失敗勇者と神魔ガーネット
2話連続投稿の1話目になります。
一回整理しよう。
そもそもこの世界には複数の神々が好き勝手やっていたが、特に問題なく世界は維持されていた。
しかしある時、異世界からの神であるタケミカヅチがこの世界にやってきて、神々対話にてまとめようとしたがなかなかうまくいかなかったようだ。
そこで、現地神であるハイペリカムはタケミカヅチに変わり他の神々の説得をする代わりに力を貸与してほしいとなり、タケミカヅチは同意してハイペリカム以下六神を味方にする。
しかし、ハイペリカムは元々味方になり得ない神々を説得するつもりはなく、他の神にタケミカヅチの力の一部を試してみてよと言って渡してゆく。
その貸与された力は、流石に高位の神の力と言うか制御が難しかったらしいが、制御できるようになると絶大の力だったという……しかし、そもそもこれ自体が罠だった。
その力を制御する間に神々が試行錯誤する時間があり、ハイペリカム達が仕掛けた毒の様な神力に気が付けたのはすべての神々に力が渡された後だったとの事。
そして、七神以外が全てハイペリカム達の操り人形になり、邪神たちを統合し魔王として他の神々を悪魔として今の現状になったとのことだ。
マフォルスの言っていることは何故だか嘘だとは思えず、これが真実なのではないかと思う部分と強烈に反発する思いが俺の中でせめぎ合っている……というより、心の中で力のせめぎ合いをしている感じだ。
強烈に反発する力は恐らく勇者としての力、この話が真実だと思いマフォルスが正しいと思う力は元々持っている力とアイリスがマヤシカの森で渡してきた力だと思う。
なぜそんなことが分かるのか自分でもわからないが、俺はそれが正しいと確信していた。
「そうなると、俺達勇者と言う存在はどういう意味合いがあるんだ? 」
「あなた達は神々の力を与えられた代行者。簡単に言えば、セクメトリーの手駒と言ったところでしょう。あなた達は、七神の神々を称える者達には慕われ、そうでない者達には忌避される存在ともいえますね 」
「七神以外……悪魔信仰!? 」
「……そうなりますね。元々我々も神なのですが。あとは、表向きは六神を信仰しているが裏で我々を信仰している者達もかなり居ますね。私が今回襲った騎士も、元々はそう言った者達の願いを叶えた形になりますからね 」
これの言葉に少しムッとした感じはしたが、その程度ではそこまで怒ったりはしない様子だ……もう少しことばには気を付けねば。
ん? ベロニカさんを襲ったのは願いを叶えた形って事は。
「もしかして、マフォルスが今回ベロニカさんを襲ったのは誰かからの依頼だったって事!? 」
「ええ、ゲルメヌトと言う元セクメトリー教の司祭だった男からの依頼ですね。あなたの妹が悪事を暴き教会から追い出された男で、その者が自分を貶めた原因になった物に対する仕返しの為に私に願ったようですね 」
マジか……妹よ、そう言った輩はしっかりとしょぶ……ゲフンゲフン、更生させてさせておいてくれよ。
「もしかしたら……他にも家の妹って何か仕出かしてます? 」
「ええ! それはもう、色々な所で大暴れしていましたよ! おかげで悪魔である私達を信仰する者達が増え、悪魔達の力が増していますよ。そのおかげで私はこの異界では元の神として顕現する事が出来るのですけどね 」
そうなると、悪魔への信仰自体特に問題なく感じるが……いやいや、ベロニカさんのような人が増えるのは困るな。
「そう言った願いはあまり叶えて欲しくないんですけど」
「私だってそうですよ。ただ、異界に居る間は信仰心が届きませんので定期的に外界へ出ていく必要があります。その時に、集まった信仰心に私の中の悪魔が反応してそう言ったことを起こしてしまうので、現段階ではどうしようもないのです。私達も顕現していくにはその辺りが必要ですから……ただ、マフォルスと言う悪魔ではなく、ガーネットと言う神を信仰するものが増えればその辺りは何とかなるのですが、そう簡単にはいかないのですよ」
そりゃそうだ。今現在この世界で信仰されている神々は七柱のみ。
それ以外の神はすべて悪魔か魔王と化してしまっているので信仰する余地が普通の人にはない。
ただし、悪人の様な人達は悪魔を信仰している人は居るが、全体的にはごく少数だ。
そしてマフォルス……いや、ガーネットが言うには、六柱を信仰している人たちは六柱の恩恵を受けられる代わりに、ある種洗脳のような事がされているとの事だ。
内容は神々によって違うようだが、セクメトリーであれば神への信仰、召喚された勇者へ協力、そして……悪魔の討伐と言ったことが洗脳されているとの事だ。
その事を聞いて色々な事に納得がいった。
たとえば、ここに来る前にあった強烈な敵愾心。あれは、本来俺が持っている感情ではなく、セクメトリーに貸与された力が悪魔を倒せと言っていたのだろう。
それに、アイリスも俺に力を貸してから何やら少しおかしい気がする。
無駄に肯定的と言う事もあるが、なぜあってそれ程時間もたっていない俺に好意があるかの様な振る舞いをしている
それに、他の人達も何故か物凄くいい人ばかりで逆に不気味な感じもしていた。
王族に人達も何故か皆好意的だし、ヒエンさんも普通に考えれば高位の貴族であり、俺が幾ら世界を救う力を持つ勇者であるにしても好意的過ぎる。
「因みに、勇者はその洗脳が転移時にセクメトリーによって強くかけられている傾向があるわよ。それについてもあなたの妹から確認済みよ」
「俺……洗脳済みかよ……まじかー 」
「実際は洗脳と言うよりも、意識誘導と言った方が正しいですかね。その神を信仰している間はその神の恩恵を受ける代わりに、その神の求めることに答えなければいけないといった感じでしょうね 」
そして妹よ……お前元の世界ではそんな頭が切れる子じゃなかったのに、何があったんだ?
そして悩む、妹がどのようにな事をしてセクメトリーの洗脳から脱出したかはわからないが、ガーネットともあっているし恐らく俺に何かをさせようとしてるんだろうな。
「意識誘導はされてますが、今のあなたは完全に誘導されているわけではないわよ? そうであれば、今この場で私と話す前に闘いになっているわ。あなた、元勇者の従者から何かもらわなかった? 」
「何かですか? 」
アイリスから何か貰ったりしたかな? あ、マヤシカの森でアイリスにキスされた後、異様に強くなったし魔法も使えるようになったな。あれがそれなのかな?
「よくわかっていないけど、力を貰ったかもしれない。下級悪魔と戦った際にアイリスから何かの力を貰ったみたいで、それから魔法も思い通りに使えるようになった」
「……力ですか……少し確認させていただいてもよろしいですか 」
俺が首肯するとガーネットは席を立ち俺の横まで来ると、白く細い指を俺の胸(鎧越しだが)に当て、目を閉じて何かを確認する。
美人……それも超絶と言う言葉が似あう程の女神に鎧越しではあるが手を当てられ、美しく整った顔が俺の目の前で目を閉じた状態で近くにあり、俺は直視できずに顔をそむける。
それと共に、心臓を鼓動が強くなって行きばれていないかと気になって、更に鼓動が強くなり徐々に顔が熱く感じて来た。
「そう言う事でしたか……どうかしましたか? 」
「い、いえ! 何でもないです! それで、何が分かったんですか! 」
長いようで短い接触が終わり、ガーネットは満足そうな顔をして俺から体を離し、俺の不自然な態度に首を傾げながら席に戻って行く。
残念なような安心したような複雑な気持ちを感じつつ、席に着いたガーネットに慌てて向き直った
「ええ。あなたが受け取った力はセクメトリーの力ではなく、タケミカヅチの力と言う事が分かりましたわ。どういう経緯でタケミカヅチの力を得たかはわかりませんが、そのおかげであなたは剣と魔法双方使える勇者になったようね。ただ、セクメトリーから得た剣の勇者としての力は不十分で、ただの肉体強化の凄い版と言った程度の事しかないようね」
「肉体強化の凄い版? それって勇者の力と何か違うんです? 」
「一応は勇者の力よ? ただ、通常であれば力だけでなく経験も付随していたはずだけどそれが無い様なの。これでは下級の悪魔ですら手こずるわけね 」
「……なんでそんなことに? 」
「さあ? よくからないけど、あなたに力を与えると自分の力が減るからその節約じゃないかしら? それに、魔王も今の所復活してくる気配無いし、世界を周る程度であれば問題ないじゃないかしら? 」
悪魔とさえで合わなければトラオウさんですら驚くほどの怪力があったわけだから、世界を周って旅をするくらいなら問題なかっただろう。
それに、今回のように王族やヒエンさんのような人が協力してくれ、装備も充実した状態であればどれほど快適な旅が出来たのであろう。
そう考えればセクメトリーがくれた力は特に問題ないように思えたのだが……。
「でも、その力を使えば確実に悪魔に気が付かれるわよ。たまたま今回が私達だったから良かった物の、もし他のまだ神の力が戻っていない悪魔と遭遇していたら完全に戦闘になっていたわよ? 」
「なんでまたそんな力を…… 」
「理由はわからないけど、勇者の力には悪魔が反応するように出来ているからその影響じゃないかしら? ただ、もう一つの力の方にはその影響力は無い様だから魔法メインで戦闘して行けば問題はないとおもうわ」
「まあ、魔法だけでもよっぽど事は済むから良いんだけど……そうなると、俺のスキルが問題か……」
今まで魔法を使った感じでは、自分の思い描いた魔法を使用することは出来るし、新しく創造する事すらできる。
ただし、難易度の高い魔法や特殊な魔法を使おうとすると詠唱が発動するし、俺の前借スキルが勝手に実力以上の魔力を消費してしまい戦闘継続が不可能になってしまうんだよね。
まあ、悪魔達でなければよっぽど事足りそうだけどね。
「ああ、前借スキルね。それはまだあなたが使い慣れていないから勝手に発動してしまうけど、自分のオドの把握をしっかりしてスキルを制御したら問題なくなるわよ? 勝手に発動すると言っても自分のオド以上に魔力を消費した段階から発動するからね」
「そうなると、特訓あるのみですか。まあ、毎回魔法を使いすぎて意識不明になったら困りますし、制御できるように頑張ってみます」
「そうしなさい。それと、これはあなたがどうしたいか決めてもらうのだけど、セクメトリーの力を封印する気はない? 」
「封印ですか?」
唐突にセクメトリーの勇者の力を封印しないかと提案してきたけど……なるほど、その力を使えば悪魔達を誘引する可能性があるからか。
「悪魔を呼び寄せますからね。というか、封印できるんですかこれ? 」
「それだけが理由じゃないんだけどね。封印は可能よ。今の私であれば全盛期程の力わないから完全に止めることはできないけど、リミッターのように抑えることは出来るわ」
「そうですね……お願いしても良いですか? 」
間違えて力を使うたびに悪魔がやってくるようじゃ旅も難しくなるだろうし、俺と遭遇しないまま街とかで暴れられても問題だしね。
「……案外あっさり決めたわね? 本当に良いの? 」
「まあ、身体強化であれば魔法で再現できますし、力を使うたびに悪魔と戦闘になるのは困りますしね」
あ、こいつわかってないみたいな顔をされた気がしたが、ガーネットを見つめても綺麗な顔があるだけだった……いや、時たまぶれて悪魔の映像が見えるんだけどね。
「……それと、封印にはもう一つ意味もあって、あなたへの意識誘導を抑える効果と、覗き見防止になるわ。勇者の力を使えば元々力を持っていたセクメトリーには居場所や状況が伝わってしまうのよ。そうなると、今後あなたと接触した場合にあいつらに色々ばれるのは面倒ですからね 」
なるほど、意識誘導も力と連動しているのだからそれも抑えられるのか……え、なに?話を聞いていなかったのかって? そりゃこんだけいろいろ言われたらわからんくなるって。
しかし、ガーネットが本当に元の神だと言う事や俺個人とは敵対していない事は何となく間違っていない気がするのだけど、本当に六神の神々がそのような事をしたのかは確信が得られていない……と言うか流石に片方の意見だけでは何とも言えないかな?
そうなると、やはりどこかでタケミカヅチ様と話をして確認する必要がありそうだな。




