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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第二章

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失敗勇者とはぐれ

「あの方はどこへ行ってしまわれたのでしょうか」


 小さなため息をつきつつそんなことを思いながらアイリスは馬車に乗りながらウグジマシカ神聖国へと向かっていた。馬車は六人ほどが乗れそうな大きさで、装飾も施されていることから貴族の持ち物と言うことが見て取れる。

 馬車の中には彼女の他にもう一人女性が乗っており、その女性は濃い勝色の長い髪を後ろで縛ったベロニカだ。

 憂鬱そうな顔をしながら外の景色を眺めているアイリスをベロニカは心配そうに見つめていた。

 シクラがいなくなった直後はアイリスはかなり取り乱していたが、いまも少し心配ではあるけどまだ落ち着いた方ね。

 当初はかなり落ち込んだり暴れたりしていたが、ヒエン侯爵の取り計らいでシクラ様に与えられて馬車を使用する許可と旅費を援助してもらえたのだけど。

 あてにはならないけど、当初向かう予定だったウグジマシカ神聖国に向かうことになったけど……アイリスと2人旅がこれほど息苦しい物になるなんて思っても見なかった。  

 途中街に寄ったりするのだけれど、その時もシクラ様を探して聞き込みをしたりしているようですが……今のところ目立った情報は無いようですわね。


 はぁ、私もシクラ様のことが心配ではありますが……あの強くたくましいシクラ様がそうそうどうにかなるわけは無いでしょうに。

 もうすぐ国境付近の街に着きますが……また今回も私が対応するはめになるんでしょうね。

 そんなことを思いつつアイリスに視線を戻すが、相変わらず外を眺めたまま流れる景色を見ているのだった。







 コンラートが魔物を一掃した後、魔物達の素材で使えそうなものを回収して残りは通路の脇に避けた後、吸収促進剤を撒いて魔物をダンジョンへ吸収させる――撒いた瞬間から魔物の血が消えだして数分もしないうちに魔物はダンジョンに吸収されていた。


 そして、素材と言っても毛皮関係はすべてダメになっているので、爪や牙それに一応食べられるらしいので何体かの肉もアイテムボックスへ収納しておく。

 ……まあ、筋張っていてあまり美味しくないらしので期待してはいけないが、あれだけ倒したのに金品に換金できるものが少なくなってしまったので節約の為にね。


 そしてグランツの指示によりキャンプ予定地である行き止まりの広場で、休憩するためのテントを組み立てる者と食事を作る者とで別れて作業することになった。

一応魔物避けを通路の両サイドに撒いてあるが、他のパーティーが引き連れてきた魔物などには効果が無い為見張りは必要なのだとか。


 資材を通路の奥に出した後、俺とマリアが食事をコンラートとイザベルがテントを設営し、グランツとアシュリーは通路の警戒に当たっている。

 ただ、食事といってもダンジョンで豪勢な料理を作る訳にもいかないので、いわゆる黒パンと呼ばれる日持ちするパンと火晶石を使用したコンロで塩だけで味付けした簡素なスープだけだ。


 流石にこれだけじゃつらいんじゃないかと思って確認したんだけど、ダンジョンで食べる食事は大体こんなものだとの事。 

 せめて味噌とか乾燥豆腐とかあればまだまともな食事が出来そうなんだけどと呟くとグランツから驚きの事を言われた。


「味噌や豆腐なら、この間の交易船の市場で商人たちが買い取ってるはずだからこの時期、大き目の商店ならどこでも売ってるぞ」

 

「なんだって!」


 驚きの余り叫んでしまい皆が驚いていたが、そりゃこの世界で味噌汁が飲めるなら興奮もするさ。

 まあそれはさておき、味噌はウグジマシカ神聖国ではありふれた物らしいが、このユピリルはそもそも大陸の真反対の位置にある為貿易船でも来ないと入って来ないらしい。


 ただ、結構値段がするらしくキロ当たり銀貨一枚だそう――あれ?意外と安い気がしない事も無いんだが。

 大陸の反対側から輸送してきたと思えばかなりお買い得な気がするのだが、そもそもグランツ達は味噌の食べ方を知らないし食べたことも無いからかっていないそうだ。


 ……うん、帰ったら絶対に買おう。そして、もしかしたら他にも元の世界と同じような物があるかもしれないからしっかりと露店じゃなくて商店を周ろう。


 そう心に誓いながら、グランツ達にも味噌の素晴らしさを伝えてみたが、あまり理解してくれなかった――まあ、街に帰って味噌を手に入れてから何か一品作ってあげよう。


 それはさておき、見張りに付いていない俺達は軽くお腹を満たした後見張りを後退して皆が食事を終え、魔物避けの効果が切れるまでの間交代で休息を取ることになった。


「それでこれからだが、アシュリーが魔物を引っ張ってくるからそれを俺達が通路で迎え撃つことになる。まあ、少数であれば後衛の援護は必要ないが念のため待機していてくれ」


 今までの戦闘の感じでは一、二匹のウルフではよっぽど魔法を使う必要はなさそうだけど、念のためいつでも参戦できるようにしておかないとな。

 一応俺とコンラートでローテーションで強化魔法をかける予定にはなっているが、グランツ達の実力を考えるとあまり必要なさそうだ。


 打ち合わせを終えた後「それじゃあ行って来る」と言ってアシュリーが魔物の釣りだしに向かった。

 

 暫くするとアシュリーが魔物を釣って戻ってきた。

 アシュリーが駆けてくる後方からはブラウンウルフが二匹追ってきているが、グランツ達前衛陣がサクサクと倒したので暇な俺達が解体を行う。


 売却目的ではない肉が少しもったいない感じもするが、そのまま促進剤を撒いてダンジョンに吸収させる。


 その後もアシュリーが何度か魔物を釣って戻ってくるが、大体が二匹前後で一回失敗して五匹ほど引き連れてきたが、それは俺とコンラートが魔法を使って援護してサクサク倒した。


 三時間ほど緩く狩りをして、次にアシュリーが釣ってきた魔物を倒したら休憩しようといって話していると、アシュリー毎度の如く駆け込んでくるが。


「グランツ! 魔石持ちだ!」


 アシュリーがそう叫びながら駆けこんできて一瞬なんの事なのかわからなかったが、アシュリーを追って来たのは今まで倒してきたグレイウルフよりも一回り大きく、毛の色も灰色ではなく殆ど黒に見える様な毛並みだった。


「二人とも魔法で援護してくれ! イザベルとマリアは牽制だ!」


「行くぞ『上級多重身体強化アドバンスドマルチプルボディブースト』」

「わかった『麻痺水縛パラライズウォーターホールド』……なに!」


 コンラート身体強化を皆にかけて俺が阻害魔法を発動させたのだが、鞭のように絡みつく麻痺水縛が魔石持ちのウルフに接触した瞬間にはじけ飛んだ。


「っち! レジストしやがった。トマもう一度だ!」


「お、おう『麻痺水縛パラライズウォーターホールド』」


 俺が再度魔法を撃つ間にグランツが盾で魔物の突進を止め、再び俺の|麻痺水縛が魔物を襲い――今度はレジストされることなく魔物の行動阻害が出来たみたいだ。


 しかし多少動きが遅くなりはしたが、今までのように殆ど動けなくなるまではいかなかったようで、少しグランツ達が苦戦している。

 魔法で援護しようにもグランツ達と魔物が密着しており、攻撃魔法での援護するタイミングが見つからない。

 ただ、グランツ達も中々巧みに戦っている様だ。


 グランツが大盾で魔物の噛みつきや体当たりをうまく防ぎ、足が止まったタイミングでイザベルが大ぶりの一撃を放つがそれ自体は魔物に回避されてしまうのだが逃げた先にはマリアが待ち構えており、強力な一撃ではないが地道にダメージの蓄積を積み重ねていっている。


 グランツの役目はわかるけど、イザベルは動きの速いこの魔物に対しては牽制と誘導を兼ねてわざと避けられるように打ち込み、逃げた先でマリアが攻撃するという中々の連携だ。

 しかもその時に耐性を崩せばグランツが盾で体当たりし、さらなる追撃を加えるという息の合ったチームプレイで追い込んでいく。


 次第に魔物も傷が増えて行き動きも緩慢になって行き、イザベルの一撃をよけきれなかった魔物が足に致命傷を負い、その後は一方的に的な展開で一気に方が付いた。


「……ぶはぁ! 何とかなったな」

「ええ、流石に疲れたわ」

「うーん、とりあえず休憩」


 前衛三人は流石に疲れたようでその場に座り込んでしまった。

 三人とも何度か魔物の攻撃を食らっていたようで所々から血がにじんでいたので、俺は皆に回復魔法で傷を癒す。


 そして魔石持ちのウルフだが、流石に解体慣れしていない俺ではなくアシュリーが解体していく。

 この魔物も殆ど素材は無いが、アシュリーが解体しているのは心臓部分にあるという魔石を取り出すためだ。


「お、なかなかいいサイズの魔石だな。この色とサイズなら準備にかかった費用以上になるな!」


 アシュリーは魔物から魔石を取り出し水袋の水で洗浄した後、魔石を眺めながらテンション高めにそう言った。

 魔物から極稀に見つかる魔石――普通の魔物でも存在するが粒のように小さく実用性はない――は、マジックアイテムの核になることもありかなり高額で取引される。

 

 魔晶石であればその内に秘める魔力が無くなれば消えてしまうが、魔石は魔道具師が加工することによって魔力を込めると力を発揮し、殆どの物は永続的に使用できるのである。

 例外として、遺跡などで見つかる今の加工技術では制作することが出来ない魔道具の中にはすさまじい効果を発揮するものがあるが、その効果の為か一度きりの使い切りの物も存在する。


 白虎のミモザさんの腕を修復させるような最高級の魔道具がそれにあたり、金額も果てしなく高いんだけどね。


 そしてアシュリーが持っている魔石だが、大きさは赤紫色の様な色で大きさは五百円玉よりも少し大きいくらいのサイズだ。

 実際どのくらいの値段になるか気になったのでアシュリーに聞いてみると、この色でこのサイズなら金貨二枚程度になる可能性があるらしい。


 魔石には色と大きさで値段の評価基準が変わり、この色なら五段階中三段階で大きさは十段階中四段階くらいとの事だ。


 因みに、最高クラスの魔石になると色は黒に近い紫になり大きさもソフトボール大になるらしい。

 ただこのクラスの魔石はこの世界でも最強クラスの竜や巨大な海獣位なもので、値段は天文学的な金額になるそうだ。

 ……過去にオークションで売り出された際には、金貨一万枚を超える金額だったそうだ。


 まあ、そんなものは通常では手に入らないので良いとして、今回の魔石だと金貨十枚から三十枚くらいになるらしい。

 幅があるのはギルドで売買すると十枚くらいになるとの事だが、オークションならそれ以上は確実なのだとか。

 まあ、どうするかは戻ってから皆で相談して決めることになった。


 その後、流石に連戦続きの後に魔石持ちが現れたこともあり、魔物避けを撒き交代で仮眠を取ることになった。

 

「それじゃあ先に休ませてもらう」

「俺もお先に――走りつかれた……」

「私も……流石にへとへとよ」

「えへへ、トマが見張りをしてくれるなら安心ね」


 皆が広場に行くのを見送りながら、俺とコンラートが見張りをして他のメンバーは仮眠を取ることになった。

 俺達はT字路の通路を見張りながら少し雑談をする。


「なあコンラート少し良いか?」


「ん、なんだ? アンナとのなれそめでも聞きたいのか? それとも魔法談義でもするか?」


「……いや。さっきみたいに前衛陣が魔物と近すぎると援護することが出来ないじゃないか、そう言った場合いつもはどうしているのかと思ってさ」


 いや、お前と彼女のなれそめ何て聞きたかねぇよ――と少しイラっとしたが顔に出さず質問をする。

 先程の戦闘中にグランツ達が押され気味だったが、俺達からは射線が通らず援護できなかったのが気になったのだ。


 今回は問題なく倒すことが出来たが、これがもっと強い魔物だった場合魔法で援護することが出来ないとまずいと思ったからだ。


「ああその事か。そうだな、基本的に森や平原みたいに広い所ならいつでも援護できるんだけど、今回みたいな場合は基本的には身体強化や回復しか出来ないな。ただしやりようはある――」


 コンラート曰く、洞窟やダンジョンの様な通路が狭い場合の援護方法はあるとの事だ。

 このパーティであれば、グランツが合図をして盾で魔物との距離を離しその隙に攻撃する方法がまず一つ。

 他にも設置型の火炎壁(ファイアウォール)などを魔物の背後に放ち援護する方法や、始めから土魔法などで地形を改変――高台を作ったりと高低差を付ける――などの手法があるとの事だ。

 

 複数パーティでの戦闘や始めから強敵が相手の場合は先に地形を改変しておくことがあるらしい。

 ただ今回の場合は、この辺りではそこまで危険な魔物が発生することは稀なので地形改変はしていなかったから、魔石持ちの様な強めの魔物が相手で少し苦戦したようだ。


「ま、今回はグランツからの指示も無かったし誰も大怪我することは無かったから問題ないけど、今ははぐれが徘徊しているから多少は気を付けないといけないし、たまに他のパーティに魔物を押し付けられたりすることがあるから対策しておいた方が良いかもね」


 グランツが仮眠から起きたら話しておくよと言いながら見張りを続ける。


 ふむ、どの程度まで地形改変が可能なのか少し気になるけど、他の皆が仮眠中に地形を変更するのは問題があるだろうから試すのはそれからだな。


 そして、その後はかなりどうでもいい話をしながら交代の時間まで暇を潰すのであった。

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