閑話休題 異世界メリークリスマス
メリークリスマス!
と言う事で、短編をちょっと書いてみました。
シクラがまだ召喚される前の出来事ですが、最近出番のない彼女達のお話です。
これはシクラが召喚された前の年の出来事。
王宮のエントランスホールで、アイリスとカトレアが木に装飾を施していた。
「飾りつけはこんな感じで良いですか?」
「ええ、アイリス。これでいいと思うわよ」
二人が飾りつけをしているのは、もみのき――ではなくそれに近しい形をした針葉樹だ。
勇者達が元々いた世界とは違い電飾などで装飾はされては居ないが、この王宮では代わりに光晶石と呼ばれる鉱石を加工したもので電飾代わりにされている。
「これがクリスマスツリーなの? すごーいきれ―!」
「あらリリー。もう部屋の掃除は終わったのかしら?」
「うん。いつ勇者様が来られても大丈夫なようにしておいたよ! 」
二階の階段の手すりに身を乗り出しながら、リリーはツリーを見上げながら目をキラキラさせている。
実際にはツリーの事が気になって掃除が進まないのを見ていたアネモニが掃除を手伝ってあげていた。
これが異世界にふさわしい物なのかは定かではないが、過去の勇者が伝えた物らしい。
ただ、元の世界とは違いこの世界では神様に感謝をする日と言う事だけが伝えられ、実際に神が居るこの世界では教会などでもクリスマスイベントが行われたりしている。
教会が行うのは鶏肉焼いたものをを無料で配布したりしている。
伝えた勇者が適当だったのか、揚げ物という概念が無いこの街では理解が出来なかったのかはわからないが、カリッと香ばしく焼いた匂いに誘われて人々が毎年行列をなすのが風物詩になっている。
「それにしても、今年のツリーは大きいですわね」
ホールに飾られているツリーの高さが十メートルほどあり、天井にあるシャンデリアに当たりそうなほど巨大サイズだった。
流石にエントランスホールにこのサイズの物を入れることは出来ないので、魔導士転移魔法を使ってもらい無理やり運び入れた物である。
「そうですね。アカリ様がいらしていた時は戦時中でしたのでこのような事は出来ませんでしたが、街も落ち着きを取り戻してきたのでいい機会と思われたのではないでしょうか」
数年前、勇者として召喚されたアカリが魔王を討伐するも、魔王を討伐するのに人や物資をかなり消耗したため、いままでは大掛かりなイベントを行う事は無かったのだ。
しかし今年は各国で豊作で、復興が進んだこともあり各国で催し物をするまでに世界は回復していた。
「カトレア様、脚立をお持ちしました」
「ダイアンありがとう。そこに置いて貰えるかしら?」
ダイアンは頷き、カトレアの指示したツリーの側に巨大な脚立ドスンとを置いた。
彼女が持ってきた脚立はツリーの先端部まで達しており、彼女の華奢な身体つきでは持てるのが不思議なサイズの大きさだ。
まあ、普通であれば。
彼女はアイリスに身体強化の魔法をかけてもらっており、そのおかげでこの巨大な脚立を簡単に運んでいたのだ。
脚立を置いたダイアンもその綺麗に装飾されたツリーを見つめている。
ただ彼女の場合、リリーとは違い声に出して喜んだりはしないがやはりそこは女の子、見つめるひとみは輝いている様に見える。
その様子に妹を見るかのように優しい瞳でカトレアは見つめるが、まだ作業が終わっていない事を思い出しアイリスに指示をだす。
「アイリス、これを先端に取り付けてもらっていいかしら?」
「私が付けて良いんですか?」
「あなただと、もしものことがあったら大変でしょ」
一抱えもありそうなサイズの大きな星型の飾りをアイリスに受け渡す。
受け取った星をどこに付けるか確認するためにツリーを見上げ、自分でないと落ちた時に大怪我をしそうだと思い納得した。
リリーが私が付けたいと少し騒いだけど、カトレアやダイアンに宥められ――すこしふくれっ面をしながらもアイリスの作業を見つめている。
ダイアンが持ってきた脚立に登り、最上部に星形の装飾を取り付けた。
「それにしても今年はアネモニのおかげで飾り付けの品が簡単に手配出来て良かったわ」
「そこはカトレア様がクライン商会に注文して頂いたおかげですよ」
「あら居たの? あなたもツリーを見に来たのかしら?」
「それもありますけど、まだ作業が残っているならお手伝いしようかと思ったのですが――終わったみたいですね」
先程リリーが降りてきた階段をいつの間にかアネモニが降りて来ていた。
彼女はクライン商会という大陸でも五本の指に入る大商会の次女で、カトレアの指示で今回の飾りつけを手配したのだった。
「それにしても凄いツリーですね。私もここに来るまでに色々な国を周りましたが、これほどのツリーは見たことがありません」
「そうでしょうね。そろそろ新しい勇者様が来られるらしいと言う事もありますが、我が国が復興してきたことを他国の貴族に示すためでもありますからね」
イオリゲン王国は勇者召喚が行われる国と言う事もあり、タケミカヅチ神の大神殿があるウグジマシカ神聖国の次に力のある国で、こうした催し物が行われた際には各国の重鎮や貴族達を呼んで舞踏会を行うのだ。
「勇者様ですか……いつ頃いらっしゃるのでしょうかね?」
「詳しくはわかっていないようなのですが、あと一、二年の内には来られると言う事だけはわかっているみたいよ」
「ゆうしゃ様ってどんな人なのかな? 今度は男のゆうしゃ様?それともまた女の勇者様?」
「アカリ様が言うには、お兄様が勇者として召喚されるとの事ですよ」
「そうなんだ! 楽しみだね! あーあ、早くゆうしゃ様に会いたいなー」
飾りつけを終えたアイリスが脚立を降り、次の勇者であるシクラの事をリリーに説明をした。
リリーは目を輝かせながら、ツリーを見上げながら勇者の事を夢想している。
「そうね、早く勇者様が訪れるように皆でツリーにお願いしましょうか」
「わーい! 早くゆうしゃ様来てくれますように!」
リリーははしゃぎながらツリーにお願いをし、他の四人は静かにツリーを介し神に祈りを捧げる。
各々が信仰する神に祈りを捧げている中、他の人には聞こえないような微かな声がする。
「シクラ様――アカリ様のお兄様。もうすぐお会いする事が出来ますね」
「……ん?なんだ? 」
暖房の効いた自室のベットで寝転がり、スマホでネット小説を読んでいた青年の耳に聞きなれない女性の声で呼ばれた気がした。
「ま、空耳だな」
青年は気にすることも無く、再びスマホをへと視線を戻した。
誰にも聞こえないその声は、確かに誰かの元へと届いたのだ。




