失敗勇者と鉄の盾
いつも読んで頂きありがとうございます。
これで第二章完結となりました。
これからも頑張って書いていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
二日ほど滞在しましたが、この街でもシクラ様の有力な情報を得ることはできませんでした。
今までも特にめぼしい情報があったわけではなく、前にシクラ様が目的地とされていたウグジマシカ神聖国まで向かう間に、何か情報が無いかと思っていただけですが……本当にシクラ様はウグジマシカへ向かわれるのでしょうか?
まあ、国内に転移か何かされたのであれば王都へ戻ってくるはずですので、流石にこの街で情報を得ることは無いかとは思ってはいたのですけどね。
ミガーサの街を出て既に一日が経ち、もうしばらく進むと国境の関所が見えて、そこから先はウグジマシカ神聖国。
主神タケミカヅチ様を国として祀り、信仰の自由を掲げている国で首都にはすべての神々の大神殿があるらしい。
そして、過去の勇者様で世界に残られた方の殆どはウグジマシカで暮らされたとのことらしい。何でも日本食なる勇者様の国の食べ物があるかららしいですが、私もそこまで詳しくは知らないので楽しみですね。
それは楽しみなのですが、一緒に乗るアイリスるの機嫌が今日は最高潮に悪く、馬車の中の空気が物凄く悪くてたまりません。
その理由を聞いたのですが……なんでもウグジマシカ神聖の入国の際に鑑定の魔法をかけられ素性を調べられるそうなんですが、そこで勇者の従者と言う事がばれるのが嫌なのだとか。
まあ、当の勇者が不在なのに従者だけで入国するのであれば不審がられる可能性もあるでしょうし、恐らく過去の勇者様の際に何かあったのでしょう。
ガタゴトガタゴトと舗装されていない道を走る馬車が速度を落とし始め、私はそろそろ関所が近づいてきていることを感じ取った。
アイリスも同様に感じ取ったのでしょう、物凄く不機嫌な顔になり窓から見える景色をにらみつけていますわね。
しばらくした後馬車が停車し扉がノックされ、扉の外から声をかけられるのだった。
「トマーーーー! 」
「うん? グハ!」
トロールを倒して安堵していた俺をマリアが大声で呼ぶので振り返ると、突進してきたマリアが俺に飛びついて来た。
身構えていなかったので受け止めきれず、突き飛ばされるような勢いで地面に押し倒された。
「本当に倒しちゃったんだね! 大丈夫? 怪我とかしてない?」
「ああ、大丈夫だよ。上から見てたでしょ」
「見てたけど……あんなに早い攻防なんて目で追いきれないわよ」
あーそれもそうか。
マリア達にかけていた強化魔法は既に切れてただろうし、もし切れていなくても動きについていけてないか。
「そっか。怪我はしてないから安心して」
「うん、わかった。アシュリーとコンラートにはトマの事話たわ……それと、グランツ達も目を覚ましたけどまだ動ける状態じゃないわ」
「わかった。とりあえず皆の所に行こうか――一応これだけは拾っておかないと」
俺はトロールの魔石を拾い上げる――前に倒した魔石持ちのウルフと比べかなり大きな魔石をアイテムボックスへと収納し、二人で皆が待つ壁の向こう側へと向かう。
壁を越えた所でアシュリーとコンラートが立っており、グランツとイザベルは壁の真ん中あたりで背をもたれさせながら座っている。
「よ、ようトマ……さん。あのトロールを倒すなんて凄いですね」
「? どうしたんだコンラート、話し方が可笑しいぞ」
「あー、いや……だってな……」
そう言いながらアシュリーの方へと視線を向ける……ああ、そう言う事か。
アシュリーも視線を向けられどうして良いか分からない感じではあるが、コンラートの視線に肩をすくめるだけで留めている。
まあそうだよな、いきなり俺が勇者って言われてもピンとこなかったかもしれないけど、魔石持ちトロールを一方的に倒すなんて銀等級では通常あり得ないからな。
「色々秘密にしてて悪かったと思ってるけど……その辺りもグランツ達が回復したら話をしようと思うんだけど、それでいいかな?」
「二人とも何でそんな風なのよ! 私達に危機をトマが救ってくれたんだからもっと喜んだりしたらいいじゃない!」
マリアを宥め二人を促してグランツ達の所へ向かった。
二人は並んで座っているかと思ったら、イザベルは片腕が無くなってしまったグランツの肩に頭を預けるようにもたれかかっていた。
グランツが俺達に気が付き、少し無理をした笑顔をこちらへ向けてくる。
「ようみんな……トロールの野郎はどうなった? 」
「倒したよ――ほら、これがそのトロールの魔石だ」
俺はアイテムボックスから拳よりすこし大きな魔石皆に見せる。
皆一斉にギョッとした表情をしたが、次第にすこしニヤつき出しす。
「やったんだな……」
グランツが顔を上に向け天井を見ているのかと思ったら、頬に涙が伝っていた。
他の皆も同様に泣き出しているし、イザベルに至ってはグランツの胸にしがみつくように泣いていた。
俺一人だけ頭にはてなマークを浮かべ、皆が落ち着くまで待とうとしたのだが――マリアがこっそりと教えてくれた。
「……グランツの腕が無くなってしまったから……もうこのパーティは――解散になっちゃうの。だけど最後に強敵を倒して皆が生きているから……ね」
ああ、なるほど。
そう言えば白虎の人達と会った時もミモザさんの腕が無くなってしまって、その魔道具を購入するときのいざこざで知り合ったんだったな。
あの魔道具とか滅茶苦茶高かったから普通ならこれで引退になるのか……だけど。
「感動してるところ悪いんだけど……グランツとイザベルはまだ聞いてないのか?」
「……なんのことだ?」
この反応からしてまだ何も聞いてないな。
三人に視線を向けるが皆首を振っており、誰も話していない様だ。
話すより実際に見せたほうが早いかな?
「とりあえず腕を治すぞ『無限再生回復』
「おい、治すって……な、なんだ!?」
魔法が発動するとグランツの切断された腕の部分から、逆再生のように腕が骨が出来筋肉が出来て――最終的に綺麗に腕が再生した。
「「「……はぁああああ!?」」」
「あはは……やっぱりトマなら治せちゃうんだね。うん、そんな気がしてた」
マリア以外皆は、グランツの腕が再生したことに驚いて変な叫び声をあげていた。
この様子だと、アシュリー達もマリアが俺の事を勇者だと説明した事を信じ切って居なかったようだね。
「ど、どど、どう言う事だよ!? 何で俺の腕がまた生えてきたんだ? それにさっきの魔法……無限再生回復って……まさか……トマって……」
「まあ、色々あって内緒にしていたんだけど――今の勇者なんだ俺は。……って、おーい生きてるか?」
俺の言葉に絶句してグランツとイザベルは面白い顔で固まり、アシュリー達も俺の発言とさっきの魔法で信じて貰えたようだけど……うん、マリア以外フリーズしてるな。
俺が目の前で手を振っても反応が無い……あ、今のうちに魔物避けでも撒いて来よう。
俺はまだ効果が続いている身体強化で高速移動して、入り口付近に魔物避けの粉を撒いてすぐに戻る。
「は、ハハハッハハハハハ……」
「えっと、あのトマ……様? 今一体……何をなされたのでしょうか?」
「様は必要ないからねイザベル。入り口に魔物避け撒いて来ただけだよ。グランツを直ぐに動かすのはあれだし、皆も休憩が必要だろうから……それに、説明もしておきたいしね。おーいグランツ、そろそろ戻って来いよ」
様付けなんて同じパーティなんだし――仲間なんだから止めて欲しいよね。
それとグランツが現実逃避していたので頭をコツンと叩いておいた。
「……なあコンラート、さっきの見えたか?」
「いや、トマが消えて風が起こったと思ったらすぐにまたトマが現れたようにしか見えなかった」
「因みにアシュリーなら近い動きが出来ると思うよ。ほい、無限身体強化」
「ちょ!いきなり……なにを……え?」
アシュリーは急に俺が身体強化をかけて驚いていたが、恐らく今はその効果で周りがかなりおそくみえているのだろう。
無限身体強化は身体強化少し特殊で、力などが上がると同時に施行速度や動体視力も強化されるため、アシュリーは今皆がゆっくり動いているように見えるのだろう。
「え? アシュリー? って、そ、それは!」
コンラートが困惑したような声を上げた。
それもそのはず、にやりと口角を上げた瞬間アシュリーの姿は掻き消え、少し経ち戻ってくるとその手にはウルフを一体持って現れたのだ……まあ、俺には見えてはいたんだけど物凄くいい笑顔でかけていっていたな。
「おう、ちょっとそこまで行って一匹狩ってきた」
「な、んななん、なんなんだよそれ!」
「あっはっは! スゲーなこれ、世界が止まってるかのように早く動けるし、こいつ俺に全く気が付かないまま倒せるし、勇者の魔法ってスゲーな!」
子供のようにはしゃぐアシュリーは珍しく、他の皆もぽかんとした表情でアシュリーを見ていた。
「あれ? 俺は頭も可笑しくなったのか? アシュリーが消えて魔物を持ってきたぞ。もしかしてアシュリーも勇者なのか? あははははは」
流石に回復していたグランツもぶつぶつ何か言っているが、まあ落ち着くまで待つしかないかな。
その後、アシュリーは身体強化が切れるまで風を起こしながら広場で体を動かし、満足した様子で戻ってくるまで少し時間が掛かった。
そして、皆が落ち着いたのを見計らい、一通りマリアに説明したような今までのいきさつを皆に説明しておいた。
「まあ、そんな感じで俺はここに来たんだが……大丈夫か?」
「あ、ああ。何とかな。それにしてもトマが……いや、シクラが勇者だったとは……いや、あの訓練場でギルマスとの戦いを考えればあれでも手を抜いていたのか?」
「今までどおりトマって呼んでくれ、どこで何があるか分からないしさ。まああの時流石に本気を出したら簡単に勝てちゃうし、冒険者証を貰うためだけだったからね」
ガーネットに転移させてもらったものの着の身着のままだった為、武具はイオリゲン王国の物で売るわけにはいかなかったし、金銭を一切持っていなかったから生きていく為にお金を稼ぐ必要があったんだよね。
ファンタジー定番の冒険者と言う職業と勇者としての力があったから良かったものの、もし魔物とかを倒してお金を稼ぐことが出来ないとか元の世界の力のままであれば飢え死にしていたのは間違いないだろう。
「一つ聞いておきたいんだが。トマはこれからどうするつもりなんだ?」
「うん? どうするとは?」
「あ、いやな。流石に俺たちは誰かにトマの素性を話したりはしないが、流石にトマの実力なら俺たちと組まなくても……」
ああ、そういうことか。俺の本当の実力であれば鉄級であるグランツたちではなく、もっと上の冒険者達とパーティを組んだ方が良いのではということなのだろう。
実際の所、そういったパーティに入ったほうが稼ぎなどかなりよくなるとは思うのだけど……まあ、あれだ。
グランツの言葉を考えながら、俺はちらりとマリアをみる。
マリアは少しうつむき加減で寂しそうな表情をしているが、俺の視線に気が付き笑顔を向けてくる……まあ、無理に笑っていることがバレバレなんだけどね。
「はぁ、見損なわないでくれグランツ。冒険者をやるのはお金を稼ぐ為だけど、パーティメンバーは誰でもいいわけじゃないんだよ」
「そ、それじゃあ――」
「ああ、これからもよろしく頼むよ。あーただ、危険じゃない限り勇者の魔法は使わないけど、それでかまわないか?」
「問題ない。いやこれからもよろしく頼む」
そう言って俺とグランツは握手をすると、マリアが飛びついてきたりアシュリーとコンラートがひじ打ちしてきたりして騒がしくなった。
イザベルはそのあたりは常識があるらしく「これからもよろしくお願いしますね」と今までとは違う口調で言ってきた。
後から聞いた話で、イザベルは自分より強い人には敬意を払うらしく、俺への対応が元に戻るまでには少し時間を要すのだった。
話も終わり、みなで食事など休息を終えた後ダンジョンから出ようと通路へと向かったら……。
「おい、なんか凄い魔物の気配がするんだが」
そう言ってアシュリーは通路の方へしのび足で通路へ行き、あせった様子ですぐにこちらへ戻ってきた。
「おい、ウルフがめちゃくちゃ集まってるぞ! 」
「はぁ? 何でそんなことになってるんだ。それに、めちゃくちゃってどのくらいだ」
「奥側の通路に見えただけでも数二、三十は居たぞ」
「あ! そういえば、魔物寄せが仕掛けられていたんだったな。ビンは回収したが流石に効果は継続していたわけか」
「でもウルフちゃんばっかりでしょ? さっきのトロールと比べたら何も問題ないレベルでしょ」
「「「それもそうか」」」
「いやいやおかしいでしょ!」
おいおい、みんな魔石持ちトロールと戦ったせいで何かずれてしまっているようだ。
「トマ聞けって。いくらウルフが大勢居ると言っても向こうはこっちに気づいてないわけだ、しかも通路にたむろしているから逃げ道も無い。その状況でならいい作戦がある」
グランツの作戦を聞いた俺はなるほどと思いつつも結構無茶だなとも思ったが、今の俺たちの戦力なら問題なく倒せそうな感じがして作戦に乗った……そして。
魔物たちとの戦闘が終わりって俺の第一声は――。
「……なんでやねん!」
関西人でもないのだが、突っ込みを居れずには居られないような状況だった。
少し時間が遡り、魔物との戦闘前。
グランツの作戦は魔物避けの効果でこちらへ気が付いていない魔物へ先制攻撃をし、態勢を整える前に一気に殲滅すると言う事だった。
俺とコンラートの超越魔法で相手の体勢を崩し、アシュリーとマリアが弓で数を減らしながらグランツ達が突撃していくという誰でも考えそうな簡単な作戦だ。
「まあ、数の差はかなりあるが問題ないだろう。今回は先制攻撃だからトマも攻撃してくれ」
「はぁ、わかったよ。……いざとなったら何とかするか」
「トマ大丈夫だって。パーティに魔導士が二人もいて、それも二人とも超越魔法が使えるパーティなんて普通じゃいないんだから」
グランツの楽観的な予測に嘆息しているとマリアが肩を叩きながらそう言ってくる。
実際冒険者の中で魔法使いは貴重と言えば貴重なのだ。
基礎魔法であればだれでも使えるが、火力のある応用魔法まで使うにはそれなりに才能と努力が居る。
そして、超越魔法が使える物であれば大体は各国の騎士団へと加入するだろうから、冒険者で使える者は本当に限られる。
そして、魔物が闊歩する通路ギリギリまで歩み寄り、俺とコンラートはお互いの顔を見合わせ頷く。
「行くぜトマ!」
「わかったよ」
魔法を詠唱し終えてから一呼吸開けグランツ達に視線を向けた後、同時に魔法を放つ。
「「『超越風刃乱舞』」」
魔法の発動と同時に数十の舞い踊る風の刃がウルフの群れへと襲い掛かった。
発動句を聞いたウルフの一匹が顔をこちらへ向けたが、その時には既に風の刃が目前まで迫り、気付いた時には既に風の刃に全身を斬り飛ばされている。
直進せずふらふらと動きを変える風の刃は、一瞬にして魔物達を肉片へと変えていった。
「行くぞ! ――かかってきや……がれ? 」
「キャ! グランツ急に止まらないでよ。何があった……ッヒ!」
「あん? どうした……マジかよ」
「やっぱりこうなっちゃってるんだ。予想はしていたけど酷い有り様ね……本当に」
魔物が溢れかえっていた通路は今や、血と肉片がバラまかれたスプラッタな状態になり、辺り一面錆臭い匂いが立ち込めていた。
「……お、おい。これどうするんだよ?」
「ああ、予想を以上の戦果だけど――かなり酷い惨状だな」
「あーそうじゃなくてな。これだと回収できるものが何もないんじゃないかと思ってな」
グランツも流石にここまでの状態になるとは予測しておらず、悲惨な状況過ぎてどうして良いのか困っているかと思ったら、素材が回収できない事に戸惑っていたらしい。
その後皆で肉片とかした魔物から素材を幾分か回収したが――なんと、さっきの群れの中には魔石持ちが二体いたらしくバラバラになった素材よりも儲かってしまったようだ。
再びキャンプへと戻り、俺がアイテムボックスから水樽を取り出し、全員水を被ったりして血みどろになった体を洗う事になった。
だけど――まあ、誰も怪我することなく魔物達を倒せたから良しとしようかな。
皆の衣服などが乾いた後、俺達はダンジョン入り口まで向かった。
道中何度が魔物に襲われたりもしたのだが、問題なくサクサクと倒してダンジョン入り口の扉へと難なくたどり着くことが出来た。
ダンジョン出た時は太陽が真上にあり、ダンジョンに一日半ほど潜っていたようだ。
今の時間帯からであれば昼には街には戻れると言う事なので、眩しい太陽光を浴びながら俺達は辺境都市ユピリルへと戻って行くのであった。




