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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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89/220

失敗勇者と孤児院

 イカザヤム。そこは国境のすぐ側にあり交易が盛んに行なわれている街。

 街の中央通を進めば通りの両側には露天や屋台が並び、この街が豊なのことを表している。

 普段であれば。


 街を歩くアイリスには聞き及んでいたような豊な光景が見ることが出来なかった。

 中央通に露天がポツポツと行なわれているが、屋台などがまったく見受けられなかったのだ。

 屋台があったであろうと思われる場所には、残骸がそこかしこに散らばっていた。

 首をかしげながら市場を通り抜ける。

 

「流石にこの状況では話の聞きようがなさそうですね。仕方ありません、あそこに向かいましょう」


 アイリスは余程の街でも存在している所へ足を向ける。

 それは街の外れに存在しており、この世界の街と付くところではほとんど存在している――セクメトリー教の教会だ。

 教会の周囲は塀で囲まれ入り口に鉄格子で作られた門があるが、今は日中の為門は開放されている。

 アイリスは教会で情報を仕入れようと足を向けるのだが。

 

「――やけに人が多いですね。それにこの匂いは――」


 昔嫌というほど嗅いだとても嫌悪をもたらす匂いに、無意識に足を速めて教会へ向かう。


 敷地に入ると匂いは更にひどくなり、とても濃密な血の匂いが充満していた。

 塀の中ではこどもから老人まで様々な人が、大なり小なり怪我をした人たちが大勢いた。


「こ、これは一体……何が起こったの?」









「オレッチ自慢の濡羽色(ぬればいろ)のカッコいい羽がこんな……チュン」


 自分の姿が雀になってしまったことで物凄く落ち込んでしまったようだ。

 八咫烏だとカッコいいというか神々しい感じだったけど、雀になった姿はかなり可愛い。

 ベロニカとマリアも雀になった八咫烏に興味津々のようだけど、流石に今の状態で渡すと可愛そうだな。


「かわいくていいとは思うけど、何でそんな姿になったんだ」

「か、かわいいだとチュン! この神の御使いである八咫烏の私をかわいいだとチュン!」


「カワイイです八咫烏様!」

「うん、カワイイよね。はいこれ見て」


 何気なくマリアはさっきベロニカさんが持っていた手鏡を見せつける。

 そこには――カワイイ雀の姿が!

 って、スズメなんだから当たり前だけどね。

 

 その姿を確認し愕然とした表情? をし八咫烏は何やらブツブツ独り言を言いだした。


「なぜこのような姿にチュン……分け御霊といえども私はチュン……もしかして現地神の力が関係が……チュン」


 さっき俺が譲渡したセクメトリーの力が影響して雀になってしまったみたいだ。

 流石に少しかわいそうだけど、セクメトリーのバックドアが怖いのでそちらを受け取るのは遠慮したい……あれ?


「そう言えば八咫烏、俺の持ってたセクメトリーの力はヤバイやつだった気がしたんだけど大丈夫なのか?」

「その事なら問題ないチュン。現地神よりオレッチの方が神格が高いから問題なく浄化できてるチュン。ただ、お前に戻すと何かの拍子に戻るかもしれないから返さない方が良いチュン……チュン……」


 自分でチュンチュン言ってることにショックを受けうなだれている様だけど、八咫烏が持っている間は問題はなさそうだ。

 多分、セクメトリー教の人にでもばれなければ再発することは無いだろうけど、現状必要はないからそのまま預けておこう。

 

「八咫烏――ってかスズメは韴霊剣に戻る事もできるのか?」

「……もう雀で良いチュン。問題ないチュン。オレッチが戻ろうと思ったらいつでも戻ることが出来るチュン」 

「じゃあスズメちゃん名前を決め名といけないね」

「そうですね。八咫烏様と呼ぶにしても見た目がスズメですし、スズメは種の名前ですから何か考えないといけませんね」


 雀で良いといったことに、マリアとベロニカさんが反応して名前を考え出している。


 それはさておき、韴霊剣が使えるなら問題なさそうだな。

 このスズメにいつも一緒に居て貰えば毎回ベロニカさんに顕現の儀式をして貰う必要もないし。

 というか、何であんな恥ずかしい事をしないと顕現できないのか不思議で仕方がない。


 マリア達が名前を考えている間に、俺はスズメと韴霊剣の性能について教えてもらう事にした。

 俺の掌の上に座り込んで少し偉そうに説明をしてきたが、どうしても子供が偉そうに振舞っているようにしか見えないんだけどね。


 一応スズメが言うには、邪気を持ったものをこの剣で斬れば邪気だけを切り裂くことが出来ると言う。

 これは俺もわかっていたが、他にも剣を持った本人と従者や眷属の身体強化が発動したりもするらしい。

 因みに長さも変化が可能で、長剣サイズまでなら縮小可能だそうだ。

 他にもまだあるらしいのだけど、今の状況では使用できないとの事だ。

 その理由は――タケミカヅチ神がわざとロックしているらしい。

 何でも俺の成長に合わせて力を発揮した方が面白いだろって事らしい。


 流石日本の神様――ゲームなどの知識を生かしておられる……面倒な事だけどしかたない。


 そして、俺がスズメと話をしている間に名前が決まったらしい。

 その名前は、ベロニカさんはチュン殿でマリアはチュンちゃんと呼ぶらしい。


 もう少しまともな名前を付けてあげればいいと思うんだけど、他に名前を考えてと言われても困るので俺のチュンちゃんと呼ぶことにした。

 チュンちゃんはもうどうにでもしてと言った感じで受け入れていた。


「それで、お前は――名前は何だっかかチュン? この娘達を従者にするのかチュン?」

「シクラだが今はトマと名乗ってる。一応マリアを従者にする予定ではあるけど、ベロニカさんも従者にすることが出来るのか?」


 ベロニカさんがなりたいかどうかはわからないけど、タケミカヅチの使徒だからなれない物だと思っていたんだけど。


「問題ないチュン。というよりも、タケミカヅチ神の勇者のお前の従者ならなる事が出来るチュン」

「そうなのですかチュン殿! で、でしたら、私もシクラ様の従者にして頂けませんか!」

「えっと、ベロニカさんが問題ないないならいいと思うけど……」


 チュンちゃんが従者に成れると伝えると、ベロニカさんが食い気味に従者に成りたいと言ってきた。

 俺は問題ないんだけどマリアがなんていうかと思いつつ視線を向けるが、マリアは頷いたので問題なさそうだ。


「じゃあ、この二人が取り合えず俺の従者ってことになるかな?」

「わかったチュン。それじゃあさっさと従者にするチュン。二人ともトマの横に並ぶチュン」


 チュンちゃんの指示に二人は俺を挟む様に両側に立っつ。

 何をするのかわからないから緊張すると思ったら、二人とも顔をこわばらせかなり緊張しているみたいだ。

 まあ、顕現させるのにあれほど接触する必要があったりするのだから、また変な事をさせられそうな気がするんだよな。


 そんなことを考えていたが、チュンちゃんは俺達を見上げながらふんぞり返るような形で見渡す。


「準備は良いチュン。 二人はシクラの従者に成る意気込みを考えながらキスするチュン! 」

「「キ、キス!」

「そうチュン。勇者の従者になるには、勇者に対してそれくらいの気持ちが必要だチュン」


 ……やっぱりそうなるんですよね。


 出来ればそう言ったことはすべて終わってからにしたいんだけど、二人は俺を挟んで顔を見合わせて目線で何かを会話している。

 まあ何となくわかるけど、あまり考えない様にしておこう。


「わ、私から行くね!」


 しばらくの沈黙の後、マリアが顔を真っ赤にさせながら俺の目の前に移動してくる。

 ベロニカさんはそれに従うようで、俺達の様子を見ながら顔を紅潮させている。

 

「準備は出来たチュン? よっこいしょ、じゃあ始めるチュン」


 流石に俺の手の上に居る訳にもいかずチュンちゃんは肩に移動した。

 ただ、俺はそんなことを気にしている余裕は全くない。

 というよりも、ぶっちゃけ平静を保っているように見えて頭の中はオーバーヒート寸前だ。


 そりゃそうでしょ、俺キスなんてしたことが――あ、勇者の力を貰った時アイリスとしたけど、あれは不意打ちだったからまともにされるのは今回が初めて――うん、初めてと言う事にしてくれ。

 そんなのだから心臓はバックバクだ。


 目の前にあるマリアの可愛らしい顔を見ると、マリアも俺を見ていたようで視線が交差し更に恥ずかしさが増し、頭に血が上って行くのを感じる。


「――トマ! 」

「ひゃ、ひゃい!」

「私はこれからもずっとトマと一緒に歩んでいきたい。だから私をトマの従者にしてください」

「あ、う、うん。こ、これからも――その――よ、よろしくね」

「うん――トマ――大好き!」


 マリアは俺に抱き付いた後、背伸びをして目を閉じて俺を待っている。

 流石にこの状況ではいくらチキンの俺でも逃げるわけにはいかず、俺も腕を回した後マリアの唇に俺の唇を当てる。

 柔らかく温かな感触が俺の唇に伝わってくる。

 この世界に召喚される前では、こんな可愛い子とキスするなんて考えられなかった。

 

 そして――長いようで短いキスを終えると、マリアは俺の胸に頭をポスンと預けた後離れていった。 

 

「それじゃあ次チュン」

「はい。し、失礼します」


 さっきまでマリアが居た場所に今度はベロニカさんが立つ。

 一瞬俺の唇に視線を向け、何故か残念そうな雰囲気を一瞬出したけど――たぶん気のせいだよね。


「シクラ様。イオリゲン王国での悪魔襲撃の際人々を守って頂いただけではなく、悪魔に支配されそして異形とかした私を救っていただきました」

 

 ガーネットが悪魔化した状態でイオリゲン王国を襲撃し、ベロニカさんが大変な事になっていたことを思い出す。


「あのままであれば私は今この場に居なかったでしょう」


 シュレルさんでも解くことが出来なかったのを俺が解放したんだけど、あの姿のままであればベロニカさんは恐らく自分で命を絶っていただろう。


「そ、それで――あの、ワ、ワタシは……その時から……シクラ様をお慕い申しております!」


 ゆっくりと俺に近づいてきて、少し恐々と俺を抱きしめてくる。

 抱き付いてきているベロニカさんは微かに震えていた。


 そんな気はしてはいたけど、元の世界では彼女すらいなかった俺には只の感謝なのかわからなかったんだよね。

 マリアは大好きと言うなり抱き付いて来たからあまり気にしなかったけど、こうしてあなたの事が好きですといわれるとかなり恥ずかしい。

 

 俺が腕を回して抱き留めると、目をつむったまま徐々に顔を上げた。

 ベロニカさんの顔が良く見える。

 彼女は()()()()では美人と言う訳ではないのであまり自身が無いのかもしれないが、ぶっちゃけ俺の感覚ではかなり綺麗な人だと思う。

 いつもはキャリアウーマンっぽいキリッとした表情が、今は少し不安そうな表情のギャップで俺はベロニカさんを抱く腕の力を強めてしまう。

 それを感じ取りビクッと反応していたが、それが更に可愛らしく思えてしまう。


 そして俺は――ベロニカさんに口づけをする。

 

 彼女は俺を力強く抱きしめた後、名残惜しそうにゆっくりと俺から離れて。


「シクラ様、ありがとうございます」


 そう言いながら頬に一筋の涙が流れた。


 俺もマリアも流石にこの乙女っぽい彼女の状況に何も言う事が出来ず、しばしの間沈黙が流れ――るのを防いだのはチュンちゃんだ。


「よしよしチュン。これで二人ともシクラの従者になったチュン。おめでとうこのスケコマシチュン」


 変な事をいうチュンちゃんの頭を強めにぐりぐり撫でると「い、痛いチュン。だけど事実だチュン」といって全く反省していなかった。


 スケコマシと言われて少し不機嫌になったが、その言葉が少し気になった。


「なあ、もし従者が男性だった場合でもキスが必要なのか?」

「……忠誠を示せれば……それで問題ないチュン。ただ、身体的接触は必要だチュンから、上位の貴族に対する礼のように手にキスすれば問題ないチュン」

「マジか!」

「「――っ!!」」


 チュンちゃんの爆弾発言にマリア達は言葉も出ない様だ。

 告白合戦みたいになっていたからわからなくも無いけど――ああ、だからスケコマシって言ってたのか。

 というか、自分の中で話をそらしてさっきの事をなかったことにしてこの微妙な空気を抜け出そうと画策するが。

 

 急にドタドタと騒がしい足音とともに扉が勢い良く開かれる。


「トマいるか!」


 あわてた様子で現れたのは、イザベルと共に孤児院に行っていたグランツだ。

 全力疾走してきたのか、グランツの額には滝のような汗が流れている。


「ど、ど、ど、どうしたんだグランツ、そんなに慌てて」

「大変だトマ! む、マリアもベロニカさんも居るのかちょうどいい。とにかく一緒に来てくれ、行きながら内容を話す」

「わかった。みんなもそれでいいかい?」


 二人ともうなずき、自分たちの部屋へ装備を取りに戻る。 

 さっきまでの異質な空気をグランツが吹き飛ばしたおかげで、二人の表情がいつものように戻っていた。

 

「何か不穏な空気を感じるチュン。おれっちも従者を召喚するとしようチュン」


 そう言って俺の手から下りて、地面に魔方陣のようなものを描き始めた。


「――え、何その偉そうなかわいい生物は」

「あーチュンちゃんはね……」


 マリアたちが戻ってくる間にチュンちゃんのことをグランツに説明する。

 グランツは唖然とした表情をした後「まあ、トマだからな」といって納得していた。

 

 解せない。

 俺ってそこまで突拍子も無いことした覚えは――まあ、あったかもしれない。

 

 グランツと話している間にチュンちゃんの召喚が終わったようで、召喚人から淡い光が溢れ――女の子が現れた。

 恐らく高校生くらいの年齢だろうと思われる女の子は、黒く長い艶やかな髪の日本人顔の……巫女服を着た美少女だ。

 彼女は瞳を閉じたまま立ち尽くしていたが、睫毛を小さく震わせた後瞳を開き俺たちを見る。


「――ふ……ふぇぇぇぇええええ! 一体ここはどこですか! 人攫いぃぃぃぃいい! 犯されるぅぅぅぅううう!」


 大声で叫び声を上げたあと部屋の隅に下がっていく。

 

「チュン!チュン! お前を召喚したのはオレッチだチュン!」


 いつの間にか彼女の頭の上に移動していたチュンちゃんが、可愛らしく胸を張っていた。


「ふぇええ!? 話すスズメ、カワイイ!! って、イタイイタイ、やめてください。ふぇぇぇえええん!」

「落ち着けこのばか者チュン。オレッチが八咫烏だチュン!」

「ふえぇぇぇぇええええ!」


 チュンちゃんは彼女を落ち着ける為に頭を突付いたあと説明するが、では彼女は驚くばかりで納得できていないようだ。

 一旦勇者の力をチュンちゃんに渡し八咫烏になってもらって納得してもらった。


「八咫烏様、とてもかわいいです! 」

「こら、止めるチュン! 頬擦りするんじゃないチュン!」

 

「今の叫び声は言った何!? って、また新たしい女!!!」

「シ、シクラ様――そ、その方は――」


 チュンちゃん主従はとても仲良くじゃれ付いていたが、さっきの叫び声を聞いた二人が部屋になだれ込んできた。

 ぷんすか起こっているマリアと状況が飲み込めていないベロニカさんに、チュンちゃんの従者ということを説明した。

 

 その後、騒ぎを聞きつけた宿の人に彼女が寝ぼけて叫んだということにして謝罪した。

 訝しげな表情をした宿の人だったが、本人が「すみません、すみません」と謝っていたので事なきを得た。


 その様子に一人蚊帳の外だったグランツがため息をついているのが見て取れた。 

 

「その、なんだ。いろいろあったけど、急いでいこうか」


 無理やりにその場を納めて、俺達は孤児院へと向かって駆け出した。

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