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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第三章

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失敗勇者とイカザヤムの街

 男性はよくわからない言語で歌のようで歌ではない言葉を発していた。

 何をいっているかは全く分からないのだが、徐々に室内の空気が張り詰めて行くこを肌で感じていた。

 そして……猛烈な神気が暴風のように室内に吹き荒れ、ベロニカは両腕で顔を覆おうとーーしたのだが、体が動かないどころか声すらあげることが出来なかった。

 ベロニカはただただ吹き荒れる暴風を全身に受けつつ、意識的に動かせない体を無意識に動かしており、男性の方へと頭を下げる体制になっていた。

 

「表を挙げよ」


 男性が言葉を発すると、全身に鳥肌が立ったかと感じるほどの得体の知れない感覚と、男性の言葉に逆らう事ができないと無意識に悟り顔をあげる。


 そこには、見た目は先ほどの男性と全く同じなのだがーーそこにいる人物は全くの別人だと思えるほどの存在感を発していた。

 そして、先ほど見た男性の瞳は黒っぽい色合いだったはずなのだが、彼の瞳の色は透き通るような紫色に変わっていた。

 

 ベロニカは何故自分がこんなことになっているのかと普通であれば考えたのであろうが、今現在彼女の思考は彼から目を離してはいけないと言う事だけだった。

  

「人の子よ、よくぞ参った。お主の探し他人についてだが……」


 彼に乗り移った者はベロニカが何かを話す間も無く一方的に話しかけてくる。

 ……そして、彼女はこの歪な世界の真実を一方的に告げられてしまうのだった。

 





「そんなこったろうと思ったよ」


 グランツは肩をすくめて隣のイザベルを見ると、イザベルは頬に手を当てにこやかに笑っていた。


「そうよねー。そろそろお金も貯まってきたし、そろそろその話が来る頃と思ってたのよね」

「ねぇトマ、一人で行ったりしないよね? 私達を置いて行かないよね?」


 イザベルとマリアの二人にもばれていたようで、マリアに至っては隣に座っている俺の腕に抱き付き上目遣いで問いかけてくる。


「あ、はい。……えっと、みんな気付いてたの?」



「そりゃあなぁ。いくらトマが最近加入したと言っても半年も一緒にいるんだぞ、流石に何か考え事をしてるんだなとは気が付いていたさ。それに……お前はわかりやすいからな!」


 俺が風呂を上がり、いざウグジマシカ神聖国に向かう事を話すしたら既にばれていたようだ。

 

「で、出発はいつ頃にするんだ? それにどのルートを通って行くつもりなんだ? 」


「あの、グランツ。一緒に来てくれるのか?」


「ぶははあっはははははははは!!! 本気でそんな事気にしてたのかよ! 当たり前だろ俺達は同じパーティだぜ!」


 グランツは豪快に笑いながら俺の頭をバシバシ叩いた後、まじめな顔をして同じパーティだと言ってくれた。

 他の二人も俺の顔を見て頷いてくれる。

 ああ、本当に、俺はいいパーティに入れてもらったな。

 心底そんなことを思いながら、俺はこれからの事を皆と打ち合わせを始める。


「一応陸路と海路どちらで行こうか迷って入るんだ。陸路なら仕事を受けながら行く事も出来るし、何か当た場合は逃げることが出来る。海路なら陸路よりも費用が掛かるけど日程は早く、船員以外と遭遇することは少ないと思ってるんだ」


「あーまてまて、海路はやめてくれ」

「う、うん。船はダメ」


「うん?なんで?」


 俺は首を傾げながらグランツとイザベルに視線を向ける。

 隣に座るマリア苦笑いを浮かべ肩をすくませている。

 彼女は二人とは違いはあまり海路でも気にしていない様だが、グランツ達は異常に船での移動を嫌がっているように思えた。


「あのねトマ。二人は前に船に乗った時に酷い船酔いになっちゃって、それから船が苦手なのよ」


「あーなるほど、船が苦手なら仕方がないな」


「か、勘違いするなよ。船全般が苦手なんじゃなくて、荒れた海の船が苦手なだけだ。か、川渡しとかの普通の船なら問題ないからな!」


 マリアにばらされて慌てて言い訳するが、その焦った様子からも船が本当に苦手なのが分かる。

 まあ、こればっかりは体質やなれの問題もあるだろうけから、今の段階で無理やり船に乗せる必要はなさそうだね。


「まあ落ち着けって。それなら海路は無しだとして、陸路で向かうにはどのルートで行くのが良さそうなんだ?」


「すまんな。それはな……お、あった、これを見てくれ」


 グランツがバックから古そうな紙を取り出し、テーブルの上に広げた。

 それはこの大陸を描いた地図だと言う事が見て取れた。

 

 が、かなり大雑把に描かれている感じで、主要な国や町などが書かれ大き目な街道などは掛かれている様なのだが、元の世界の地図と比べると子供の落書きレベルの代物だったりもする。


 ただ、この地図には後から幾つも新しく書かれた部分があり、小さな点や○印など色々書き加えられていた。


「これは世界地図なのか?」


「お、流石にわかるか。まあ、知り合いの冒険者が引退するときに貰ったものだからこの周辺しか詳しくは書き込まれてはいないんだが、それでもトマの目的地のウグジマシカに向かう主要な街道は乗ってる。このルートが最短ルートなんだが……」


 グランツが示したのは、俺達が拠点としているユピリルの街からそのまま東へ向かうルートで、途中幾つかの街を経由してウグジマシカへと至る街道だった。ただし、少し問題がある。

 そのことに気が付き俺は少し渋い顔をすると、グランツは頷き話を続ける。


「流石に気が付いたか。そうだ、このルートで進むとイオリゲン王国を通過する」


 イオリゲン王国――そこは、俺が初めて召喚された国であり、アイリス達従者や白虎の人々と出会ったなつかしい場所である。

 ただ、セクメトリー教の大神殿があり、今の俺が向かうには色々と問題が発生する場所だ。

 もし巡回中の騎士団などと遭遇した場合正体がばれる恐れがあるし、もしばれた場合確実に王宮へ連れて行かれることになるだろう。

 そうなったら、セクメトリー教の司祭であるシュレルにも話が行くだろうし、何より神セクメトリーにばれるのが一番まずい。

 それに、セクメトリー教の大神殿があるくらいなのだから、そもそもイオリゲン王国にはセクメトリー教の人々が多数いる事が考えられ、どこかでセクメトリーにばれてしまう恐れがある。

 

 そうなった場合、鉄の盾の皆に迷惑がかかるだろうし、何よりガーネットが剣の勇者の力を封印の事がばれ、ガーネットやアメトリンにも何かしら被害が出ることが考えられる。


 なにより、俺にかかっている封印を解き、剣の勇者としての力を開放することによって再度洗脳されてしまうリスクがある。

 それを考えると、イオリゲン王国を通過する事を出来る限り避けていくしかない。

 

「……流石にイオリゲン王国を通過するのは難しいだろう」


「そうだろうな。そうなるとだ、ルートとしてここキサガナ王国から南下しマイソガク王国へと経由して、イハチア共和国なんかを通過して向かうルートになるな」


 グランツが示したのは、このユピリルからウグジマシカへと至るルートは三つあるうちの一つだ。

 三つのルートとは、最初にグランツが示した最短ルートのイオリゲン王国を通過するルートが一つ。

 二つ目は、大陸中央部を通過する街道なのだが、このルートもイオリゲン王国を通過してしまうルートだ。

 そして最後のルートこそ、グランツが示したイオリゲン王国を全く通過しないベストなルートだが。


「……これって、かなり遠いよな」


「ああ、なんせここから大陸を縦断した後、大陸南部南部を横断しているルートだからな。しかも、北部や中央部は街道がある程度まっすぐだが、南部の街道は海岸沿いの街を繋いでいるからな」


 地図の街道をなぞりながらルート確認をする。

 街道はユピリルから南下したあといくつかの街を経由し、最南端にあるマイソガク王国の街を経由した後海岸沿いを東へと伸びている。

 海岸沿いを進み何カ国か経由した後……ん?これって……。


「なあ、ここって道が繋がっていないみたいなんだが」


「そ、そこはな……そこなんだよな……」


 グランツは俺がしてきた部分を見て頭を抱えながらブツブツ何か言っている。


 俺が指摘したとことは街道が途切れて――厳密には海上へと続いており、巨大な島へと街道は続いていた。

 そして、島を横断した街道は再び海上へと続き、大陸東部のウグジマシカへと繋がっているようだ。

 この地図の書き方だと、恐らく街道の先にある大陸へと船でわたる必要がありそうだ。


「そこはグランツたちが嫌いな船でしかいけない海道だね。ほらこことここの間をちょこっと船で行くだけで、貿易船みたいに外の海じゃないからそこまでは揺れないらしいわ。まあ、私も行った事が無いからわからないんだけどね」

 

 マリアの示した場所の地図を良く見ると、確かに内海みたいな状況になっている場所のようだ。

 それに、大陸と島との距離が一番近そうな場所を通っているみたいなので、乗っている時間もそれほど長くはなさそうだ。


「なるほどな。って、良いのかグランツ? このルートだと船があるみたいだけど」


「……まあ、仕方ないだろう。それに、マリアが言ったとおりあまり揺れねぇって話しだしな。なんにしても、ここが一番安全にウグジマシカへといけるルートなんだからよ」


「このルートが一番安全ならしかないんじゃないかしら」


 少し情けない顔をしながらも、グランツは安全のためにこのルートを進めてくれたみたいだ。

 イザベルも同様にこのルートで進むことを了承してくれたみたいだ。


「――ありがとう。そして、これからもよろしく!」


 その後、旅に出るのに何が必要かなの話し合った後、解散就寝することにした。


   

 そして翌朝?

 ダンジョン内なので時間は分かっていないけど起きた後、俺達はダンジョンでの拠点を撤収し街への帰還していく。

 もちろん俺が魔法で加工したものなどは全て元に戻し、ただの広場へと戻してある。


 帰還の道中にも魔物と遭遇することは結構あるのだが、休息をしっかりとった俺達はサクサク倒して解体せずにそのままアイテムボックスへと収納していく。

 相変わらず俺のアイテムボックスが有効活用され、じゃんじゃん魔物を飲み込む様子をエリクが「相変わらず凄いですね」と少しうらやましそうにつぶやいた。

 実際、容量がどの程度あるのか分からないが今のところ入りきらなくなったことは無いし、中に入っているものが腐ったりすることも無いのでかなり重宝している。

 

 他人と比べたことが無いので分からないが、話を聞く限り冒険者で俺ほどの容量を持つ人は皆無で、うわさで宮廷魔術師クラスならかなり大容量の人は居るらしい。

 ただし、中には行っている物の時間経過が進まないのは俺のアイテムボックスのみらしいので、これは多分勇者仕様なんだと思う。


「それにしても、昔はあんなに苦労したのに今じゃ鼻歌交じりに倒せるとはね」


 第二層から第一層に戻ると敵のランクがかなりダウンし、襲って来たウルフの集団を切り裂きながら簡単に魔物が倒せることにグランツが感慨深げにつぶやく。


 第一層の魔物はデミゴブリンなどの元の世界のRPGでは雑魚モンスターと言われる魔物ばかりだが、実際に自分の命がかかっている事を考えればどの魔物も結構怖いんだよね。

 何日もダンジョンに篭る事を考えるとかすり傷も受けない方が良いし、もし骨折など使用ものなら回復魔法が使えないパーティであれば危機的状況に陥ってしまう。


 まあ、ゲームとリアルでは全く別物なんだけど、意外とゲームの時の感覚が抜けなくて気が抜けてしまって困る。

 それに、とあるゲームではスライムは最下級モンスターだがリアルになるとまた別である。

 俺は未だ遭遇したことは無いが、もし魔法使いが居ないパーティで遭遇したならかなりの確率で全滅するほどの強さなんだとか。


 ただ、グランツ達が一層の魔物が簡単に倒せるのは元々技量が銀等級位あったからなんだけど、装備が貧弱すぎてかなり苦戦していたんだよね。

 それが改善された今となっては、二層目の魔物であっても単体であれば一人で倒せる程のレベルに達している。


 難易度が緩くなっている一層ではあるが、グランツは気を抜かずに周囲に目を配らせながら通路を歩く様子は、流石リーダーだなと感心してしまう。

 一歩後ろを歩くイザベルは少し気が緩んでいるように感じられるが、ルーシー達二人は流石に緊張感を持ってその後ろを付いていっている。

 ただ、最後尾の俺の横にいるマリアだけは――完全に気が緩んでいるように見受けられた……なぜなら。


「ねえトマ、街に戻ったら一緒にお店周りましょうよ。ちょうど戻った頃には入港祭りやっていると思うの」

 

「あーマリアさん。一応まだダンジョンの中なんですけど」


「ぶーいいじゃない。この辺りの魔物なら後れを取ることなんてないでしょ?」


「いやまあそうだろうけど、流石にもう少し緊張感を持たないと怪我しても知らないよ」


「――トマのいけず」


 頬膨らませてプイッと顔をそむけるマリアの頬突きたくなるが、流石に今は自重して念の為周魔法で周囲を索敵しておく。

 一応こちらへと向かってくる魔物は居ない様だけど、魔物がいつどんなタイミングで湧いて来るのかがよくわかってないので、索敵だけはしっかりやっておかないとな。



「はぁ。お前達流石にもう少し自重してくれ。もう少しで休憩にするからそれまでは叱り警戒してくれよ」


 グランツがため息を付きながら俺とマリアに注意を促す。

 ぶっちゃけ俺のせいじゃないんだが、それを言ってしまうとマリアがへそを曲げそうなので自重しておく。


「よし。そこを曲がったところでいったん休憩するぞ」


 そのまま暫く通路を歩き休憩できる場所まで移動する。

 そこは広場のようになっており――まあ、ぶっちゃけて言えばトロールと戦ったあの広場だったりもする。

 グランツは広場に魔物や人が居ないか確認した後、俺達を手招きして広場へと向かって歩き出す。


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