを元に戻す際にチュンちゃんがセクメトリーの力を浄化して吸収していたのだけど、このときにもっと力があれば元に戻れるんじゃね?と考えたそうだ。
そして、フリーダーが俺とセクメトリーを会わせようとしている事を利用しようと考え、アオイちゃんに自分が行く様に指示をしたんだと。
アオイちゃんはチュンちゃんの従者だから情け容赦なく力を強奪できるが、俺だとそこまで出来ないだろうといわれてしまった。
……まあ、召喚されたのに帰れないとか魔王が既に居ませんとか色々言いたいことはあったけど、最低限の力をくれたりしてたから個人的にはそこまで嫌いきれていなかったりもする。
ガーネット達のような元神々が悪魔にしてしまったことに文句を言いたい気持ちはあるが、これは二人に知り合って仲良くなったから出てきた問題であって、問題なく回っている世界について異世界人である俺がとやかく言うのは筋違いの様な気がするんだ。
こういった話は元の世界でも神話でよくある話しだし、権力闘争で負けた人たちが追い出されて反抗すると言うことはありえるだろう。
それに、これはガーネットから一方的に聞いた話でセクメトリーや他の神々から直接聞いたわけではないので、どこかで一度話を聞いてみたいとは思ってる。
ただ……この世界の筆頭のタケミカヅチ様が協力してくれているみたいだから、なにかしら問題がないわけではないのだろう。
話がそれてしまったが、チュンちゃん達が言うとおり俺はセクメトリーに対してアオイちゃんほど非情になれないのは確かだ。
それともう一つ聞いておきたいことがあるんだよね。
「確かにそれなら俺よりアオイちゃんの方が向いてるかもしれないけど、なんで八咫烏の姿じゃなくてその姿なの?」
「こ、これはじゃの――アオイがこっちの方がカワイイと言うから仕方なく……」
俺と目線を合わせないようにそっぽを向きながら言い訳のようなことを言ってくるので、アオイちゃんに確認するもこの姿はアオイちゃんが考えたようだ。
「八咫烏様の姿は凛々しくも美しいですがそれだと私がお世話できないんです! チュン様が私が想像したとおりのお姿になれるというので色々考えましたが、結果このお姿になってもらいました」
チュンちゃんの思惑とアオイちゃんの思惑は何か違うように思えるが、二人がこの姿でいいと思っているならいいのかな?
でもなんで幼女なんだろう? 元の話し方からして男の方が良かった気がするし、その方が戦力的にも男女比的にも良い気がするんだけど。
少し聞いてみるか。
「そう言えば何で男じゃなくてしかも子供なんだ?」
「……それはじゃの」
「そんなの決まってるじゃないですか! チュン様が男性! しかもイケメンの姿だったら私の理性が無くなります!」
「そ、そうなんだ」
やばい事を聞いてしまったみたいで、その後もアオイちゃんは「チュン様がそのようなお姿になったら……押し倒して……キャー! でもでも、チュン様から押し倒されたほうが……」などと一人で妄想の中に入り込んでいってしまった。
そして膝の上に座っていたチュンちゃんをギュッと抱きしめながら左右にブンブンゆすり、胸と腕にで抑えられたチュンちゃんがグロッキーになって――口から何か出ていそうな顔になってるよ。
アオイちゃんがその時に顔がどのような顔をしてたかは……ヤバ過ぎて思い出すのは止めてあげよう。
ガーネットは呆れ果て、マリアとベロニカさんは……うん、そこも変な妄想を二人で話すのは止めてください。
「……うぅ……こ、ここは……」
そんな騒ぎの中、後ろから身じろぎと声がしてフリーダーが目を覚ました。
俺は彼女たちを無視してフリーダーに話しかける。
「目が覚めましたか? 自分が誰だかわかりますか?」
「え、ええ……あ、あなたは今代の勇者様! この度は勇者様に多大なご迷惑おかけして……」
「あなたのせいじゃ無いのはわかっていますので大丈夫ですよ。それと、まだ無理はなさらないでください」
俺に気が付いたフリーダーが勢いよく体を起こして謝罪してくるが、まだ洗脳の影響かふらついているので寝ているよう伝える。
だけどフリーダーは無理やりにでも起きようとするので、手を貸して椅子に座らせてあげる。
その間にも何度も謝ってくるので――ちょっとうざったい気もする。
気分を落ち着けて貰うために、俺に出されていた紅茶っぽいものでも飲んで落ち着いて貰おう。
「とりあえずこれでも飲んで落ち着いてください」
「ありがとうございます勇者様。――これは! とても良い物の様ですが、私などが頂いてもよろしかったのでしょうか」
一口飲むと驚いて俺をを見てくるが「大丈夫ですよ」と言って彼に飲むように促す。
この紅茶っぽいものを飲み少しフリーダーは落ち着いたように見えたので、色々聞いてみようと思う。
「それで、フリーダーさんは――」
「勇者様、私に敬称は不要です。フリーダーとお呼びください」
「わかりました。それじゃあフリーダーは今回の事をどこまで覚えていますか?」
「そうですね……一部記憶が曖昧な所はございますが、ほぼ全て覚えております」
「出来ればなぜこうなったのかを教えて頂きたいのですが」
「畏まりました。少し長くなりまがよろしいですか?」
「ええ、構いません。ただ、フリーダーはまだ本調子ではないでしょうから、無理じゃない範囲で大丈夫です」
アメトリンがこの回復は一時的な物って言ってたから、あまり無理をさせるのは止めておいた方が良いだろう。
「わかりました。まずは私の元に一人の教会関係者が現れました。ゲルメルトと言う司祭なのですが――」
「っ!」
ゲルメルトと言う言葉を聞いたベロニカさんがビクッとしたけど、フリーダーは気にせず話を続ける。
彼女の反応からあまり良い反応じゃ無かったから、騎士団の頃になにかあった人かもしれないね。
そして三十分ほどフリーダーの話を聞いたのだが、原因となるのはそのゲルメルトと言う人の様だ。
彼はセクメトリー教の司祭で、急に教会を訪れてきたそうだ。
司祭という事では二人ともは同格ではあるがゲルメルトの方が先達に当たる為、形式的であるが会食という形でもてなしたそうだ。
恐らくそこでセフトランドを混入され、それ以降傀儡にされていたらしい。
ただ、始めの頃は特に指示は無く普段通り過ごしていたのだが、半年ほど前から急に指示をされるようになったそうだ。
ただ、その内容は信者たちを教会に集めてセクメトリー様への祈りを唱えたり、一部の信者をゲルメヌトの所へ案内するといった感じだったそうだ。
案内する信者も男女構わずだったためそこまで気にしていなかったようだが、今思うと今回の暴動に加担した信者は全てゲルメヌトと面会した者だそうだ。
その後は様々な理不尽な命令をされたり、記憶が曖昧な所が出てくるそうだが――曖昧な所は恐らく体を乗っ取られたのではないかとの事だった。
「そして今日になり私に信者たちを扇動し、勇者様を捕まえてくるように指示を出されこのような事を起こしてしまいました。皆様には大変ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「えーと、まあ、フリーダーはそのゲルメルトって奴に操られてただけだから気にする必要は無いと思うよ」
「しかし――」
「そんなに気になるんだったら、俺達じゃなくて今回の暴動に参加した人たちをフォローしてあげてください。多分街の人達と今後色々あるだろうからさ」
「勇者様のご指示に従います。どこまで出来るか分かりませんが、身命を賭して尽力いたします」
まあ、そこまでしなくても良いとは思うんだけど、言っても聞いてくれなさそうな雰囲気だけど一応釘だけ刺しておこう。
「あまり無理はしないようにね、頼れる人がフリーダーだけの人も居るのだから」
孤児院の子供たちは教会が保護してるから、彼にあまり無理をされて倒れられたりした方が問題がありそうだからね。
「それと、今回の主犯はそのゲルメルトってやつで良いのかな?」
「――それもありますが、恐らくセクメトリー様が彼に指示を出していた者と思われます。拝謁した際に勇者様をよく連れてきましたねと仰られていましたから」
そうなの? と言った感じでアオイちゃんに視線を向けると、首を縦に振っていたのでそうらしい。
そうなると、実行役はゲルメルトだけど指示を出していたのはセクメトリー? でも、フリーダーは神託を直接頂いていない様だから……よくわからんな。
少し考えていると、フリーダーが少しふらつきだしたので少し無理をさせ過ぎたかもしれない。
って、そう言えば聞き忘れてたことがあったな。
「それじゃあ最後に俺を追ってきてる人が居るみたいなんだけど、それは一体誰?」
「そうでした! 勇者を追ってきている者は前勇者の従者のアイリスと言う者で、既にイカヤザムまで一日程の所まで来てます。彼女は今セクメトリー様の使徒の様ですのでお気を付けください」
俺の予想通り追ってきてる人はアイリスのようだけど、神様の使徒になってしかも明日には街に着くのかよ。
はぁ、何日もかけて街に来たのに直ぐに移動しないといけないとは……何とも面倒な事だ。
まあ、見つかってまた今回のような事になったほうが面倒だから、さっさと逃げたほうが良いな。




