失敗勇者と白銀の騎士
シクラの痕跡を求めてお爺さんに詳しい話を聞いたが、あの騒ぎの後どこかへと消えてしまったとの事だった。
おそらく鎧を脱いで冒険者の格好になったから分からなくなったのだと考えたアイリスは、再び街でトマと言う名の冒険者を探す事にした。
ギルドでは冒険者ではなアイリスでは詳しい情報を教えて貰えなかったため、商店や宿などで聞き込みをして見た結果。
「ああ、そいつらなら昨日宿を引き払って行ったぜ」
シクラが泊まっていた宿を見つけ、主人から話を聞く事ができた。
そこで得られた情報は、シクラが加入している冒険者チーム名は鉄の盾と言う最近銀等級に上がったやり手のチームだとか。
宿に泊まった時男二人に女三人だったが、他にも女が一人増えていた気がするとのことだ。
宿の主人が覚えていたのは叫び声を上げた女がいて、その様を確認しにいったから覚えていたそうだ。
そして、男二人のうち一人はシクラの容姿がバッチリ当てはまった。
しかし、その後の行方はどこへ向ったか分からないとのことだったーーだけど。
「ようやく追いつきました。シクラ様待っていてくださいね」
行先は分からないが昨日までこの街に居た証拠を掴んだアイリスは、浮いた足取りで街に更なる聞き込みのため向って行った。
銀色の塊がガシャンガシャンと大きな音を立てながら狭い路地裏を駆け抜ける。
それは、銀色の全身鎧で面頬を閉じている為着ている者が誰かは判断が付かない。
その背後からは様々な凶器を持った人々が、血走った眼をしながら追いかけていた。
追いかけている人たちの様子は傍から見ても異常の一言。
全員が何か騒ぎながらその銀色の塊を追いかけていた。
「悪魔の手先を捕まえろ!」
「神に仇なす愚かな悪魔を捕まえるのだ!」
「「セクメトリー様万歳!」」
などと気勢を上げながら銀色の鎧を追いかけていた。
「こっちです~」
この世界ではあまり見ることない巫女服を着た少女が、間延びした声で鎧を誘導する。
その誘導に従い路地を進むと、少し広くなった場所に出て振り返る鎧。
「いったいどれだけの人数が居るのやら」
鎧を着た人は小さく呟いた後、手に持った刀を構えて暴徒と化した人々と相対した。
少し時間は遡る。
チュンちゃんに韴霊剣になってもらい、人々を切ることが出来ればこの暴動は治まることが分かった。
韴霊剣の能力で、切った相手の邪を払う事が出来るのだ。
チュンちゃん曰く、本来ならそのまま呪いの様な状況だから切れば浄化出来るみたいだけど――少し別の方法を考えているみたい。
それが出来るかどうか試した後、出来なければそのまま払ってしまうとの事なので任せることにした。
そしてこの剣の一番のメリットとして、人を切ることは出来ない。
服など物体は切れてしまうが、人々を傷つけることが無い。
だからこそ、呪われた――というか、洗脳されている状態のみを解除する事が出来るんだけどね。
「作戦は簡単にした方が良いと思うんだ。皆は操られてない住人たちの避難誘導をお願い。もし、ギルドとかにも協力が得られるならそっちもお願い」
「ギルドの方には俺とイザベルが行こう。この辺りでは顔も知られているから、ギルドに説明するのは任せてくれ。
「でしたら私も同行します。ギルドマスターとは個人的に知り合いですので」
ギルド方面はグランツとイザベル、そしてベロニカさんが請け負ってくれる事になった。
グランツ達は一般の冒険者に顔が効くし、ベロニカさんはギルマスのリコリスさんと知り合いだから問題なく避難誘導できるだろう。
それに、ギルマスからの要請なら領主に連絡をしてもらえるかもしれないからね。
そうすれば、衛兵などで市民を誘導をしてくれるだろ。
「私は?」
「マリアは上から誘導をお願い。路地を走り抜けるにしても、道案内が居ないと困っちゃからさ」
「了解! 前の私だったら難しかったけど、従者に成った今なら問題なく出来そうね」
マリアとベロニカさんは共に俺の従者に成ったことで身体能力などがかなり向上し、かなり無茶な事も出来るようになっているらしい。
らしいというのは、今はさっき走った時に少し力を試したみたいなんだけど、今までと違って体が羽のように軽く感じたとの事だ。
なので、家の屋根を飛び移りながら俺を誘導することぐらいは問題なくできるようになったみたい。
「それと、チュンちゃんは俺と一緒に来るんだけど――えっと、アオイちゃんはどうすればいいのかな?」
「私はチュン様と一緒に行きますよ?」
「え?」
「え?」
お互い疑問形の問いをして固まった。
何食わぬ顔でチュンちゃんと一緒に行くというアオイちゃんだが、彼女はいくらチュンちゃんが召喚した従者とは言え――流石に危険じゃないかな?
とは思ったんだけど、それを許可したのは他ならぬチュンちゃんだった。
「アオイはオレッチの従者だチュン。こんななりにになったチュンから、使える奴を召喚したチュン。こんななりでも結構優秀だチュン。それに加護もあるから大丈夫だチュン」
その言葉にアオイちゃんは胸を張ってドヤ顔をした。
「「おおぅ」」
今まで気にしていなかったが、胸を張ったことで清楚な見た目に反してたわわな胸がポヨンと擬音するかのように揺れた。
――そう、揺れたのだ。
そして、その二つのおおきなものは自己主張するかのように、服を押し上げ浮き出している。
当人はまったく気が付いていない様だけど、男性として反射的に俺とグランツは反応していた。
うん、まあ、視線が一瞬アオイちゃんの胸に集中してしまったのは――仕方のない事だろう。
ただ、その視線に気が付いた女性陣に睨まれて視線を逸らすが――時すでに遅し。
俺はマリアにジト目で見られ、ベロニカさんにいたっては「シクラ様はやはり大きい方が……」とつぶやいていただけだ。
ただ、グランツはイザベルに耳を引っ張られて怒られている。
その様子にアオイちゃんは頭をかしげている。
まあ、それはともかく……チュンちゃん曰くアオイちゃんは結構なハイスペックらしい。
チュンちゃんの身の回りの世話が出来、戦闘面でも実はそれなりの実力があるとの事だ。
ただ今は装備が心許ない為に戦闘に参加させる訳にはいかないんだけど、チュンちゃんのお供位は問題ないらしい。
「それじゃあアオイちゃんには、マリアと一緒に誘導と周辺警戒をお願いしようかな」
「わかりました。チュン様の従者として恥ずかしくないように、私がんばります!」
「うむ、がんばるチュン」
頭の上から偉ぶって胸を張るチュンちゃんを見て……なるほどチュンちゃんの従者だなと納得した。
「とりあえずはこれでみんなの役割は決まったかな?」
「それはいいけど、トマはそのままでいくの?」
「そのままって?」
「えーと、今の装備のままだとトマが勇者ってことがばれちゃうんじゃないかなって?」
「――ああ、そういうことか。よいしょ――これに着替えるんだよ」
流石に今の装備のままでは顔は丸見えだし、冒険者ってことも装備で大体わかってしまう。
だから、俺は今まで秘匿していた装備をアイテムボックスから取り出した。
アイテムボックスの中にはダンジョンに行く際にしまっていた食料などがと――存在を忘れかけていたものがあった。
それも一応取り出しておこう。
「シクラ様――それは!」
ベロニカさんは俺が取り出した鎧を見て驚くが、グランツ達からするとただの見慣れない全身鎧なのでその反応に首をかしげている。
この中ではベロニカさんだけが知っている銀色に輝く鎧。
イオリゲン王国で悪魔化したガーネットが襲ってきた際に借りた、ミスリルでコーティングされたアダマンタイト製の鎧だ。
稼動部の隙間にはエンペラースパイダーという魔物の糸が使われた、国宝級の全身鎧だ。
破格の性能を誇る鎧だけど、重量がありすぎるから今の俺では身体強化を施さないとまともに動けそうも無い。
この鎧を着て身体強化を施せば、ダンジョンで戦ったトロールなどでもかなり有利に戦えただろうけど。
ベロニカさんが気が付いたように、イオリゲン王国ではこの鎧を着て動いていたから勇者ってばれない為に着るのを止めていたんだよね。
今までお蔵入りしていたこの鎧を出したのは、暴徒と化したセクメトリー教徒が勇者を探せってことになっているからだ。
勇者シクラということで動き回って、今の表の顔の冒険者トマとしての顔がばれないようにする為だ。
これなら装備でトマということはわからないし、面頬さえ下ろしてしまえば顔も見られる心配も無いので安心なんだよね。
皆にイオリゲン王国時代に使っていた鎧と伝えると、説明するまでも無く察してくれた。
「こんな感じになるから正体を隠すのにもちょうどいいんだよね」
「なかなか様になってるな。しかもこれは――ミスリル? いや、コーティングされてるのか」
「とても高そうな鎧よね。でも、稼動域もあって実用性もあるみたいね」
「なんかトマが騎士みたいで――少しかっこいい」
「あ、あの、その鎧は――」
着て見せると皆が鎧をペタペタさわったりして品評を始めたけど、素材が何かは言わない方がよさそうなので黙っておこう。
ベロニカさんだけはすこしオロオロしていたので、恐らく何で出来ているのかわかっているのだろう。
彼女は元魔道騎士団副騎士団長だから、もしかしたら鎧のことを知っているのかもしれないね。
「それじゃあ作戦を始めようか」
ある程度落ち着いた所で話を区切って、再度作戦を確認して行動を開始する。
作戦通りグランツたちにはギルドに向かってもらい、市民の避難誘導をしてもらう。
それと、ギルマスの個人的な知り合いでもあるベロニカさんからギルド言って貰い、衛兵などにも連絡してもらう事になった。
グランツ達はその後ギルドと連携して避難誘導してもらうことになっている。
だけど、グランツ達が避難誘導を始める前に動くと他の一般人が危険かもしれない。
そのため、ベロニカさんには避難誘導の指示が終わったらこちらへ戻って来てもらう。
それまでに間に、マリアとアオイちゃんには屋根上から道を確認してもらい、ベロニカさんが到着次第俺が飛び出す予定だ。
グランツ達がギルドに向かった後、俺達は一旦生垣から離れ屋根の上に退避した。
俺達と別れた後、グランツ達は全力疾走でギルドへと向かって駆け出していた。
そして、扉を壊すような勢いで叩き開ける。
「はぁはぁはぁ――ギ、ギルドマスターは――居るか」
「え、ちょっと、いきなりなんですか」
怒鳴り込むような勢いでカウンターへ向かい職員に詰め寄った。
その様子に周りの冒険者達は訝しげな視線をグランツ達に向けるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「俺は銀等級パーティ、鉄の盾のグランツだ。大至急ギルドマスターへ取り次いでもらいたい」
「そ、そんなことを言われましても。急にギルドマスターに取り次ぐ事なんてできません」
通常ギルドマスターに会う事ができるのは、危険度の高くギルドからの指名依頼の時かギルドからの緊急案件位で、普通の冒険者達は直接会う機会は少ないのだ。
まあ、ギルドマスターも普通に正面からギルドに入ってくるので、そこで顔合わせをする程度のことはあるんだけどね。
「でしたら私が至急で会いたいと言ったらどうでしょう?」
グランツと職員の会話では話にならなそうなので、ベロニカさんが二人の会話に割り込んだ。
「っは! あなたは確か、ギルドマスターのご友人で……魔導騎士団副騎士団長の!」
職員はベロニカがギルマスの友人と言うことを知っており、急に背筋を伸ばして先ほどまでのすこし面倒そうな対応から緊張した雰囲気に変わった。
「……ベロニカと申します。すこし厄介な事になっておりますので、ギルマス――いえ、リコリスに取り次いで頂きたいのですが」
「し、失礼しました!すぐに確認致します」
ベロニカは既に魔導騎士団を退団しているのだが――職員が勝手に勘違いしていることをわざわざ訂正せずに話を進めたおかげか、職員がバタバタと慌てて階段を上っていった。
その様子に、ギルド内の職員や冒険者も首を傾げてはいたが、貴族か何かがギルマスに会いに来たのだろうと考えて興味を失ったようだ。
「良かったんですか?」
「さて、なんのことでしょうか? 私は自己紹介をしてリコリスに取り次いで欲しいと頼んだだけです」
悪びれもせずに言うベロニカに二人は苦笑したが、自分たちではギルドに説明をして説得するには力不足だったと痛感した。
そのまましばらく待っているとさっきの職員が、階段を転げ落ちるかの様に降りてきた。
そして、そのままギルドマスターの部屋へと案内された。
部屋に通されソファーに座る様に促された後、リコリスさんから問いかけてくる。
「どうしたのかしらベロニカ?至急の用件とのことだったけど?」
「急に来てごめんなさいね」
「いいのよ私とあなたの仲なのだから」
急な来訪に機嫌を損ねることなく、むしろベロニカが自分を訪ねに来てくれたことを喜んでいる様に見えた。
グランツ達は席に座ることを固辞し、ベロニカさんの後ろに護衛の様にピシッとした様子で立っている。
グランツ達はこの街に拠点を置く冒険者では無くユピリルが拠点だった為、顔は知ってはいるがほとんど話をしたことのないギルマスに緊張している様だ。
「あまり時間がないから単刀直入に言うわね――冒険者達に市民の避難誘導をお願いしたいの。それと、できれば領主に連絡をして衛兵も動かして欲しいの」
「……ただ事じゃなさそうね。詳しく教えてもらえるかしら」
ベロニカの発言を聞いたリコリスは先ほどまでの穏やかな表情から一変し、ギルドマスターらしい迫力のあるキリッとした表情になった。
そしてベロニカは、今この街で起こっている事態を簡潔にリコリスに伝えるのだった。




