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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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失敗勇者と孤児

「……なんてことになってしまったのでしょう」


 ベロニカはタケミカヅチ神に拝謁した後通された部屋で一人頭を抱えそうになっていた。

 伝えられたこと……それはシクラがガーネットから伝えられてこの世界の真実に他ならなかった。

 しかも、この事を他人に伝える事を禁止され、誰とも相談する事も出来ない状況に頭を悩ませている。

「……しかし、これで色々と分かったことがありますね。アイリスが何故ここに入る事が出来なかったのか」

 アイリスはセクメトリーに洗脳という名の呪いをかけられており、この聖域にはそう言った者を排除する機能があるそうです。

 そのために、アイリスは過去にもここの中に入る事が出来ず、今回も排除されてしまったようですわね。

「それよりも一番の情報はシクラ様の所在ですが、まさかユピリルという真反対に行かれているとは思いもしませんでしたわ。ですが、何故タケミカヅチ様はあのような支持をされたのか。そして……」

 ベロニカは自分の胸に手を当てて考え込む。

 彼女にはタケミカヅチからシクラへと渡して欲しいと言われているものがあるのだが、それは彼女の心臓に封印されている。 

 ベロニカも詳細は知らないのだが、これはとても重要な物で必ず必要になる物と言う事だ。

 そしてシクラの居場所についても聞いてはいるのだが、何故かベロニカとアイリスを二手に分け行くようにと伝えられた。

 アイリスは海路で北側から向い、ベロニカは陸路で南側から向かう事と指示をされた。

 何故そう指示されたのかわかりませんが、アイリスを納得させ何とか指示通りに行くしかありませんわね。

 ……はぁ、アイリスに伝えるのが中々大変ですわね。

 そんなことを考えつつ彼女は部屋を後にした――そして、ベロニカは説得に成功し二人は別々に行動する事になる。

 







 グランツの指示で、俺達はトロールと戦ったあの広場で休息を取ることになった。

 中層から上層まで一気に来ただけあり、エリクとルーシーの二人はかなり疲れているように見えた。

 流石に俺達と装備や経験の差がある為、安全のための休憩である――と同時に、今後の俺達の事を話しておいた方が良いだろうと言う判断でもあった。


 休息を取る為に入り口付近に魔物避けを撒いた後、全員で奥の広間で行き休憩を取る。

 休憩の為に座って少し経ったとき、グランツが唐突に二人に話しかけた。


「あーうん。それにしてもエリクとルーシー、二人ともなかなかやれるようになってきたな」


「あ、ありがとうございます。でも、私達なんてまだまだですよ」


「ありがとうございますです。いきなりどうしたんですかグランツさん」


 急に褒められた二人は首を傾げながらグランツを見つめていた。

 まあ、特に何かあったわけでもないのに急に褒められても困惑するのは当然だろう。

 

 二人を褒めたグランツはグランツで、後頭部を掻きながらどう言っていい物か考えているようにも思えた。

 俺達は成り行きを見守る為、グランツの次の言葉を待った。

 そして、頭をガシガシと掻いた後、深呼吸をして二人に向き直る。


「その、なんだ。二人に話しておかないといけない事があってな。俺は遠回しに行ったりすることが苦手だから単刀直入に言うが……俺達は今回のダンジョン探索が終わった後旅出ることにした」


「――そうなんですか。そうですよね、皆さんみたいな腕利きの冒険者の方々がいつまでも同じ街に留まっている必要は無いですからね」


「そっか、みんな行っちゃうんだ」


 ルーシーは何とか自分を納得させようとしていたが、エリクは寂しそうにつぶやいていた。

 その様子にイザベルとマリアがウルウルしだしていたが、グランツが二人を見つめて止めていた。

 俺が原因な事もあって少し罪悪感があるが、危険が伴う可能性のある旅に二人を連れて行く方が忍びない。


「今まで俺達と臨時で組んでいたのに、こちらの都合で急に決めて悪かった」


「い、いえ。気にしないでください! 私達の方こそ皆さんに甘えて一緒に連れて来てもらっていただけですから」


 グランツの謝罪にルーシーは慌てて手を振りながらわたわたしている。

 エリクの方は――うつむいたまま顔を上げない……ありゃぁ、少し不貞腐れちゃったかもしれないな。 


「それでだ……お前達二人はこれからも冒険者を続けていくのか?」


「えっと――それは……」


 ルーシー少し悩んだ末、エリクの方へ視線を向けた。

 さっきまで黙ってうつむいていたエリクだが、実は何かを考えていた様で勢いよく顔を上げた顔は笑顔だった。


「いえ、たぶん鉄の盾の皆さんと別れてまともに冒険者をするには危険だと思います。ルーシー!いい機会だから俺達も街に戻ったら家に帰ろう。そんで、今まで溜めた分を合わせれば、ギルド登録して露店なら開けるだろうから念願の店を開こうよ!」


 何か吹っ切れた感じのエリクがルーシーに笑顔で話しかける。

 少し考えた末、ルーシーはエリクに頷き返す。


「そう、そうね。今ならギリギリ目標金額に達しているわね。うん、エリク一緒にやろう」


 嬉しそうにはしゃぐ二人を見て、グランツは肩から力が抜けたようだ。

 俺や他の二人も同様に少し肩に力が入っていたが、二人の様子を見て安堵した。


「そうか。もし、お前達がまだ冒険者を続けると言う事だったら他のパーティを紹介しようと思っていたのだが……」


「大丈夫です。それに、今から新しいパーティを紹介して頂いても皆達みたいになれるまで時間が掛かってしまいますし、それに私達は冒険者に向いていないのはわかっていますから」


「そうだよなー。グランツさん達の戦いぶりを見ていると俺達じゃそこまで行くことができそうもないからな。それに、やっぱり俺達は飯屋が開きたいですから」


「わかった。お前達がそう言うなら止はしない。ただ、別にお前達はレベルが低いわけじゃないぞ。今は銅級だがもう少し装備を整えて同格の奴らとパーティを組めば、鉄級に上がるのも時間の問題だとは思うのだが……まあ、あれだけの料理が出来るんだ、わざわざ危険な冒険者を続ける必要はないか」 

  

 二人は装備こそ普通の銅級同様の装備だが、実力的には鉄級下位程度の実力を付けていた。

 ただ、二人だけで冒険者をやるには人数の問題の事もあるが、そもそも二人とも前衛で後衛が居ないため不意な事態に対応することが出来ない。

 だからこそグランツは二人を他のパーティへ紹介しようかと考えていたようだが、二人は既にどんな店を開こうかと話し合っておりグランツの話を聞いてはいない様だった。


 その様子にグランツが「ま、いいけどよ」と少し不満げにしていたが、二人の楽し気な様子に頬が緩んでいた。


「ねぇ二人とも、街に戻ったら家に帰るって言っていたけど、二人はどこに帰るのかしら?」


「あ、はい。私達はキサナガ王国のイカザヤムの街出身なんです」


 その言葉に俺達は顔を見合わせた。

 俺達が向かうルート上にはキサナガ王国があり、イカザヤムの街というのはオシロス王国の国境を越えた直ぐにある貿易都市の名前だった。


「あらそうなの。私達もその街に行くつもりだから、良かったら一緒に行かないかしら」


「そうなんですか! お邪魔じゃなければご一緒させて頂きたいです!」


 主要街道上にあるこの街は元々立ち寄る予定だったし、二人を安全に街まで送り届ける事も出来るので誰からも反対意見はでなかった。

 そして、二人を含め俺達は旅路の打ち合わせをする……といっても、基本的にダンジョンで使用した野営道具はそのまま流用できるので、消耗した物の補充で殆ど済みそうだ。

 一応ダンジョンと通常野営では多少の資材の差はあるが、その辺りは戻ってからグランツが仕入れてくるとの事だった。

 グランツが資材の補充をしている間に俺達はギルドに向かい、イカザヤムの街へ向かう商人の護衛依頼などが無いか確認をすることになった。

 今の時期であれば翌週の入港祭が待っているからよほど依頼はあるだろうし、その依頼状況によって出発日を決めることにした。

 俺達とエリクたちは泊っている宿が違うため、毎朝ギルドに集合して今後の予定を相談する。

 

 そして休憩を終えた俺達は、ダンジョンを後のするのだった。

 


 街に戻るとグランツは資材を仕入れに行き、エリクとルーシーはお世話になった人達に挨拶に行くと言って別行動をすることになった。

 ――と思ったのだが、イザベルがグランツについて行ってしまったので、まあ大体いつもこんな感じだなと思いつつも俺はマリアの二人でギルドに向かう事になった。

 

 ギルドに入ると、建物内にはいつもより人が多くごった返している感じになっていた。

 なんでも、入港祭手前になると街の商人たちが外の街に買出しに向かうため、護衛となる冒険者への依頼が殺到するのだ。

 しかし、大体は近隣の村までの簡単な護衛が多く、主に船員たちに売る食料品の調達が殆どらしい。

 そのため……


「……イカザヤムの向かう商人の依頼は見当たらないわね」


「これだけ依頼があるのに全くないんだな。ちょっと職員に聞いて来るよ」


 人でごった返す受付カウンターの横、冒険者が依頼を受けるカウンターへ向かい受付に依頼が無いか確認しに行く。

 受付には若い女性の職員何人かいるのだが、皆がひっきりなしに依頼の確認や受注をしている為中々聞ける状態ではなくどうしたものかと立ち尽くす。


「あら? トマさんとマリアちゃんじゃないの。どうしたの、依頼の受注かしら?」


 声を掛けられ振り返ると、そこにはこのギルドに初めて来た時にあったケイティさんが立っていた。

 彼女は俺の冒険者登録をしてくれた際に担当してくれた職員で、このギルドの中でも古参の中年女性だ。


「あ、ケイティーさんお久しぶりです。受注というか、イカザヤムまでの向かう商人の護衛依頼でもないかと思ったんですが」


「久しぶりねケイティー。さっき依頼板見た来たのだけど見当たらなかったのよ、まだ張られていない依頼にないかしら」


「そうねー、ちょっと見てきてあげるわ」


 そう言って彼女はカウンターの奥へと消えて行き、暫くしてこちらへ戻ってきた。


「今の所は無いみたいね。イカザヤムまでは少し距離もあるからもう少し早ければ依頼もあったのだけど。流石に一週間までだと全くないわね」


「そうですか。お手間をお掛けしました」

「そっか、ありがとうケイティー」

 

「ああでも――」


 踵を返す俺達にケイティーが呼び止め、一枚の封筒をひらひらさせながらこちらへ笑顔を向けている。


「護衛依頼じゃなければあったわよ」   

 

 内容を確認して俺達はケイティーが見つけてくれた依頼を受注し宿へと戻った。

 



 そして夕食時にグランツとイザベルに依頼の事を伝える。


「――で、その依頼というのがこれか」


「ああ、うん。期日は近くて値段も――まあ、それなりに安いんだけど、イカザヤムまで行くような依頼だとこれしかなかったんだよ」


 俺達が受注した依頼というのは、実は一般の依頼ではなくギルドからの依頼だ。

 その内容は、イカザヤムの冒険者ギルドまで書類を届けるという簡単な仕事だったりする。

 ある意味銅級でも問題なく行える依頼の為金額も安く、重要度も低い為基本的に駆け出し以外受けたがらない依頼だったりする。

 

 普通の冒険者は知る由も無いのだが、この依頼は相手に渡すまで中身を開かずに持って行けるかという裏の意味合いが込められていたりする。

 正式ではない開け方をすると書類が焼失する仕組みが組み込まれており、もしこれが起きた場合その冒険者達は――どうなるかはお察してくれ。

 

 少し意地が悪いが、ギルドはこうして冒険者達の行動を確認するために格安の書類運搬依頼を出しているのだ。

 そして、何度かこの依頼を受け問題なく運搬しているパーティには、本当の重要書類運搬などの依頼をしていたりもする。

 

 ふるいをかける為にほぼ常設依頼としてギルドに貼られている依頼だったりするのだが、当然シクラ達はそんな事は知らずに受けているのである。

 

「ま、それしかないなら仕方ないな。期限は――十日か。そうなると明日には出ないとまずそうだな」


「そうね~。でも、準備は今日の内に終わっているから後はあの子達に伝えるだけね」


「じゃあ、私が二人に今から伝えに行って来る」

「マリア私も行くわ」


 マリアとイザベルの二人が連れ立ってルーシー達に伝えに行ってしまった。


 ここユピリルからイカザヤムまではおよそ七、八日かかる為、それなりに急いで向かう必要がありそうだ。

 そう、何事もなく普通にたどり着ければの話ではある。

 

 それはともかくとして、明日鉄の盾はこの街を離れイカザヤムへと向かう事になった。




 イカザヤム、そこでシクラは――自分の存在がどのような者か知る事になる。



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