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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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失敗勇者と神社

 歩き出した――のだが、トマと言う冒険者が向かったイカザヤムの街へは陸路しか繋がっていない。

 イカザヤムへと向かうには徒歩か馬車で向かう必要があるのだが、今は祭りの最中で入ってくる馬車はあれども出ていく馬車は皆無だった。

 そうなると徒歩での行軍になるのだが、流石にそれはアイリスも躊躇した。

 女の一人旅など盗賊や不埒な輩からの格好の餌食だろうし、自分の力なら襲い掛かる火の粉を振り払う事も容易だろうが、流石に面倒だとも考えたのだ。

 ギルドで冒険者を雇うと言う事も出来なくもないが、今のタイミングでは中々冒険者達も仕事をする者も少ない。

 だが、祭りが終わると同時に商人たちは各々の街に戻る為、その際には冒険者達も護衛依頼で一緒に向かう。

 そう考えたアイリスはギルドの職員に聞き込みをし、護衛に着く冒険者を紹介してもらいその商人と直接交渉をすることにした。


 そして、女性のみで構成された冒険者パーティ「銀翼」という冒険者が護衛する商隊に同乗させてもらう事が出来た。

 

 祭りが終わり商隊の馬車の荷台に乗り込み晴れ渡る青空を見つめながらアイリスは。


「今迎えに参りますシクラ様」

 

 その言葉が合図だったかのように商隊の馬車が動き出し、アイリスはシクラに会えると信じガタゴトと揺れる馬車に揺られて行くのだった。









 街の中で急に不自然に存在する森。

 そこは真っ赤な鳥居が建つ神社だった。

 

「これがタケミカヅチ様の神殿! まんま神社じゃないか」


「ジンジャ? は良くわからないけどここが神殿だよ。タケミカヅチ様の神殿はどこでもこんな感じの所にあるのよ」

 

 神社という呼びかたはこちらではしないようだが、これはどう見ても元の世界にあった神社そのものだ。

 因みにユピリルにも街の外れに存在してはいるらしいが、全く気が付かずに立ち寄ることは無かった。

 

 神様が本当にいる世界だから神社に入る際の作法は正しくやっておいた方が良いだろうな――うろ覚えの所が多くて怖いけど。


「マリアとベロニカさんは神社――じゃなくて神殿への入りかは知ってる?」


「入り方なんてあるの? 普通にそのまま入って行ってたけど」


「私はウグジマシカで経験があります」


 やっぱりマリアは知らなかったようだけど、ベロニカさんタケミカヅチ様に拝謁しているだけあって知っているみたい。

 俺もあいまいな所がある為、ベロニカさんに先頭を任せて神殿へと入って行く。


 ……やはり正式な参拝の仕方は、日本にいたこと全く同じのようだ。

 マリアは良くわからないみたいで鳥居の所で礼をするマネをしていたが、手水舎の所でが水を飲みそうになって慌てて止めたり、道の真ん中を歩こうとしたので左側によってもらったりちょっとバタバタした。



 そして、遂に目の前にそれ程大きくはないが立派な拝殿が現れた。

 作りは日本の物と少し違う所もあるが、一目で拝殿と分かるような形状をしていた。

 

「ここに来たらまずはこれだね」


 そう言って俺は先に拝殿へと足を向け、礼をした後賽銭として銅貨を投げ入れてから二礼二拍をしたのちここまで無事にたどり着くことが出来たことに礼をし、最後に礼をしてマリア達の所へと戻って行った。


「流石はシクラ様ですね。参拝の作法が完璧です」


 ベロニカさんに褒められたが、ぶっちゃけこれは者と世界であった某格付け番組で得た知識だったりする。

 それはさておき、俺が参拝した後ベロニカさんが参拝し、最後にマリアが参拝をした。


「特にタケミカヅチ様から何か言われた入りすことなんてないんだね?」

 

「そうそう神々から直接神託を頂くことは普通の人ではありませんよ。普通の人に限ればですがね」


「――っな!」


 突然背後から声を掛けられ振り返りつつ皆が身構える。

 足音も気配もなく現れたのは、穏やかな物腰に優し気な顔をした中年の男性で、元の世界で神主さんが着ている装束で紫色の袴を着た人が立っていた。


「おやおや、驚かせてしまいましたかね? 」


「い、いえ。それで何か御用でしょうか?」


「正式な参拝をなされていた様でしたので、すこし気になりまして」


「そう言う事ですか」


 さっきの感じだとマリア達みたいな冒険者は正式な参拝を仕方を知らないみたいだし、ベロニカさんもウグジマシカで知ったみたいなことを言っていたから一般的には知らないみたいだね。

 そう考え体から力を抜いた瞬間――


「まあそれだけではありませんが――シクラトウマ様ようこそタケミカヅチ神殿へ」


「え! な、何で名前を!?」

 

 この世界でもそれ程知られていない俺のフルネームを呼ぶこの人物に警戒心を抱いたが、逆にそれこそが彼が次に言う言葉の信憑性を増す。


「タケミカヅチ様よりご神託を頂いております。そちらのベロニカ様に我が神が託された物の件もございますし、マリア様についてもタケミカヅチ様より伝言がございます」


 俺の名前だけであれば最悪調べることも出来てはいるとは思うけど、数日前にたどり着いたベロニカさんやマリアの事も知っているのであれば本当に神託という物を受けたのだろう。

 元の世界であれば完全に詐欺だろうと考えてしまうけど、この世界では本当に神様がいるからね。

 まっすぐ向けられる神主さんの目を見つめ――俺は首肯して皆で神主さんへと付いていく。

 

 神主さんについて行った先は元の世界で言えば社務所の様な建物だった。

 社務所とは言ったがお守りとかは売っていないのでどちらかと言えば案内所かもしれないね。

 そして社務所に入り応接室のような所に案内され、席を勧められるままに着席した。


 神主さんは俺達を部屋に案内した後、一旦席を外した。

 話が長くなりそうなのでお茶を用意するそうだ。


「……ここって応接間なのよね? 何というか……その……」


「マリアそれ以上は言ってはダメよ。流石にここはウグジマシカではないとはいってもタケミカヅチ様の神殿なのですから……」


「……でも、まあ……ちょっとこれは……ね」


 案内された応接室を見渡す――元の世界の社務所内に入ったことは無いのでわからないが、流石にここの様な室内ではない事は確かだろう。

 なんてったって――ボロボロすぎるから。

 

 神社の中から見える社務所はそれなりに立派な建物だったのだが、中に入って行くにつれ段々とぼろくなっていった。

 そして、今俺達がいる部屋は一応は応接間として使用する為に清掃などはされてはいるが、ギシギシとなる四人掛けくらいのソファーと学校などで使っていた長机があるだけだった。

 因みに神主さんが座る場所は色あせてボロボロの座布団があるだけの板の間だ。

 窓にガラスは無く木の板をつっかえ棒で支えただけの光戸のようになっているし、その窓からは家庭菜園のような物も見えた。

 恐らく神主さんが育てている物かと思うのだけど、想像以上にひど――いや、清貧な生活をなさっている様だ。


 そんな少し居心地の悪い状態で静かに待っていると、神主さんがお茶を持ってやってきた。

 そして俺達の前にお茶を置くと俺達の対面にある座布団座った。


「まずは私の方から。タケミカヅチ様より皆様へのご伝言をお預かりしております。とは申しましてもシクラ様はこのままウグジマシカへ向かわれるのですよね?」


「そうです。ユピリルから直接向かうとセクメトリーのテリトリーに入ってしまいますし、イオリゲン王国ですと顔も割れていますからね」


 神主さんはなるほどと言った感じで首を縦に振る。

 一般市民には勇者として広く認知はされてはいないだろけど、防衛戦を共にした騎士団員達や衛兵達にはばれている。

 冒険者だった白虎の人達はともかくとして、他の騎士や衛兵達にセクメトリー教の人が居た場合に厄介ごとになりそうだからね。


「シクラ様はご存じかどうかわかりませんが、セクメトリー教の教会は大きめの街にはありますのでご注意ください」


 俺が少し驚いた表情をしたのを見たベロニカさんが詳しく教えてくれた。

 

「セクメトリー神は調和の神と言う事はご存知勘と思います」


 そのことは――確か初めてセクメトリーと会った時に聞いた覚えがあるので首肯して話を促す。

 ベロニカさんは俺に気を使い、様子を見ながら説明してくれる。

 第四神で調和の神であるセクメトリーは、人々の人口や農作物を司る神との事だ。

 そして、人口を増やすためには夫婦の人数を増やし子供を増やすと言う事であるため、一部の者からは恋愛成就の神と言われているそうだ。

 その事も関係して、結婚の儀式を行う際にセクメトリー教の教会を使う事が多く、大きな街にはセクメトリーの教会が多いとの事だった。


 冒険者はタケミカヅチ教が多く居るが、農家や普通の人達はセクメトリー教だから絶対数が違いすぎるのも要因だろう。

 信者が多ければ寄付も多いだろうからその分教会の数も質も段違いなんだろうな。


 ……質の違いと考えたときに視線をまわりに向けた際、神主さんが苦笑いをしているのが見えてしまった。

 ごまかす為に「……ハハハ」と笑ったんだけど、ベロニカさんたちからにらまれてしまった。ごめんなさい。


「んっんん。といった形で大き目の街では教会がありますので、およそどこへ行っても気を抜かないようにしなければなりません」


「出来る限り観光等しないでそのまま通り過ぎるのが一番ってことだね」


「それもありますが、勇者と疑われるような言動や力を発揮されないよう注意していただきたいのです」


 あーなるほど。

 一般人にはセクメトリー教が多いからその辺も注意しろってことね。


「そのことなのですが――」


 ベロニカさんの言葉を俺が納得しかけていた所、神主さんがキリッとした表情で俺を見て発言する。


「シクラ様の勇者としての力を封印する事が出来ます。さすればセクメトリー教の者達に気が付かれる可能性も下がるかと思います」


「そ、そうなんですか」


 自信満々に神主さんが言うが、既にそれは半分実行済みだったりもする。

 ガーネットの協力の上、既に剣の勇者としての力は封印済みなんだよね。

 これはセクメトリーが勇者の力を介して俺の行動や思考を誘導――ぶっちゃけ洗脳していたから、洗脳から解放されるために封印を施してある。

 ただこの封印は俺の意思で解除できるけど、解除した瞬間にセクメトリーからの介入が確実にあるだろう。

 だからよっぽどの危機的状況でなければ解除する気はない。


 神主さんが言っているのはそちらの力ではなく、元々はアイリスが前勇者から託されていたタケミカヅチ神の魔法勇者としての力だ。

 でもこの力を封印したら、俺って只の一般人レベルにまでなっちゃう気がする。


 だが、俺の考えていることを見越してなのか神主さんが驚きの説明をした。


「――そこで必要になるのがベロニカ様がタケミカヅチ様より授かった『韴霊剣(ふつのみたまのつるぎ)』になります。この韴霊剣はタケミカヅチ様のお力による写しと言う事ですが、その力で封印をすることも解くことも可能になります」


「それは凄いですね!」


 韴霊剣はたしか布都御魂剣とも言って、古事記に乗っているタケミカヅチ様が葦原中国(あしはらのなかつくに)を平定した際に使っていたはずだ。

 どんな力があるか覚えてはいないし同じ力とは限らないが、力の封印自由にできるのはかなり重宝しそうだ。


 神主さん曰く韴霊剣にはまだ力があるそうだが、ここの神社での神託ではこれ以上の事が聞くことが出来なかったそうだ。


「その韴霊剣はベロニカさんが持っているんですか?」


「は、はひ! わ、私がタケミカヅチ様より託されております!」

 

 急に話しかけたからなのかベロニカさんは変な口調で返答をしてきた。

 その様子に俺とマリアは顔を見合わせて首を傾げるが、ベロニカさんを見つめていたマリアの表情が徐々にジト目になっている気がする。

 その視線を追ってベロニカさんを見ると、何故か顔が赤い様な気がする。

 もしかしたら変な声を出したことに対する羞恥かもしれないから突っ込まないで上げよう。


「見せてもらう事って出来ますか?」


「こ、こ、ここここ、ここでですか!? そ、そ、その……」


 要領を得ないベロニカさんの返答に困惑していると、視線を感じたのでそちらを見ると――神主さんとマリアの二人から見つめられていた。

 神主さんはにこりとほほ笑んではいるが、マリアからは睨むような視線が向けられていた。


「韴霊剣に付きましては後でベロニカ様にご確認下さい。ベロニカ様顕現のさせ方はご存知ですよね?」


 神主さんはこの状況を何事もなかったかのように話を進め、ベロニカさんはその問いにコクンと頷いていた。

 相変わらずマリアが凄い視線で見てくるけど、理由が分からない俺は困惑しながらも話を進めることにした。


「ベロニカさんへの話はこれで終わりでしょうか」


「ええ、そうですね。他の詳しい話などはベロニカ様に直接ご確認いただくのがよろしいかと。そしてマリア様の件ですが――マリア様はシクラ様の従者になられるおつもりはありませんか?」


「トマ……シクラ従者ですか? それってどういうことですか」


 自分の話に移ったマリアはすまし顔で神主さんの話に耳を傾ける。


 勇者の従者とは、正式に勇者と共に歩む契約を結んだ者の事で、イオリゲン王国で身の回りの世話をしていたカトレア達とは違うようだ。

 普通の勇者召喚の際では魔王討伐に赴く勇者のパーティがそれにあたり、従者たちには特別な加護のが与えられるとの事だ。

 

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