失敗勇者とウユシウコ村ダンジョン
みんなはっちゃけ過ぎよね。
グランツは飲み過ぎでダウンするし、アシュリーとコンラートは村に行くからそもそもテンションが上がってしまっているのよね。
ただ、それよりも一番問題なのはマリアなのよね。あの子に好きな子が出来て相手のトマもまんざらではないのは良いのだけど、もう少し自重してもらわないと困るわ。
今の所大きな問題は怒っていないのは偏に相手のトマの性格のおかげでしょうね。
あの子がトマトくっ付けばパーティ内での軋轢も無くなるし、他のパーティからのちょっかいも無くなって良いのだけれど……でもまあ、くっ付いたばかりであればあんな感じかもしれないわね。
私達時はアシュリーが入る前の三人だったからこっそりとしていたけど、傍から見たらあんな感じだったかもしれないわね。
はぁ、とりあえず様子を見るのは良いのだけれど――戦闘中に気を散らして怪我しないか心配ね。
鉄の盾 イザベル
翌日、俺達はダンジョン探索用の準備の為に買出しに行った。
ただ、前日の宴会でグランツが二日酔いになってしまったのでイザベルが面倒を見るために残り、他のメンバーで買出しに行くことになった。
「とりあえず最低限必要な物は、水や保存のきく食料に野営道具一式だ。野営道具はトマ以外の分はあるからメインは食料だな。タイミングが良い事に船が来てるから保存のきく食料などは結構売ってるだろうから簡単に買えるだろう」
買出しの責任者はグランツとイザベルの使命によりアシュリーになった。
アシュリーは何度かダンジョン探索に行っているから買出しをグランツから任されていた。
マリアも過去何度かダンジョンに入ってはいるのだが、性格上ミスが発生する可能性が在るからと言われて外されていた。
そのことに少し憮然としていたが、一応自分の性格を理解しているからなのか直ぐに機嫌を直していた。
「買い込んだものはとりあえず宿に運んで貰うとして、四人いるんだから別れて探した方がいいんじゃない?」
「マリア。それはお前がトマと一緒に買い物に行きたいだけだろ」
「えーいいじゃん! 野営道具だったら流石に買い残しなんてしないから」
「却下だ却下! 準備不足が合ったら困るのはトマなんだぞ! 」
マリアがアシュリーに提案をしてみたが、魂胆が丸見えでアシュリーから却下されていた。
却下されたマリアは俺の方をちらっと見るが、俺はダンジョンに行ったことが無いから何が必要か分からないから付いていくしかないから、アシュリーの判断に何も言う事は出来なと言う思いを込めて首を横に振った。
「良いんじゃないか?」
「おいコンラート!」
そんなやり取りを見ていたコンラートがマリアの事を援護する。
「アシュリー落ち着けって。トマの分の野営道具がもし足りなくても野営時は見張りが必要なんだから、最悪見張りの奴の分を貸してやればいいんじゃないか? 」
「流石コンラート! 伊達に超越魔法が使えるようになったわけじゃないわね!」
「しかしだな……」
「もし買い忘れてたら見張りはマリアとトマを交代でさせればいい。良いかマリア買い忘れたらトマとの見張りの時間は分けされてもらうからな」
「なるほど、良い手だな」
「うぐ……わかったわ」
こうしてアシュリーとコンラートのペアでパーティで必要な物資を買いに行き、俺とマリアは俺用の野営道具を買いに向かう事になった。
野営道具は露店で購入するわけではなく普通の店で買うようで、大通りから少し離れた冒険者ギルドがある通りから一本奥に入った路地にその店があった。
「ここがその店だよ。基本的に冒険者の野営道具を扱ってる店なの」
店の看板にはテントの様な絵が描かれているだけで普通に歩いていたら民家と見間違う様な店構えだった。
マリアを先頭に店の扉をくぐる。
壁際には陳列用の棚にランタンや小型の調理道具などが並んでおり、正面にあるカウンターの奥の棚ににテントや寝袋のような物が置かれていた。
「……らっしゃい」
カウンターにはガタイのいい口髭を蓄えたおっちゃんが座っていた。
二人で陳列している物を見てみるが、ランタン一つをとっても油を使う物や魔石や光晶石と言う物を使ったものがあってどれを選んでいいか分からない。
マリア自身もいつもはグランツ達が準備したものを使用して居るらしく、何を持って行けばいいかはわかるけどどのランクの物を持って行っているのかわからないらしかった。
「あはは――ごめんね」
「はぁ、仕方ない店の人に聞いてみよう。すみません、ダンジョン探索に必要な野営道具を探しているのですが」
カウンターからけだるそうに見ていたオッサンに俺が声を掛けると、カウンターから出てこっちに出て来てくれた。
「……ダンジョンは初めてか?」
「自分は初めてです。鉄の盾のパーティに入れてもらったのですが、どの程度の物を持って行けばいいのかわからなくて」
オッサンは小さく「ふん」と言った後、陳列棚からランタンや重ねてまとめられる陶器製の調理器具と食器類、シュラフのように小さくたためる寝袋などの装備を一式そろえてくれた。
中には使い方が分からないような物もあったけど、その辺はマリアが分かっているみたいなので問題なさそうだ。
「これで最低限の一式はそろえた。値段は銀貨五枚だ……あとはこいつらを買うかどうかだな」
一式そろえてくれた装備の横には元の世界で言うガスコンロの火が出る所にある五徳のような物の中央に赤い石のような物がはまっている物や、中に何が入っているか分からない壺が大小二種類置いてあった。
「こいつが火晶石を使ったコンロ、大きい壺が吸収促進粉で小さいのが魔物避けだ」
五徳のような物の中心に取り付けられているのは火晶石と呼ばれる石で、魔力を注ぐと火が起きて湯沸かしや料理に使えるそうだ。
ただ、このサイズの火晶石は火力を上げると消耗が激しくすぐに使えなくなってしまうが、変えてあげれば使用でき金額もセットで銀貨二枚、このサイズの火晶石なら鉄貨一枚だそうだ。
そして、大きな壺に入っている吸収促進剤と言うのはその粉を地面にかけるとダンジョンに即座に吸収され、吸収される速度も上がる作用があるらしい。
解体が終わった魔物の残骸や調理などで使ったゴミ、用を足したものなどもも吸収されるとの事だ。
これを使っても生きてる者や貴金属のような物は吸収されないとの事だ。値段は銀貨二枚だ。
小さい壺の魔物避けの粉だが、壺から出して地面に撒くか焚火などを使って煙にすると効果があらわれ魔物が近づきずらくなる効果があるとの事だ。
煙にすれば広範囲に効果が適応できるが効果時間と煙が言った方向にしか効かず、時間も一時間程だとか。
地面に置いた場合は、周囲三メートル程の範囲だが近づいて来なくなるため野営時の休息スペースを確保するのが容易になるそうだ。
因みに効果時間は置いた量にもよるが、一つまみで三時間ほどで小さじ一杯ほどで八時間ほどだとの事だ。
この魔物避けの粉だが、小さなコップ程のサイズの壺なのに値段は銀貨五枚とかなり高価だ。
「これってあった方が良いのかな?」
「うーん。あれば確実に便利だけど結構高いよね。私も何度かダンジョンに行っているけど鉄クラスでは使っている人は見たこと無いかな?」
どちらもあればかなり有効に使える物ではあるんけど少し値段が高いんだよね。
ただ、店主が進めて来ている位だからやっぱり結構あったら便利なのかな?
結局店主が進めてきた物も含めすべて買い事にして、火晶石も予備として十個程買っておく。
帰り際に店主が「お前さんは良い冒険者になる」と言って見送ってくれた。
「あんなに買ってよかったの?」
「だいじょうだよ。それにな店主がわざわざ進めてきたって事はあった方が良い物だろうし、準備は出来るだけしておいた方が良いだろうからね」
昨日の狩りで得た銀貨は二十枚だったが今の買い物で十五枚使い、昨日の宴会でも銀貨一枚使っているのでかなり散財したことになる。
でもまあ、ダンジョンに潜ってからあれが無いこれが無いとなっても嫌だし、身の安全や寝床の衛生状態を気にして寝たりするのは嫌だからね。
今日買い物した物は結構大荷物だったけど、店の人が夕方までに宿に運んでくれるとの事だった。
予定より少し早く買い物が終わったので軽く露店を周った。
露店は先日見た物と代わり映えはしなかったのと、食品系の露店以外は殆どしまっている様子だったのでマリアと少し買い食いしてデートしてから戻った。
「おう、今日はすまなかったな。買出しはもう終わったのか」
露店を周ったりしていたために宿に戻ったのは昼頃になってしまっていたが、グランツの部屋に行くがアシュリー達はまだ戻って来ていないようだった。
「それがね――」
俺達とアシュリー達が分かれて買出しをしていることをグランツに伝えた。
そして、俺が店で話をした内容と買い込んだものを説明すると。
「流石はあの親父だな。俺達の状況をよくわかってるな」
「どう言う事なの?」
「ダンジョンに入るって言ったから先に最低限必要な物を出しておいて後からあればかなり役立つものを教えてくれるんだ。しかも、鉄の盾って事を教えているから不足してそうな物を出してくれたんだな」
詳しく聞くと、あの店主は元銀等級冒険者だったけどダンジョンで怪我をして引退したらしい。
しかもその原因が装備品の準備不足のせいで事故が起きてしまったとの事で、他の冒険者達が同じような事が起きない様にあの店を始めたんだそうだ。
ただ、冒険者達は自分の腕や知識を第一に考える習性があるから、ああやって後出しで必要そうな物を後で出してくるんだそうだ――しかも、パーティで買った物を覚えているらしく消耗度合いなどを考えてくれるらしい。
「ただな、駆け出しの頃って金が無いから勧められても買わなかったりするんだが、そのせいで結構苦労したもんだ」
ガハハと男臭く笑うグランツだが、その瞳はどこか遠くを見ている様だった。
その様子を見ていたマリアとイザベルも同様に少し悲しげな表情だったから、昔に何かあったのだろう。
そんなことを放している間にアシュリー達も買い物から戻ってきた。
アシュリー達もあの店に寄ったみたいだけど、俺が既に買った物で必要な物がそろっていたみたいで「前に来た奴が買って行った」と言われたらしい。
俺が後に買った物についてはパーティで必要な物だったので、そのお金はアシュリーが俺に渡してくれた。
「よし、みんな集まったな。これからダンジョンの作戦会議をする。アシュリーあれを」
「はいよ」
グランツに言われてアシュリーが取り出したのはダンジョンの地図のようだ。
「まずは明日宿を引き払った後、ウユシウコ村へ向かい一泊する。その後、入り口の掲示板を確認した後キャンプ地を決める」
「グランツ、その掲示板ってなんなんだ?」
「そうか、トマは知らなかったんだな。掲示板には商人たちが買取をしている素材やダンジョン内の動向が書かれていたり、パーティの募集をしていたりするんだ」
掲示板に書かれている買い取り素材が取れる魔物が居る近くにキャンプをして金銭を稼いだり、危険な魔物が徘徊していないかが書かれているらしい。
そしてパーティ募集の方は今回は必要ないが、大人数のパーティで進んだほうが効率が良い事もあり現地で募集したりすることがあるらしい。
因みに、アシュリーとコンラートはこの村出身でダンジョン初体験のコンラートもこの事は知っていた。
「だがまあ、今回は俺達だけで潜ることになるから欲を出さず浅めの所でキャンプする予定だから、魔物情報の確認だけで良いだろう」
「それで、どのあたりにするんだ?」
「予定としてはこの辺りだな」
グランツが示したのは、入り口からさほど進んでいない少し入り組んだ場所だった。
「この場所は少し道はわかりずらいが、守りやすくキャンプもしやすい。トマが買ってきた魔物避けがあれば通路を封鎖できる程度の道幅だし、この広間はキャンプとしては最適だ」
地図を見ながら説明を聞くと何となく状況を理解することが出来た。
道幅はおよそ三メートル程で、広すぎず狭過ぎない感じになってらしく広間はその通路の他に細い脇道が一本あるだけのようだ。
脇道はかなり細いようで大型の魔物は入って来れないし、集団に襲われた際に逃げ込めば途中の小さな広場で一匹ずつ倒せて利便性が良い場所らしい。
「よっぽど大丈夫だと思うが他のパーティが居た場合は少し離れたここにする」
指示された場所はさっきの場所よりも少し先にある似たような地形の場所だった。
違うのは通路がもう少し広く脇道も無く袋小路になっている所かな。
「この場所は逃げ道が無いからあまり行きたくはないんだが、この辺りまでであればそこまで危険な魔物は出ないから大丈夫なはずだ」
前者はデミゴブリンやデミコボルトなどが出る場所で金銭的な価値がある物はほとんど落ちないが、極まれにではあるが魔石を持つ個体が居るとの事だ。
後者は無駄に大きいフットラットや集団で行動するウルフ系の魔物が多いそうだ。
デミゴブリンやデミコボルトはこん棒のような物を持っていることが多いが、稀に短剣などを持っている個体も居るので注意が必要との事だ。
フットラットは体長二メートルほどある巨大な体躯ではあるが、手足とのバランスが悪く動きが悪く狩りやすいが、のしかかられると非常に危険で牙での攻撃は革系の装備では食いちぎられてしまうから注意だとか。
ウルフ系は大体五匹前後の集団で襲って来るが、この辺りのだと特殊な攻撃は無く噛みつきがメインなんだとか。
まあ、単体でないので対処しにくいが不意を突かれなければ問題は無いそうだ。
「それと陣形だが、キャンプ着くまではアシュリーを先頭に俺が前衛で中衛にコンラートとトマ、後衛はイザベルとマリアだ。キャンプに付いたらアシュリーが魔物を引っ張ってくるから、俺とイザベルとマリアが前衛でコンラートとトマは後衛をしてくれ。アシュリーは周辺警戒と援護を頼む」
「いつも通りだけど今回はコンラートとトマって言う魔導士二人もいるから火力は十分ね」
「火力があるのは良いけど、俺だけ何往復も魔物引っ張ってこないといけない気がするんだが」
「トマ援護お願いね! ついでにコンラートも守ってあげて」
「馬鹿マリアうるさいよ! トマ、ダンジョンに着くまでにお互いの役割を決めておこう」
「そうですね。お互いがどんな魔法が使えるか確認もしておきましょうか」
こうして、わいわい騒ぎながら作戦会議を夕刻までするのであった。
いつの間に16000pvを越えていて驚いている転々です。
次回も月曜日更新予定になっていますので、今後ともよろしくお願いします。




