失敗勇者と盗賊
ユピリルに着いたアイリスは、まず冒険者ギルドへと足を向けた。
もしシクラが一人見ず知らずの地で暮らす場合、一番簡単に稼げるのが冒険者であるからだ。
アイリスはユピリルにの冒険者ギルドへと向かい、受付でシクラと言う冒険者が居るか確認するが――「そのような方は登録されていません」と職員に言われてしまう。
「では、ここ半年でここを訪れた剣を使うかなり強い――銀か金クラスの冒険者はいませんか」と職員に確認するが、どれもシクラの容姿に似ているものは居らず強さもかなり格下のようだ。
周りで聞き耳を澄ませていた冒険者達も「そんな強い奴なんてこの辺りじゃ居ないんじゃないか?」とか「そこまで強ければ冒険者なんてやらないで騎士団に入ってるんじゃないか」とか漏れ聞こえてくる。
やはりここでもダメかと思いギルドを後にしようとしたアイリスに「黒髪の強いのなら居たよな?」と冒険者達の話し声が聞こえてきた。
「そこのあなた、その話を詳しく教えてください!」
飛び掛からん勢いで冒険者へと詰め寄り、机に情報料ですと言って銀貨を一枚叩きつけた。
……なんでも、終始不機嫌なアイリスに振り回されつつウグジマシカ神聖国へと向かったとの事だった。
貴族の紋章を掲げた馬車であるが為、何処の街に寄ってもその街の領主に挨拶は必要なのだが、全てベロニカに押し付け自分は俺を探し回っていたらしい。
ミガーサ街――アイリスの父親が領主の所では流石に挨拶には向かったが、久々の家族との再会も俺の情報が無いとわかるとそそくさと街に聞き込みに行ってしまったらしい。
ただアイリスの弟で次期領主であるトイヤーと知己を得て、アイリスには内緒で協力をして貰ったらしい。
その協力してもらった資金もあってここにたどり着くことが出来たんだと。
詳細は省くが、他にも色々とベロニカさんに苦労をさせていたみたいでとても申し訳なく思ってしまった。
そして、ウグジマシカ神聖国へとたどり着きタケミカヅチ様に拝謁した後、二手に分かれて行動する事にしたらしい。
ただ、拝謁した際に他の神々と悪魔になってしまった神々の詳細を知ってしまい、内容が内容だけに誰にも話すことが出来ずかなり精神的に来ていたみたいだ。
「ベロニカさん、俺のせいで苦労かけてしまったようで申し訳ありません」
「い、いえ、シク――トマ様のせいではありません。私が勝手にトマ様を探しに行ったのですから」
俺の謝罪にベロニカさんが慌てて否定をしてくるが、俺がガーネットの誘いに乗ってこちらへ来てしまったらか起こってしまった問題なので彼女には何かしら恩を返して起きたい。
「それでは俺の気が済まないので……そうだ、俺で出来ることであれば何でも言ってください。出来る限りの事はさせて頂きます」
「えっと……その……それでは――よろしければ私もトマ様のパーティに入れて頂けないでしょうか!」
「「「はあ!?」」」
「ちょっと待ちなさい!」
ベロニカさんは少し考えた後、突拍子のない事を言いだしていた。
突然の事で皆で驚き、俺は少し間抜けな顔をしてしまった。
グランツとイザベルは驚いた様子ではあったが、少しニヤついた顔をしてこちらを見ている。
ただ、マリアはかなり不機嫌な顔をしてベロニカさんを眉間に皺をよせながら睨むような顔つきをして只一人異を唱える。
「あなたの仕事はトマをみつけることで一緒に付いて回ることではないでしょ! それに、もうトマの生存確認を出来て問題も無いんだからさっさと報告に帰りなさいよ!」
「あの、その……一応ヒエン侯爵様からは、トマ様を見つけた後手紙で連絡を入れることにはなっているのですが、その後の行動については任せる言われておりまして……」
「何よそれ! あなたはそのヒエン侯爵って人に雇われてるんじゃないの!? それに、あなた冒険者なんてやったことないんでしょ。そんな人が急にパーティに入ろうなんて……」
少し感情的になって話していたマリアだが、俺も元々冒険者ではないのにパーティに急に加入したことを思い出して徐々に声が小さくなっていた。
まあ、何にしても何故急に一緒に行きたいと言っているか分からないが、流石にさっきの事もあるので知らん顔でほっぽり出すのもね。
「落ち着けってマリア」
「トマとこのベロニカって言う女はどういった関係なのよ!」
「どう――といわれても。前に説明した通りで、それ以上でもそれ以下でもないんだけど」
止めに入ろうとしたところ、矛先が俺の方へ向いてしまった。
俺は皆にイオリゲン王国での事を伝えてあり、一緒に戦った仲間で悪魔に洗脳されて操られていたところを助けただけなんだけどね。
「じゃあ特別な関係ではないと言う事よね。あなたはそんなトマに何で付きまとうのよ」
「そ、それは――トマ様に助けて頂いた恩返しをさせて頂きたいのです! 雑用でも荷物持ちでも……その……愛人でも構わないですから――」
ベロニカさんの言葉に場が凍り付く。
いやいやいやいや、流石に愛人っておかしくないですか!?
今は長旅のせいか彼女の勝色の髪は傷み肌も少し荒れてはいるが、前にあった時に様な私バリバリ仕事できますといったキャリアウーマン風ではなく、俺と同年代位の女性といった感じで体型もモデルの様な……っていかんいかん。
変な想像しそうになり、首を振ってイメージを振り払う。
その様子にジト目をしたマリアが不満げな顔をしていたが、俺から視線を外しベロニカさんを見つめる。
ベロニカさんは頬赤めらせて口元に手を当て少し俯いて、その様子が前とのギャップで……だからもう少し自制しろ俺!
「……あなたちょっとこっちに来なさい! 」
「わかりました」
マリアは苛立たし気に叫びながら立ち上がり、ベロニカさんとすこし離れた場所に移動しようとしていた。
流石に喧嘩でもされては問題になりそうだから止めないと。
そう思い止めに入ろうと腰を浮かせたのだが。
「お、おいマリア。何をする気だ」
「トマは黙ってて! 二人で話してくるだけだから!」
「いや、そうはいっても……」
「シクラ様大丈夫です。私もマリアさんと少しお話してみたかったですし」
流石に本人にそう言われると止めようがないな。
ベロニカさんはそう言うと立ち上がり、マリアと共に行ってしまった。
なんかよくわからない状況に俺は頭を抱えた。
「はぁーーー。なんでこんな事になってるんだ」
「……お前本当にわかってないのか?」
「何のことだよ?」
「無理よグランツ。トマは鈍いんだから」
一体何が言いたいのかわからないが、二人に少し呆れた様な視線を向けられた。
離れていった二人の様子を見つめる。
ここからじゃ何を話しているかわからないが、マリアが一方的に話しているように見えた。
しばらくしてお互いに何か言い合った後、こちらへと戻ってきた。
「グランツ、イザベル。ベロニカを鉄の盾に入れましょう」
「――まあ、そういうとは思ったが。本当に良いのか?」
「ええ。ベロニカと話をしたんだけど、今の私たちのパーティは後衛がトマだけだからベロニカが入ればちょうどいいと思うのよね」
さっきまでとはうって変わって、急にベロニカさんの加入を俺たちに勧めてきた。
二人に視線を向けると二人ともなぜだか顔を赤くしている。
一体二人の間にどんな会話があったのかわからないけど、ベロニカさんが入ってくれればコンラートが抜けた穴を埋めることが出来るので良いとは思う。
――マリアは俺に好意を抱いているんじゃないかなって思っていたりもするが、ただの思い違いかもしれないけどね。
マリアとは前々から多少いい感じになったりした気もするけど、俺自身まともな恋愛経験も無いし今はそういったことに手を出す気はない。
だって神様に追われている状態で彼女達と特別な関係になった場合、彼女たちに危険が及ぶ可能性が高いからだ。
ベロニカさんの愛人発言は度肝を抜かれたけど、彼女を愛人にするつもりは一切無い。
元の世界での倫理観もあるし、やっぱり愛する女性は一人だけで良いよね。
あの発言ももしかしたらタケミカヅチ様から何か言われた可能性もあるし、そこは時間のあるときに確認しておこう。
結局その後、気を失っていた冒険者たちが目を覚ました為、ベロニカさんの加入は街についてから再度検討することになった。
冒険者たちが目を覚ましたので、何で仲良くなったか分からないベロニカさんをマリアに任せ、俺とグランツが盗賊の見張りはエリクたちと交代した。
二人は意識を取り戻した冒険者達と会話をしていた。
俺はその間に少し離れた場所で捕縛していた盗賊たちの幹部達の所へ向かう。
俺が近づくと盗賊たちはジト目でこちらを見つつも、どこか余裕があるように見えた。
「やあ、気分はどうだい? 聞きたいことがあるんだが」
「――てめぇに話すことなんざ何もない」
盗賊幹部の中でも一番上っぽい奴がそう答える。
まあ、実際にはそう言ってくることは分かっていたので無視して話を続ける。
「何故君たちはあの馬車を狙ったんだ? あの馬車の持ち主が誰か知っていて狙ったのかな?」
「――」
幹部達は顔色一つ変えることなく、俺の質問を無視しているように見える。
まあ、彼らが誰かに依頼されてベロニカさんの馬車を襲ったのは森の中で聞いていてわかってはいるんだけどね。
ただ、彼らには嫌がらせ――じゃなくて、事の重大さをもう少しわかってもらおう。
「この辺りに盗賊が出るという話はギルドでは出ていなかったし、そうなると契約的にあの馬車を狙っての襲撃をしたんだと思うけど――君たちは全員極刑は免れないよ」
「はん! 脅したってそうは――」
「あの馬車に付いている紋章をよく見てみるんだな。まぁ、この国出身だったらわからないかもしれないけど……」
盗賊たちの視線が一斉に馬車に描かれている紋章へと向けられる。
しかし、ほとんどの盗賊たちはあの紋章が誰の物かはわからなかったみたいだが――。
「お、おい。嘘だろ――だってあの紋章はあの国の……」
下っ端盗賊の一人が馬車に描かれて紋章の意味に気が付いたみたいだ。
「おい、お前はあれが何かわかるのか。あの紋章は何なんだ」
「あ、あれは……あの紋章は……勇者の紋章だ!」
その言葉を聞き盗賊たちに動揺が走る。
下っ端たちは口々に頭目や幹部達の罵詈雑言と身の保身の為か「俺は知らなかった」や「勇者のなんて聞いていねぇ!」などと叫んでいる。
幹部達の顔色も青ざめており、その様子からここに居る盗賊たちは馬車の持ち主を知らなかったみたいだ。
馬車に描かれていたのは二頭の竜が剣と杖を互いに合わせた形の紋章で――それは歴代の勇者達のみが使用した特別な紋章。
俺が召喚された広間の扉にも描かれており、剣の勇者と魔法の勇者という意味があるらしい。
この辺りの国ではどうか分からないけど、イオリゲン王国では竜の紋章が描かれている家紋は勇者の血族の証だ。
例えばミュラー侯爵の家紋は、二頭の竜が向き合うように剣と杖を持っている姿が描かれている。
「さて、君たちが仕出かしたことが分かったと思うのだけど。そろそろ答えてくれると嬉しいな」
俺が笑顔で幹部達に話しかけると、一斉に知っていることを話しだした。
まず、今回の首謀者はここに居る幹部達は知らない様だが、かなり高位の者からの指示らしいとの事が分かった。
報酬として用意されていた金額もさることながら、彼らがもし捕まっても開放する手立てがあると言われていたらしい。
普通であればそんなことは信じないのだが、頭目がそれを信じたと言う事はそれが出来るレベルの権力者――というか、ここに居る彼ら自身が実は解放された盗賊だと言う事だった。
そして頭目なのだが――彼ら盗賊団の拠点に残りの盗賊達と残っているらしいが、ここからだと十日ほどかかる距離なので流石に今から行くことは出来なさそうだ。
それにまだかなりの人数の盗賊が居るみたいだから、次の街でギルドに伝えて対処してもらった方が良いだろう。
結局黒幕が誰かはわからなかったけど、権力者側に俺かベロニカさんを狙っている人がいる事は確実そうなので気を付けないといけないな。
それと盗賊たちの処分の件だけど、ベロニカさんを交えて相談した結果――彼らをギルドへと引き渡すことにした。
彼らは元々どこかの騎士団に捕縛されてどこかの鉱山で犯罪奴隷として労働させられていたようだが、そんな所から逃走させられると言う事は通常ではありえない事だという。
恐らくは、どこかの貴族などの権力者が今回の様な時の為に捕まえておいた者で、恐らく国やギルドなどは別口に捕縛していたものと考えられる。
前回自分達で彼ら盗賊を捕縛したあと裏取引で解放させたと思わせて仕事をさせ、失敗しても自分達が関与したことを隠すために使ったのではないか言う結論になった。
彼らをギルドに引き渡すのは、衛兵などに引き渡した場合黒幕が口封じをする可能性があるからだ。
ギルドであれば国とは別の組織だから、こういった場合ギルドに引き渡した方が良いらしい。
その内容を盗賊達へ伝えると、彼らは怯えながらも大人しく俺達の指示に従うようになった。
そして、未だ万全じゃない冒険者達は馬車に乗せて俺達はイカザヤムの街へと向かった。
一泊野営をしていたが、盗賊たちは一切逃げ出そうとしたり暴れたりすることは無かった。
まあ、「勇者の馬車に乗っていたのは誰なんだろうね? もし本気で反撃していたら、君たちはどうなったのかな?」と少し脅しをしたのも聞いたのかもしれないけどね。




