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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第二章

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73/220

失敗勇者と変異種トロール

 私たちは、アイリスの実家でありミガーサ街の領主でもあるカタギリ騎士爵の邸宅へ案内された。

 案内された邸宅は、今まで王都からやってくる間に立ち寄った他の領主の邸の中でも上位に入る屋敷で、爵位の中で最下層と言われる騎士爵邸とは思えないほどの大きさだ。

 そこには勇者の血を引いていると言われている通り、日本人のような風貌をした黒髪の男性が入り口で二人のことを待っていた。

 待っていた人こそ、カタギリ騎士爵領の領主であるマリク=カタギリ騎士爵であった。

 普通の貴族であれば当主自らで迎えるのは相手が上位のものに限られ、いくら娘が帰って来たからといって迎えに出ているのはおかしいのであるのだが、ここは王都のヒエン侯爵に聞き及んでいた人柄に間違いはなかったようだ。


 出迎えてくれたカタギリ騎士爵様に挨拶をしたのだが、アイリスは犯行期の娘のようにつんけんしており、その様子にカタギリ騎士爵も肩を竦めていた。

 しかし、そんなことは気にした様子もなく私たちを屋敷に迎え入れ、応接間へと私たちを案内して旅の目的や今までの経緯を穏やかに聞いていただき、この街に滞在中はこの屋敷で寝泊りして良い許可をいただいた。

 今までの領主たちも最終的には許可を頂いたのだが、カタギリ騎士爵のようにすんなりと許可をいただけたのは少し驚きだった。


 その後、私は屋敷のものに部屋に案内をされたが、アイリスは流石に自分の実家ということもあり部屋へ向かおうとしていたのだが、父親に呼び止められ少しうんざりした顔を一瞬浮かべた後、再び部屋と戻っていった。

 その後、夕食時に再び再開したアイリスは少し不貞腐れた感じをしていたが、さっきのことはわたしには特に何もいってこず、普通にカタギリ騎士爵家の方々と食事を楽しみ、久しぶりの柔らかいベットに入り私はすぐに寝入ってしまう。


 



「ゴアァァ!!」


 トロールは雄叫びを上げこちらへゆっくりと近づいて来る。

 それはまるで肉食獣が追い詰めた獲物を逃がさない様にする為かのようだ。


「トマやるぞ!『上級多重石弾アドバンスドマルチプルストーンバレット』」


「わかった!『上級麻痺水縛アドバンスドパラライズウォーターホールド』」


 今までの戦闘と同様にコンラートが攻撃魔法、俺が阻害魔法を使い相手の出鼻を挫く。

 コンラートは数十個の石弾を作り出し、わざと狙いを甘くして回避できない様に放った。

 

 避けきれないと考えたトロールは腕をクロスに構え、急所への一撃を防ぐがそこへ俺の阻害魔法が地面から沸き起こる。

 石弾のいくつかはトロールへと命中し傷をつけることに成功したが、直ぐに傷は回復し何事もなかったかのような状態になっていた。

 そしていやらしいタイミングで襲い掛かった俺の阻害魔法はレジストはされなかったが、魔石持ちのウルフと同様にあまり効果があった様には見えな。

 

 そして今度はこちらの番と言うかのようにトロールが腕を振り上げながらこちらへ迫ってくる。


「やらせん!」

「はぁあああ!」


 グランツとイザベルがトロールへ駆け出し、グランツはその大盾でトロールの一撃を受け流した。

 態勢が崩れたトロールへとイザベルが戦斧を振り下ろし、殴りかかって来ていた右腕を切り落とす。

 

 しかし切断された右腕は瞬時に再生され再び殴りかかってこようとするが、何かに気が付き即座に顔を防御する。

 防御したトロールの腕には二本の矢が刺さっており、後方からアシュリーとマリアが牽制の為に撃った矢を防御していた。

 それが嫌だったのかそのまま俺達から距離を取るのだが、腕の隙間から見える瞳はギラ付いているように見え、トロールは戦いを楽しんでいる様にも見えた。 


「さて、とりあえずこれで仕切り直しだな。一応強化魔法のおかげで一撃を防ぐことは出来そうだが、こちらの攻撃があたっても回復しやがるな」


「そうね。流石に腕を切り落としてもあの速度で再生しちゃうなんて卑怯よね」


「だがあの再生力も無限ではないんだ。再生できなくなるまで体力を削りまくるしか無いだろう」


「もしくは火で傷口を焼くかだが……さっきのコンラートの魔法でもすぐに追いかけて来たみたいだからあまり期待は出来ないか」


 トロールの討伐の正攻法は腕や足などを切り落とした後、傷口を焼くなどして再生できなくするのが一般的である。

 武器を持たずともその強靭な腕やその重量を生かし体当たりなどの攻撃手段を持つが、それも身動きが出来なければ何もできることはないからである。

 ただ、今回のトロールは魔石持ちと言うこともあり異常な再生能力を持っており、瞬間的に再生される傷口を焼くことが出来ない。

 今回は正攻法での攻略は難しいく、討伐するのであれば相手の再生力がなくなるまで削りきるしかないのである。

 他にも討伐する方法はあるのだが……その方法は今のグランツたちでは不可能なので除外していた。


「さてそろそろ第二ラウンドか。阻害魔法はあまり効果が無いようだからトマも攻撃に回ってくれ」


「……わかった」


「来るぞ!」


 俺は少し思う所があったが、リーダーであるグランツに従うことにした。


 そしてこちらの会話を理解しているのか分からないが、俺達が態勢を整え終わるの待っていたかのように再びこちらへ歩んでくる。

 グランツは盾を体の前に構え腰を落とし、トロールがいつ来てもいいように準備をし、グランツの体に隠れるように後ろには戦斧を構えたイザベルが居る。

 俺は視線を動かし横を見ると、コンラートが杖を構えいつでも魔法を使えるように準備しており、その置くにはアシュリーとマリアが弓に矢を番えいつでも射ることが出来る状態で待機している。


 トロールは急ぐでもなくドスドスと歩いてきて――徐にグランツの盾に拳を振るう。

 鈍い音がしてグランツの盾に拳があたるが、グランツもトロールもどちらも問題がなさそうだ。


 トロールの一撃はさっきの一撃とは違い弱めの為、グランツはその攻撃を見切り受け流しではなく受け止めたようだった。

 イザベルもその攻撃につられること無くグランツの後に隠れ、一撃を入れるタイミングを計っている。

 俺達も手を出すべきタイミングではないと思い何もしていないが、それ自体がトロールにとってはなにか琴線に触れたようだ。


 ニタリと口を歪め、戦闘狂のような表情を浮かべるトロール。


 盾に受け止められた腕を引き戻し、今度はもう片方の拳で殴りつける――いや、これは!


「ウゴァアアアアア!」

 

 雄たけびを上げながら、左右の腕で交互にグランツの盾に拳を打ち付けていくが、徐々にそのスピードをあげながら拳を打ちつける。

 始めは余裕そうにしていたグランツも、徐々に苦しそうな声を漏らし――。


「グハッ!?」

 

「グ、グランツ!」

 

 急に襲い掛かってきたフック気味の一撃を受け、通路の壁に打ち付けられてしまった。

 このとき何故か皇太子妃のハンナさんの手紙に書いてあった「後悔しない判断をしなさい」と言う言葉が何故か脳裏を過った。


 吹き飛んでいったグランツを見ていたトロールだったが、グランツが動かなくなりつまらなそうな表情をした後、標的をイザベルに変更し――イザベルにトロールの拳が迫る。


 だが、イザベルの防御手段と言えば戦斧で受けるしかなく、しかもグランツが倒されたショックで反応が遅れたイザベルにトロールの拳が……!


「グルゥ……」

「トマ!」

「ああ!」

「「『上級茨束縛アドバンスドソーンバインド』」」


 直撃すると思われた瞬間……アシュリー達が放った矢が顔面に迫り、トロールは再び腕を盾にした後数歩後退する。


 そして、俺とコンラートは物理的阻害魔法である上級茨束縛をトロールの目の前の通路に放ち、茨の付いた蔦が通路を網目状に覆った。

 実はこの連携は見張りの最中暇だったので、コンラートと仲間に何かあった場合の対策として話していたのである。


「イザベル! グランツを回収して下がれ! 」


 アシュリーの叫びに反応したイザベルは、グランツを背負って俺達が居る高台の裏――前にキャンプをしていた場所まで後退する。

 何故だかトロールは、俺達が作った茨を引き裂いては来ず様子を見ている。

 運ばれてきたグランツの様子を見る為、この場をコンラートへ任せ壁から飛び降りてグランツの元へ向かう。

 

「っく! す、すまない」


「大丈夫かグランツ――って大丈夫じゃなさそうだな」


 グランツは先ほどの攻撃の際ギリギリ盾で受けてはいたのだが、そのせいで腕が変な方向を向いていた。

 他にも打撲や擦り傷程度の怪我はあるようだけど、この程度の怪我なら俺の魔法でちゃっちゃと治すことが出来るな。

 

「グランツ、痛むかもしれないが治療するぞ」


 俺はグランツの腕が変な風にくっつかない様にある程度向きを治し、超越回復(トラセンドヒール)を使い傷を治す。

 腕を戻す際にグランツはかなり呻いたが、叫び声を上げずに頑張っていた。

 相変わらず魔法と言う物は素晴らしく、俺の回復魔法で骨折やら他の傷やら全て直してしまった。


「おい皆! そろそろ魔法の効果が切れるぞ!」


 俺がグランツの治療を終えるとほぼ同時に、壁の上からコンラートが声を上げる。

 俺達は直ぐに持ち場に戻るが、グランツは流石に傷は治っても体力は回復出来ていないため暫く壁の裏で休むことになった。


 しかし、そうなると前衛がイザベルのみになってしまうのだが……ここは俺とコンラートの魔法で何とか時間を稼ぐしかないな。


「俺がイザベルに多重障壁を発動させるから、グランツが戻るまでみんなトロールを抑えるぞ!『上級多重防壁アドバンスドマルチプルシールド』」


「任せろ! 『上級砂塵沼アドバンスドダストスワンプ』」


「分かったわ。えい、えい!」


「まったく……良い新入りが入ってくれたもんだ……な!」


「じゃあ私はグランツが戻ってくるまでがんばらないとね」


 俺の端的な支持に皆は全力で答えてくれた。

 コンラートは時間稼ぎ用の魔法、マリアとアシュリーはトロールの嫌う顔面へと矢を放つ。

 イザベルは前に出すぎず、コンラートの砂塵沼を抜けそうになる度にその強烈な一撃でトロールをひるませる。 

 

 ……いいパーティだと思う。ただし、戦力的にはこのトロールと戦うにはかなり厳しいと謂わざるを得ない。

 コンラートは超越魔法が使えるからまだしも、他の面々は装備からしてかなり厳しい。

 もしこのメンバーが白虎ほどではないにしろそれに近しい武具を持っていたのであれば、このトロールごとき問題なく討伐できる技量はあるだろう。

 

 そう考えるとギルドでのランク評価とは――技量のみではなく、装備も含めどの程度の魔物なら討伐できるのかと言った基準なのかもしれない。

 ……その考え方であれば、技量は既に銀級達している鉄の盾が未だに鉄級というのも納得できる。

 そして俺が鉄の盾の面々に恩返しできることと言えば、この勇者としての力を使いみなの後押しをすることだろうか。


 などと、考えながら時間稼ぎをしているとグランツも復帰し、戦線が安定していく。

 しかし、いまだ効果的なダメージを与えられてはおらずジリ貧状態だ。


 グランツが復帰したことにより一旦イザベルを戻し休憩させ、コンラートの砂塵沼からトロールが出てこないようになんとか押し留めている。

 俺とコンラートは威力は高くないが魔力効率と連射が効く魔法で打撃を与え、マリアとアシュリーはタイミングを見計らいながら矢で攻撃している。


 攻撃を受けているトロールはというと……顔の一部や両腕に多数の魔法の打撃痕や矢が刺さってはいるが、満身創痍には程遠い……あれ?

 なんだ、なんだか違和感があるがそれが一体なんなのかわからない。

 

 再びトロールを観察する。

 最初にイザベルに切り落とされた腕は再生して元どおりになっており、その際に受けた矢はそのまま腕に残っている。

 ほかにも俺とコンラートが放った魔法の痕跡はそこら十あるのだが、斬り落とされたりした場所のみそういった傷がない……そうか!


「グランツ! 」


「!」


 俺がグランツを大声で呼ぶと一瞬こっちを見て何かを察し、トロールに対して盾で体当たりして相手の態勢を崩し、グランツ自身も距離を取る。


「さっすが! 『上級多重岩針アドバンスドマルチプルロックニードル』!!」


 多数の細長い岩の針が態勢を崩され、足元の砂でおもうように踏ん張れないトロールへと殺到する。

 トロールは咄嗟にガードをするが、降り注ぐ岩の針が全身に突き刺さり……初めて膝を折った。


「グ……オオオォォォォ」


 今までとは違うトロールの叫びに俺は手ごたえを感じ、コンラートと合わせ再び上級多重岩針を放つ。

 何とか顔面だけは防いでいるトロールだが、既に体中から岩の針を生やしまるでウニのようになっていた。


「行けるぞ! トマ達に続け!」


「ちょ! ま、まてって!」


 俺達の攻撃が効いている事を確認したグランツ達が俺の静止が聞こえなかったのか、この勢いに乗ってトロールを一気に叩こうと向かって行ってしまった。

 しかも休息を取っていたはずのイザベルも駆け出し、グランツの後ろへぴったりとくっ付いている。


「オラァ!」

「食らいなさい!」


動きの遅くなったトロールに向かい盾をぶち当て態勢崩し、その隙にイザベルの戦斧がトロールの肩口から腕を切り落とす。

 そして、そのままラッシュをかけるように二人は再びトロールへと向かって行く。


「危ない!」


 切り落とされた腕を即座に再生したトロールの腕が二人を襲う。

 警告も間に合わず、グランツが盾ごと吹き飛ばされ、背後から攻撃しようとしていたイザベルも巻き込んでこちらへ吹き飛ばされてくる。


「ゴァアアアアアアア!」


 二人ともそれ程ダメージを負った様子はなく、すぐさま立ち上がったのだが……それとは正反対にトロールが再び勢いを取り戻し。


 ブチブチブチと肉を引き裂く音と共に、動くようになった腕で反対側の腕を引きちぎった。


「な、なんて奴だ」


「コンラート! 時間を稼ぐぞ!」


 今にも襲い掛かろうとしてくるトロールを抑える為、コンラートと再び上級茨束縛を放ち時間を稼ぐ。

 やれやれだが、これで一応の道筋は出来たかもしれない。

 そう考えて俺はグランツ達と合流し、今後の対策を相談するのだった。

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