失敗勇者とダンジョン迷宮
私用で更新が遅れて申し訳ありませんでした。
あいつらなんでこんな所に居るんだ。
男は薄暗いダンジョンの通路からある一団を見て少し微妙な顔をしていたが、直ぐに口角が上がり嫌な笑顔を浮かべる。
だけど好都合だ、あの薬の効果をテストをしてからと思ったがこのタイミングはある意味最善だろう。
男は小さな小瓶を懐から出した後、音がしない様にそっと地面に置いてふたを開ける。
小瓶からは少し甘ったるい匂いがしているが、この広大な空間ではよほど近づかないとわからないだろう。
俺をパーティから追い出した報いだ、せいぜい頑張るんだな。
男は心の中でそう言うと、そそくさとその場を後にしていった。
ある程度の時間まで会議をした後皆就寝し、翌朝宿を引き払い街を出た。
南東へ向かう街道を半日ほど歩くとあるウユシウコ村にダンジョンは存在する。
村にはダンジョンへと向かう冒険者が泊まる宿や露店などが数多く並んでいるらしいが、どこもぼったくりの様な金額でよほどのことが無ければ立ち寄りたくない場所らしい。
ただ俺達鉄の盾の場合は少し違い、アシュリーとコンラートの出身がこの村の為今日はそこで一泊する予定だ。
道中魔物や盗賊などに注意しながら街道を歩いていたが、ここからウユシウコ村までの街道は基本的に冒険者ばかりが通る為かそう言った物と遭遇せずに村へと到着した。
村の周囲には高さ二メートル程の丸太で作られた壁があり、入り口には槍を持った兵士の様な人が立っている。
「よう、久しぶり! 相変わらずせいが出るな!」
「おう、アシュリーとコンラートじゃねぇか。なんだ、今日も彼女に会いに来たのか?」
その兵士と知り合いなのか、アシュリー達はかなりくだけた感じで話をしている。
「それもあるんだけど、今回は俺達のパーティでダンジョンに行こうと思ってな」
「はあ!? 単独パーティでダンジョンってかなり危険じゃないのか」
兵士の人の心配はもっともなのだろうけど、話を聞く限り奥まで行かなければそこまで難易度は高そうではなさそうなんだよね。
「ま、とりあえず今回は様子見で入り口付近だけだから問題ないぜ。それに、そろそろしっかり稼げるところを見せておかないと色々とな」
「まあ俺は冒険者じゃないから詳しくわからんが、あんまり無茶はすんなよ」
「わかってるって。それじゃあみんな、とりあえず俺の家に行こう」
「まてまて、一応皆冒険者章を見せてくれ。いくら知り合いと言っても規則は規則だからな」
兵士の人はそう言って俺達に冒険者章の提示を求めてくる。
俺が銀色の冒険者章を見せた時に驚いてアシュリーの方へ振り向き、アシュリーがしてやったりと言った顔をしていたのが少し面白かった。
村に入ると入り口付近に雑貨や武器などの店が軒を連ね、少し入ったところに食堂や宿屋が見える。
しかしアシュリーはそのまま宿などを通り過ぎて歩いて行き、再び門の様なものが現れてそこの兵士と少し話すと手招きして俺達を門の中へと連れて行く。
その門の中は普通の民家の様な建物が数十棟建っていて、恐らくここは村人のみが入れるエリアになるのだろう。
ふむ。この集落は村人たちが暮らす住居エリアと冒険者など外の者が居るエリアに分かれている様だ。
そして集落の周囲には囲いと門があり、外のエリアには囲いはあるが門のような物は無い様だ。
俺達は住民たちの視線を受けながらアシュリーの後に付いていくと、一軒の二階建ての民家に到着する。
「ただいまー……あれ?出かけてるのかな。まあいいか、ここが俺の家だ。まあ、入ってくれ」
アシュリーがカギを開けて扉を開いて中に入って行くので続いて入って行き、広間から続いている扉を開け誰かを探していたようだ。
家に入るとそこは広間の様な作りになっていて、大き目な食卓テーブルが部屋の中央に置いてあり奥には竈があるようだ。
この部屋には扉が二つと階段があり二階建てみたいだね。
「適当に座っていてくれ」
アシュリーはそう言うとヤカン竈の上にのせて何か棒状のもの竈に入れ、火を起こしてお湯を沸かし始める。
何故かコンラートがキョロキョロしているのは視界に入るが、何してるか分からないけどあまり気にしないでおいてあげよう。
暫くすると各々にアシュリーがお茶を配り席に着く。
「あー、とりあえず今日はアシュリーが二階――と言うか屋根裏を貸してくれるから俺達はそこに泊めされてもらう。コンラートは――」
「俺は一回家に顔を出してから戻ってくるよ」
「ということだ。まあ、この後は夕食を取って寝るだけだから問題ない思うがあまり村をふらふら歩かないように。特にトマは未だ村人たちに顔を覚えられていないから注意するように」
「一応村長には伝えに行くから良いと思うけど、何かあったら俺かコンラートの名前を出せば大丈夫だとは思うぞ」
村の構造から考えても外と隔離している感じだし、色々と警戒しているような感じだったからそこは気を付けておこう。
お茶を飲みながら二人に軽く村の説明をして貰った。
何故この村がこれほど外に対して警戒をして居るかと言うと、この村はダンジョンが出来る前からあったといわれていて、ダンジョンが出来てから冒険者や商人がやってきてかなり村自体はかなり繁盛していたらしい。
初めは対等の商売をしていた村人たちが徐々に冒険者達の流入が増え、村の宿には冒険者達が溢れかえり村人の人数よりも外から来た者の方が多くなっていったそうだ。
そして、横柄な冒険者達が村を闊歩するようになり揉め事が頻発していたが村人たちは我慢をしていたそうだ。
しかし、段々と村人と外から来た人たちの間に亀裂が入って行き……不埒な冒険者達が酔った勢いで村娘を襲ったことで村人たちは怒り外から来た者達を追いだしたんだとか。
その後、国やギルドからの仲介があり何とか村に人を入れてくれるようになったのだが、その際に村人たちが住むエリアと外の者達が来るエリアを分ける囲いを作ったんだとさ。
「まあ、今さらそのことを気にしている人は少ないがそもそも冒険者の中には……まあ、そう言った輩も居るから未だのその風習が続いているわけだ」
「でもまあ俺達はあんまり関係ないけど、女たちは大変だよな」
どうやらこの村からは女性達は基本的に出ることが出来ず、囲いの中で暮らしているらしい。
一応成人しており親か夫が村で店をやって居たりすれば外に出ることは出来るが、それ以外の外出は殆ど出来ないらしい。
アシュリーとコンラートはこの色々と窮屈な村が嫌で冒険者になり、恋人と結婚し街に招くために頑張っているそうだ。
村の話を聞いていると玄関の扉が開き皆の視線が集中する。
「ただいまー……あ、兄さん帰って来てたの?それにコンラート! お帰りなさい!」
「ただいまアンナ! 」
「はぁ。俺とコンラートで温度差がありすぎるんじゃないか?まあいいけどよ」
そこに現れたのは赤毛のセミロングの髪をした可愛らしい少女だった。
彼女はアシュリーの妹でコンラートの彼女らしい。
何と言うか、彼女に兄と一緒に冒険者をやるってコンラートって意外と肝が据わっているんだな……俺だったら流石に無理だな。
皆はアンナの事を知って居るらしく、新しく加入した俺だけ簡単に自己紹介をしておいた。
そして皆で食事をした後、アシュリーは村長に報告とコンラートは一旦家に帰り報告をする為に出て行ってしまった。
その間にアンナが屋根裏の準備をしようとしていたので、皆で手伝い寝床の準備を手伝った。
因みに屋根裏部屋――と言う二階は階段を上ると少し天井の低い通路でその奥に扉が三か所あり、そのうち二か所を俺達が泊る部屋として用意してくれた。
片方が俺とグランツでもう一部屋がマリアとイザベルの部屋だ。
各々が部屋に入り荷物の整理などをして下に戻り、皆で夕食作り終わるころにはアシュリー達も戻ってきた。
戻ってきたアシュリーの横には見慣れぬ女性が立っていた。
「そう言えばトマは初めてだな、俺の彼女のアマーリエだ」
「初めましてアマーリエです。トマさんはいきなり銀級になって凄腕と聞いています。アシュリーの事をよろしくお願いします」
アマーリエは少し病弱に見えそうなほどに白い肌に、背の中ほどまであるシルバーブロンドの落ち着いたきれいな女性だった。
そんなこんなで八人の大所帯になったが、この部屋にある大きな机であれば問題なく食事が出来た。
アシュリーはいつもの真面目な感じではなくアマーリエに甘えている感じで、傍から見ると完全に掌で転がされている感じがするが仲睦まじい感じで羨ましい。
コンラートとアンナは少し違い、お互いの事を好き放題言ってやや喧嘩っぽくなったりすることもあるが、いつの間にか仲良くしている不思議な感じのカップルだ。
まあこの二組は一月ほど会っていなかったのでイチャイチャしているのだけど――流石に少し羨ましいぞ!
二人は自分の彼女にこの一月間にあったことを報告――と言うか、自慢をしながら盛り上がっている。
残りの俺達は俺達で明日の事などを話をしていたりするが、アシュリー達程話が盛り上がるはずもなくちゃっちゃと食事を終え部屋へと戻った。
「はぁ、流石に長い間会っていないとはいえ、あそこまで堂々とイチャイチャされるとね……」
「あの二人はいつもあんな感じだぞ。まあ久々の再会なのだから多めに見てやろう」
俺は小さくため息を付きながら首肯し、グランツは苦笑いを浮かべていた。
その後、多少グランツと明日の予定を確認し眠りに付いた。
……夜に下の階から遅くまで物音がしていてなかなか眠れなかった。
翌朝、つやつやした感じの二人と共に軽く朝食をとって、二人の彼女たちに見送られながらダンジョンへと向かった。
ダンジョンは村から十分程の位置にあり、入り口付近には大勢の冒険者達がたむろしている。
冒険者達がたむろしている所には立札のような物が見え、恐らくあれが掲示板なのだろう。
入り口から少し離れた所にはテントがいくつも張られており、恐らく村に泊まらなかった者達はここで一夜を過ごしたのだろう。
そしてそのテントの近くには露店があり遠目でみてみると、どれもこれもかなりの高額で売られていることが分かった。
「俺は掲示板を確認してくるから皆はダンジョンに入る準備をしておいてくれ」
グランツはそう言うと掲示板の方へと歩いて行った。
俺達は指示された通り装備品の確認及び消耗品の確認を行う。
とはいっても、俺自身は装備品と言っても先日買った魔剣しかないので手持ち無沙汰になってしまった。
「トマ。念のため全員に水袋と食料を渡してくれ」
「食料はどの程度渡せばいいんだ?」
「一人当たり包み三つ渡しておいてくれ。それと、アイテムボックス内からこれと同じものがあるからお前もそれを付けて、同じように水袋と食料を入れておけ」
アシュリーが見せてくれたのは革で作られた腰に縛るポシェットのような物で、水袋を縛り付ける輪っかと皆に配る分の食料がちょうど三包み入る大きさだった。
俺はアイテムボックスから食料などを出して皆に渡し、ポシェットを取り出し自分の腰に付けておく。
「あんまりいい依頼は無さそうだったが、はぐれが出てるらしいから皆気を付けろ」
そうこうしている間にグランツか戻ってきて、掲示板に書かれている内容を教えてくれる。
俺達が行く場所の予定地で狩れる魔物は掲示板にはなく、魔石が出たとしても買取数が少ない様なので微妙だそうだ。
それに聞き覚えのない言葉を耳にしたので確認してみる。
「そのはぐれって言うのはなんなんだ」
「ああ、それはな――」
ダンジョン内の魔物は基本的には出現するポイントが決まっており、その周辺以外で出没する魔物の事をはぐれと言っているらしい。
今回出没しているのはトロールらしく、怪力と驚異的な回復力があるかなり厄介な魔物との事だ。
ただ知能が低い為度々こうしてはぐれとして出没することが多いんだとか。
「まあ、俺達がキャンプする場所にはよっぽど来ることは無いだろうからそこまで心配する必要は無いと思うがな」
……なんだろう、物凄くフラグっぽい事をグランツが言うので少し心配になってきた。
ダンジョンに入ったら探査魔法でも使って近くに居ないかだけ確認しておこう。
「皆準備は良いな。それでは行くぞ」
グランツを先頭に冒険者達をよけながらダンジョンへと入って行くのだった。
俺は少し不安はあるが、ダンジョンと言うファンタジーの代名詞の様場所に入れることにワクワクしながら付いていく。
次回も月曜に更新になると思います。




