失敗勇者とやっちまった!
今日はなんていい日なんだ! 最上階から戻ってきた宿の主人の足取りは軽くかなり上機嫌であった。
明日からちょうど祭りだし、露店で店の新メニューとして売り出せば爆発的に売れるし、夜の酒場としてもかなりの売り上げが見込めそうだ。
どこから流れてきた冒険者なのかは知らないが、銀級ともなれば資産はそれなりにはあるだろうから気にしていないみたいだが、この料理の価値は金貨数枚程度にはなるだろう。
しかも、他にもレシピを提供してもらえるみたいだから、そこは内容次第だがまだまだ稼げそうな匂いがするな。
まあ、あんまり絞り過ぎて悪評判を広げられても困るからほどほどにする必要はあるが……それでもかなり儲かることは間違いない。
これでで軌道に乗ればあいつらを見返すことも出来るし……息子たちを王都の学校へ生かすことも出来るかもしれない。
そんな夢を思い描きながら、宿の主人は明日の祭りでの売り方について考えるのであった。
そして後にこの宿は、ユピリルの奇跡の宿と呼ばれるようになるのはまた別のお話。
「えっと……あれって大丈夫なのか?」
「よくある事だよー。イザベルっていつもほわほわしてるのに、急にーああやってパワフルになることがあるんだよー」
「そ、そうなんだ」
まあ初めて会った時もぶっ飛ばすぞ見たいなことを言っていた気もするし、そう言った気性の持ち主の人なのかもね。
「んふふー。ねぇねぇトマー、お話ししようよー」
「えーっと、何の話をするんだい?」
「なんでもいいよー、トマが好きな物とかー、なんでもー! えっと、とりあえずは好きな食べ者から! 」
マリアは俺以外誰も居なくなったのが嬉しいのか、上機嫌に俺の膝でごろごろしながら質問してくる。
一応気は使っているのか、当たり障りのない質問ばかりしてくるんだけど、どこかでボロがでそうでドキドキしながら質問に答えていく。
「んふふ。トマの事がだんだんわかってきたー。ん、トマお酒ちょうだいー」
「いや、その体制じゃ飲めないでしょ。起きて飲もうよ」
「むー。トマはしょうがないなー」
いや、しょうがないのはあなたですよマリアさん。
食べ物は寝転がっていても俺が口に放り込んでいたから良かったが、流石にお酒は飲むことが出来ないのいやいやながら起き上がってくれた……ただ、誰も居ないせいもあってか体をぴったりとくっつけてくる。
「あのーマリアさん。流石に近くないですか?」
「むーいいじゃない、誰も見てないんだし。それとも私が嫌なの?」
俺の腕に絡みつき、下から覗き込むように見上げるのは卑怯だと思うんですが……それに、この体制はぽよぽよしたものが腕に当たり実に嬉しい……じゃなくてけしからん状態だ。
「わかったからとりあえず腕は話してね」
「やったー! ……ぷはぁ! やっぱり冷やしてあるお酒は美味しいね! そう言えば、私ばっかり質問してたけどトマは私に質問は無いのー? 」
「うーん、質問ね……少し気になるのは、グランツとイザベルの二人の事かな?」
「んふふ、やっぱり気が付いた? あの二人って前々から二人でどっかに消えてったりするんだよね。流石に今日みたいにあからさまな事はなかったけど、二人が出来てるのはみんなわかっているからね。……まあ、私に気を使っているだけかもしれないけど……」
あーそっか。グランツとイザベルがくっ付いているのであれば、鉄の盾のメンバーで相手が居ないのはマリアだけになる。アシュリーとコンラートは地元に彼女がいるらしいからね。
「マリアだって可愛いんだからそのうちいい人が出来るよ」
「んふふ、ありがとう。でも私に寄ってくる人って変わった人が多いのよねー。ほら、ギルドでもいたキルヒナーとかみたいなのばっかりなのよ。トマが……ううん、なんでもない。」
マリアが一瞬何か言いげだったが言わず、片手でお酒とつまみを飲み食いしている。まあ、言いたくない事を聞くのはあまり良くないよね。
そう言えばギルドで絡んできたのはそんな名前の奴だったな。うーん、見た目もヤンキーみたいなやつだったし性格もあまりよくなさそうだったよな。
んー、でも実際マリアは確実に可愛い部類に入るしどこかで思っている人とか居そうな感じなんだけど……男運がわるいのかな?
それともマリアの性格的な問題か……まあ、それもあり得る話だな。
今も俺の腕に絡めてきているし、たぶん相手に勘違いさせてしまっているのではないかな?
勘違いした男が言い寄ってきて、その気のないマリアが振ってるって感じかもしれないな。
うーん、これは指摘してもいい物なのかどうなのか迷う所ではあるな……でも他人である俺から行ってあげたほうが効果はあるのかもしれないな……。
「……マリアってスキンシップ多い方だよね?」
「んーそうでもないと思うけど?」
酔って頬朱に染めたマリアは俺の方を見ながらコテリと首を傾げる。
一瞬そのほっぺたをつんつんしたくなる衝動に駆られたが、流石にコンパじゃないんだからあまりそう言う事は良くないよな。
もしかしたら、この無防備な感じに皆引き寄せられているのかもしれないね。俺も元々がこの世界の住人で、今みたいな状況だったら確実に口説くんだろうけど……俺はまだこの世界に残るのか元の世界に戻るのか決めかねていて、そう言った相手をまだ見つけようとは思っていない……まあ、妹からの伝言では戻ってくるなって事みたいだけど……実際どうするかだよなー。
アイリスは……只の勇者フェチだし、クリスは可愛いんだけど……父親は侯爵のヒエンさんだからなかなか面倒だろうしね。
王宮で身の回りの世話をしてくれた子達はなんだかんだいいながら良い身分だろうし、それに俺に対して恋愛感情はないだろうから無理だろうね。
……あれ? そう考えるとマリアはそう言ったしがらみがないくて、別にこの世界に骨を埋めると考えたら結構いい相手なんじゃ? いやいや、そんなことを考えるのは時期尚早だ……それにマリアがただスキンシップが多いだけの子だったら、俺もキルヒナーみたいに扱われるのも悲しいしね。
いかんいかん、流石にお酒飲み過ぎで思考が変な方向に向かっている気がする。それに今はマリアの相談を受けている所だったんだ。
「そう言えば、マリアは今まで好きになって人はいるの?」
「す、好きになった人!? い、いきなりなに?」
「いやね、マリアが実際どんな人が好きなのかなって思ってさ。それによって、どうやってアドバイスしたらいいかなって思ってさ?」
「……ふーん、まあいいけど。……ねえトマって獣人って……どう思う?」
あれ?俺質問間違えたかな? 一瞬テンションが上がった気がしたんだけど急に降下して行ったんだけど。
まあいいか、獣人ね……俺が知り合いに獣人と言えば白虎の二人ぐらいだろうけど、二人とも悪印象派全くなくてとてもいい人だったな……あ、あとスターもだけど一回モフモフしたかったくらいかな?
「うーん、知り合いに三人くらいしか獣人の人はいなかったけど、みんないい人だったよ? あ! もしかして獣人の人が好きなの? 」
「違います! ……あの、私の祖母が獣人でして。……私にも四分の一ですが獣人の血が流れてるんです!」
マリアが何やらも話しづらそうに言ってくるので何かと思ったら、獣人のクォーターと言われたんだけど? 何が言いにくいのか……ああ、良くある獣人差別とかがあるのかな? それで色々気にしてていい人と巡り合えないのかもしれないね?
ここはひとつ、マリアに自信を付けてもらっていい人を見つけられるように協力しよう。
「獣人の血が入っているって言ってもマリアはマリアでしょ? そんなに気にするような事なのかな? 」
「え!? だって獣人の血ですよ? この辺りではあまりありませんが、私の生まれ故郷では獣人は差別対象でしたし、他の所でも奇異な目で見られることも多かったんですよ! 」
「んーと言われても、俺は獣人知り合いはいるけどいい人ばかりだったし、特に忌避感とかそういうのは無いかな? 冒険者の人には人種以外にも様々な種族の人が居るし種族バラバラでパーティ組んでる人も多いでしょ? それに強い人なら冒険者に一杯いるだろうから、そういう人だったら問題ないんじゃない? 」
「……そうかもしれないですけど、そうじゃない人も居ます。それに私も一部獣人の部分が現れてるところがあるんです」
「そうなの? 」
ううむ、マリアが獣人差別の地域出身のせいであまりそう言ったことで前に出れなくなっているみたいだね。
マリアのどこに獣人要素があるか隣から眺めてみるが……特に見た感じではそう言ったところは見受けられない。
「……わからん。どこに獣人の要素があるの? 」
「獣人特有の嗅覚がありますし……えっと……その……」
「嗅覚なんて言わなきゃわからないって。で、なになに? どこに獣人の要素があるの? 見た感じじゃ全く分かんないよ」
うつむきかながら何か言いにくそうにしているマリアに、グイグイ言ってしまう。
この時の俺は、放しながらずっとつまみを食べながら酒を飲んでいたのでかなり酔っており、自分では正常とは思いつつも結構思考回路がまともに働いていなかった。
「えっと……実はここに尻尾があるんです」
「マジで! どんな尻尾が生えてるの! 」
「……はぁ。トマって本当に獣人に対して何も思ってないのね」
「え? だからそう言ってるじゃない。まだあったことのない種族は居るけど、別に見た目が少し違いうだけでしょ? 相手の事が好きだったら種族なんて関係ないでしょ? それで、マリアの尻尾ってどんなのなの? 」
尻尾はいいよね、だいたい動物には尻尾があるけどどの動物も尻尾はモフモフの場合が多いし、マリアみたいな子に生えてるんなら可愛いよね!
トラオウさんにもあったけど、流石に男に尻尾触らせてっていうのはあれだったしミモザさんに言うのは……魔道具を買うのを手助けしたこともあったから、もし嫌でも良いって言いそうで頼めなかったんだよね。
「……トマが見たいなら良いけど、その代わり私もトマのからだ見せてもらうけどいい!? 」
「俺の体? 別にいいけど――はいどうぞ!」
マリアの条件が何故か俺の体が見たいというから、上着を脱ぎ棄て上半身裸になる。
元の世界での体じゃ流石に見せられたものではなかったけど、この世界に来て騎士団で地獄の特訓をしたせいもあり、全体的にかなり良い感じで筋肉が付いているのだ。
ぼこぼこにされては回復され、気を失っては回復され……結構凄い訓練をしていたからね。
「きゃ! い、いきなり脱がないでよ……でも、思った以上に言い体してるのね。トマって一応魔導士なのよね? 」
「魔導士だって体鍛えておかないといざという時どうにもならないでしょ? それに俺は剣も使うから結構鍛えているんだよね! 」
「……ほんとだ! 私の体と違って凄い身体つきね」
「ふふん! 鍛えてるからね! 」
俺の鍛え抜かれた体をつんつんしながら褒めてくれるので、気を良くした俺は筋肉に力を入れたりして更に体をアピールしてみる。
女の子にこんな事して貰えるなんて……鍛えといてよかった。
「うん、満足! この体だからトマは強いんだね。……じゃあ次話私ね」
マリアはそう言いながらカチャカチャとベルトを外して、ショートパンツを少し降ろす。
「……これ……なんだけど。トマはどう思う?」
マリアの尾てい骨当たりの所には、真っ白で真ん丸のふわふわな毛をした尻尾があった。
犬や猫みたいな細長い尻尾ではなく、小さくふわふわな尻尾……ウサギっぽいのかな?
「可愛い尻尾! 真っ白でふわふわっぽいね! 」
酔っているせいなのか元々動物が好きだったからなのかわからないが、かわいくてモフモフ出来そうな尻尾を見せられ俺は無意識に手を伸ばして……モフモフする。
「ふわふわだ! でもやっぱり尻尾だから軟骨みたいなのがあるんだね」
「んんんんんっあ!!! ちょ――あぁん! そ、そんなに――ぁん、触っちゃだ……だめ……だめだって!」
俺がモフモフの尻尾に触ると、マリアは悩ましげな声を上げだし――その声が可愛かったので悪戯心が刺激され、尻尾辺り撫でまわす。
俺は触り心地を堪能し終わるころには、マリアは力尽きソファーに突っ伏した状態になっていた。
「んっ……はぁはぁ……トマの馬鹿……エッチ」
「あ、ごめん。マリアの反応が可愛くてつい……」
いやね、途中から段々と興が乗ってしまって、マリアの尻尾をいじくりまわしたのは流石にまずかったかな? でもね、しょうがないでしょ……可愛かったんだもん。
「バカバカバカ! トマのせい腰が抜けちゃったじゃない! トマ! 」
「はい!」
「運ぶ! 」
「えっと、何を? 」
「私をベットん運ぶ! こんな状態じゃ部屋にも帰れないでしょ! 」
「え、それなら俺が部屋まで運ぼうか? 」
「バカバカ! そんな所他の人に見られたら大変な事になるじゃない! だからトマは私をあそこに運ぶ! 」
マリアの勢いに負けてマリアをお姫様抱っこをして、この部屋にあるキングサイズ位あるベットにマリアを運ぶ。
流石にかなり飲んでいるせいもあり、マリアを抱き上げて運ぶ際に視線はふらふらするわ足元はおぼつかないわと結構危なかったけど、何とか転んだりすることなくマリアをベットに下ろして布団をかける。
下ろした際に手に何か引っかかるような感じがしたけど、ひっぱったら普通に取れたから良いか。
「じゃあトマはこっちね!」
「そっち? はいはい」
マリアに指示され反対側からベットに乗って、布団に潜り込む。
「うんよろしい! それじゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみー」
酔いにより、思考がほぼ停止した状態でいつの間にかマリアと寝ることになってしまったが、事の時はそんなことを考える様な余裕がないくらい酔っていたのである。
そして部屋付きの子が翌朝片付けの為部屋に入ると、ソファーの周辺には酒瓶が数十本と子樽――ピッチャーサイズの樽――が全て空になっており驚愕することになる。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次回も月曜日更新になります。




