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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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失敗勇者と召喚者アオイ

 これは夢――なのか?

 私は一体何をしているのだ?

 何故街の人々を扇動するようなことを言って勇者様に危害を――だめだ、ぼーっとして思考がまとまらない。

 いつからこうなってしまったのだったか――そうか、あの時ここにやってきたゲルメヌト司祭との会食から?

 そのあと、ゲルメヌトは――そうだ、拝謁を行う部屋の隣の部屋に住み着いたはずだ。

 フリーダーは霞のかかったの様な記憶を何とか手繰り寄せ、夢なのか現実なのかわからない状況の中思考している。

 ゲルメヌト――あの司祭は昔から色々黒い噂があったし、確かイオリゲン王国でなにかやらかしたといった情報は入っていたのだが……迂闊だったな。

 こんな状態であれば、先程の勇者様の剣で一思いに切られていた方が良かったと思うのだが、あの剣は物体は切り裂くが人体は切れないようですね。

 それにしても、何故ゲルメヌトは私に勇者様を捕えさせてセクメトリー様に拝謁させようとしたのか……っぐ! だめか、重要な所は完全に思い出せなくなっているな。

 セクメトリー様はこの事をご存知なのでしょうか? これほどの事をして――私は……。









 静まり返った教会のホールに、カシャンカシャンと金属音が響き渡る。

 主は全身に甲冑を纏い、その金属音は聖堂内の石畳と鎧が擦れる音のようだ。

 甲冑の者はホールの中心を歩いて行く。

 行く先には、聖職者の服を着た男性が跪きながら祈りを捧げている。

 足音に気が付いたのか聖職者は祈りを止めて立ち上がり、甲冑の方へと向き直る。

 振り向いた聖職者の顔は――歓喜。

 満面の笑みを――いや、それ以上に歪に顔を歪めながら甲冑へと視線を向ける。

 その視線を受け、甲冑は立ち止まる。


「ようこそおいで下さいました。さあ、セクメトリー様への拝謁を行いましょう」


 大仰な身振りで甲冑を奥へと誘う。

 甲冑は一瞬小さく震えたかと思うと、腰から下げた剣に手を添えた。

 そして握りしめた後、彼の方へと歩いて行く。

 その様子にご満悦の様子の男は、甲冑を先導して奥の扉を開け進んでいく。

 フリーダーがもしまともな状態であればこの甲冑の異変に気が付いていただろう。

 しかし、彼は既にそのような誤差を見抜けぬほどの状態になっていたのだ。


 そ知らぬ顔――まあ、顔は見えないんだけど――彼について行き――そこには、飾り気のない石造りの廊下があった。

 廊下の所々には燭台が置いてあり、ほのかに光を放つ石かはめ込まれている。


 聖職者――フリーダーは振り返りはしなかったが、甲冑が立てる金属音がついて来ている事は確認できている様だ。

 二人の間に沈黙が流れていたが、それを断ち切ったのはフリーダーだった。


「先ほどのも催しはいかがでしたか? フフフ、その沈黙こそが答えでしょう。あれこそが神の――いえ、セクメトリー様のご威光ですよ! 」


「……」


「声も出ませんか。そうでしょうそうでしょう、私が用意した五百二十九名の教徒を退けたあなたでも、流石に情に勝てなかったようですね。なにせ、あなた方を慕う二人と彼らが身を寄せていた孤児院の子供達ですからね。そうそう、ご存じだとは思いますが彼らには無粋な事は一切しておりませんので、彼の行動は自主的なものですよ」


 沈黙と通す甲冑に一方的にフリーダーは話しかける。

 相手が反応するかどうかなどお構いなしに、言いたいことを言い続ける。


「そもそも、あなたがセクメトリー様の反意を示さなければ問題なかったのですよ? 邪神と繋がりを持ち、神々に敵対するなど愚の骨頂! 我々は神の手足となりセクメトリー様の為に働けばよいのです!」


 ギリっと歯を噛みしめる様な音が甲冑の方から聞こえてくる。

 その音にフリーダーはさらに気を良くし、饒舌に話し続ける。

 しかし甲冑は、剣を握りしめたまま一切口を開くことはなかった。


 流石にここまで無言だと少し不機嫌になるフリーダーだったが、目的の扉が見えたことで甲冑への気持ちはきれいさっぱり消え去る。

 少し通路が広くなってホールの様な所に、正面と左右に扉がみえる。

 正面の扉は紋章のような物が刻まれており――それはセクメトリー教が使用する紋章だった。

 左右の扉は、左側は質素なただの木製の扉だったが、反対の右側の扉は華美に装飾された趣味の悪い扉だ。


 フリーダーは一瞬右の扉に向けたが、直ぐに視線を戻して正面の扉へと歩み寄る。


「さあ、どうぞ()()()様。セクメトリー様がお待ちになっております」


 不気味な笑みを浮かべながら扉を開け中に入るフリーダー。

 一瞬ためらうような素振りをした甲冑だが、そのまま後に付いて中に進んでいった。


 部屋の中は通路同様石造りだったが、正面には祭壇が据えられその中央には女神の像が祀られている。

 フリーダーは祭壇の正面に跪き、女神像へと祈りを捧げる。

 甲冑は何もせず、フリーダーの好きにさせている――というよりも、何もしないことが目的のように感じてしまう。

 

「……我が神セクメトリー神よ、我の呼びかけにお応え下さい」


 しばらく黙って祈りをささげていたフリーダーは、セクメトリーにそう呼びかける。

 すると、室内には妙な圧迫感が発生した。

 シクラがはじめてセクメトリーと会った時の様な感じではなく、負の感情が辺りを包み込むような不快感が部屋中に充満する。

 しかし甲冑は動じなかった――というよりも、甲冑自体は初めての体験だった為違いがわからなかったのだ。

 

「さあ、覚悟は決まりましたか? アハハハハ! まもなくセクメトリー様が御降臨なされます!」


 跪き頭を垂れたた状態で表情は見ないが、どのような表情をしているかは見えなくてもわかってしまいそうなほどフリーダーは興奮している。

 彼からしたら自分が崇める神が現れるのだから仕方のないことなのかもしれないが、発狂しているようにしか見えない。


 いつしか部屋を包み込むような不快感は徐々に薄れ――薄れたというよりも、正面の女神像へ凝縮されていったようだ。

 そして……突如として、その女神像から圧倒的な威圧感が発せられた。


「おお……おおおおお! 我が神セクメトリー様! ご神託を頂きました勇者をこちらへお連れ致しました」


「……ッ!」


 甲冑はフリーダーの言葉など気にしている余裕がなくなっていた。

 なぜなら、女神像を寄り代にセクメトリーが目の前に現れてしまったからだ。

 女神像は元々多少の装飾をされていたただの像だったが、それは徐々に色や質感が変わり――生きている人が居るようだった。

 まあ、正確には女神ではあるのだけど。


「面を上げて頂戴」


「はっ、はい! 」


「良く成し遂げましたねフリーダー。あなたには感謝を。そして、流石は私の司祭ですね」


「セ、セクメトリー様より直接感謝のお言葉をいただけるとは……ありがたき幸せでございます」


 慈愛に満ちた瞳で声をかけられ、フリーダーは子供が褒められたかのように喜んでいる。

 だが、セクメトリーの視線は部下をねぎらう上司のような視線ではなく、ペットを可愛がるようなとても不自然な視線のような気がした。

 そして視線は甲冑へと移り――少し困ったような視線で見つめる。


「久しぶりねシクラ。どうしてそちら側へ付いたのかしら?」


「……」


「だんまりは好きじゃないわよ。それにその剣、あなたの世界の神の一部よね? 誰があなたにそのようなものを渡したのかしら?」


「……」


 セクメトリーの問いに甲冑は一切答えない。


「どうしたのかしら? 前はあれだけお話したじゃない?もしかしたら緊張しているのかしら?大丈夫よ、私は()()()を召喚した神ですなのですから」


 セクメトリーは祭壇からふわりと地面に降り立ち、甲冑に向かって歩みだした……のだが。

 歩みは数歩で止まり、甲冑を凝視し始めた。

 そしてーーセクメトリーから表情が消えた。


「あなたは一体誰」


 その言葉に先ほどまではしゃいでいたフリーダーは、凍り付いたかの様に固まった。

 それほどまでに冷たい声が室内に響き渡ったーーその時、甲冑が動いた。


「ッハ!」


 石畳が歪む程の力強さで飛ぶような勢いセクメトリーへと向かい、腰に据えた剣をそのまま抜き打つ。


「この距離で何を!?」


 甲冑とセクメトリーの距離は元々は五メートルほど離れていたが、今はおよそ三メートル。

 剣ーー刀の長さは普通の打刀と同様の刃渡りはおそよ八十センチ、どう考えてもこの距離は届かない。


 そしてーー振りかぶった刀は予想通りセクメトリーには届かなかい……ハズだった。


「……え?」


 セクメトリーが依代にした女神像の腹部には、甲冑の持つ刀が突き刺さっていたのだ。

 理解を超える事が起きると神であってもフリーズするようで、セクメトリーは刺さった刃を見つめていた。

 あの距離で刺さるハズの無かった刀が刺さったのは、チュンちゃんが最大サイズまで拡張したからだ。


「いただくチュン!」


「っな! ギィヤァアアアアアアア!!!」


 刀が刺さった際には全く気にしていなかったセクメトリーが、突如として悲鳴を上げる。

 チュンちゃんが急激にセクメトリーの力を奪った事が、神としてのセクメトリーには虚脱というより痛みとして伝わったようだ。

 

「貴様! セクメトリー様に召喚された勇者の分際で!」

 

 あっけにとられて動けなかったフリーダーだったが、セクメトリーの悲鳴を聞いて甲冑に向かって攻撃をしようとする。

 しかし甲冑は、セクメトリーに刺していて刀を抜いて入り口まで跳躍して距離を取る。

 刀が抜けた女神像は一気に生気を失い、元の石像へと戻っていた。


「セ、セクメトリー様!?」


「ざ、ざ、ざ、残念でした! わ、私は勇者じゃ……ないんです……ふぇええ」


「なに! 貴様は一体誰だ!」


 兜を跳ね上げて叫んだ人は……アオイちゃんだった。

 シクラが着ていた鎧と同じものだったため、フリーダーもセクメトリーも中身が違うと言う事に気が付かなかったようだ。

 実際には全く同じと言う訳ではなく、特殊な装備品は装備者に合わせて形状を変えるので実際には胸の辺りがかなり変わっている。

 フリーダーがもし正常な状態であればすぐに分かっただろう。

 セクメトリーは外見で見分けているわけではなく、内包する力で見分けているだけだったのだ。

 内包する力が実は同等のシクラとアオイちゃんだからこそ出来たことだったのだ。


「いちいちビビるんじゃないチュン! まあ、それでもあいつの力の半分くらいは吸収できたから良いチュン……ゲプゥ。作戦通りさっさと逃げるチュン!」


「わ、わかりました! アメトリンさん!」


「はいはーい! 」


 チュンちゃんもセクメトリーから力をかなり吸収したようで、ご満悦のようだ。

 そしてアオイちゃんはシクラから渡された神石でアメトリンに連絡し、ゲートを開けてもらい離脱する。


「逃がすと思っているのか!」


 フリーダーはセクメトリーに危害を与えたアオイちゃんを追って、同じようにゲートに駆け込んだ。

 そしてその場には、セクメトリーが依り代として使っていた女神像だけが残っていた――苦渋に染まった表情をして、腹部に刀傷のある女神像だけが。


 少し時間が遡る。


「クソ! 」


 セフトランドの事を聞いて俺はどうしようもない苛立ちを露にする。

 洗脳なのであればどうにかできたかもしれないが、薬物――それも禁忌クラスの薬物相手では誰もどうする事が出来ない。

 

「……どうしようもないのか」


「……はい。騎士団に居た時にもセフトランドが関わる事件がありましたが、誰一人助けることが出来ませんでした」


 俺の呟きにベロニカさん悔しそうに話してくれる。

 過去にセフトランドを使った大規模な事件があったそうだが、被害にあった生存者は全員死亡してしまったとの事だ。

 パスで繋がっているのでそれは切れば助かるのかなど様々な試行錯誤がなされたが、強制的にパスを切断すると最初は治ったかのように思えるのだが、薬が切れた後暴れまわったのちに廃人になってしまうのだとか。


 パスを切れば多少の間は普通に生きていられるが、どの道薬が切れれば廃人になってしまう。

 しかしそれは、パスを切らずに生活していても薬が無ければ同じだ。


「はぁもうどうしたら……」


「……シクラ、もしかしたらそれ治せるかもしれない?」


 俺の持つ神石から小さな声が聞こえた。

 ――治せるかも? え、ちょっと待って!


「何か手があるのかアメトリン!?」


「ちょっとあんたまた確証のない事を――」


「確実じゃないけど……可能性はあるわ」


「そんなことが可能なのですか!?」

 

 ガーネットがアメトリンを諫めようとしたのだが、ガーネットが可能性があるという言葉にベロニカさんが食い付いた。


「確認するけど、パスを切っても最初は普通なのよね?」


「え、ええ。薬が切れるまでの間であれば普通に暮らすことは可能でした」


「その日数はわかるかしら」


「え、ええっと……確か最長でも十日程だったと思います。ただ、薬をいつ与えられたかによって違うので詳しく何日かはわからないです」


「……そう。そのフリーダーとか言う人間がどの程度前に薬を与えられてか分からないけど、薬の効果であれば私の領域で治療を施せば何とかなるかもしれないわ」


「治療が出来るのか!」


 治療が可能という言葉俺は期待したのだが、それをガーネットが止めに出る。


「アメトリンあなた! そんなことしたら……それに、相手はセクメトリーの司祭なのよ!」


「わかっているわよそんな事! でもこのままじゃシクラ達が……」


「……」

「……」


 神石の向こう側で二人が言い争っている言葉が聞こえてくるが、途中で声が小さくなり内容が聞こえなくなった。

 

「ちょっと二人ともどうしたんだ。治せる可能性が在るのか?」


 しびれを切らして神石に話しかけると、しばらくした後返事が返ってきた。


「……治療は可能よ。ただし、その影響でアメトリンの力が格段に落ちるわ。最悪消滅する可能性すらあるわ」


「それは……。失った力を取り戻す方法はないのか?」

 

「あるにはあるわ。アメトリンを信仰するものが現れるか、他の神から膨大な力を奪い取るかすればね。ただ、信仰するものが少数では意味が無いし回復する力も微々たるものね。それと、私程度の力じゃアメトリン程の力がある神を回復させられることが出来ないわ」


 どこかの神から力を奪えば行けるかもしれないけど、そんじょそこらの神では意味が無いか。

 となると、一応適任者はここに居ない事はないな。


「チュンちゃんでどうにかできないか?」


「……俺っちが現地神の為にってかチュン? まあ、さっき奪った力とお前から預かってる勇者の力を上げれば問題ないチュン。ただ、その場合は只の刀になってしまうチュン」


「そうなると、どこかで補充できればいいんだけど……」


「チュン様、そのセクメトリーという神から力を奪ったらいいんじゃないでしょうか? 」


「どう言う事だチュン?」


「えっとですね、そもそもフリーダーっていう人はそこのシクラさんをセクメトリーっていう神様に合わせようとしてるわけですよね? 」


 なるほど、そう言う事か。

 

「俺がフリーダーについて行けばセクメトリーが現れる。その現れたセクメトリーからチュンちゃんが力を奪い取ればいいって事か」


「は、はい。そうなります……」


 これが上手く行けば、フリーダーを救う事が出来るしアメトリンの負担も軽減できそうだな。

 それにしても、相変わらずチュンちゃんには普通に話すことが出来るのに、俺にはまだ少し緊張している様子だな。   

 

「私がシクラさんの鎧を借りてチュン様と一緒に力を奪ってきます」


「「「えええええ!!!」」」


「だって、チュン様を守るのが私の使命ですから。たぶん、その神様に会う事が出来るのはシクラさんだけで他の人はいけませんよね? そうであれば、私がチュン様と行くしかないです!」


 その後、皆で説得を試みたが――アオイちゃんは頑なにチュンちゃんを守ると言って聞かず、結局チュンちゃんが「アオイなら大丈夫だチュン。それとアメトリン、ちょっと力を貸すチュン」と言って作戦を決めてしまったのだった。



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