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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
第二章

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58/220

失敗勇者と冒険者生活

 初め見た時は中々の逸材の様な気がしたから手合わせしようと思ったんだが……こいつはかなりヤバイ。

 何がヤバいかって? 全部だよ! 剣技はお粗末なように見せかけてはいるが、恐らくどこかの騎士団に居たのか我流の冒険者達とは違う太刀筋、魔物や動物相手ではなく対人用の戦い方をしている。


 身体強化したからと言っても、これほどの速度で動ける奴はそうそう居ないだろう。一般の冒険者があれほどの速度とパワーが上がったら、まず目は付いて来ないし自分の速さと力で自爆するだろう。


 それにあの魔法……自分が切り込みながら魔法は別で制御とか頭おかしいんじゃないか? 一斉に飛ばしてそれを目くらましにして飛び込んでくるならわかるが、順次魔法を飛ばしながら自分も飛び込んでくるような魔法制御は、普通の冒険者には不可能だ……恐らく金級の上位者でいるかもしれないレベル、白金でもそうはいないだろう。

 

 俺も念の為本気の装備出来たらからいい物の、いつもの装備だったら確実にやられていたな。

 ただこいつ自身が自分の事をそこまで評価していない様にも見えるし、まだまだ伸びしろもありそうな感じがするから銀から始めさせたが……実際の実力は金、いや白金級はありそうだがこれ以上の等級を付けるにはそれなりの手続きがいるし、なぜかこいつの為にならない気がした……直感だけどな。


 ま、こいつが経験不足で勝てただけだが、その経験が埋まればこの辺りでは最強の冒険者になることは間違いないな。

 実力があり、尚且つ態度も悪くない。ふむ、こいつに色々教えるにしても俺が出ていくのはあれだから……丁度良く連れて来たグランツ達に面倒を見させることにするかな。こいつらならもしかしたら、ダンジョンの……に行けるかもしれない……。



 冒険者ギルド ユピリル支部 ギルドマスター ハーロルト=コーラー







「トマが驚くのもわからないでもないが……あの戦いを見ちまうとそのくらいじゃないとランクに合わないと思うぞ」


「そうだよね! どう考えても鉄級の私達より格上だと思うし、剣も私のショートソードで自前の特殊な装備もなしで、フル装備のギルマスとあれだけ戦えるんだから! 」


「そうねー。私でもあそこまで激しく攻め立てたりはできないわね。トマは鍛えれば剣士としてもやっていけるんじゃないかしら? 」


「てゆうか、反則な位強くね? 一応俺達って銀級目の前だけど、皆でトマに勝つのも難しいと思うんだけど」


「……応用、基礎、超越……この差は……だから……」


 相変わらず自分の世界に入り込んでいるコンラートを除く四人から、俺の強さを絶賛する声が上がる。

 うーん、そんなにすごかったかな? かなり手を抜いていたし、ギルドマスターに至ってはかなり余裕がある様に見えたんだけど。


「流石に全員で来られたら勝てないって。コンラートも魔法が使えるから、魔法は相殺されちゃうと思うし、そうなるとグランツに攻撃を抑えられて他のみんなからぼこぼこにされると思うんだけど。ギルドマスターも余裕そうだったし」


「あートマは俺達の強さを過大評価していると思うぞ。それに、ギルマスは元白金級の冒険者でかなりの実力があるんだ。その相手になかなかの接戦をしていた時点で俺達とはレベルがちがうな」


 そんなものかな?剣術ではヒューズさんにもかなわなかった程度だし、魔法も超越魔法を使ったわけじゃないからそこまで威力があるわけじゃなかったしね。


「トマさん、ギルドマスターの力を見る目は本物なので、あなたが銀級なのは問題ないと思います。それと、一応これに目を通しておいてください。これは冒険者ギルド加入みんなへ渡している、ルールなどが書いてあるものになりますので」


 ケイティーさんが渡してきた一枚の用紙に書かれている内容を確認すると、それ程難しい事は掛かれていなかった……要約すると。


 ギルド員は、ギルドが保護するけど緊急事態の時は手伝ってね。でも、犯罪行為は擁護しないからやっちゃだめだよ。

 ギルド章は身分証にもなっているから、紛失した場合は直ぐに最寄りのギルドに報告及び再発行する事。再発行は、証のランクによって金額違うけど払わなかったら失効ね。

 各国、各ギルドごとにルールが微妙に違ったりするから、現地でのルールを守ってね。

 

 とまあ、簡単に言うとこんな感じで、そこまで縛られる事はなさそうだ。


「そうだ、ケイティーさん。登録が出来たって事は、買取とかしてもらえるって事で良いんですか? 」


「できるわよ? なに?魔物系の素材? それとも、肉の買い取りかしら? 」


「肉ですね。一頭丸々あるんですけど、どうしたら良いですか? 」


「未解体って事でいいかしら? それなら裏に解体小屋があるからそこで冒険者章を見せて中の人に言えば買取してくれるわよ。解体済みであれば、その分割り増しは可能だけど解体が雑だと逆に値が下がっちゃうから注意してね。魔物系の素材は依頼があるものであれば高額で買い取れるけど、依頼が無いと安くなってはしまうけど買取は可能よ。それと、魔石ならいつでも買い取れるからそれも受付で言ってくれればいいわ」


 ケイティーさんに礼を言って、グランツ達と裏の解体小屋へと向かった。

 

「ここが解体小屋? これって、小屋っていうより倉庫なんじゃ……」

 

「まあ、小屋ってサイズじゃないわな。ただ、この辺りは海洋型の大型魔獣やダンジョンも近くにあるから、それなりのサイズのもんが必要になるんだ」


 俺が見上げている小屋と呼ばれている建物は、高さは普通の一軒家ほどしかないけど、幅は二十メートル程、奥行きはちらっと見た感じでも五十メートル程はありそうだった。

 因みに、解体小屋の裏は水路があって、海洋型の大型魔獣はそこから直接運び込むんだそうだ。


 

 

 グランツが古びた木製の扉を押しのけるように解体小屋へと入って行く。

 扉の蝶番の所がかなり傷んでいるのか、ギギギギィとさび付いた様な音を上げている。

 扉の先はそこまで広くはなく、カウンターの様な物があるだけで他には奥に続いていると思われると大きな扉が在るだけで、カウンターにも誰も居ない様だ。


「おーい、おやっさんいるかー」


 解体小屋の中に入ったグランツが大きな声で誰かを呼んでいると、奥からガタイのいい白髭を蓄えた壮年の男性が現れた。


「おう! グランツの坊か! なんだ、何か狩って来たのか ……それにしちゃあ何ももっとらんの、なんのようじゃ? 」


「解体してもらいたいものがあるんだ、獲物はトマがアイテムボックスに入れてくれてるんだ」


「おおそうかそうか。お主トマとゆうたか、わしゃこの解体小屋の責任者のゴンズゆうもんだ。獲物があるんじゃったら、とりあえずこっちさ来い」


「今日から冒険者になったトマと言います。よろしくお願いしますゴンズさん」


「そんな畏まらんでいいぞ、わしの事はゴンズかこいつみたいにおやっさんでいいぞい」


 おやっさんだが、たぶん種族はドワーフだと思うんだけど、普通のドワーフよりは鍛えられた体を見る限りその辺の一般人ではない事は明白だ。

 ゴンズさんの後に付いて扉をくぐると、そこには数十人ものガタイの良い男性たちが、血みどろになりながら作業をしている。

 ああ、血みどろと言っても、動物や魔物を解体した時に飛び散った血やらなんやらが付いているだけど、何かと戦って怪我などをしているわけではない。


 ゴンズさんに入ってきた扉の近くにある巨大なテーブル所に案内された。


「基本的にお主ら冒険者が狩って来た獲物は、このテーブルに出してもらうことになっちょるの。まあ、大体の奴はこの坊みたいにわしを呼んだりしちょるが、誰も居らんかったら勝手に入って来ていいからの。ただし、他に人がおる時はそれが終わるまでまってもらっとるがな」


「わかりました。それでは、ここに出してよろしいですか?」


 俺が確認すると、テーブルをバンバン叩いて出すように促される。


 アイテムボックスを開き、グランツ達の狩った鹿の親子と猪、そして俺が狩った熊をドサドサとテーブルにだした。


「ほう、今日は動物の方じゃったか。何ぞグランツ、なかなか腕がよくなったんじゃの。鮮度から見るに今日これだけの獲物を狩ってきたんじゃろ? それにこの熊の状態は最高じゃ! それにしても傷が無いの、首を一狩なんてよくできたもんじゃ」


「あー俺達の奴は鹿と猪で、その熊はトマが狩ったんだ」


「ほーう? なんぞこの細っこいのがこの熊をじゃと? ふーむ……なかなかやるじゃないか!ほいじゃ査定するからしばらく待っとれ」


 俺の背中をバンバン叩いた後、ゴンズさんさんは獲物の査定に入った。

 

「トマは流石だな」


「ん?何のことだ? 」


「おやっさんに褒められるなんてなかなかないんだぞ。俺なんて、冒険者になりたての頃なんか毎回怒られてたからな。美味しい部分をつぶしているだとか、素材の剥ぎ取り方が雑だとか」


「それはしょうがないんじゃないですか? 初めの頃なら皆いっしょでしょ? 」


「それが違うのよ。グランツは昔かなり不器用で、倒すまでに何度も切りかかるから毛皮はダメ、肉もぐちゃぐちゃになっちゃってね。いつも普通の買値の半額以下になってたわよ」


「マリアだって同じだったじゃねぇか、戦闘中に素材の爪を切り落としたり毒腺貫いてダメにしたりしたじゃねぇか」


「グランツもマリアもそんな頃があったわねー。あの頃は宿代もギリギリでたいへんだっわね」


「「いや、おあんたが一番問題あったじゃねぇか(ない)!」


 その後も三人でワイのワイの昔話に花を咲かせだしたので、少し離れていたアシュリーたちの方へ逃げ行く。

 アシュリーは肩をすくめて、昔話をするといつもあんな感じだよと教えてくれた。


 三人の事を詳しく聞いてみたら、元々このパーティはあの三人で始まったとの事だった。

 グランツは昔は他のパーティに所属していたらしいんだけど、そのパーティが解散してしまったらしく新しく募集をかけて来たのがその二人だったんだとか。

 グランツはその当時から大盾を使ったタンクの役割だったから攻撃が苦手で、マリアは未だ新米冒険者でそもそもの技量不足、イザベルも当時からどこにそんな力があるのかわからない程パワーだけはあったけど、力任せに振るうだけの斧では相手がズタズタになってしまっていたらしい。


 その後、アシュリーが加入して去年コンラートも加入することになり、パーティとして安定しだしたんだとか。

 

 まあ、脳筋三人組パーティで色々問題だらけだっただろうな。


「査定がおわったぞい」


 そんなこなしているうちに査定が終わったみたいで、グランツ達三人は騒がしいとゴンズさんに一発ずつ拳骨をもらっていた。


「グランツ達の鹿の親が銀貨十枚で小鹿が銀貨五枚、猪の方は少し良い部位がつぶれちょったから銀貨三十枚ってところじゃの。そしてトマの狩った熊なんじゃが……ギルドで買い取ると金貨一枚しかだせんのじゃ」


「「「き、金貨! 」」」


「なんでだよおやっさん、俺達も過去に狩ったときはそんなにしなかったじゃないか」


「あたりまえじゃの。お前らが狩った熊は毛皮が完全にダメになっとる。それに、いろんな部分がつぶれて売り物にならん部分がたーくさんあったんじゃ。トマが狩った熊をよう見てみ、首を一閃されて他が全く痛んどらん。これだけの品質の毛皮は貴族がこぞって買うじゃろうし、薬に使える内臓も完全な状態だから高いんじゃの。ただ、これをオークションに流せば……さらに高価になることは確実なんじゃが……ギルドの規定じゃそれが精いっぱいだな」


「もしオークションに流すといくら位なるんですか? それと日数はどれくらいかかるんですか?」


「そうさの、その時々によって多少変動はあるが……この時期なら毛皮で金貨一枚前後と薬になる部分が銀貨銀貨五十枚前後でうれるじゃろう。珍味系が銀貨三十枚と残りの肉が銀貨二十枚ってとこじゃろう。ただの、これには解体費は含まれておらんからその辺りを計算すると、銀貨八十枚ほどすくなるなるの。オークション会場は王都じゃあから、お主に金が入るのは三十日後くらいになるだろうな」


 ギルドにうるち金貨一枚で、オークションに出すとその倍くらいにはなりそうって事か。ただし、その金が入るのはオークション会場の王都まで片道十日の往復二十日、落札者の入金期限が十日との事なのでそこを計算するとおよそ一月ほどかかってしまう計算だ……もったいないけど無理だな。


「手持ちも無いのでそのままギルド買取でお願いします」


「わかった……ほれ、これが受付に渡す控えじゃて無くすなよ。ほい、グランツ達の分じゃ」


 ゴンズさんは見た目に反してサラサラと綺麗な文字で受付表に記入して渡してくれる。

 

「ありがとうございます」


「おやっさんあんがとな」


「お前らは礼儀がなっとるからこっちとしても対応のしがいがあるわ。また獲物を狩ったら持って来いよ」

 

 ゴンズさんに入り口まで見送られながら、解体小屋を後にする。


 グランツ達の今回の収入は銀貨四十五枚、五人パーティなので一人銀貨九枚の計算だ。

 たしか、見習いの下級騎士の月給が銀貨十枚だったと思ったから、かなりの収入になった計算になる。

 ただ、冒険者は装備品が自前で整えるので、その辺りの支出計算がどの程度なのかわからないけど、皆の様子を見ているとそれでもかなり儲けが出ている感じだ。


 ギルドの受付で控えをケイティーさんに渡すと少し驚いていたけど、普通に換金してもらえた。

 流石に金貨一枚でもらうと色々と面倒なので、銀貨百枚にして受け取った。


「さーて、トマのおかげでかなりの儲けさせてもらったら、今晩の晩飯ぐらいはおごらせてくれ」


「ま、奢ってくれるんなら断る理由はないな。あーでもその前に、どこかで宿取らないと俺泊まる場所がないは」


「それなら私達と同じ宿にしたらいいんじゃない? あそこなら一泊鉄貨三枚からだし、ご飯も美味しいから丁度いいわ」


 ふむ、元の世界の感覚だと鉄貨一枚が千円から二千円くらいの感覚だ。食料に関しては二千円位の価値があり、その他の物では千円程の価値だろうか。

 基本的に生活に必要な物は安く、必要ではない物は高く設定されているみたいだから、そのくらいの価値の差がありそうだ。


「じゃあそこで良いか」


「おう、それじゃあいこうか」


 

 そしてグランツ達が拠点にしている宿に到着したのだが……


「なに! 部屋が空いてない! 」

 

 宿についてそうそう、グランツがカウンターに手を付いて身を乗り出して詰め寄っていた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

次回も月曜日予定になりますので、よろしくお願いします。

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