失敗勇者と神訓練
2話連続投稿の2話目になります。
そして俺は、セクメトリーからもらった剣の勇者(仮)の力を封印してもらう事になった。
ま、封印と言っても何事もなくすぐに終わってしまった。
ガーネットが立ち上がり再び俺の脇まで来ると、先程と同じように胸に手を当てる。
するとガーネットの手が赤く輝きだし、その光が俺の中に吸い込まれるように入って行って……それでお終いだった。
え?と思うようなスピードでガーネットは俺に貸し与えられているセクメトリーの力を封印してしまった。
ただ、この封印も完全な物ではないそうで、俺がその力を欲すれば段階的に解放されてしまうとの事だ。
ガーネットによると、セクメトリーの力を完全に封印するにはまだ力が足りず、幾重にも封印を重ねることによりその力を抑え込んでいるとの事だ。
しかし、俺が勇者としての力を欲すればセクメトリーの力が反応して封印を破って行ってしまう恐れがあるが、それによって勇者としての力も回復するから緊急時にその力を使う事は可能なようだ……また意識誘導されて行ってしまう恐れはあるんだけどね。
そして、剣の勇者としての力を失った俺の身体能力は普通の人間並みでしかない為、それを誤魔化すためにガーネットが魔法の特訓をしてくれることになった……のだが。
俺は雲一つない青空を見上げながらぶっ倒れていた。
(やばい、やばすぎるってこいつ。マジで神じゃなくて悪魔が本体じゃないのか)
俺の身に何が起こったかと言うと……
血の様な真っ赤な色をしたドレスを纏ったガーネットと共に席を立ち、俺達は少し離れた草原のような所へ向かった。
「この辺りでよろしいでしょう」
ある程度進んだところでガーネットはこちらへ振り返りながらそう言う。
先程の屋敷のある庭園がかなり小さく見えるほどの距離なので、恐らく一キロ程は離れている。
「それではシクラ、あなたにはこれから攻撃をしますので、一撃を入れられたら今回の特訓は終了になります。」
「一撃って……流石に直接当てるのはどうかと思うから寸止めで良いか? 」
「あらあら随分と余裕ですね。まあ、今回はそれでいいとしましょう」
ガーネットはにこやかにそう言い放つが、流石に直撃はどうかと思うので提案したのだが余裕ぶっているように思われてしまったようだ。
「それと。わかっていると思いますが、セクメトリーの力は使わない様に。もし封印が解けたら……わかっていますね? 」
「は、はひぃ! 」
表情だけは笑顔なのだけど、背後に阿修羅の様な物が見えた気がして背筋が凍り付く。
しかしその表情は瞬間だけで、俺が返事をするといつもの微笑みの様な笑顔に戻った。
「準備はよろしいですか? 」
「ええ、いつでっも? おっとっとぉ……あれ?」
俺は剣を抜き放ち、正眼で剣を構え……ようとしたのだが、勇者の力のない俺では重量のあるこの件を正眼に持つことが出来ず、地面にグサリと剣先が刺さってしまった。
俺は何とか構え直そうと頑張ってみるが……持ちがらない。
「……マジか、この剣ってこんなに重たかったのか。ガーネット、先に身体強化の魔法使っておいてもいいか? 」
ガーネットはやれやれといった様子でこちらを見た後、先に魔法を使う事を承諾してくれた。
無詠唱で応用魔法の身体強化を使い剣を正眼に構えるが、やはりセクメトリーの力があった頃のような力が出ないようで、少しふらつきながら剣を構えた。
「……まあいいでしょう。それでは始めます」
ふらつく俺に呆れた様子だったが、もうめんどくさいのかそのまま始めるようだ。
「まずはこの魔法を受けきって見せなさい『超越火炎弾』」
ガーネットが魔法を唱えると、彼女の周囲には数百に及ぶ火球が突如として現れ、その火球は俺に襲い掛かって来た。
「うぇ! マジかこの数!『超越全体強化』って!ちょ、ま、うおおおおおお! 」
一瞬剣で弾けないか考えたが、このふらつく状態では確実に燃やされると思ったので鞘に戻し、今度は全力で超越魔法の身体強化を使用し全力で逃げ出す。
しかし俺が動く先へと魔法が追従してくる。ある程度誘導が効くのかそれともガーネットが俺の動きを予測しているのかわからないが、ジグザグに動く程度では回避が出来ず襲い来る。
「こなくそ!『トラセンドマルチプルバリア!!! 」
襲い来る火球を多重展開した障壁で受け止めてみたのだが、激しい熱と衝撃、そして恐怖を掻き立てる様な轟音が俺を包み込む。
「……あっつ!だけど何とかなったか」
「あらあら。まだまだこれからよ? それに魔法で防いでしまっては良くなくってよ。剣と動きだけで受けきりなさい『超越氷柱弾』」
ガーネットはそう言いながら再び俺に魔法を放ってくる。
「ちょっ! 少しくらい待ってくれって! 」
今度は氷柱の弾丸が雨のように降り注いでくるのを言われた通り剣を抜き、魔法ではなく剣のみでしのいでみようとする。
先端恐怖症であれば尻尾を巻いて逃げ出したくなるような状況だろうが、そんなことを考えている余裕がないほどの勢いで氷柱は迫ってきている。
初弾は剣でそのまま切り捨て、次弾は剣を戻す余裕がなかったため体の動きで無理やり回避していく。
しかし数百に及び氷柱をそのまま受けきれるわけもなく、時には小手で横から殴りつけ軌道を変えたり魔法で強化した身体能力を使用して大きくバク宙のような曲芸交じりの動きで何とか逃げ切ることに成功した。
だが、切った無数の破片は飛び散り鎧にカンカンと音を立てて当たり、小さくはない衝撃が俺の体力と集中力を消耗させ、兜を付けていなかった為頬に細かな傷が無数に出来上がっていた。
地面には、俺に命中していなかった氷柱や切ったり殴ったりして砕け散った氷の破片がそこかしこに散らばっており、周囲の温度がさっきの灼熱の様な気温から急激に凍える様な寒さに一気に変貌を遂げる。
「は……はぁ……。ど、どうだ! 何とか受け来たぞ! 」
「そうですね。しかし、それは只受けきっただけで何も進んでいませんよ? 『超越再生』これでかすり傷程度は当分回復することが出来ますので、じゃんじゃんいきますわよ! 『超越風弾』さあさあ、早く私に一撃を決めないといつまでも終われませんわ! 」
「だ、か、ら! 早いって! ……うわわわわわ! 」
実態のない風の塊が俺に襲い掛かってくるが……これは本気でまずいと思い全速力で回避を始めた……と言うか全力で逃げ出した。
実態が無く風なので見ることも出来ない物が大量に襲い掛かてくるので、魔法を使わない状態ではそのまま受けきることが出来そうになかったし、地面に激突した風弾は地面に一メートル程のクレーターを作りだしたのを見て咄嗟に逃げ出した。
だけど……見えない弾丸をすべて回避することは不可能であり、そもそも至近弾であるだけで突風と土煙が俺を襲い視界不良と衝撃にふらふらしながら回避していた。
土煙がモウモウと上がる中走る中、後ろを振り返ると土煙を掻き分けて風弾が俺に新たに迫ってくる……あれ? これって……。
迫ってくる風弾に向かい俺は剣を振り下ろすと、多少抵抗はあったもののあっさりと両断され俺の背後で左右に小さな穴が開いた。
そうか、こうすれば見ることが出来るのか……もしかして、この特訓て各種魔法に対する対処法を教えてくれいるのか?
火炎弾は単発であれば剣での対処は可能だっただろうが、これほど大量に降り注げば周囲の温度が急激に上がり危険だし、直撃はなくとも全身大やけどになっていただろう。
氷柱弾は、切れば細かな破片が殴れば礫の様な破片が降り注ぐ。これに対する対処は、水平ではなく斜め上方から攻撃である事を加味し、自分のむき出しの顔より下で対処出来ていれば疲労感は溜まるが傷を負う事はなかっただろう……なるほどそう言う事ね。
魔法を剣だけで対処することが出来るのであれば剣の勇者としての見栄えは問題ないし、そもそも普通の人ではマネできないだろうから身体強化と言う事もばれることは無いだろう。
「次は『超越岩弾』」
やっぱりか。毎回属性が違う攻撃をしてくるのは、属性のよって対処の仕方が違うからその方法を特訓させてくれているのだろう。
岩の弾丸を剣で斬るのではなく、身体強化で回避をしながら避けられない物を剣で軌道を変えて回避して対処する。
最初はうまく軌道を変えられずに痺れるような衝撃が伝わって来ていたが、魔法が終わるころにはその割合もかなり減りさっきの位置より前進する事も出来た。
「『超越火炎弾』」
その様子にガーネットはニコリと笑顔を向け、何も言わずにそのまま魔法を撃ち始めた。
炎弾は大きく回避し避けられない物は剣の腹で押しのけ、氷柱は石柱同様に回避し風弾は草の動きや土煙を立てて回避する。
そして数時間後……
俺は氷柱の軌道を読み回避をしながら、魔法をすり抜けガーネットの首筋に剣を当てることに成功した。
「お見事です。これで今回の特訓は終了になります 」
「っはぁ! よ、ようやく終わった。いったいどれだけ時間がかかったんだ? 」
「シクラがこの異界に七時間ほど経ったでしょうか? 」
「え!七時間! そんなに時間が経ってるのか! 早く戻らないと魔物達の集団が! 」
「心配いりませんよ」
ガーネットが言うには、この異界と現実では時間の流れが違う為、まだ向こうでは一時間程しかたっていないとの事だ。
それに、悪魔と戦闘していれば実際にその程度の時間は過ぎることが多いので問題ないとの事だ。
それにしても、今の俺の状態をアイリス達が見たらさぞ激戦だったのだと思うのだろうな。
真新しく輝いていた防具は土や草の汁などがかなりついて輝きを無くしくすんでいるし、俺の血も所々に付いている。
いくら持続型の回復魔法であっても瞬時に回復するわけではなく、徐々に血が止まり傷口が塞がって行くので仕方がない。
「それではこれからの話をしましょうか」
特訓が終わり、先程までお茶をしていた庭園へと戻って行く。
机には先ほどと同じようにティーカップが置いてあったが、中身は新しくなっているようで湯気が上がっている。
「シクラはこれからどうすべきだと思いますか? 」
「そうですね……その前に少し聞きたいことがあるのですけどいいですか? 」
「答えられる内容であれば」
「それでは……」
俺は今疑問に思っていることをガーネットに確認した。
まずは、俺が勇者の力を封印している状態でセクメトリーと当た場合ばれるのかと言う事で、それは確実にばれてしまうと言う事だ。そして、今いるこの辺りはセクメトリーの領域になるらしく、領域内の事はある程度認知することが出来るため、領域から出ることを勧められた。
そして、そうなった際のアイリス達の立場だが……その辺りは特に問題はなさそうとの事だ。
そもそも、セクメトリー自体は魔王のいないこの時代の勇者にはあまり興味はなく、自身の失敗を誤魔化すために俺に力を与えたのではないかとの事だ。
それに、もし俺が悪魔と戦って戻ってこなければ非難されるのは少量の力しか与えず、悪魔を引き寄せることを伝えていなかったセクメトリーだそうだ。
そのほかにも細々としたことをガーネットに確認したが、俺がこの国を離れるのは問題はなさそうだ。
「最後に、この国を襲っている魔物達はどうにか出来ない? 」
「それは直ぐに出来ますので、退散させておきますわ。それで他には聞くことは無いかしら?」
一通り聞くべきところは聞いた気がするから後は大丈夫そうかな?
そうだ、これだけは聞いておかないと。
「ここを出た後にガーネットと連絡を取る手段はないかな? 」
「それではこの異界への立ち入り許可を与えましょう」
そう言うとガーネットは立ち上がり俺の隣までやってきて、俺の頬に手を当てるとそのまま顔を寄せて……
「っ!!!」
物凄く自然な仕草でキスをされた……いやまあ、心の中で少しはもしかしたらとは思っていたけど本当にされるとは思っていなかったので流石に驚いた。
「これであなたにこの異界に入る権限が与えられました。それと同時に、多少ではありますが私の力を譲渡して空間魔法を扱う力と知識を与えましたのでうまく使いなさい」
「あ、ありがとう……ございます」
「うふふ、この程度で狼狽えていては今後の事が心配ね。それで、目的地は決まったかしら? 」
「そうですね。目的地は……」
優しく儚そうな笑顔を見せたガーネットに目的地を告げると、そのまま意識が暗転した。
「頑張りなさい。アカリが望む未来があなたの最良の未来にならんことを」
シクラが異界に消えて数時間後、城壁を守る騎士達から歓声が上がった。
ガーネットがシクラとの約束を守り、魔物達の軍勢をマヤシカの森へと撤退させたのだ。
騎士達にはそのことは分かって居なかったが、一部上層部の者達はシクラが悪魔を討伐もしくは撃退に成功した為と考え、魔物達の撃退の成功を皆に伝えていた。
一方そのころ、シクラが目の前で消えたアイリスや白虎の皆は、未だ帰らぬシクラを小屋の前で待っていたが、流石に時間が掛かりすぎていた為ハルレクターとスターに一度報告に戻らせた。
そして衛兵本部へと向かった二人は魔物達の軍勢が逃走したことを聞き、ヒューズ騎士団長にシクラが異界に飲み込まれたことを伝えた。
白虎の両名は一度戻りアイリス達に戻るよう伝えに向かい、ヒューズはコジーラと共に王城へと報告に向かった。
両騎士団長よりもたらされた報告は、国王並びに重鎮達に衝撃を与えた。
シクラが悪魔と相打ちになったのか? それとも、異界から帰還する際に別の場所に転送されてしまったのか? と、上へ下へと大騒ぎになったが、そもそもシクラが勇者として召喚されていたことは王宮及び騎士団以外は殆ど知られていない為、どう対応するかで揉めることになった。
そして、最終的にはアイリスと白虎達及び元魔導騎士団副団長ベロニカを含む騎士団数名が、国王からの指示によりシクラの捜索に当たることになった。
ベロニカは、悪魔に洗脳された事件の責任を取り副騎士団長を辞任したが、今回のシクラ捜索隊の臨時隊長として抜擢された。
アイリスは始めシクラが帰還してこなかったことにかなりショックを受けていたが、何故か生きていると断言をするスターの言葉を信じ、捜索に加わることになった。
アイリスと白虎の捜索隊は、シクラが生きていれば向かうであろう東のウグジマシカまでの捜索に当たり、ベロニカを含む騎士団員達は王国内の都市や村落、魔物の領域などを捜索に当たったがシクラの痕跡すら見つけることが出来なかった。
そして半年後、シクラの捜索は打ち切られ捜索隊は解散されることになった。
しかし、それでもあきらめきれなかったアイリスとベロニカの二名は、現在の職を辞して個人的にシクラの捜索に向かう。
東方に卓越した剣術を使う者が居ると噂を聞けば向かい、南方に超越魔法が使える冒険者が居ると聞けば向かう等、強者を手掛かりにシクラの捜索を続けていくのであった。
そして、およそ一年後……西方の国で剣と魔法双方かなり凄腕の冒険者が居ると聞きつけ二人は向かうのであった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
この話で第一章が終了となりますがいかがでしたでしょうか?
昨年の四月より投稿を始め一年が経ち、ようやく第一章を終わらせることが出来ましたのは、皆様にご愛読いただけているおかげです。
これからも頑張って更新していきたいと思いますので、応援の程よろしくお願いします。




