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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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召喚失敗勇者とセクメトリー教

「そこの嬢ちゃんはここの住人じゃないみたいだね、旅人さんかい?」

「ええそうです。今日この街に付いたばかりです」

 

 アイリスが立ち尽くしていると、塀にもたれかかっていたおじいさんが話しかけてくる。


「そうかい。それはタイミングが良かったね。昨日だったら暴動に巻き込まれていた所だよ」

「暴動ですか?」


 おじいさんが言うには、昨日この街で大規模な暴動が起こりそのけが人がここに運ばれてきているのだという。

 それを起こしたのはセクメトリー教の信者ばかりで、しかも皆なぜそんなことをしたのか覚えが無いのだという。

 アイリスが街に入る際に通った北門の方はそこまででもなかったが、教会のある南門付近はかなりのけが人が出たと教えてくれた。


「……なぜわしたちはあの時勇者を探せといって暴れたのかまったくわからないのだよ。あの全身甲冑の騎士様が来るのがもう少し遅かったら、この街はもっと大変なことになっていただろうね」


 おじいさんの発言にアイリスは衝撃を受けた。 

 勇者を探せ――アカリ様がいらっしゃらない今、この世界に居る勇者はシクラ様だけだ。

 そして、全身甲冑の騎士というのはもしかしたら……。


「おじいさんその話を詳しく教えてください」


 そこで出てきた甲冑の騎士の正体こそ、アイリスの探し求めるシクラだった。

 そしてアイリスは遂にシクラの痕跡を見つけたのだった。





 走りながらグランツから何が起こっているのか説明を受けた。

 なんでも、孤児院が併設されているセクメトリー教の教会に殺気だった群衆が詰めかけているとの事だ。

 しかもその目的というのが――


「勇者を探し出せって事らしいぞ。なんでか知らないけど、トマがこの街に来ていることがばれているらしい」


「なんでだ?」


 勇者だとばれる様な力をこの町周辺で出した覚えは――まあ、盗賊退治の時だけだけど。

 それでも、まだ常識の範囲での捕縛だったと思う。

 あれくらいの魔法なら超越魔法が使える人なら出来る範囲だし、そもそもセクメトリーが俺に授けたのは剣の勇者としての力だから大丈夫だと思うんだけど。


「……まさかとは思いますが、私が原因でしょうか」


 意気消沈気味にベロニカさんが言葉を漏らす。

 ベロニカさんが原因と言う事はあり得ない――とは否定できない所がある。

 

 ベロニカさんが何故盗賊に襲われたのかも理由が今の所わかっていない。

 盗賊たちはベロニカさんを襲えと依頼を受けていたようだが、まだその頭が見つかって居なので詳しくわからないけど――。


「もしかしたら、ベロニカさんはセクメトリーに利用されてたのか?」

「その可能性はあるな。わざわざ盗賊に金品を渡して依頼していたらしいからな」

「……やはりそうですか」


 ベロニカさんもその事には気が付いていたようで、自分が踊らされていたことが悔しいのか俯いている。

 だけど誰だ? ベロニカさんがタケミカヅチ神の使徒と言う事は――国境を通る際にばれていたかもしれないが、俺と遭遇する直前を狙って襲撃するというのはタイミングが良すぎる気もする。

 そうなると、すでにユピリルで正体がばれていた可能性もあるんだけど、周りの雰囲気から言ってそう言ったことは無かったように感じるんだよね。


「まあ、原因はわからないんだからベロニカさんが気に病む必要はないよ」

「……はい」

「そうよ。もしどこかでばれてたとしても、それはトマのせいなんだから」


 ベロニカさんは納得していない様だったが、マリアのフォローもあり少しは元気を取り戻してくれたみたいだ。

 本当に元気を取り戻したと言う訳ではなく、周りに迷惑をかけない様にと彼女自身が気を使った結果だろう。


「あ、あの~。なんで私まで一緒に行く必要があるのでしょうか~」

「うるさいチュン! オレッちが行くんだからアオイが一緒に行くのは当然だチュン!」

「頭をつつかないでください。行きますから行きますから~ふぇえええ~~!」


 チュンちゃんを頭に乗せた従者の女の子――名前は初めて聞いたがアオイというらしい。

 アオイちゃんはいきなり召喚された後、チュンちゃんが俺達について来るので強制的に連れて来られ少しかわいそうだ。

 見た目は普通の女子高生みたいだけど、結構な速さで走っている俺達について来れると言う事は只者ではないのだろう。


「皆止まれ」


 街の北から南へ駆け抜け、外壁が見えてきてそろそろ目的地かという所でグランツが俺達を止める。


「こっちだ」


 そして、通りから脇道にそれて路地裏を音をさせない様慎重に進んでいくと――


「っ! はぁ……脅かさないでよグランツ。遅かったじゃない。見て、さっきよりも人数がかなり増えてきているの」


 そこにはイザベルが隠れ潜む様に屈んでいた。

 俺達が静かに現れたせいで少し驚いていたようだけど、グランツの顔を見ると安心したようだ。

 彼女に手招きされ狭い路地を静かに進む。


 そこは路地から通りの道が見える場所なのだが、家との隙間なのか生垣があり反対側からはこちらが見えにくい場所だ。

 彼女はその生垣の隙間から教会の様子を見ていたようで、俺達もそこから一緒に覗いてみる。


「凄い数だな」

「ああ、さっきの倍は居るんじゃないか?一体どこからこんなに集まってきているんだか」

「うわ、凄い人数ね。これだけの数の人がトマを探しているのね」


 生垣の隙間から覗いただけでも百人は下らない人数がそこに集まって居た。

 しかも、それは教会の敷地に入りきらない人々が溢れているようで、奥からは何か叫び声のような物も聞こえてくる。

 

「何を言っているか聞こえないな」

「そうなの? 私は聞こえるわよ? なんか勇者がどうのこうのって言っているわよ」

「いやそうじゃなくて、奥で何か大声で話しているのがさ」


 周辺に集まって居る人々は流石に聞こえている。

 色々話をしているが要約すると、セクメトリーが勇者を探せとこの教会の司祭か何かに神託を下したらしい。

 人々は詳細を聞こうと奥へと進み人が入れ替わって行くが、中から出てきた人たちは顔を紅潮させていたり、なんだか危ない雰囲気を漂わせていた。


 俺は遠見(クレヤボヤンス)を使い中の状況を確認してみる。

 教会の中は人でごった返しており、年に何回かやるある物の即売会の様な密集具合だ。

 そして、その最奥には白地に金色の刺繍が施された――所謂司祭っぽい人が皆に何かを訴えている様だった。


「――であるから、この地にセクメトリー様の恩寵を受けているはずの勇者が来ているはずなのである。しかし、彼の者は悪魔戦った後行方不明になっておりどこの教会にも顔を出していない事から、恐らくは悪魔に乗っ取られてしまっている。このままでは人の姿をした悪魔が闊歩し、人々に災いをもたらしてしまう。だが! セクメトリー様より神託を頂き、その悪魔を滅する方法を私達は与えられたのだ!」


 初めは落ち着いて話していた司祭は徐々に熱を込めた演説になり、最後には怒鳴り声で民衆に叫んでいる。

 民衆もそれに合わせて怒声を上げ、異様な熱気が教会内を包み込んでいる。

 普通であれば司祭がこのような状態であればおかしいと思うはずなのだが、教会内では何らかの精神汚染をもたらす状態になっているのだろう。


「未だ悪魔はその勇者の身に宿り本性を現していない。その身に宿すセクメトリー様のお力により本来の力を出すことが出来ず、勇者としての力も出せない今その悪魔を滅する最大の好機なのだ! セクメトリー様のお力を宿すこの教会に悪魔に取り付かれし勇者を連れてくるのだ!」


 どこぞの扇動者よろしくの身振り手振りで民衆を扇動し、俺を教会まで何とかして連れて来たい様だ。


「行け! セクメトリー様の教徒たちよ! 神は我らの事を見ておられるぞ!」

「「「「「うぉぉおおおおおおお!!!!」」」」」


 民衆たちは押し合いへし合い教会から外へ出て行き、話を聞いていなかった他の教徒たちにも司祭様の話を聞くように伝えていく。

 その後、皆バラバラにどこかへと向かって見えなくなった。


「……なんてこった」

「中で何があったんだ?」


 俺は今見聞きした事を皆に伝える。

 チュンちゃんとアオイちゃん以外は、話を聞いて頭を悩ましている。

 

 一般人を扇動し俺を捕まえようとしている様で、こちらからでは打つ手が無いのが実情なのだ。

 選択肢としては、今の状況を無視して逃走してしまうか、扇動している司祭か何かを止めるくらいしか考えつかない。


「いっそのこと逃げちゃったらいいんじゃないの? この街に居るってわかってるから捕まえようとしてるわけだし」

「……その方法でもいいかもしれないけど、そうなった場合周辺の街でも同じような事をされそうだから街に入れなくなってしまう可能性がある」

「だが、あの群衆を抜けて教会の敷地に入って行くのも――何か罠がありそうなんだが」

「それもそうよね。だって、教会まで連れて来いって言っているって事は、教会内に入ればトマをどうにか出来る手段があるはずなのよね」


 そう考えると教会に入るのは愚策――というか、罠にかかりに行くような物か。

 建物内は完全にアウトだとして、敷地内でももしかしたら危ないかもしれない。

 そうなると、扇動している物を取り押さえることは――出来なくも無いけど、俺以外で行く必要があるんだよね。

 俺の事でこんな面倒な事が起きているのに俺が行かないというのは流石にちょっと気が引ける。



 生垣の裏で相談しながらうんうん唸っている間に、先程どこかへ行っていた民衆が教会へと様々な物を持って戻って来ていた。

 そう、様々な――凶器を持って。


「これじゃあ本当に暴動みたいじゃないか!」

「おいトマ、これは……かなりまずいんじゃないか?」


 まずいというレベルでは無くなってきている。

 持ってきた凶器が包丁や鍬などはまだいい方で、剣や槍など戦争に行くような物を持ちだしている人たちもいるようだ。

 流石にあれほどの人数が一斉に襲ってこられたら逃げるか反撃するしかないんだけど。

 逃げることは出来るだろう、後の事を考えなければ全員に魔法をかけて全力で逃げ切ってしまえばいい。

 だがもし、戦わざる得ない状況になってしまった場合……中途半端に無力化する事が難しくなる。

 

「ねぇ、トマなら何とかならないの? この間の盗賊みたいに」

「今の段階ならシクラ様で抑えることが出来そうですが……」

「出来なくは無いだろうけど、やった場合の反動がかなり酷いんだよな」

「……あ、シクラ様のスキルは――」

「そう言う事」


 盗賊たちを捕まえたように魔法で捕らえることは出来るが、見える範囲で百人を超える大人数で実際にはその数倍は居ると考えられる。

 だが、盗賊達と違い相手は一般人だからそこまで強力な魔法は必要ない――のだが。


 その人数全員を魔法で捕まえようと思ったら、俺の魔力(オド)が足りずスキルを使用して前借する必要が出てくるだろう。

 いくら低威力の捕縛魔法で捕らえるにしても、人数が増えれば消費魔力(オド)は増えていくし空間に存在する魔力(マナ)は街中ではそれほど多くは無い。

 その場合、マジックポーションのストックが無い現状では回復する手段が自然回復になるので、俺は数日間確実に意識不明になってしまう。


「誰かが大量にマジックポーションを持っていれば話は別だけど、そんなに持っている人なんて居ないだろうからね」

「まあ、高位の冒険者や有力者がもしもの為に持っている程度の高級品だしな」


 白金級の白虎でも少数所持していただけなのだから、どれほど高価な物なのかはわかるだろう。

 一応下級でもそれなりには回復できるが、大規模に連続して魔法を使えばすぐに使い果たしてしまう。

 まあ、この近くにもマジックポーションがありそうな場所はあるのだが――そこは敵地ど真ん中のセクメトリーの教会だ。

 この街に他にタケミカヅチ神の教会があるのは知っているが、流石にあそこにはないだろうな。

 他にも教会があったとしても、俺が向かったらここと同様の事が起こりそうだから行くことが出来ない。


 俺達が頭を悩ませている間にも人々は増えており、今はでは初めの倍以上の人数に膨れ上がっていた。

 もう逃げるしかないのかと考えていた俺達に向かって話しかける人が居た。

 いやまあ人ではなく、アオイちゃんの頭の上に乗っているスズメなのだが。


「お前達オレッチの事を忘れてないかチュン」

「いや忘れているわけじゃないけど、チュンちゃんじゃ流石にどうしようも無いんじゃないか?」

「トマチュン。オレッチの前の姿を思い出すチュン」

「前の姿って――」


 チュンちゃんは元々八咫烏、だから必然的に前の姿は――!?


「そうか、そう言う事か!」

「ようやくわかったかチュン」

「え、なになに? チュンちゃんがこの状況をどうにかできるの?」

「二人とも、チュンちゃんが俺達の前に初めて姿を現したとき何だった?」


 マリア達は一瞬なんの事と言った感じで頭を傾げようとしたが、最初の姿を思い出し。


「「そう言う事 (ですか)!」

 

 同時に何が言いたいか分かった様だ。

 グランツ達は状況が飲み込めずポカンとしていたので説明する。

 チュンちゃんの正体が八咫烏でタケミカヅチ神が遣わしたと言う事は説明していたが、もう一つ重要な事を説明し忘れていたんだよな。


「チュンちゃんは元々八咫烏で、最初に俺達の前に現れた時には剣だったんだよ」

「「はぁ?剣? このスズメが?」」

「スズメって言うなチュン! チュン様と呼べチュン!」


 スズメと言われて文句を言っているが、土台にしているアオイちゃんがアワアワしてて可哀想だからもう少し大人しくしててほしい。

 それとグランツ達が理解できないみたいなので、とりあえずは韴霊剣とチュンちゃんについて軽く説明する。

 最初は驚いている二人だが再「まあ、トマだからな」といわれてしまった。 

 

 文句を言いたい気持ちもあるが、とりあえずこの状況を乗り切るかもしれない切り札得ることが出来た。


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