失敗勇者と知人
アイリスと別れた後、私は冒険者を雇ってタケミカヅチ様に言われた街道を馬車で進むことにしました。
タケミカヅチ様が言うには、大陸南部の街道を馬車で一周する間にはシクラ様と会う事が出来ると言う事なのですが――既に大陸の半分くらいまで来てしまいました。
しかも、どこまで進むか分からない旅なので街から街への間冒険者を雇うのですが、段々と資金が乏しくなってきましたわね。
既に大陸の三分の一はとうに過ぎ、もうじきおよそ半分のイカザヤムの街につきますわ。
本当にこのまま進んでシクラ様と会う事が出来るのか心配になり始めましたが、流石に主神様の言われた事なのでと言い聞かせ我慢しているのですが――そろそろ冒険者のランクを下げていかなければなりませんね。
イカザヤムの街まで護衛してくれた冒険者達と別れ、私は冒険者を雇うためにギルドへ向かったのですが……冒険者の費用が異常に高くなっていたのです。
何でも、この先のユピリルという街で祭りがあるとの事で、商人が護衛の冒険者を高値で連れて行ってしまっているとの事です。
心許ない懐事情により、仕方なく私は銅級冒険者をパーティを雇いユピリルへと馬車で向かうのでした。
タケミカヅチ様――シクラ様にはいつお会いできるのでしょうか。
そう願いながら私はガタゴトと馬車に揺られながら出立したのでした。
翌朝、エリクとルーシーとルーシーと合流した後イカザヤムへと向け出発した。
出発前にコンラート達と旅立ちの挨拶に向かったのだが、二人ともグランツ達同様に俺が旅に出たがるだろうと思っていたらしい。
「やっぱりか。またユピリルに来ることがあれば寄ってくれ。その時には俺の可愛い子供と面会させてやろう」
「トマならそう言うだろうと思った。俺はここで道場を開きながら魔法の研究をしていくから、お前も戻ってくるまでに魔法の研究をしておけよ。あと、もしアルル師匠に会う事があったら俺も超越魔法が使えるようになったって伝えておいてくれよ! 」
――と言った感じで、ふたり共々あっさりと別れをすませた。
もう少し皆にも何かあるかと思ったのだが、二人ともそんなことを考えている余裕はないみたいだった。
まあ、新しい仕事を始めているし二人とも奥さんが妊娠中だから仕方が無いかもしれないな。
因みに、ユピリルからイカザヤムまでは順調に行けば徒歩で七日、多少何かあっても八日もあれば問題なく到着可能との事だ。
街道沿いを歩く俺達の他にも多少商人や冒険者達を見かけるが、徐々に人数が減って行き今では他に二組くらいしか残っていない。
関係ない人達とは基本的に多少距離を開けて歩くのがマナーと言う事で、今では前に一組歩いている姿が遠くに見えるだけだった。
街道を歩く順番は、ダンジョンの時と同様にグランツとイザベルを先頭に俺とマリアが最後尾になって歩いているが、会話も無く黙々と歩き土を蹴る音と鳥のさえずりくらいしか聞こえるものは無い。
無言である事にも意味があり、会話をしながら歩くと疲労がたまると言う事もあるのだが、見通しは悪くはないが両サイドが森になっている為魔物や盗賊対策の為だという。
話声で魔物や盗賊が寄ってくる場合もあるし、会話をしていると周囲の音が聞こえず不意打ちを受ける心配があるからだそうだ。
もしこれが馬の旅であれば元々音がすし足も速いので多少なら問題はないが、今は徒歩の為その辺りは注意しておかなければならない。
ただ、俺はこの無言の状態をそれ程苦痛には思っていなかった。
なぜなら、何を見ても新しい発見があるからだ。
例えばこの街道、元の世界では田舎位でしか見ることが出来ない未舗装の土がむき出しの道。
幅は馬車がすれ違える二車線の道路幅ほどもあるが、馬車が通る車輪の跡が轍になってとても異世界っぽい。
街道の両側には人の手が入っていないと思われる雑木林になっていて、見たことも無い木々に見たことも無い木の実がなっているのを眺めていたりしている。
そして、エリク達に気が付かれない様に、こっそり索敵魔法を使っていたりもする。
この魔法は俺が適当に考えた魔法なのだが、普通に発動し周囲に魔物や盗賊が居ないかを探知しているのだが――それ以外にも動物とかも引っかかったりするのだ。
そして、索敵魔法に引っかかった動物に向け遠視の魔法を使い、でどんな動物か見たりして楽しんでいた。
全身が真っ白な一回り大きくしたようなリスや、虹色に輝く羽根をした極彩色の鳥など様々な動物を見つけたりしている。
ただ索敵魔法は有効範囲が広がると魔力の消費が激しくなるので、せいぜい半径百メートル程で留めている。
ただのどかな街道を黙々と歩く――そんなことに俺は何故だか楽しみを覚えていたのだった。
太陽が真上に差しかかった頃、昼食を取る為に休息を取った後再び歩き出した。
そして、本日の目的地である小さな宿場町――というよりも村といった方が正しいイシアリス村に到着した。
村は百人程の集落で、宿屋が一軒だけあるさびれた農村のような所だ。
周囲を腰ほどの高さの柵で囲い、念のための程度の防護対策がなされてはいるようだが、ぶっちゃけ盗賊や魔物に襲われたらひとたまりもない感じがする。
でも、よっぽどの事が無い限り盗賊は村などは襲ってこないとの事だ。なぜなら、彼ら盗賊も大体がここの様な寒村出身で取る物が殆どない事を知っているからだそうだ。
村に入る際に入村税などは無かったが、宿はユピリルの倍ほどの値段で食事はさらに別料金が取られた。
いつもであれば三部屋取るところだが、値段が高い事もあり始めから六人泊まれる大部屋を取った。
その後値段は高いが味は普通のパンとスープを宿で食べた後、部屋に戻り皆そそくさと就寝して行った。
翌朝、宿を引き払った後、昨日と同様に歩き出し……特に何事もなく次の村に到着した。
ここも昨日の宿と同様に高かったが、昨日の宿よりも値段は多少安かった。
そんなことを数日間続け……イカザヤムまであと二日という村を出立した後事件が起きていた。
「……みんな止まれ」
「どうしたんだグランツ?」
「静かに……何か聞こえた」
真剣な表情をして皆に止まるように指示を出し、目を閉じ周囲の音に耳を澄ませている。
周囲は特に変わった様子も無い――代わり映えのしない街道。
そして、俺がこっそり発動している探査魔法の範囲には特に反応は無かった。
皆は周囲を警戒するように構え耳を澄ませている様だが、他の皆も特に聞こえない様だった。
「……やっぱり何か面倒な事が起こってるな。トマ、前方を索敵魔法で探ってくれ」
「わかった『上級探査』
ずっと探査魔法は発動していたのだが、グランツの様子から俺の探査範囲より先で何かが起きている様だ。
魔法の発動と同時にドーム状の魔法が広がって行き――なんだこれは。
索敵魔法に反応があり、一キロ程先で人の集団がいる事が分かった
「結構な人数の反応があるね。人数は三十人程――いや、森の中に更に十人程いるな。馬車を囲んで何かしているように『遠見』っな!」
「おい何があったんだ!」
「……トマ、一体何が起きてるの?」
俺が遠見を使った瞬間叫び皆に緊張が走った。
遠見で俺が見たのは……
「盗賊に馬車が襲われてる。馬車の護衛は既に全滅してるみたいだ。だけど、馬車自体に何か魔法がかかってるのか魔法道具なのかわからないけど、盗賊たちはまだ手が出せていないみたいだ」
グランツが面倒な事と言っているのは、俺の索敵魔法で引っかかったこの集団の事で間違いないだろう。
恐らくこの街道を進んでくると言う事は、イカザヤムからユピリルに向かう貴族なのか商人の馬車なのだろう。
ただ止まっているだけなら問題は無いのだが、周囲には武装したテンプレの様な盗賊の集団が馬車を囲んでいた。
そして周囲には、護衛だったと思われる数人の武装した人たちが、血だまりの中倒れ伏していた。
装備からして傭兵か冒険者を雇っていたようだが、装備から鑑みて冒険者であれば恐らく銅級かギリギリ鉄級といったパーティのようだ。
「四十人か……盗賊の装備はどの程度だ」
「ちょっと待って――皮鎧が殆どだな。武器もそこらで売ってるレベルの物ばかりではありそうだけど……あれ、このって紋章かな? どこかで見たことがある気がするんだけど」
遠見で眺めていた俺は、馬車にどこかで見たことのあるような紋章が描かれていたことに気が付いた。
その紋章は、剣と杖を持つ竜が向かい合っている物だ。
「紋章って馬車にか? そうなると貴族かそれに連なる一族の可能性が高くなるな。中に乗ってる人物はわかりそうか?」
「ちょっと待ってくれ。えーと……マジか! 」
「今度は一体なにが――」
「皆悪い、ちょっと行って来るわ。俺の知り合いが襲われてるみたい」
俺はそう言うと、身体強化魔法をかけ飛び出していった。
後ろからグランツ達の制止する声が聞こえてはいたが、今は一刻を争う状況なので無視して走る。
遠視で馬車の中を覗くとそこには見覚えのあり、珍しい勝色の髪をした人が怯えた様子で魔法を唱えているのが見えてしまったのだ。
盗賊の数は約四十人だが、恐らくそれ程脅威ではないと俺は考えていた。
この世界での人の強さは魔法を除くと基本的に装備が主体になる。
まあ、軍人のように常日頃訓練をしている人たちなら違うだろうが、所詮は盗賊なので個々の力量は無視していいだろう。
グランツ達がいい例だが、実力はあるが装備の質が悪くダンジョン上層でしか狩が出来なかった鉄の盾が、装備を整えたことにより中層でも問題なく狩りが出来るレベルになれるのだ。
初期のグランツ達の装備は武器や盾などは鉄製だったが、他の部位が革製が多く魔物の牙や爪を完全に防ぐことが出来なかったんだよね。
しかし、今では全身鉄かミスリルの装備に換装しているし、武器もミスリル合金と魔剣になり火力も段違いに上がっている。
まあ、俺だけグランツのおさがりの鉄剣を使っては居るが、ほとんど魔法で戦っているので不便は感じていないんだけどね。
それに盗賊の殆どは防具は革製、武器は鉄製もあるが大体が銅製か青銅製みたいだ。
鉄製ならまだしも、青銅や銅製の武器ではミスリルに傷をつける事すら出来ないので、無理やり突っ込んでも勝機がありそうなレベルなんだよね。
そして最後に――盗賊側には魔導士が存在していない様だったのだ。
俺みたいに特殊な場合を除き魔導士の主武装は杖になるんだけど、盗賊の中に杖を持つ人がいないんだよね。
杖で魔法を放つと威力が増幅されたり射程が伸びるので、魔導士であれば殆どの者が杖をもっているはずなのだ。
「さて、とりあえずどうするか」
いくら相手が弱いとはいえ、殺人まで犯している盗賊を見逃すつもりはない。
そうなると――ベロニカさんの方はまだ耐えられそうだから先に森の中の盗賊から捕縛しよう。
森の中に残っている盗賊は十名、装備の内容から言えばこちらの方が上等なので恐らく幹部とかだろう。
そうなると多少他の盗賊よりも面倒かもしれないが、サクサク仕留めてしまおうか。
俺は街道から離れ森の中に隠れていた盗賊たちの更に後方へ回り込む。
街道から少し進むとそこは人の手が入っていない鬱蒼とした森になっている。
そのおかげか、ある程度音にさえ気を付けていれば問題なく盗賊たちに近づくことが出来た。
盗賊たちは木にもたれていたり地面に座って居たりと、かなりリラックスしているように見える。
「あいつらいつまで時間かかってやがるんだ?」
「まあしょうがねぇだろう。護衛などは殺しても問題ないが中の人間は絶対に殺すなって事だからな」
「っち、面倒だな。そもそも何で頭はそんな面倒な依頼受けたんだ?」
「なんでも裏の仲介人経由で一年くらい遊べる金額で依頼が来たらしいぜ。しかも半分は前金で気前よく払って行ったらしい」
「ヒュー! そりゃいい。ま、そう言う事ならもうちょい待ってるか」
盗賊たちが話している内容が隠れている俺のへ聞こえた来たんだけど、盗賊たちは計画的にベロニカさんを襲撃していたらしい。
そもそも、魔導騎士団副団長のベロニカさんが何でこんな所に居るのか不思議ではあるんだけど、豪奢な馬車に乗ってることでもあるから何か仕事で来てるのかもしれない……それは無いか。
騎士団の仕事だったら護衛は冒険者じゃなく騎士団員がやるだろうし。
おっと、思考がそれてしまった。
とりあえずはこの幹部っぽい盗賊をさっさと無力化しちゃおう。
俺は無詠唱で『上級麻痺茨縛』を使い、盗賊たちは声も出す間もなく縛り上げられる。
初めは少しもがいているような者居たが、暫くすると麻痺で動けなくなっていく。
「こいつらはとりあえずそのままでいいとして残り三十名ほどか」
流石に一度にこれ以上の人数を同時にとらえるのは俺一人じゃ難しいけど、別に逃がさなければ問題ないのだからどうとでも出来る。
幹部達を捕まえたのはベロニカさん襲撃について何か知ってそうだからだけど、他のモブ盗賊たちは別に……って、何を考えているんだ。
一瞬不要なモブ盗賊なんてどうでもいいんだから殺してしまえばいいかと考えてしまっていたことに俺自身が驚いた。
この世界での命の安さはわかっているつもりだが、俺自身それに染まる必要はないんだ。
一度深呼吸をした後、遠見でベロニカさんの状況を確認したが特に変わった様子はない。
「よし! 気を取り直してベロニカさん救出に向かいますか!」
バシバシと自分の頬に気合を入れなおし、俺は残りの盗賊たちを捕縛に向かう。




