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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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失敗勇者と襲撃事件とその後

 少しべたつく風が黒く艶やかな髪をたなびかせ、彼女は少し不快な顔をする。

 そもそも不機嫌だった彼女は、額に皺を寄せた後割り当てられた部屋へと戻って行く。

 部屋に戻った彼女は室内の状況に再び眉間に皺を寄せた後、ベットに倒れ込むようにダイブする。

 彼女のいる部屋は窓が無く、広さもベットの他には幅が一メートル程のスペースがあるだけのかなり手狭な部屋だ。

 ベットに倒れ込んだ彼女は、枕を腕で抱き込むようにして寝ころんでいた。

「……はぁ、シクラ様……いったどこへ行かれてしまったのでしょうか……」

 彼女とはアイリス。ウグジマシカ神聖国までベロニカと一緒に向かった後、二手に分かれてシクラを探すために彼女は船に乗って捜索している最中だった。

 彼女は再びため息を付いた後、ベロニカと別れた時の事を思い出す。

 ベロニカがタケミカヅチに拝謁した後、アイリスに告げたのは二手に分かれて世界を周ることだった。

 タケミカヅチ曰く、この大陸を海路と陸路で両側から探せばどちらかがシクラが見つかると言われたと言っていたらしい。

 それを聞いた彼女は初めは陸路で回ることを選ぼうとしていたが、ベロニカに「船の方が進む速度が速いのでそちらの方が早く見つかるのでは?」といわれて船を選択してしまったのだ。

 街から街への速度は船の方が格段に速かったのだが、船は街に着いた際に市を開いたり道中故障の為停泊したりして順調な船旅ではなかった。

 そして彼女は遂に――シクラが()()ユピリルへと到着するのだった。





 幹部っぽい盗賊を捕縛した後、馬車を囲んでいる盗賊たちの近くまで忍び寄る。

 遠見で状況が変わっていない事を確認しながら来たのだから何も変わっていないが、盗賊たちが少し苛立ち始めているように思えた。

 

 盗賊たちはたまに石を馬車に投げつけているが、不可視な物にはじき返されている。

 恐らくこれはベロニカさんが使っている魔法なのだろう。

 不可視領域の中では血だまりに四人の冒険者が倒れ伏している……今微かに動いた?


 倒れている者達を注意深く確認すると、全員体が微かに上下しているのが見えた。

 これは急いで回復させないとまずそうだな。


 俺は考えていたベロニカさん救出プランを取りやめ、冒険者達も救出するように考え直す。

 ……とはいっても、やることは一緒か。ならば……


「先制させてもらう『上級捕縛沼アドバンスドホールドスワンプ』!」


 魔法が発動すると、馬車の周囲を除く街道が人の胸程まであるヘドロの様な沼へと変化した。

 

「誰だ――って、なんだじゃこれ! お、おい、沈んでいくぞ!」

「なんなんだよ急に。なんでこんなもんが急にできるんだよ!」

「だ、誰か助けてくれ! 動けねぇ!」

「くそ! 中の奴がやったのか! だからさっさと攻めちまえばって言ったじゃねぇか!」


 想像以上に上手くハマってくれた盗賊達を一旦無視して、瀕死の冒険者たちの所まで近づいていく。


「テメェかこんなことしやがったのは! こんな事しやがってただですむと思うなよ!」

「くっそ! 俺様がこんな所で死んでたまるか!」


 などと供述しており……って冗談はさておき、騒がしい盗賊は無視して馬車に近づいたのだけれど、ベロニカさんが発動していると思われる防壁に阻まれ冒険者達の近くまで寄る事ができない。

 まあ、防壁の側まで近寄れば冒険者達の様子もわかるし治療も何とか問題ないだろう。


「雑魚盗賊はほおっておいて、まずは死にそうな冒険者達の治療が先かな『上級回復(アドバンスドヒール)』」


 回復魔法をかけると冒険者達の顔色が良くなっているのが見て取れるが、流石に流した血の量が多そうなので直ぐに動けるような物は居なさそうだ。

 とは思ったのだが、一人だけ身じろぎしてこちらへ視線を向けてきた。


「――うぅ。あ、あんたは……」

 

「俺は通りすがりの冒険者だ。傷は治したけど流した血は戻らないから大人しくしていてくれ」


「ああ。お、俺の仲間たちは?」


「ここからじゃわからないけど、一応は回復魔法をかけておいたからたぶん大丈夫じゃないかな?」


「そうか。ありがとう」


 安心したのかその冒険者は意識を失ったようだ。

 さて、あとは残りの雑魚を捕縛して――


「シ、シクラ様!?」


 盗賊たちを捕縛しようと振り返った瞬間、馬車の方から声を掛けられ首を向ける。

 そこには驚いた顔をしたベロニカさんが窓からこちらを覗き込んでいた。


「やあベロニカさん、お久しぶりですね。積もる話もあると思うけど、とりあえず盗賊たちを捕縛しちゃいますね」


「はい、シクラ様。……っ……うぅ……グス……」


 俺の顔を見て気丈に笑顔を見せつつも涙を流すベロニカさん。

 彼女を安心させるためにもさっさと盗賊どもを捕縛しちゃおう。


 そう思い、俺はサクサク盗賊どもを麻痺水縛パラライズウォーターホールドで動けなくさせたあと捕縛していく。

 流石にこれだけの人数を捕縛するだけの縄とかは持っていなかったので、茨縛(ソーンバインド)で縛り上げておく。

 まあ、茨縛はかなり痛そうだけど因果応報だよねと思っている俺は、やはりかなりこの世界になじんでしまっているのだろうな。



 盗賊たちを全員捕縛し終えた後、倒れている冒険者達を介抱する。

 すべてやり終えた後、ベロニカさんへと向き直った。

 ベロニカさんは胸の前で手を組んだままの状態でずっと俺を待っていて、瞳には涙が潤んでいるのが見て取れた。

 ただそれは、恐怖からなる物ではなく俺と再会できた嬉しさからだったようだ。

 

「お久しぶりですねベロニカさん。イオリゲン王国での騒動以来ですね」


「――はい、シクラ様。あの時はシクラ様に助けて頂いたおかげで……シクラ様!」

 

「おっと」


 ベロニカさんは話している最中に感極まった様子で俺に抱き付いて来た。


 彼女とは半年ほど前にあったイオリゲン王国に悪魔――ガーネットが悪魔化した状態――が攻めてきたときに、パスを繋がれ操られていたベロニカさん仲間を攻撃し、さらには異形に変質させられてしまうという事態に陥った。

 その際に、セクメトリー教司祭シュレルさんの協力を得て何とか解呪に成功したんだよね。


 解呪した後別れてから会っては色々あって会えていなかったが、無事な姿が見れて内心ほっとした。

 まあ、違う意味で無事じゃなくなりそうだったけど結果オーライだね。


 そして、俺の胸で泣いているベロニカさんが落ち着くまで、髪を優しく撫でていた。


 

「お見苦しい所をお見せしました」


 数分後、泣き止んだベロニカさんの言葉に「気にしないでください」と、笑顔で答えておいた。

 ぶっちゃけて言えば、堂々と対応して見せてはいるが内心かなりドキドキだったりする。

 元の世界では別段モテル訳でもなく――どちらかといえばモテない部類だったのだから仕方がない。


 ただ、この世界に来てから女性と話す機会も多くなったり、アイリスやマリアの様な人達と色々あったりして多少免疫というか、気を張って頑張ればなんとかそれなりに見えるようになったのだ。


「それにしても、魔導騎士団副団長のベロニカさんがなんでこんな所にいた……」


「おーいトマー! 」


 話をしている最中に俺を呼ぶ声がする。

 声がする方を見ると、グランツ達がこちらへ駆け寄ってくるのが見えた。

 俺は皆に手を振り返し無事を伝えた。

 ベロニカさんは小さな声で「トマ?」と言っていたが、その辺りの事は後で説明しておかなければいけないね。

 

「……本当に全滅させてやがるな。まあ、トマなら何とかなるとは思ったけどな」


「流石はトマよね。……怪我とかはしてない? 結構数が居るみたいだけど――はぁ、またすごい状態よね」


「ああ、問題ないよ。そうでもないよ、だれ一人死んだりしていないしここに居るのとは別に幹部っぽいのも森の中で拘束してるしね」


 グランツは心配している素振りをしていたが、内心俺であれば問題ないと思っていたみたい。

 イザベルも特に心配はしていなかったようだが、マリアは心配してくれていたようだが周りの状況を見てすこし呆れている様にも見えた。

 エリク達は大勢の盗賊たちが地面に埋まっている惨状にどう反応していいか分からないのか、口をぽかんと空けたまま呆然としている。


「それで、この盗賊たちはどうするんだ?」


「ん? どうするって、街に連れて行って衛兵に突き出せばいいんじゃないのか?」


「まあ、それでもいいんだが……」


 グランツは頭を掻きながら説明してくれた。

 捕縛した盗賊は、少数であればそのまま連行していくことが多いが、人数が多く連行が困難な場合はその場で首を落として首級(しるし)だけ持って行くことが多いのだという。

 そもそも盗賊という犯罪者で大体の者達が殺人などの重罪を犯している者が多いのだが、実際どの程度の犯罪を犯しているか不明なため、全員極刑扱いが常だという。

 

 首級(しるし)だけを持って行った場合と連れて行った場合の差は、一応金額的には違うらしい。

 ただ討伐報酬と賞金首なら追加で出るか、奴隷に落とした際の金額が多少上乗せされる程度しか違いはないらしい。

 ――しかも犯罪奴隷の場合追加金額は少ない事が多く、そもそも奴隷として売られずに処刑されることが殆どなのだとか。


 まあ仕方ないよね、可愛そうだけどそれだけの事をしてきたのだから。

 今回も俺が間に合わなければ冒険者達は死んでいただろうし、ベロニカさんも危なかっただろうし。

 


 ただ……俺自身が彼らの首を落とすのは元の世界での倫理観もあり躊躇われてしまう。

 いくら盗賊が生死不明で賞金が出るとはいえ、人の命を奪うと言うことに躊躇ってしまうのは仕方が無い……んだろうな。


「やっぱりこいつらを連れて行きたいと思うんだが――ダメか?」


「ま、お前ならそういうとは思っていたが……。ただ、こいつらを連れて行くにしたら村には泊まれねえから野営することになるし、そうなった場合こいつらの見張りも必要になるんだが」


「イカヤザムまで一泊で付くし、その間の見張りは俺がするよ」


「わかったわかった。お前が見張りをしてくれればよっぽど大丈夫だと思うが、念のため俺も見張りに付き合ってやる。ったく、しょうがねぇなトマは」


「ありがとう」


 俺の面倒ごとに皆は肩をすくめただけで了承してくれた。

 盗賊たちの命をこの場では残すことが出来たが、街に連れて行き衛兵に引き渡された後のことを考えると――なんだかもやもやした。

 

 グランツ達と合流して人手が出来たので、地面に埋まっている盗賊や森の中で拘束されている盗賊を捕縛し直した。

 麻痺から解けた盗賊たちがもっと騒いだりするかと思ったのだが、意外とおとなしく捕まっていた。

 まあ、騒いだり問題を起こしたりするとその場で首をはねられたりするのもよくあることらしく、運がよければ犯罪奴隷として扱われることもあるからおとなしくしているみたいだ。


 


「それで、そこにいる人はトマの知り合いなのよね?」


 盗賊たちを縛り直し休憩をしようとした時、マリアがベロニカのことについて聞いてきた。

 

「皆様始めまして。私はベロニカと申します。前にそこのシ――トマ様に命を助けて頂いたものです」


 ベロニカさんは立ち上がり、騎士の礼をしながら自己紹介をした。

 一瞬シクラと言いそうになっていたが、今までの会話を聞いてトマと言い直してくれていた。


「そういえばさっき聞きそびれたんですが、ベロニカさんは何でこんな所にいたんですか?」


「それは……」


 一瞬周りを見渡した後俺に視線を向けてくる。

 ああ、皆に話してもいいものか迷っているみたいだ。

 

「ここにいる三人であれば大丈夫ですよ。みんな俺のことを知っていますし」


 今ここにいるのはグランツたち鉄の盾とベロニカさんだけだ。

 エリクとルーシーは盗賊たちの見張りをしつつ、冒険者たちの様子を見ている。

 ベロニカさんの護衛をしていた冒険者たちだが、なんとエリク達の知り合いの冒険者だったらしい。

 地面に寝かされた彼らを見つけたエリクが「兄さん!」と叫びを上げて驚いたが、本当の兄ではなく同じ養護院出身の人たちだったみたいだ。

 血まみれになっている彼らを見て顔を青ざめていたが、俺が治療して命に別状が無いことを伝えると安堵していた。

 ただし、彼らはまだ意識を取り戻していないからまだ安静にする必要があるだろう。


「あの、もしかしてあなたがガーネットに――」


「……はい。あの悪魔――いえ、悪魔化した神ガーネット様に心の隙間に入り込まれて操られてしまいました」

  

 マリアの発言にベロニカは少し言いずらそうに答えた。

 

「ですが、そのときトマ様に命を助けていただきました」


「そう……大変だったわね」



「そ、それで、ベロニカさんはなんで来たんですか? それにガーネットのことを何で知っているんですか?」


 微妙な空気になりそうな所で何とか話題を振ることに成功した。

 それに、ベロニカさんは悪魔が神であることは知ら無いはずなのに普通に神ガーネットと、名前まで知っていることに疑問を覚えた。 

 

「私はあの戦いの後、シクラ様を探す為に軍を辞しました」


 俺がガーネットの異界に入った後、逃げ出した魔物たちの掃討や周囲の補修は速やかに終了したそうだ。

 ただ、俺が消えてしまったことがかなり大問題になっていたようだが、司祭のシュレルさんがセクメトリーに確認し俺が生存していることが分かった少し落ち着いたらしい。

 国王は悪魔が襲撃してきたが騎士団が撃退したと発表して一般市民たちはそれで落ち着いたが、俺が悪魔と戦った後行方不明になっていることに反感を持っている人も居たらしい。


 ヒューズさんやコジーラさんも国王の宣言に異を唱えようとしたのだが、シュレルさんが二人を抑得たとのことだ。

 しかし、俺がいなくなって一番荒れたのは言わずとも分かるかもしれないがアイリスだったそうだ。

 アイリスは自信がセクメトリーに拝謁し俺のことを確認しに行ったらしい。 

 セクメトリーでも行方が分からないがタケミカヅチ様なら分かるかもしれないし、元々俺がウグジマシカに行ってタケミカヅチ様に会いに行く予定だったのでそこに向かうのかもしれないと言われたんだと。


 そこからアイリスはヒエン侯爵に面会し、俺に与えられる予定だった馬車と旅費を援助してもらいウグジマシカへと向かおうとしていた。

 アイリス単独でウグジマシカに向かうのはいろいろ問題があり、随員として元魔道騎士団副騎士団長のベロニカさんが一緒にいくことになった。

 ベロニカさんは当時悪魔の呪いは解呪されてはいたが、名目上洗脳されていたときに団員達に被害を与えた責で職をおろされていた。

 実際には自分で副騎士団長を辞したのだがそれでは普通の団員に戻るだけで随伴させることが出来ない。

 そのため、ヒエンさんとコジーラさんが協議した結果、騎士団の任を解き形式上ミュラー侯爵家配下になったと言う事にしてアイリスの随員にしたらしい。

 

 こうしてアイリスと共にウグジマシカ神聖国へと向かう事になったそうだ。




 ただ、この後のアイリスの旅はかなり苦労したらしい。

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