失敗勇者と新たなる出会い
世間は祭りだ祭りだ言っておるが、ワシらは違う意味で祭りじゃな。
いつもの事じゃが、解体屋の仕事は皆が楽しんでいる時期に限って忙しい事が多くて妻子持ちにはいつも悪い事をしとるな。
しかも今回は少し厄介な御仁も来ると連絡が来とるから、その対処もせにゃならんの。
まあ彼女の事は知らない事も無いからワシが対処すれば問題はないじゃろうが、どれだけ持ち込んでくるか次第では誰も祭りに行けんかもしれんの。
ただ、ワシらのおかげで祭りの屋台飯の種類が増えて皆が楽しんでくれるんじゃから、仕事のしがいはあるっちゃあるんじゃが……まあ、今回もギルマスに特別報酬を出すように言っておかにゃならんな。
解体小屋のおやじ ゴンズ
……体が重い……頭が痛い……一体何が……。
目を覚ました俺の体には異変が起きていた。
いつもはすんなり起きれていたはずなので、全身に異様な倦怠感と頭に響くような強烈な頭痛、目の前にはベットに付いている天蓋が目に映る。
「イタタタ、もしかして二日酔いか? あれ、俺っていつ寝たんだ? 全然記憶にないぞ?」
俺は昨日の記憶を何とか探ってみる……確か、グランツ達と酒盛りをして、部屋付きの子にフライドポテト作ってもらったら主人が来てレシピを提供して……その後また酒盛りしてたんだっけか?
その後……あれ?グランツ達と冒険の話を聞いていたまでは思い出せるんだが、何故かその後の事が一切思い出せない。
「……たぶんグランツ達が酔いつぶれた俺を運んでくれたんだろうな。ゴホン! のどが渇いたな『水』……もうひと眠りしよう。あれ?手首に何か……」
魔法で水を生成しのどを潤した後、再び寝ようと体をよじろうとしたのだが何かが手首の当たりの上に乗っていて体が動かせない。
何が乗っているのかと視線向けると、腕は布団の中に入っており……そのには人一人が丸まっている位の膨らみが出来ている。
「……まさかね」
俺の腕に乗っている重みは物のように硬いものではなく、恐らく人と思われる感触がしている……恐る恐る布団をめくる。
(たぶん人である事は間違いなさそうなんだけど、ここでグランツが出てくるようなことは無いよな……俺の男色の趣味は無いぞ。……大丈夫だ、髭のような物は当たっていない……って! 男じゃないならなおさら問題じゃないか! )
手で触った感触は柔らかく、男性でない事はほぼ確定している。グランツ達男性陣は昨日の夜には少し髭が生えていたはずだから、確実に女性陣のどちらかだろう。
……まさか、知らない間に娼婦でも連れ込んだわけじゃないだろうし……ああ、どうしたら。
事実を確認するが怖くなり、布団をめくる手を止めたのだが……何か白いものがちらりと見えた。
見えた白いものは毛の塊のように見え、そのふわふわの毛並みは何故だか触ってみたくなるような魔力を感じる……いや、実際にマナとかが出ているわけじゃないんだけどね。
布団を上げていた手を下ろし、そのふわふわした物にゆっくりと手を伸ばし……手が届く!
あれ、何だろう? なんだか触ったことがある感触だな? うーん何だろう……犬じゃないし、猫でもない……うーん思い出せないけど、触り心地は良いね。
じゃなくて! これは動物の尻尾なのか、それとも獣人の人の尻尾なのか……ええいままよ!!
……と意気込んでは見た物の、流石におっかなびっくり布団をめくる俺の視界に、肌色の物が見えてきてしまった。
「……ううん」
その瞬間俺の腕に乗っていた物体が転がり、布団が一部はだけて見えてしまった……これは……やっちまったな。
めくれ上がった布団から見えたのはマリアだった。
マリアは寝返りを打つと同時に足で布団を跳ね上げたため、マリアの全体像が見えてしまった。
彼女は何故か上半身裸であり、下半身もパンツしか履いていないかなりセクシーな状態だった。
「……俺は昨日一体……何をしてしまったんだ」
頭を抱えてこの状況から逃げようにも、片手はマリアに腕枕している状態で逃げられない。
混乱する頭で何とか今の状況を脱出しようとして、ゆっくり腕を抜こうとすると。
「ん……トマ? おはよう」
「あ、ああ。おはよう……マリア」
「んふふ、起きたら誰かが横にいるって新鮮ね」
「あ、うん。そ、そうだな」
目覚めたマリアは俺が隣にいる事に付いて何も不審がらず、普通に対応していることに俺は今すぐにでも土下座をしたくなった。
この状況に頭が真っ白になっている俺をよそに、マリアはいつの間にかにじり寄って来ていて、そのまま俺に抱き付いてきてしまった。
「えい! トマだー! んふふ、トマの匂いがする。ほら、すりすりー」
「ちょ、ちょっと待って! マリア、色々とまずいって! とりあえず、自分の状況をよく見ようよ! 」
「ん?自分の状況? ……ひぁああああ!」
マリアは自分に視線を向けると、自分が下着一枚という状況に気が付き……叫び声を上げて布団に包まった。
そして周りをキョロキョロ見渡し、自分の服を見つけて布団の中でそそくさと着替えを行っている様だ。
……こんな時でもやっぱり不謹慎な事を考えてしまうのは……男のさがなのだろう……さっきマリアが抱き付いて来た感触が体に残っており、その感触をがあった場所に手を当ててしまっている。
「……」
「……」
気まずい空気が二人の間に流れる……が、それの状況も長くは続かなかった。
「ようトマ、マリア。昨日はお楽しみだっ――いて 」
「流石に状況を考えて発言しなさい」
バンと音がするほど勢いよく扉が開かれ部屋に誰かが入って来るが、声の主は恐らくグランツとイザベルだ。ベットの位置は扉の位置からは見えないが、こちらに近づいて来る足音が聞こえてきて流石に二人で焦りだすが、壁の影からグランツがひょこッと顔を出して固まるのが見えた。
「ちょっと、急に止まらないでよ。……どうした……の……」
俺達の方を見て固まる二人とベットの上で入ってきた二人を見る俺達……両者が固まるのは必然だった。
上半身裸で固まってる男と、布団を肩までかぶっている女性がベットに居るとなれば勘違いしないわけがなかった。
その後、俺は上半身裸だったことに気が付き服を着て、二人に状況を説明する。
マリアは昨日の事はしっかりと覚えて居るらしく、そのおかげで二人に何もなかったことが説明できた。
まあマリアが「頑張ってベットまで運んで貰ったのに、トマが酔っぱらってそのまま寝ちゃったのよ! 」と大きな声で恥ずかしい事を言って顔を真っ赤にしていたのが効いたのかもしれない。
まあ、この世界での貞操観念と俺の考えとは違いがあるようだからあまり突っ込まないでおこう。
そんなこんなしている間に部屋付きの子が散らかったままだったソファー周辺を掃除して、四人分の朝食を持ってきてくれる。
「それできょうはどうするんだ? 」
「どうするとは? 」
「トマ、今日は祭りの日だからどこか行かないのかって事だと思うよ? 」
「ああ、そっか」
そう言えばそんなこと言っていたな。なんだっけ? 船団が入港して街中でお祭り騒ぎになる日だっけか?
でも確か、コンラートが魔法の訓練に付き合ってくれとも言っていた気がするし……どうしようかな。
「グランツとイザベルはどうするんだ? 」
「ま、今は急いで金策する必要もないし、元々森から戻ってきたら数日休暇にする予定だったから適当にブラブラしようと思ってる」
俺は二人の予定は聞いたんだけど……今さら隠す必要はないって事かな。
「じゃあ俺も適当にふらついてみようかな」
「ねえトマ、じゃあ私と――」
「ちょっと待ったー! 」
マリアが俺に何か言おうとした瞬間、勢いよく扉を開きコンラートが部屋になだれ込んでくる。一応後ろからアシュリーも
「トマは俺と魔法の特訓に付き合って言ったよな! 」
「いや返事をした覚えは――」
「拒否しなかったって事は肯定と一緒だ! トマが居ないと魔法の検証が出来ないだろうが! 」
「あー、すまないが少し付き合ってやってあげられないか? 今朝起きた時からこの様子でさ」
「そんなのいつでもできるじゃない! 私だってトマと祭りまわりたいのに! 」
「まあそうなんだが……マリアは昨日トマと楽しんだんだから少しぐらいコンラートに付き合ってやってくれないか? 」
「っな! た、楽しむだなんて、そんな事なかったわよ! というか何であなた達が私が泊まったの知ってるのよ!……あ」
「「……っは? 」」
マリアが口を余計な口を滑らしたことに俺は頭を抱え、グランツとイザベルはやちゃったといった感じだった。
「ここに泊まったのはそりゃ知ってるさ。隣の部屋が夜騒がしかったしグランツ戻ってこねぇし。それにしても……」
「だよな。隣同士の部屋で何かしたらわからない方が可笑しいだろ。と言うよりも……」
「「こんな所にヘタレがおった方がびっくりだ!!」」
しかしコンラートとアシュリーから爆弾発言で俺はグランツ達に視線を向け、二人はバツの悪そうな顔をする。
コンラート達は部屋に送り届けられた時にベットに投げ置かれる感じで寝かされたせいで目が覚め、その後グランツとイザベルが隣の部屋でしていることは気が付いたのだそうだ。
二人が隣の部屋で行っていると言う事は、マリアがトマと同じ部屋に寝ることが確定であり、そうなるとトマ達が同じことをしていると思うのが普通だといわれてしまった。
だからこそ二人はわざと時間を遅らせてから部屋にきたらしいのだが……二人からは散々ヘタレだとかありえねとか言われてしまった。
「……まあそう言う事ならさ、マリアは昼間トマの案内を兼ねて祭りに行ってきたらいいさ。どの道魔法の訓練はギルドやるか街から離れないといかんから、三回目の鐘が鳴ったらでいいからギルドの訓練場に集合って事でいいか」
「あ、うん。そうしようか」
「……それで良いわよ。はぁ、やっちゃった!」
流石にコンラートも気を使ってくれ、訓練は夕方からにすることになった。
因みに三回目の鐘と言うのは、この街では三時間おきに一日四回教会にある鐘が鳴らされるとの事だ。
一回目の鐘は九時になるとの事で、その鐘が鳴るくらいの時間から商店を開ける合図になっているんだとさ。
その後、部屋付きの子にいって二人の朝食も用意してもらい、周りからやいのやいの言われながら朝食を食べた。
朝食後、グランツ達はそのまま自由行動するとの事で別れ、マリアとは一回目の鐘が鳴ったら宿の前で待ち合わせすることになった……あれ? 流れでこうなってしまったが、これってマリアとお祭りデートするって事なんだよな……大丈夫か俺。
そんな不安も感じつつも身だしなみを整え、街中に鐘の音が響き渡るのが聞こえ宿の前に急いで向かったのだが……入り口にたどり着く前に階段でマリアと会ってしまったので、待ち合わせではなくなってしまった。
マリア自体はそんな事は気にしていない様だったので、そのまま二人で祭りに出かけた。
「うわ! 凄い人だな! 」
「祭りだといつもこうなのよ。今日から三日間船が滞在するから、その間は毎日こんな感じよ」
宿からでた俺の視界には、何処にこれだけの人が居たのかと思う程の人混みが見えた。
人混みとはいっても、元の世界の祭りと比べたらかなり人は少ないのだが、昨日街を歩いた時と比べて数倍は人が歩いていた。
「とりあえずどこに行こうか」
「うーん、トマはこの祭りは始めなんだよね。それだったらまず船着き場に行きましょ。今日は船団が入って来ているから一番賑やかなのはあそこだし、船団の露店もあるから掘り出し物とかもあるかもしれないしね」
「それじゃあそうしようか」
「うん!」
マリアに輝くような笑顔を向けられ少したじろいだが、提案に乗って人混みをすり抜けながら船着き場へと向かう。
船着き場へ向かうにつれて人が多くなってきたので、通りから外れてギルドの解体小屋の方をから海沿いに歩いていくことにした。
解体小屋は今日も忙しそうに作業している人たちの声が聞こえ、祭りなのに大変だなと思いながら視線を向けていたら、「これ船団の人達が狩った魔物達の解体をしているの」と教えてくれた。
船団が道中遭遇した魔物などが毎回祭り当日に運び込まれるらしく、初日は毎回解体小屋の人達は大忙しなんだってさ。
ただ今回は小屋からはみ出るほどの大物はいないみたいだから、半日もしたら終わるんじゃないかってことだ。
興味本位でどんな大物が居るか聞いてみたら、大型船と同等の大きさのクラーケンや額に鋭い角が生えたホーンシャークなどが運ばれることがあり、それが持ち込まれると祭りに参加できないくらい忙しくなってしまうそうだ。
心の中でおやっさんにご苦労様ですと呟き、小屋の裏の水路から船着き場までゆっくりと歩いて……行こうとしたら小屋から出てきた人に呼び止められる。
「おう! トマとマリアじゃないか。 こんな所で何しとるんじゃ」
「あ、おやじさんおはよう!」
「おやっさんおはようございます。今から船着き場に行くんですが、流石に通りは人が多かったので裏から行こうかと」
「若い奴らはええのー。船の周りは店も多いが、そもそも船自体が凄いから見に行っても損は無いからの」
「そうなんですか? 俺はこの祭りは初めてなので、船団の船自体も見たこと無いので楽しみですね」
「あら? 船にご興味がおあり……ですか……」
おやっさんが出てきた扉から、フードを被った人が出てきて話しかけてくるが、何故か言葉が微妙に切れた。
声から察するに女性だと思うが、顔が見えないくらい深くかぶっているフードでは口元鹿見えず、容姿を確認することが出来ない。
「……アカリ様? いえ、そんなことは……しかしこの雰囲気は……」
「え? アカリを知って……あ」
フードの女性は俺の言葉を聞き確信を得たのか、口を少しにやけさせてたあと俺に告げる。
「私はアルベルト=キサガナ王太子妃のハンナ=キサガナと申します。……少しお時間を頂けますね」
ハンナ王太子妃……って王太子の奥さんって事だったよね? そんな人がなぜこんな所に居るんだろう。
その様子におやっさんは頭を掻き、マリアは王太子妃と言う事で直立不動で固まってしまった。
そしていつの間現れたのか周囲には護衛の様な人に取り囲まれ、、断ることが出来ないと悟り皆と一緒に解体小屋へと入って行くのだった。
それにしてもアカリを知っている様だったけど、どんな知り合いなんだろうかと少し興味が湧いていたのだった。




