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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第二章

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失敗勇者とダンジョンの魔物

 薄暗いダンジョンの中を一人歩く者が居た。

 その者は普通の人間とは違い、身長が三メートル程もあり体格も贅肉が多そうに見えなくもないが、その巨体を支えていることを考えるとかなり力がありそうだ。

 彼は普段はダンジョン一層の奥に出没するトロールだが、普通のトロールとは見た目が全く違うのだった。

 通常トロールの体表は薄い緑色をしているのだが、彼の体は青に近い碧色なのだ。

 そんなトロールが何故一人ダンジョンを歩いているか分からないが、その行動は少し普通ではないようだ。


 周囲を警戒するように目をきょろきょろと動かし、見通しの悪い所では一旦立ち止まり安全を確認するかのように辺りを見渡していた。


 トロールは総じて知性が低いといわれているが、このトロールは他の個体とは違い知性がある様に思われた。

 そして遠くの通路の壁からこちらを覗く者を見つけ身構えるが、こちらを見ていたものはそのままどこかえ行ったようで彼は少し安堵した様子だった。


 トロールは何か呟きの様な唸り声をあげた後、再び歩き出し薄暗いダンジョンを進んでいくのだった。






 ダンジョンの入り口の扉を開き中へと入って行く。

 内部は壁が薄っすらと光っている通路があり、その先で幾重にも分かれ道があるのが見て取れた。

 アシュリーを先頭にキャンプ予定地を警戒しながら歩いていくが、流石にまだ入り口付近と言う事もあり魔物の姿は皆無だった。

 

「止まれ――物音がした」


 しばらく歩いているとアシュリーが全員に停止を指示した後、音がする方へと足音も無く近づいて行き通路の影からこっそろと覗いて戻ってきた。


「迷宮ウサギが三匹居た。グランツどうする」


「まあ肩慣らしにもならないが、連携の初戦としては問題ないだろう」


 グランツはそ言うと皆に隊列を変更を指示し、自身も背負っていた大盾を構え戦闘準備を整える。

 因みに迷宮ウサギとは体長五十センチほどの小型の魔物で、攻撃方法も噛みつきか体当たりしかない迷宮での最下層の魔物だそうだ。


 皆を見渡し準備が出来ていることを確認したグランツは、ゆっくりとした足取りで通路まで歩き皆に手で指示を出した後駆けだして魔物に向かって行く。


「化け物共かかってこいや!」


「「キシャー」」


 グランツが挑発するかのように魔物に怒声を浴びせると、気が付いた迷宮ウサギがどこからそんな声を出しているか分からない奇声を上げてグランツへと向かって行く。


 迷宮ウサギは俺が思っていたものと違い、口が裂けているのではないかと思う程大きく口を開けながらグランツへと突進していく。


「ふん! 今だ!」

「行きます!」

「おりゃぁああ!」


 グランツは器用に大盾と剣を使い魔物の突進を防ぎながら弾き飛ばした後、マリアとイザベルが二匹の魔物を切り裂いた。

 マリアはショートソードなのでそれ程深く一撃を入れることが出来ていなかったが、イザベルの方は戦斧を振り回して一刀両断していた。

 ……なんともグロテスクな状況に思う所はあったが、流石に今役目を全うしないとね。


「トマはマリアの狩り残しを、俺はもう一体を仕留める」


 コンラートが俺にそう指示をしてきたので、俺は『石弾(ストーンバレット)』を放ち一体に止めを刺した。

 その間にコンラートも同様に魔物を仕留め終わっていた……まあ、脳天に石弾が突き刺さっているのは嫌な感じがするが仕方がないね。


「これなら問題はなさそうだな。使えるとこだけ解体して先に進もう」


 グランツの言葉に皆が頷きアシュリーがサクサクと魔物三体を解体し、毛皮と肉の一部を俺のアイテムボックスへ収納して先へ進む。


 その後も何度か迷宮ウサギや迷宮モスなどの小型の魔物との遭遇はあったが、問題なく第一候補のキャンプ地へと到着した。


「……ここはダメだな」

「そうだな、次のポイントに向かうぞ」


 第一候補の場所は既に別のパーティが拠点としていたので、第二候補の所へ向かう事になった。

 この辺りから魔物の種類が変わりデミゴブリンやデミコボルトなどの人型の魔物と遭遇した。

 ただデミゴブリンやデミコボルトも大きさは子供位で、ボロボロの布切れみたい服にこん棒や錆びた短剣などの装備で特に問題なく対処出来ていた。

 

 この二種は解体しても売却する物も無く、討伐依頼も無い事から通路の脇に寄せるだけでそのまま放置することになった。

 これを考えるとまだ迷宮ウサギなどの方が金銭的に価値があり不人気になりそうなのだが、レアドロップの様な魔石を持つ個体も居るのでそれなりに人は居つくそうだ。

 

 魔石持ち固体かどうかは見た目で判断できるらしく、デミゴブリンとデミコボルトでも少し体格が良く体の色が少し他とは違うそうだ。

 ただ、魔石持ち個体は放置すると上位種に変異することがあるので討伐が推奨されているらしいが、わざわざダンジョンまで来る冒険者達が見逃すわけもない。

 

 そして、ゴブリンどもを蹴散らしながら進むとアシュリーが手信号で皆を止めた直後、通路の影から唸り声を上げながらこちらへ向かうウルフ系の魔物五匹と遭遇した。

 

「アシュリー下がれ! コンラートとトマは強化魔法及び妨害! 残りの二人は援護してくれ!」


「作戦通りトマは妨害を頼む!『上級多重アドバンスドマルチプル身体強化(ボディブースト)』」


「わかった『多重麻痺水縛マルチプルパラライズウォーターホールド』」

 

 コンラートが全員に身体強化の魔法をかけ、俺はウルフの集団に水属性の麻痺魔法で妨害をする。

 皆に身体強化が発動した淡い赤色の光が皆を包み、妨害魔法の水の触手のような物が地面から生えウルフたちの足に絡みつく。

 コンラートの身体強化魔法は力を増強させることが出来る魔法で、コンラートが使用するとおよそ五割増し程の効果がある。

 そして、俺の放った阻害魔法は完全に麻痺させたり動きを止めることが出来ないが、体が痺れ力が入らなくなり毛も濡れる為動物系の魔物には効果的だと聞いたので試してみたんだけど――魔法を食らった魔物達は慎重に歩く位の速度しか出せなくなり、前衛三人は戸惑いながらもウルフの集団に止めを刺していった。


 今回も魔石持ちの魔物は居なかったが、遭遇したグレイウルフとブラウンウルフは毛皮と爪が売却できるそうなので売却部位解体して収納することになった。


 アシュリーが解体作業中、周囲を警戒しつつグランツが俺に話しかけてくる。


「それにしてもトマの魔法は凄かったな。普通なら突進のスピードが多少落ちて多少威力が落ちるくらいなのだが」


「そうなのかな? 師匠以外と比較したことが無かったし、今回の魔法は初めて使ったら少し強めに使ったからそのせいかもしれないね」


 詳しく聞くと、俺が使った阻害魔法はあそこまで痺れさせたりすることが出来ないらしい。

 まあ使用者によって威力はバラバラらしいけど、俺の魔法は今まで見た中では一番強力だったとの事だ。


「よし終わったぞ。トマ収納を頼む」


 解体の終わりほくほく顔のアシュリーから素材を受け取りアイテムボックス内に収納する。

 受け取った素材は流石に血なまぐさい感じになっており、収納した後アイテムボックスから水桶を取り出して俺とアシュリーは血を洗い流す。


「それにしてもこの素材はかなり高値で売れるんじゃないか? 毛皮殆ど傷ついてないし爪も完全な状態だぞ」


「それなりに期待は出来るが、今までこんな状態で狩れたことが無いから値段はわからんな」


「でもさ、この前のトマが狩った熊みたいに高値になるかもしれないんだよね! そしたらまた宴会しようよ!」


「落ち着けマリア。流石にこれだけじゃ赤字もいいとこだ。それにもう少しでキャンプ地に到着するからそれまでは警戒を怠るなよ」


 マリアは「はーい」と明るく言いながらも周囲の警戒は怠っていない様だ。

 イザベルは「簡単すぎてあまり面白くないわ、もう少し手ごたえのあるのと戦いたいわ」と物騒な事を呟いていたが、流石にまだ強敵と戦うには厳しいと思いますよ。


 そして話に加わらないコンラートだが「ブラウン四匹のグレイ一匹、通常の毛皮の買取が銀貨二枚だから……」とかなりにやけ顔でこっそりと金勘定している様だ。

 

「よし! 先に進むぞ! もう少ししたらキャンプ予定地があるからそれまで警戒を怠るなよ!」


「「「「おー!」」」


 そうして隊列を整えた後、再びキャンプ予定地まで進んでいくのだが――キャンプ予定地には魔物がたむろしていた。

 アシュリーが数を数えてみたが、グレイウルフ五匹のブラウンウルフ二十匹以上が広間になっている場所にたむろしている。


 魔物がたむろしてる通路から少し離れ、一度どうするか相談することになった。


「どうするグランツ。普通にやるには流石に厳しい数だぞ」


「そうだな、コンラートとトマはまだ余裕はあるか?」

 

「今の所まともに魔法を使ってないから問題ないな。まだあまり試していないが、超越魔法も使えることだし何とかなると思う」


「俺も問題ないよ。流石に一撃で全部は仕留めることは出来ないと思うけど、コンラートと協力すれば一掃は可能だと思うよ」


「ふむ、それなら……」


 作戦としては事前に強化魔法を全員に付与しておき、俺が阻害魔法を使いコンラートが魔法である程度仕留めて残りをグランツ達が倒す算段だ。流石に使い慣れていない超越魔法は却下されていた。


 グランツには問題ないといったけど、俺が使った魔法は殆ど阻害魔法ばかりでまともに攻撃魔法をしようもしておらず、無駄に早い回復力で次に遭遇するまでには全快してしまっているのだ。

 それに、今回は流石に数も多い事から基礎魔法ではなく応用魔法を使用することになっているから、よほどのことが無い限り突破されることは無いだろう。それに……


「ようやくまともに戦えそうね! 流石に今まで見たいに動けない様な魔物を倒すだけじゃつまらないわ」


「ねぇねぇグランツ、これだけでも宴会は開けそうじゃない? 戻ったらパーッと楽しもうよ!」


 今までまともな戦闘が無かったイザベルはようやくまともな戦いになり嬉しそうにしているし、マリアは何故だか宴会に固執しているが二人とも緊張は見られなかった。


 二人の様子に男性陣が肩をすくめるが、今までの戦闘を鑑みればそれ程苦戦することなく倒すことが出来るだろう。


 まあ、どうしようもなければ俺が超越魔法を使って一層しても良いし、もし最悪の事態になりそうならこのパーティには残ることは出来なくなるかもしれないが、勇者としての本気の力を出せばどうにでもなるだろう。



「よし! みんな気を引き締めていくぞ!」


 グランツの掛け声に皆で「おー! 」と言って答えた後、今回は俺が全員に強化魔法をかける。

 

「『上級全体強化アドバンスドオールブースト』これでよっぽど大丈夫だと思うけど、皆無理はしない様にね」


「え! 嘘! 何この魔法!」

「スゲー、力が溢れるみたいだ」

「さ、流石はトマよね! せ、正式に魔導士の弟子をして頂けはあるわよね!」

「ぐぬぬぬ。流石にこれは俺ではまだ使う事が出来ん。流石はライバル! だが俺もすぐに追いついてやるからな!」

「あ、ああ……トマはこんな魔法も使えるんだな。流石と言うかなんというか……」


 俺が掛けた魔法に皆が戸惑いを見せグランツが俺に問いかけてくるが何が問題なのかよくわからない。

 『上級全体強化アドバンスドオールブースト』は、通常の強化と違い俊敏性や防御力などを強化する魔法だが、あまり一般的ではなかったようだ。


 まあこの世界での魔法理論は詳しくわかっていないけど、その魔法に対する理解度?と言うかイメージが正確でないとうまく発動できないという事らしい。

 ただ、俺の場合は完全に想像して新しく創造しているわけで、これが一般の魔法と勇者の魔法との違いなのかもしれない。ぶっちゃけ、ゲームやアニメのイメージをそのまま考えているだけどね。


「グランツそんな事よりも指示を出さないと」


「そうだったな。皆準備は良いか。コンラートとトマの魔法を合図に戦闘を開始する」


 流石に今は俺の魔法の事を気にするよりも魔物の掃討の方が先なので、俺の言葉に首肯し皆に指示を出していた。あまり魔法の事で突っ込まれてボロが出る前にどこかで魔法書でも買って確認しないといけないかもね。


 そして皆グランツの指示に首肯し、気を引き締める。

 皆の準備が出来ていることを確認した後、グランツは俺とコンラートに開始の合図を出した。


「トマ行くぞ『上級風刃乱舞アドバンスドウインドダンス』」

「了解!上級多重……あれ?」


 コンラートが上級風刃乱舞をまだこちらに気が付いていない魔物達に放ち、俺が阻害魔法を掴おいと思ったのだが――俺が魔法を使うまでもなく魔物達は壊滅的打撃を受けていた。


「トマどうし……な!」


 上級風刃乱舞は風の刃を幾重にも放ち切り刻むように相手を攻撃する魔法で、複数の魔物に対して攻撃する手段としてはかなり有効な魔法なのだが……コンラートの放った上級風刃乱舞は想定以上の威力を発揮し、グレイウルフを真っ二つになっていたり、ブラウンウルフに至っては目も当てられないような悲惨な状態になっていた。

 その状況にグランツは言葉を失い、コンラートを含む他の皆も唖然として惨状を見つめていた。


「流石超越魔法が使えるようになったコンラートだな。これほどの威力とは凄いな」


「え、あ……そ、そうだろ! まあ俺が本気になればこんなもんだ!」


「……これが超越魔法が使えるようになった魔導士の強さなのか」


 これの言葉にコンラートは戸惑いながらも自慢し、グランツも身近に超越魔法が使えるようになった人が居なかったので俺の言葉に誤魔化されてくれたみたいだ。


 確かにコンラートは超越魔法が使えるようになり、今までよりもマナを大量に集めることが出来きているし制御も出来ているので威力は上がってはいるのだろうけど。


 たぶん、俺の上級全体強化の魔法でコンラートの魔力自体も強化してしまったせいだろう。

 何せ全体強化だからね。



 皆コンラートの実力アップに驚きつつも称賛しつつ、悲惨な状態になっている魔物から幾らかの素材を剥ぎ取るのだった。


 あーうん、流石にもう少し自重しないとまずいかもしれないと思いつつも、一般常識を知らないシクラはどうしようかと悩むのであった。









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