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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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失敗勇者と幼女神

 ギルド職員の一人が入り口の扉を壊す勢いで開き、バタバタと慌てた様子で奥の扉へ入って行く。

 冒険者達は怪訝な表情でその職員が入って行った扉を見ていたが、しばらくすると興味を失ったのか各々会話を始める……のだが。

 扉の奥から怒鳴り声がした後ギルドマスターが飛び出し、足早にギルドを後にした。

 冒険者達はギルマスが出て行った扉を見つめながら、小声でつぶやきあう。

 何か緊急事態でも起きたのか? ダンジョンでまたやばいのが出たのか? など冒険者達は話しているが、一人だけ落ち着いた様子で眺めている人が居た。

 それは、アイリスにシクラの居場所を伝えた冒険者だった。

 彼は普通の冒険者と比べて装備や身なりが良いほかは()()()()()()()()()見える。

 そして彼は徐に立ち会がり、ギルドマスターが出ていたの入り口の扉をくぐり歩き出し――。

「ようやくご対面の時期か。早くお会いしたいですねシクラの()()()

 そうつぶやくと、街の中心にある領主館へと足を向けた。



 




 アメトリンに呼ばれゲートをくぐった先は……やばい事になっていた。


「邪神の眷属め!『神聖光ディバインホーリーライト』!」


「あ、当たらない――よ! ええい」


「くっ! そのようななまくらで我が聖衣を切り裂いた所で何が出来ると言うのだ!」

 

 フリーダーが魔法で光の玉をアオイちゃんに撃ち出すが、チュンちゃんの従者に成った彼女は悠々と回避をしていた。

 光の玉はプロ野球選手の玉より早く、普通の人では回避不能なほどの速度だね。

 そしてお返しとばかりにチュンちゃんで胴を横なぎにするが、この剣では人自体は切ることはできないので服だけがボロボロになっている。

 しかも、アオイちゃんに殺意無い事も感じ取っているようで、圧倒的な実力差があるのに殺されない事に対して苛立ちを露にしている。

 

 ――まあそれはさておき、それよりもこの状況はいかがなものかと。

 ゲートの出口は今まで何度か行ったことのあるアメトリンの領域で、見渡す限りの緑の丘の様なところだったのだが……このありさまは酷過ぎるな。

 

 一面の緑色に生い茂った草原は、今やどこぞの戦争映画で出て来そうな状態だ。

 砲弾の雨でも降ったかのような荒れ具合だし、所々には燃えた草から煙があがり、魔法の痕跡であろう氷や石で出来た塊や槍のような物が一面を埋め尽くしている。


 そして、今もなおアオイちゃんとフリーダーの戦闘は続いており、時間差を開けてフリーダーが打ち出した光の玉が地面と激突し、直径五メートル程のクレーターを作っていた。

 なるほど、あれが原因なのか。

 その後もフリーダーが様々な魔法を繰り出し、みるみるうちに新たな荒れ地を作り出していく。


「凄まじい戦いですね。アオイちゃんが強いのはわかるのですが、あのフリーダー司祭も異常なまでに強いようですね」


「あはは。あんなの対処できるのあの子とトマぐらいじゃない? 私もトマの従者になって力とかは上がったと思うんだけど、あの動きについて行くのは無理だと思う」


 まだ従者としての力の把握が終わってないので何とも言えないけど、あの凄まじい戦いを見ていると二人に同意せざるを得ない。

 そして、決してあの中には入りたくないと心から思うのだが。

 それはかなわぬ願いなのかもしれない。


「ようやく来た! ねぇシクラ、八咫烏様の従者にあの男の力を使わせるようにお願いしたんだけど、未だにピンピンしてるんだよ。魔力(マナ)も無限じゃないから移動しながら戦ってるみたいなんだけど、それにしても普通の人なら数十回は魔力(オド)切れで倒れててもおかしくないレベルなのよ」

 

 なるほど、それでこの荒れ具合なのか。

 アメトリンの領域は外の世界よりも魔力(マナ)が充実しているから少ない魔力(オド)で魔法行使が出来るのはわかるし、彼が使っている魔法は土や光が主体のようだから消耗が少ないのかもしれない。

 それにしてもこれだけの破壊を行ったのであれば、普通の人なら魔力不足になるはずなんだけどな。

 もしかしたら俺のスキルみたい少し特殊な物を持っているのかもしれないな。

 

 アオイちゃんと戦うフリーダーをよく観察してみるが、特に変わったことをしている様子はなく普通に魔法を連打しているだけのように見える。

 そして、たまに自分への強化魔法なのか一瞬光を纏う様な時がある。

 その光がアオイちゃんの攻撃を何度か受けた後消え、再びかけなおしている様だ。


「防御の魔法?あれってどんな魔法か分かる?」


「んー、あのたまに光るやつ? あれは防御魔法だね。あれって一定の攻撃を肩代わりする魔法だったはずだよ。他にもシールド系の魔法もさっきまでは使ってたかな。でも防御系の魔法は消耗が激しいからすぐにでも消耗すると思ったんだけどね」


 防御系の魔法は消耗が激しいのか――あまり使ったこと無かったし、そもそも俺の魔力量が多すぎてあまりわかっていなかったんだよね。 

 こういう時ゲームみたいにMP表示があったらいいんだけど、この世界じゃ感覚でしか減りが分からないから加減が難しいんだよね。

 うーん、良くある鑑定魔法みたいなものがあれば便利だけど……勇者の魔法にもそれは無いっぽいんだよね。

 

 その後もアオイちゃん達の戦闘を眺めていると、少し気になる事があった。

 周囲を荒らしつつ魔法を連打するフリーダーだけど、ある程度魔法を撃った後は場所を移動しているみたいだ。

 普通に考えれば魔力(マナ)不足なのだろうけど、幾らなんでもあれだけの速度で周囲の魔力(マナ)が枯渇するとは考えにくい。

 あの程度の魔法で魔力(マナ)が枯渇するなら、この魔力(マナ)が潤沢にある領域であれなら超越魔法系はすべて使えない事になってしまう。

 何故かコンラートが超越魔法が使えた時の事を思い出し……隣にいるマリアを見てふとある事を思いついた。


「もしかして、彼は魔力(マナ)を吸収して魔力(オド)に変換しているもしくは、魔力(マナ)のまま魔法が行使できるのかもしれない。ただし、効率が物凄く悪いか集められる距離がマリアと逆に極めて狭くて量が集められないから、移動しながらでないと使えないのかもしれない」


「あースキル持ちならあり得るかもね。それにしてもマリアちゃんはそんなに広域から集めることが出来るの?」


「あ、はい。トマが言うように広域といわれても私の感覚なので実際の所はわからないのですけど、基礎魔法を使おうとしただけでもかなりの量を集めてしまうみたいです。ただ、私自身は魔法が使えないのでよくわからないんです」


「そうなんだ。それよりもマリアちゃん、前に会った時も言ったけどもっと楽に話していいのよ? 」


「ですが……」


「私が良いっていうんだから良いのよ! トマだって私と普通に話しているでしょ」


 雨取忍に言われてマリアは少し渋りながらも「わかりました」と言っていた。

 その言葉にアメトリンは気を良くしてニコニコ顔になってる。

 マリアは一応神様であるアメトリンに気を使って話しているみたいだけど、本人がそのせいで距離が離れているのが嫌らしい。

 まあ、俺も普通に話している……というか、からかいながら話していたりするから良いんじゃないかと思う。

 ……話が少し脱線したな。


「ゴホン。その話はまた後でしてくれ。アメトリン、この領域の魔力(マナ)を減らすことは出来ないか」


「んーちょっと難しいかな。ここの魔力(マナ)って私から漏れ出たものだったり、それに魅かれて集まってきたものだから調整なんて出来ないのよね」


「そっか。――じゃあマリア、使えなくても良いから魔法を使う感じで魔力を集めてもらっても良いかな?」


「え、いいけど――多分魔法は使えないよ?」


「魔法を使う事が目的じゃないから大丈夫」


「――わかったやってみる」


 マリアは目を閉じ魔法を行使しようと両手を前に伸ばし集中する。

 すると、徐々にマリアの周りの魔力(マナ)が集まって――マリア両手の前に目視で見えるほどの高密度の魔力の塊が現れた。

 それはとどまる事を知らず、俺が集められる範囲の魔力(マナ)はすべてそこへ収束していっている。


「ちょ、ちょっと、これ大丈夫なの? こんな高密度の魔力(マナ)の塊なんて私見たこと無いんですけど」


「あーうん、俺も始めて見た。でもこれで――」


 俺はそう言いながらアオイちゃん達の方へと視線を向けると、フリーダーの動きが急に悪くなったようだ。

 こちらの視線に気が付いたのかマリアが魔力(マナ)を集めまくっていることに気が付いたのかわからないけど、忌々し気な視線を向けて来ている。

 こちらから遠ざかろうと距離を取った見たいだけど、その隙を見逃すことなくアオイちゃんはフリーダーに鋭い突きを放つ。


「く、食らいなさい」

  

「くっ! こざかしいマネを!」


「このままたたみかけるチュン! 少しでもあいつの力を吸収しておくチュン」


 切られても肉体的には傷を負わない一撃とわかっていても、抜き身の刀を突きつけられると反射的に避けてしまうみたいだね。

 その後も何度か反撃をしながら距離を取ろうとがんばっていたが、徐々にアオイちゃんの攻撃があたるようになって、最終的には全身から汗を噴出しながら膝を付いた。

 

「こ、この……セクメトリー様に仇なす邪教と共め」


「チュン様は邪神じゃないから私は邪教とじゃないよ! それに、その邪教とを召喚して勇者にしてるのはあなたの所の神様じゃない」


「違う! 勇者はセクメトリー様の信徒になるべきなのだ! 我が神に召喚されたにもかかわらず、邪神と共になるなどあってはならぬことなのだ! 我が神の意に沿わぬ勇者など……ッ!」 


「はいはーい、そこまでね。さて、ちゃっちゃと浄化しちゃいましょうか」


 まだ何か言いたそうだったフリーダーの背後に突如としてアメトリンが現れた。

 何気なく彼の首に手を触れると、電池の切れた人形みたいに全身の力が抜けていた。

 

 やばいことでもしたんじゃないかと急いで駆け寄って確認すると「繋がってたパスを切っただけよ」と言っていた。

 パスが繋がっていたということはやはりセフトランドが使われていたようだ。

 切れた反動で茫然自失状態になってるだけで、始めは皆こんな感じだと言う。


 それにしても、俺がベロニカのパスを切る際にはもっと大変だったんだけど、あれでも一応神様だから簡単に切れたんだろうか?

 そんな疑問を浮かべながらアメトリンを見ていると「え、なに? 私の手際に惚れちゃった?」などとほざいていたので、ガーネットに視線を向け制裁してもらった。

 

「いったいなー。シクラがじっと見つめるからからかっただけなのに……」


「はぁ。あなたは一応でも神なのですから、もう少し言動には注意しなさい」


「はーい。それで、シクラは何か聞きたそうだったけど何かあった?」


「前に俺がパスを切る際にはかなり手間取ったんだけど、アメトリンは一瞬で切ったからさ」


 俺はアメトリンの横に居るガーネットをちらりと見ると、アメトリンは「あーなるほど」と言って説明してくれた。

 魔法的な繋がり――パスを切るのは相手より実力が上の者が行えばそれ程難しものではないらしい。

 ただし、それは魔道具など人間が行った場合のみで、神や悪魔が直接行ったパスを切るのは中々難しいらしい――というか、人間ではほぼ不可能とのことだ。

 俺が召喚された勇者――神の力の一部が授けられていたおかげで解除出来ていたらしい。


 セクメトリーの事はあまり好きではないけど、その事だけは感謝しておかないといけないな。

 勇者としての力が無ければベロニカさんはあのままだっただろうし、最悪自死を選んでいただろうからね。


「それはさておき、そろそろ浄化を始めたいんだけど……八咫烏様お力をお借りしてもよろしいでしょうか」


「任せるチュン! お前が使った力の分をそのままお前に渡す感じで良いかチュン」


「それでお願いします。八咫烏様がどの程度のお力を吸収されたか分かりませんし、いきなり膨大な力を渡していただいても制御出来ない可能性が在りますので」


「わかったチュン――それじゃあ……わっちの手に振れるがいいのよ」


 アオイちゃんに握られていた刀になっていたチュンちゃんが、ポンと言う軽い音と共に変化した……のだが。

 

(え? 誰?)


 皆の心の中で意見が合致した気がした。

 そこに現れたのは古風な着物姿の――カワイイ幼女だった。

 その姿に全員が固まり――アオイちゃんだけは「チュン様カワイイです!」と目を輝かせていた。

 ……ん? チュン様って……まさか……。


「何を固まっておる。さっさとわっちの手を取って始めるのじゃ」


「あ、あのー、もしかして八咫烏……様?」


「はぁ、そんなこともわからぬのか。お主も神であるならば姿ではなく中身でわかる様にならねばいかんのじゃ」


「「「えぇえええええええ!?」」」


 皆が一斉に驚きの声を上げた。

 この可愛らしい幼女があのスズメ――もとい、八咫烏のチュンちゃんなのか?

 ガーネットやアメトリンも驚いているし、マリアやベロニカさんも目を見開いて驚いている。

 唯一アオイちゃんだけは「はぁはぁ、チュン様最高です!」などといって危なそうな視線を向けていた。


「ふむ、アオイが想像した姿じゃが中々良いではないか。そんなことより、さっさと始めるのじゃ」


「は、はい。それではお力を……お借りいたします」


 アメトリンは幼女チュンちゃんの手取った後、瞳を閉じてフリーダーに手をかざす。

 掌に二色の光が生まれ、それがフリーダーの体と繋がった。

 黄色と紫色の二色の光は始めは細い弱々しい光だったが、徐々太く眩しい光を放ちだしフリーダーの体全体を覆う。

 それと共に、チュンちゃんとつないだ手から目視できるほどの莫大な力がアメトリンに送られ、時折苦しそうな呻き声を上げながらも浄化は進んでいった。

 光に包まれたフリーダーは微動だにしなかったが、浄化が始まると体中から黒い靄が立ち上り始めた。

 

 その靄はアメトリンの光に振れると掻き消えるように散り、浄化が進んでいることが見て取れた。

 俺達はその様子を眺めつつ、浄化が成功することを祈りっていた。


 そして数十分後――フリーダーの体から立ち上る靄が一切で無くなり、体を包んでいた光が消えた。


「ど、どうなった」


「――もう大丈夫。浄化は成功したよ」


 俺の問いに疲労困憊で顔も上げられないアメトリンが小さく呟いた。

 

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