旅立ち準備
勇者様が持っている、すまーとほん?とかいうのを動かすのに、なにかぐるぐる回して楽しそうだなって見ていたら勇者様がぐるぐるやらせてくれた。ぐるぐるまわすと、明るくなって私じゃ良くわからないのだけど光が付いているからそのまま回していれば良いって言われたのでぐるぐる回してるの。
ぐるぐる回していたら、司祭様がやってきて勇者様とアイリス様が一緒にお出かけしていっちゃった。
カトレア様にそのままぐるぐる回しているように言われて、ずっとぐるぐる回しているんだけど、ちょっとあきてきたった。でも、これもお仕事だから頑張らないといけないね。
byリリー
アイリスは、セクメトリー様をとても崇拝しているようだ。
それにしても、アイリスの心の声をが聞こえてしまっているのだけど大丈夫なのか。
「大丈夫ですよ、あなたに直接話す言葉はこの子には聞こえませんし、あなたの思考がこの子に伝わる事はありませんよ。それにこれなら、この子の本音が聞けますよ。」
流石にそれは、良くない無いんじゃないかな……。いやね、実際聞いてみたいと思いますよ。でもね、ほら、興味があるだったら良いけど、無関心とか嫌いだったらすごく悲しいんでけど。でもまあ……ちょっとは知りたいよね……いやいや、でも……。
「アイリス、前にも言いましたがそう畏まらなくても良いのですよ。あなたは先代勇者の従者として勇者を支え、世界を救った英雄の一人なのですから。」
「恐れながらセクメトリー様、私は勇者様只の従者です。世界を救われたので神々と勇者様、そして勇者様の他の従者達です。私は、勇者様達の手伝いをしていただけに過ぎません。」
「ふふふ、相変わらずのようですね。まあいいでしょう、アイリス此度召喚された勇者に付いてどう思いますか。」
俺が聞いていい物か迷っているうちに、セクメトリー様はアイリスになんかとんでもない事聞きだし始めた。
「シクラ様ですか……とても紳士的な方だと思います。」
アイリスは少し考えてからそう言うが、俺とセクメトリー様には心の中の声は丸聞こえである。
(シクラ様は、奥手過ぎますね。私達とあまり目を合わそうとしないし、先日の浴場では気を失ってしまいますし、勇者なのですからもう少ししっかりしている方だと思ったのに……それに私を可愛言っていましたし女性と付き合ったことが無いご様子、もしかして周りに女性が全くいない所からいらしたのでしょうか。)
心の声が聞こえるって怖いですね、いやはや滅茶苦茶言われてますよ。というかしょうがないでしょ、現実世界じゃ女の人と話す機会なんて家族以外に居なかったし、メイド達はみんな可愛いんだからまともに話せるわけないじゃないか。
「そうですか、まあいいでしょう。それでは先ほど私と勇者が話していたことは理解できましたか。」
「私にはセクメトリー様の声が断片しかわかりませんでしたが、シクラ様が今すぐには帰還できないと言うこ事と、信仰を集めれば帰還が可能と言うことは理解でしました。それと……シクラ様が女性とお付き合いしたことないと言うことも。」
最後の言葉は少し言いずらそうだったが、さっきまで話していた内容でわかっていることをセクメトリー様に伝えていた。
セクメトリー様に聞かれた事を答えているだけなんだけど……アイリスさん、少し手加減してください……。
でもしょうがないじゃないか、俺は元の世界ではモテなかったし。この世界でも変わらないだろう……というよりもこの世界の方が余計にモテないんじゃないだろうか……周りは皆西洋風の彫の深い顔なのに、俺は完全に平たい○族……容姿か違いすぎる。まあ勇者ならそれでもモテるのかもしれないけど、俺は勇者ではないし世界を救うことも無いだろうから無理だろうね。
「ではアイリス、シクラのこれからの事を皆に説明し、手を貸してあげなさい。」
「かしこまりました。国王様へ報告し、今後の対応を相談してまいります。」
俺が色々考えているうちに、セクメトリー様はアイリスの話しは終わったようだ……俺は全く聞いていなかったけど。
「アイリス最後に一つ、聞いておきたいことがあります。」
「はい、何なりとお聞きください。」
セクメトリーの声が先ほどまでとは違い、何故か妙に楽しそうな感じに聞こえて、俺は少し嫌な予感がした。
「シクラがこの世界に残ったとしたら、結婚し子を成すことは出来ると思いますか。」
「遠方の国ではわかりかねますが、このイオリゲン王国や周辺国では引く手あまたかと思います。」
「だそうですよシクラ。」
アイリスは、セクメトリーが何故そんなことを聞いてきたのかわからず首をかしげる。前勇者もそうだが、アイリスからすると勇者は身近に控えてはいるが手が届かない人達なのである。
実際には、この世界では十誠以上の好物件はほとんど存在しない。
召喚の時期がずれて勇者として魔王討伐はしないが、勇者として召喚されたこと自体が重要なのである。
召喚を願うのは人だが、実際に勇者を選定し召喚するのは神である。そして、神々と対話が出来るのは勇者とその血を引く子孫だけなのである。これだけでも十誠の価値は計り知れない、なぜなら本当に神がいる世界だからだ。
そして、人格的にも召喚された時点で性格がおかしい人が召喚されることはないので、実際に会って居なくて人柄が分からなくても間違いないのである。
勇者とはこの世界を救う者である。
世界を救うには、この世界の住人と協力しなければならない為、容姿もこの世界で好かれる容姿の者が選ばれるのである。
召喚された勇者とは地位、性格、容姿、全てがこの世界基準では揃っている最高峰の存在なのである。
ただし、この事実を十誠が知るのはかなり先になる。
なぜなら、アイリスが十誠の事がモテると本気で思っている事はわかったが、アイリスが前勇者をかなり尊敬しているのを知っているので、アイリスの勘違いだろうと結論付けた。
「結婚とかは置いておいて、今後どうするか色々検討して再度来ます。」
「そうね、どちらを選ぶにしても支援はします。よく考えていらっしゃい。」
壁画を照らしていた光が消え、部屋も元の明るさに戻っていく。
アイリスから手を離し、ため息を付きながら天井を見上げていると、司祭から声を掛けられる。
「シクラ様、セクメトリー様とのお話を詳しくお聞きしたいのです、まずは腰を落ち着ける場所へ行きましょうか。」
教会からお城の応接室まで戻ってきた、この部屋には先ほどの聖堂に居た人しかいない。
先ほどの話を大臣と司祭に説明したが、二人ともかなり困惑していた。
「シクラ様は、どうされるおつもりですか。」
「元の世界に帰る方向で考えています。」
「左様ですか、それでは私は国王様に今回の内容をお伝えしてきたいと思います。」
大臣は俺答えを聞いた後、今後俺に対してどうして良いのか判断が付かない為、すぐさま部屋を出て行った。
「ではシクラ様は今後、神々の信仰心を集めに旅に出られると言うことですね。」
「そうなりますね、神様達に祈る人が増えれば俺も早く帰れるそうですからね。ただ、どうしたら祈る人が増やせるのかがわからないんですけど、帰るのを諦めたくはないんです。」
司祭は、「どうしたものでしょうか。」と言いながら一緒に考えてくれた。
アイリスが淹れてくれた紅茶を飲みながら、三人で色々考えてみた。
信仰心とは一体何なのか。どうしたら集められるのか。どうしたら効率良く集められるのか。旅の目的地は何処にするのか。一人旅では色々と難しい為、仲間をどうやって集めるのか。
まず、信仰心とは。簡単に言えば、神に感謝するという事である。信仰心を集める方法は、司祭で有ればいろいろな場所を周り、怪我や病気の治療をして行けば良いのだが、俺は魔法が使えないし病気も治せない。
しかし、勇者というネームバリューを使い、世界平定の為に旅をしていると回るだけで良いのではないかとの事。魔王討伐は成されたが、魔王による魔物の活性化や増加によって困っている街や村々も多いとの事。魔物の退治や困り事を解決していけば、勇者を召喚した神々へ感謝して信仰心が溜まるだろうとの事。
問題点は、俺が戦った事がないや加護を受けた場合にどの程度の強さが得られるかによって、対応が変わってくるのでこの件は後日また相談となった。
目的地だが、他の神々の神殿を周り助言を受ける事をした方がいいとの事だ。他の神々も信仰心が必要だろうから、こちらから協力を申し出れば神々も協力してくれるだろうとの事。回る順番は、セクメトリー様と相談した方がいいとの事だ、順番を気にする神が居た場合いい顔をしないだろうからとの事。
そして重要なのは仲間だが、これについては国王様と相談した方がいいだろう。人員や移動手段それに金銭についても相談しなければならない。
暫く話し合っていると、大臣が戻って来たので先ほどまでの内容を説明する。
「先ほど、国王様と相談して参りました。全面的にとは申せませんが、ある程度なら支援させて頂けるようです。」
「ありがとうございます。明日には再度セクメトリー様に拝謁して、旅の準備をしたいと思うのですけけど、この世界に付いて疎いので旅に何が必要かがわからないので、そのあたりを相談できる方を紹介して頂けませんか。」
「それでしたら、シクラ様の側仕えのアイリスが詳しいと存じます。あの者は、勇者様と旅をしていたのでその辺りは詳しいと思います。」
大臣はちらりとアイリスの方を見ると、アイリスは頷き必要なものを集めてくれるとの事だ。装備は俺が何が出来るか分からないため、セクメトリー様から加護を貰ってから決めるとの事になった。金銭もある程度国が出してくれるとの事で、その中で装備や食料などを購入することにした。
目的地は、イオリゲン王国より東にある、ウグジマシカ神聖国である。
ウグジマシカは、過去の勇者たちもまず初めに訪れる国であり、七柱の神々それぞれの教団支部があり宗教色が強い国だが、首都には第一神タケミカヅチを祀る教団本部があるとの事だ。
神々に序列があるため、世界各地を回るなら首都のタケミカヅチ教団本部に赴き、タケミカヅチ様に拝謁しないと他の神々が拝謁を許可しない事があるそうだ。
ただし、元の世界と違い道路は整備されていないし、移動手段も徒歩か馬車の為ウグジマシカ国に入るまでに徒歩で十日、首都までさらに十四日も移動にかかるらしい。
明日には、加護でどの程度戦えるのか確認しないといけない。過去の勇者達は、訓練等しなくても剣術や魔法が使えるようになるとの事で、俺の場合はどの程度の加護なのか確認しなければならない。
今後の方針が決まったが、どのみち加護を確認しないとどうしよもないので、司祭には明日の準備をしてもらい、大臣には国王様に今回決まった件を伝えてもらうことになった。
アイリスは、最低限必要になる物を買出しに街に行ってもらい、ウグジマシカ神聖国までの街道の情報を集めてもらうことにした。
因みに、リリーのおかげで携帯の充電はばっちり回復していた。
その後、一人で風呂に入りメイド達に見られながら、ひとり寂しく食事をして就寝した。
寝る前にまたアイリスが護衛に付くとひと悶着あったが、カトレアが今朝の事を仄めかしアイリスを回収していった。
翌朝、着替えと朝食を終えた後再び教会へ向かった。昨日同様のメンバーで、兵士たちは付いて来ない様だ。そして、聖堂にて司祭にセクメトリー様を呼び出してもらう。
「あらシクラ、昨日の今日でもう来たので。それで、どうするか決めてきたのからしら。」
「はい。俺は世界を周って、信仰心を集めて元の世界に帰ろうと思います。」
「そう、それで良いのならあなたの考えを尊重しましょう。大変困難な道でしょうけど、頑張りなさい。それと先日話をしていた加護をあなたに授けますが、今は私の力が弱くなっている為強力な加護はあなたに与えられませんが、本当に良いのかしら。」
「元の世界には家族もいますし、少なからず友達も居ますから……帰れるのなら帰りたいのです。」
セクメトリー様はしばらく何もおっしゃらなかったが、小さくため息を付いた。
「やはりあなたも勇者としての資質を持つ者ですね、困難と分かっていても進み、そしてあなたならそれを乗り越えられるでしょう。それではシクラ、私の壁画に手を付き目を閉じなさい。」
セクメトリー様の指示通りに壁画に手を付き目を閉じる。
「我は第四神にして、勇者を導く者成り。勇者シクラトウマに、我セクメトリーの加護を与える。」
目を閉じていたにも関わらず、眩しさを感じさせる光が俺を包み込む。
直ぐに光は消え、元の明るさに戻ったようで目を開ける。
「これであなたに勇者の加護を与えました。しかし、本物の勇者の加護程の強さは無いので気をつけなさい。旅をしながら、人々を救い信仰心を集めて来なさい。他の神々も、あなたの事を気にかけてはいますが今はまだ力を貸すことが出来ないようです。ただ、あなたが信仰心を集めて行けば、他の神々もあなたを助けてくれる事でしょう。さあ行きなさい、あなたの旅路に幸あらんことを願います。」
「セクメトリー様、ありがとうございます。必ず、神々の信仰心を集めて参ります。」
こうして、神の加護を受け旅立ちの準備は着々と進んでいくのであった。
次回更新も恐らく月曜日になります。