ある朝のひと時?
簡単なあらすじ
召喚に失敗したシクラ様は、魔王が討伐された後の平和時代に来てしまわれました。
私達メイドは、シクラ様の身辺のお世話をさせて頂いております。少しやり過ぎてしまったようで、のぼせられたシクラ様を部屋にお連れし私が護衛として残ったのですが……。
シクラ様の基準がよくわかりません。
何故かご自身より私の様な使用人を優先したり、女性が寝ないのに自分が寝られないとかよくわからないことを言われてしまいますし。
それにしても、変なところだけ鋭い方ですねシクラ様は……。
でも、こっそりと護衛をさせて頂きます、シクラ様と同様に条件で寝たふりをしたらいいわけですから。
シクラ様の指示には反しませんので、問題ありませんね。
byアイリス
アイリスが部屋を出たことを確認した十誠は、疲れもあったのか直ぐに眠気に襲われた。
眠気に襲われながら、十誠は自分のアイリスに対する態度が間違っていなかったか考えるが、やはり自分は間違っていないと思う。
ちょっときつく言ってしまった気もするが、俺の為にもアイリスの為にもあれが最善だと思う。そして、そのまま眠りに付くのであった。
□
薄っすらと部屋に朝日が射し込んでくる。
どうしたものでしょうか。
アイリスは今非常に困った状態になっていた。
何が困った状態かと言うと、十誠の護衛として一緒のベットに入ったのはいいのだが、眠るつもりではなかったのだが、少しの間寝てしまっていたようだ。
そして、目を覚ます原因となっているのが、今の状態なのだが……十誠がアイリスの頭を寝ぼけて抱き寄せていたのである。
十誠は気持ちよさそうに寝入っているが、アイリスの頭はいま十誠の胸に抱き寄せられ身動きが取れなくなってしまった。
予想外の事態であった。
そもそも自分が眠ってしまうとは思っておらず、明け方にこっそり着替えをして何食わぬ顔で扉から入ろうとしていたのだが、今のこの状態で抜け出そうとしたら起きる危険もあるが、このままでいる事も他の誰かに見られる危険がある。今の状態を見たら、他の子たちに何を言われるかわからない。
私は今寝間着ですし、シクラ様も寝間着を着ていらっしゃる状態で、しかも抱き寄せられている状態では何もなかったと思う方がおかしい。
カトレアならわかってくれるかと思うが、あとで面白おかしく周りにいろいろ言うでしょうね。でも他の三人だと、確実に勘違いをして後々面倒なことになりかねない。まだ明け方なのか、既に日が昇ったのかがわからない……どうしよう……。
十誠に頭を抱えられ、顔が布団の中に入り込んでしまい視界が真っ暗な状態なのだ。
コンコンコン
突如、扉をノックする音が聞こえる。アイリスは体を硬直させ聞き耳を立てる。
「うう~ん、バイトは昼からだからまだ寝てるよ。」
やばい、シクラ様は寝ぼけているのか意味が分からないことを言っていますが……誰かが来たとなると何とか抜け出さないと。無理にでも、もがいて抜けだろうとしていると。
「シクラ様カトレアです。入りますね。」
カトレアが部屋に入ってきた。
ど、どうしよう……カトレアこっちに来ないでよ……。ま、まあ、カトレアならまだ何とか話せばわかってくれる……と思う。
まだ離れていて、十誠が横を向いて寝ているから気が付かれてないが、近づかれたら膨らみがおかしいので確実にばれてしまいます。そして、アイリスの願いはことごとく叶わないのだった。
「シクラ様、アネモニ、ダイアン、リリーです。失礼いたします。」
実は、カトレアの後ろに他の三人のメイド達も一緒に来ていたのである。アイリスからは見えていないが、カトレアは十誠の服を取りに衣装室へ、アネモニとダイアンは台車に朝食を載せてテーブルへ、そして十誠を起こすのは最年少のリリーである。
「あら、これって。」
カトレアは衣装室の入り口に何か置いてあるのに気が付いた。あるものとはアイリスのメイド服なのだが、誰の物かはわからないカトレアは首をかしげながら部屋を見渡す、そして気が付いてしまった十誠の布団が異様に膨らんでいることを。リリーを止めようかと一瞬悩んだが、今さら止めても不審がるだろうしメイド服を持ったままベットの方へ向かう。
ああ、ダメだ。もう逃げられない……どうしたら……
アイリスは涙目になりながら考えるが、部屋に四人もいる状態に逃げだせるわけもなく……
「シクラ様ー、朝ご飯ですよ、おきてくださーい。シクラ様ー」
リリーがベットの脇から十誠を起こそうと呼び掛けていると、十誠が抱いていたアイリスの頭から背中へ手を回して抱き替えて、うんうん唸っている。
(シ、シ、シ、シクラ様! )心のなかでアイリスは叫ぶが、声は出さずに堪えている。
「うんしょ。シクラ様ー、朝ですよ? あれー? 」
リリーは自分の背ではベットに寝ている十誠に届かない為、ベットに上り十誠を起こそうとしたのだが、十誠一人で寝てるにしては膨らみ方が大きいことに違和感を覚えた。どう見ても膨らみが二つあるように見える。
「カトレア様、シクラ様何か変なの。」
「どうしたのかしらリリー、何がおかしいか教えてもらえる?」
「ええっとですね、シクラ様が二人いるみたい? 」
「あらあら、シクラ様二人いるのかしら、それともシクラ様以外に誰かが居るのかもしれないですね。」
カトレアは笑顔で、くすくす笑いながら近づいてくる。リリーは、頭にはてなマークを浮かべながら首をかしげている。
ああ、もうダメ。カトレアは今の状況を楽しんでいるし、リリーがすぐ横に居るから動けないし。
「リリーとりあえず、二人とも起こしてもらえる。とても良いお話が聞けそうですから。」
「よくからないけど、起こせばいいんだね。シクラ様ー起きてー。」
「ん、朝?あれここって、ああそうか今は城に居るんだっけ。」
「シクラ様ー、朝ご飯が出来ていますので冷めないうちに食べ下さいね。」
「わかった……よ……え? 」
目の前には俺を起こしたリリーが居た、横にはカトレアがとてもいい笑顔で立っており、机の所でアネモニとダイアンが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
そして、体の前側と手に柔らかいが温かいものがある事に気が付いた……布団の膨らみに隠れているが、俺からは頭が見えている。
おそるおそる布団をゆっくりと上げると、顔を真っ赤にして涙目なアイリスが居た。いったん布団を下ろして、再度布団を上げるがやっぱりアイリスが居る……
何が起きたのか視線周りに向けると、リリーは俺が起きたのでベットから降りて朝食の準備している方へ歩いていく、カトレアは笑いが堪えられないのか顔を横に向けて小さく笑っている。
俺もアイリスもどうする事も出来ず、お互い固まっている。
「シクラ様、そろそろ起きたらどうでしょうか。」そして小さな声で、「そろそろ離してあげてください。アイリスもこっそり出てきなさい、皆を外にだしておきますから。」
カトレアはくすくす笑いながら、布団の隙間からアイリスの服を潜り込ませる。
「皆さん、シクラ様の朝食と着替えは私でやりますから、ご飯を食べて来なさい。」
カトレアの言葉にしたがい、他の三人は部屋を出ていく。扉が閉まる音がして三人が出て行ったのを確認して、アイリスはもがいて布団から顔を出してくる。
「シ、シクラ様、できれば早く起きて頂きたいのですが。」
「ご、ごめん、直ぐに起きるよ! 」
「きゃ、シクラ様落ち着てください!」
俺は脱兎の如く布団から跳ね起き、衣装スペースに駆け込もうとしたのだが。アイリスを抱きしめたままということを忘れていて急に起き上がろうとしたため、アイリスを胸元に抱きしめた状態で起き上がってしまった。
急に俺が起き上がったせいでアイリスは、横向きで寝ていた状態でそのまま起き上がってしまい、俺の上に凭れるような形になってしまった。アイリスの顔は、完全に真っ赤になっており、尚且つ泣き出す直前のような顔だった。
俺は急いでアイリスから体を離して、着替えるために移動する。
「それでは、何があったか教えてもらえるかしらアイリス。昨日シクラ様の護衛をすると言っていたので、朝になったら何故一緒のベットで寝ていたのかしら。なにをしていたのかしら、アイリスならある程度何をしても問題ないと思いますけどね。」
「そ、そんなことはしていません。シクラ様が目覚められるまで側に居たのですが、私が寝ないと眠らないと言われてしまいまして、ソファーとかでもダメと言われて一度部屋まで戻ったのですが……シクラ様は、ベットで寝て欲しいとの事でしたので、シクラ様のベットにて護衛させて頂いただけです。」
「それにしては抱き合って仲睦まじそうな状態だったじゃない。」
「あ、あれは、シクラ様が寝ぼけて抱き着いてこられただけです。」
「そんなことよりも、シクラ様が戻られるまでに着替えてしまいなさい。」
カトレアは笑いながらアイリスに指示をする。十誠がアイリスにそのような事を強制するような人ではないのは、風呂での出来事でわかっていたことだ。
それに、アイリスから迫る事が無い事も元々わかっていたので、何か事情があったのだろうと始めから分かった上でからかっていたのである。
「えーと、カトレアさんちょっと手伝ってもらってもいいですか。」
この世界の衣服に慣れておらず、まだ一人で着替えることが出来ない十誠に呼ばれ、カトレアは衣装スペースへ向かう。
「失礼します、それでは着付けをさせて頂きます。」
「ごめんね、まだよく仕組みがわかってなくて。」
「いえいえ、良いのですよ。私達はその為にお側に控えていますので。」
俺の着替えを手伝いつつ、カトレアは小さな声で聞いてくる。
「それで、アイリスはどうでした。」
「ひゃい。どうでしたって、な、何もしてないですよ。さっきアイリスにも聞いていたじゃないですか。」
「それは分かっていますよ、ですからアイリスの抱き心地はどうでしたかと。」
先ほどまであった、温かく柔らかな感触が甦ってくる。それと共にのぼせたように顔が真っ赤になり、耳まで熱くなるのを感じる。何しろ今まで生きてきた中で、女性とハグした経験もなく、あんな表情を向けられたこともないし、それにとてもいい匂いがした。
「わかりました。今のシクラ様を見れば、悪い印象が無い事がわかりましたので大丈夫ですよ。アイリスも反省していますし、今回の事は水に流してもらえると幸いです。」
「俺は良いんだけど、アイリスは大丈夫だったのかな。」
「あの子は自業自得ですのでお気になさらずに。それにシクラ様が問題になさらなければ特に問題ありません。」
俺もアイリスも、特に問題がなさそうで良かった。
「無理やりは困りますが、流石にベットに潜り込んできたアイリスに、寝ぼけて抱き付いただけですから。どちらかと言えば、こちら側の落ち度になりますので。それに」カトレアは俺の耳に口を近づけて更に小さな声で、「合意があれば関係を持っても大丈夫ですよ。もし子供が出来たとしても、勇者様の血筋ですから国として大切に扱われますし。」トンデモナイ事を言ってから着付けに戻る。
その後は、特に会話もなく着付けをしてもらい、外に出るとアイリスも服を着替えて頭を下げて立っていた。
「護衛として側にいたのにも関わらず、シクラ様にご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。」
「い、いや迷惑だなんて思ってないよ、こちらこそ寝ぼけていたとはいえ、ごめんね。」
「なぜシクラ様が謝られるのですか。」
「え、だって、俺がアイリスに抱き付いていたし。それに……俺なんかじゃ嫌だろ。アイリスみたいに可愛い子なら彼氏いるだろうし。」
カトレアとアイリスが一瞬ぽかんとした顔をしたが、直ぐに表情を戻し真面目な顔をする。
「あの、シクラ様。私にはそう言った方は居ませんよ、側仕えの者は皆、相手が居ない者ばかりですよ。」
「もしかして、カトレアも相手が居ないわけ。」
「私も居りませんよ、その相手を探すために側仕えになっているものが大半ですし。」
「まじか、こんな可愛い子たちがフリーとか、どんだけ男たちに見る目がないんだよ。」
俺の言葉にカトレアは、アイリスをちらりと見て少し考えてから話し出す。
「私とアイリスは色々とあるのですが、他の子たちは普通の平民ですから貴族との婚姻はなかなか難しいんですよ。今回はシクラ様の為だけに集められておりますので、平民が側仕えになるのは難しいんですよ。それにここは王宮ですから、側仕えは家格の低い貴族の子女が付くことが殆どですよ。」
「それとシクラ様、私を可愛いと言っていただけるのは有難いのですが、私はそれほど容姿が良いわけではないので恐縮してしまいます。」
「またまた、アイリスは奥ゆかしいのはいいけど、流石にそれはないでしょ。」
「シクラ様の世界ではわかりませんが、この国では目鼻立ちがはっきりした方が美しいとされていますので、私の様な者は醜くもないが美しいと言う訳ではありませんので。」
衝撃の事実だった。俺から見ると美少女のアイリス達だが、この国では普通と言われてしまうようだ。ただこの世界にも日本人の様な顔立ちの人々は居るとの事で、そちらだわからないとも言われた。
「ですから、シクラ様が謝られる必要はございませんよ。」(どちらかと言うと、アイリスの方が役得だったでしょうし。)と子声でつぶやく。
「何か言いましたカトレア。」
アイリスは少し赤い顔をしながら、ジロリと睨むがカトレアは特に気にした様子もなく流していた。
朝から色々大変だったが、その後少し冷めた朝食を食べ終えた後、他の三人が戻ってきてカトレアとアイリスも朝食を取りに退出していった。
戻ってきた三人に何があったか色々聞かれたが、当事者が居ない状況では話せないので、適当にごまかしておいた。
□
同時刻のとある場所にて。
ホールのようなところに、一人の男性が膝をついて俯いている居る。
男性は、神に祈るような体勢で両手を胸の前で組んでおり、何か小さな声で話している。
「そ、それは本当でございますか。どのようにしたら宜しいのでしょうか。」
しばらく間があり、再び男が話し出す。
「わかりました、早急にお連れ致します。……わかりましたセクメトリー様。」
男は立ち上がり早足でその場を去っていく、その顔には焦りと困惑が浮かんでいた。
この度も最後まで読んで頂きありがとうございます。
メイド達の設定説明
カトレア 侍女やメイド達のまとめ役 貴族家の令嬢 家名や家格は今後出していきます。
アイリス 侍女 元勇者の従者 勇者信奉者 元一代子爵 現騎士爵家令嬢
アネモニ メイド 平民 (実家は商家)
ダイアン メイド 平民 (叔父が騎士爵)
リリー メイド 平民 (色々と訳アリ㊙)
この国での、貴族爵位について順位
公爵>侯爵>伯爵>子爵≧勇者の従者子爵>男爵>騎士爵=魔導士爵
騎士爵と魔導士爵は、騎士団内での功績によりもらえます。騎士と魔導士は別爵位になってます。
騎士の方が人数はかなり多いですが、騎士爵と魔導士爵の人数はほぼ同数にされています。
魔法の才能は殆どの人が無いので、応用魔法が使える人は騎士団に入る人が多いです。