失敗勇者と神々と悪魔
今回は少し話が長いです。
雲一つない晴天の中、俺は血の様な真っ赤な色をしたドレスを纏った女性とお茶をしていた。
綺麗に整えられた庭園、その奥にはヒエンさんの屋敷程ありそうな大きな神殿の様な建物が見える。
その神殿は街にあった神殿とは造詣がかなり異なり、古めかしい感じのデザインのように見受けられた。
俺とその女性がお茶をしているのは、その神殿の手前にある庭園の池のほとりに建っている、ファンタジー小説でありがちな建物である。
四本の柱で屋根を支えており、周囲の景色をよく見られるようになっている。
「色々お話しできてうれしかったですわ。しかし、そろそろ終わりにしないと色々と面倒な事になりますし、教える時間も無くなってしまいますわね 」
とても美しいその女性がほほ笑めば、世界の殆どの男性を魅了できてしまいそうなほどの破壊力のある笑みを俺に向けてくるが、今の俺には半分しか見えていないので何とか耐えきれた。
女性がパチンと指を鳴らすと周囲の景色が一変し、お茶を飲んでいた建物以外消え去り、周りは草原の様な場所に変化した。
「あまり時間がありませんが、その間にできうる限り習得して頂きます。これが出来なければあなたはあの者達には対抗することが出来ずに…… 」
「ええ、わかっています。そのためにも出来る限りご教授の程お願いします 」
俺の返事に満足げな女性は、建物から出て平原へと歩いていくので俺もそれに続いて歩いていく。
数百メートル程歩いたところで女性は立ち止まり、こちらに振り返りながら手を前に差し出した。
「その場で止まりなさい。あなたには見えないでしょうが、目の前には空間を隔てる壁があります。その壁をあなた自身の力で砕きなさい 」
目の前に壁の様な物は見えないが、手を伸ばすとそこにある何かに触れることが出来る。
触った感じでは厚さや硬さなのは詳しくわからないが、何故かなにをしようとも破ることが出来ないイメージが沸き上がる。
だが、俺はこれを破壊できなければ今後俺がやりたいことが出来ずに、最終的には元の世界に戻ることになってしまうし、皆をあれらから救う事が出来ない。
やるしかない。俺は深呼吸をして先ほどのイメージを振り払い、これを破壊するため己の力に集中する。
「準備は出来たようですね。始めなさい 」
「はああああああぁぁぁ! 」
俺は雄叫びを上げながら見えない壁に立ち向かっていった。
時間はすこし遡り、俺は良くわからない闇に触れた瞬間吸い込まれたと思ったら、俺は庭のような所に立っていた。
後ろを振り返るが、そこにも庭園の様な物が続いておりその先には草原が広がっていた。
「ここは一体……」
周囲を見渡しても、見えるのは庭園のように整えられた庭と神殿の様な建物だけだった……神殿!?
庭園の植物に隠れて見えなかったのか。
「何でこんな所に神殿が。でも、神殿ならだれか人も居るだろうし何かわかるかもしれないな 」
それにしても一体ここはなんなんだ? 悪魔を倒しに行こうとして向かっていったら、いつの間にかこんな所に居るし。
それに、さっきまで絶対に悪魔を討伐しないといけないと思っていたのに、何故かその感情が落ち着いているし……なんなんだここ?
あれこれ考えていると、神殿の扉の前にたどり着いた。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいますか? 」
扉の外から声を掛けてみるが返事がない為扉を開けてみると、扉には鍵などは掛かっていないようで普通に開けることが出来た。
神殿の中は良くある教会の建物のように椅子が並べられており、最奥部には女性の石像が鎮座していた。
そして、その石像の足元辺りに人が一人石像の方を見上げ中が立っていることに気が付いた。
「あの、すみません 」
声を掛けるとその人はこちらへ振り返る……その時、見えている映像にノイズが走り別の映像が一瞬見えた。
その映像は今の綺麗な神殿ではなく、荒れ果てた内装、赤く染まった空が見える天上、そして腰から下あたりしか残っていない石像が見え、振り返った人が一瞬悪魔に見えた。
「え!? 」
その映像に驚きの声をあげ、目をパチクリしたりして何度も辺りを見回すが、特に変わった様子はなかった。
挙動不審な動きをしている俺に、真っ赤なドレスを着た女性――いや、絶世の美女と言った方が良いか――その美女が微笑みを浮かべながら近づいてくる。
「ようこそいらっしゃいました。今代の勇者トウマ=シクラ様 」
「俺を知っているんですか? 」
「ええ、存じております。それに、直接お会いしたこともございますよ 」
「そうなんですか、申し訳ないです 」
え、こんな美女あったことあったか? と言うか、あって居たら絶対に忘れない自信があるんだけど。
「っ! 」
再び映像が乱れる。
先程と同じように荒廃した神殿、そして目の前の美女は街に魔物達を襲わせている悪魔に見えた。
「この場所でも完全に隔離は出来ませんか。流石大神より力を与えられている神だこと 」
「あなた……いえ、お前は……マフォルス!? 」
「お気づきになりましたか? あの世界での私の名前はマフォルスと言いますが、本当の名前はガーネットと申します。そう警戒なさらないでください、私はあなたと戦うためにここに招待したわけでは御座いませんよ」
「……何を今さら。あれだけの事を仕出かしておいて! 」
そうだ、こいつは街に魔物達を襲撃させ、ベロニカさんにあんなことをした張本人だ。
そいつが、今さら何をもって戦うつもりはないだとか、何をふざけたことを言っているんんだ。
怒気を含んだシクラの視線を受けても、マフォルス……いや、ガーネットは微笑みを向けるだけでシクラの事を警戒すらしなかった。
「そうですね、あちら側での私たちはその役回りを強要されているだけです。私達もわざわざあなた方と争うつもりはありませんが、それは仕組まれた事なのです」
「一体何を…… 」
「……理解ができませんか? 」
一体何が言いたいんだこいつは。
役回りを強要とか、仕組まれたとか、それが本当であればこいつら悪魔と言う存在は何者かに操られているかそうせざるを得ない状況にさせられているという事になる。
いや……悪魔達は好戦的ではあるが、人の命をむやみに奪っていない。
トラオウさん達も、悪魔は満足すれば帰って行くようなことを過去に行っていた。それに、今回の事だって、悪魔が本気でこの国を滅ぼそうと動くのであれば、悪魔本人が戦闘に出て暴れれば城郭などはたやすく壊すことが出来ただろう。
それなのに、ベロニカさんにしたことは許しがたいが、直接悪魔自体が襲い掛かって来ては居ない。
しかし、そうなると悪魔達を操っている存在は一体何なのだろう。
下級の悪魔でさえ、俺がアイリスの協力をもってようやく倒せた程なのに、ネームドであるマフォルスを操る事が出来るなんて……魔王か神ぐらいしか思いつかない。
「お分かりになりましたか?」
「お前を操っているのは魔王なのか? 」
「……違いますよ 」
その言葉に一瞬物凄く落胆したように見えたのは気のせいではないだろう、そして今までのホンワカした雰囲気が一転、今まで感じたことのない猛烈な殺気感じ身構えようとしたが、体を動かすことが出来なかった。
「まあいいでしょう。それにしてあなたは妹よりも理解力や想像力が低いようですので丁寧に説明させていただきます 」
殺気も一瞬で収めた後、肩の力を抜き先ほどまでとは少し違って少し投げやりな感じの話し方になった。
……ん? 妹?!
「な、なあ、おい。アカリにあったのか!? 」
「そうですよ。あなたの妹は前勇者のアカリ=シクラです……まさか、そんなことも知らなかったのですか? 」
「マジか……」
「はい。マジです。……本当に知らないご様子ですね 」
おいおいマジかよ。
あいつがこの世界に来ていて、しかも先代の勇者だと? そんな偶然ってあるものなのか?
そう言えば、どこかで先代勇者がアカリって名前なのは聞いた覚えはあるが……そう言えば、スターが勇者からシクラって名前貰っても居たな……なぜ気が付かない俺。
今までの状況を整理すると、先代の勇者のアカリは妹の志倉明莉で間違いない……んだよな。
その事実に気が付き頭を抱えていると、マフォルスはクスクスと笑いながらこちらの様子を眺めてくる。
「そうですよ、知りませんでしたよ!しかも、そこかしこに気が付くチャンスがあったのに全く気にもしてなかったですよ! 」
悪いかと言った様子で逆に胸を張り、開き直ってみた。
「それではその辺りから詳しく説明しますわ 」
マフォルスが前勇者で合った妹の明莉について色々教えてくれた。
明莉は勇者召喚された後、俺と同じように訓練をしてマヤシカの森へ遠征し、何事もなくに王都に帰還。
その後、アイリスとスターや他の仲間を引き連れて、ウグジマシカ神聖国に向かいタケミカヅチ神と会い、その後各地へ転々としながら徐々に力を付けて行ったそうだ。
そして、前回の魔王との大戦に勝利して元の世界へと帰還したそうだ。
マフォルスとは各地で転々としていた際に遭遇し、俺と同じようにこの異界に呼び話をしたんだとか。
その際に明莉は俺と同じようにマフォルスが人の姿に見えたことに興味を持ち、様々な事を話したのだという。
「――と、こんな感じかしら。それでこれからが本題なのだけど……少し場所を変えましょうか」
妹の物凄い武勇伝を聞き頭がパンクしそうになってポカンと口を開けている俺に、マフォルスが庭園にある建物まで案内した。
ぼーっとしていた為、何の抵抗もなくついて行ってしまったが、そこは庭園の外れにある池のほとりに建つ建物で、椅子を勧められ普通に座ってしまった。
マフォルスが机を指でコンコンと叩くと、急にお茶と茶菓子が現れた。
それに驚く俺に、マフォルスはお茶を進めてきたが、流石に悪魔の勧めて来たお茶を飲む気にはなれなかったので辞退しておいた。
マフォルスも俺がお茶を飲まない事について言及はしてこず、ただ一言「おいしいのに」と言いティーカップの茶に口を付けていた。
「それではどこから話しましょうか? 」
「根本的な事から聞いていいか? 」
「なんでしょう? 」
「お前は何者なんだ? 」
今のこの不可思議な状況は俺の賢くない脳では理解が出来ない。
そもそも、こいつは悪魔だったはずだが、その見た目はどう見ても人の様な見た目をしておりどちらかと言うと……悪魔と言うより女神と言った方が正しい気がする。
たまにぶれる視線では悪魔の姿が見えるのだが、話し方や立ち振る舞いなどを見るとあの悪魔と同一人物とは思えないのだ。
それに、さっき言っていたそう言う役回りとかその辺りの所がかなり引っかかっているんだよな。
「そうですね。簡単に言えば、私はこの世界の神の一人だったのです」
「神……ですか。だけどこの世界の神は七人で、その中でマフォルスと言う名前もガーネットと言う名前も聞いたことが無いですが」
マフォルスは手に持っていたカップを机に置き、暫く目を閉じて何か考えた後話を続ける。
「そうですね。今この世界を統べるのは七人の神で間違いありません。しかし、昔は更に数多くの神々がこの世界には居たのですよ……そう、数えきれないくらいに」
「まるで日本の八百万の神々みたいですね」
「その例えは間違っていませんよ。元々この世界にも、あなた方の世界みたいに様々な神々が顕現していたのです。しかし、あなた達の世界から来た現在の主神タケミカヅチがこの世界にやってきて変わってしまいました。それまでは神々は各々好き勝手に様々な事象や奇跡などを起こしていましたが、タケミカヅチはこの世界をの神々に規律を持ち無茶をしない様に説得し始めました。しかし、今まで好き勝手やっていた神々が従うはずもなく対立を始めたのです」
まあそうだよね。そりゃ反発もあるよ。
それにしても、何でタケミカヅチ様は急にそんなことを始めたんだろうか?
と言うより、そもそも何故この世界にやって来たのだろうか?
まあ、その辺りの説明もしてくれそうだからしっかり聞いておこう。
「急にやってきて、いきなり規律を守って下さいって言われたもそうなりますよね」
「ええ、私もその一人でした。ですが、タケミカヅチに味方する神々が現れたのです……それが今の第二神であるハイペリカムなのです。ハイペリカムはまずタケミカヅチに『他の世界から来た神が言ってもなかなか聞かないだろうから、自分が他の神々を説得する』と言って、五人の神々を味方に付けました。その時味方につけた五神とタケミカヅチ、ハイペリカムを合わせ、現在の七神になったのです」
急に話が飛んだ気がするが、タケミカヅチ様に味方をしたハイペリカムと仲間の五神が今のこの世界で信仰されている七神になっているのか。
……すこしマフォルスの事を疑っては居るが、今の所おかしなところは無いしとりあえずこのまま続きを聞いておこう。
「今の七神以外の神々はどこへ行ったんです? っく!」
俺の言葉を聞いたマフォルスから再び殺気のような波動を感じ、マフォルス自体も感情を抑えているのかのように目が全く笑っていない笑顔をこちらに向けてくる。
「あらごめんなさい。少し、昔の事を思い出して色々と漏れてしましましたわ」
そう言いながらすぐに波動を抑えてくれたけど、これって勇者の俺じゃなかったら失神するんじゃないのか。
というか、わざと漏らした世にも見えたけど……気のせいだよね。
「あなたの言う他の神々と言うのは、この世界で言う悪魔と言われる存在です」
「神様が悪魔に? そんな事ってあり得るんです? 」
「そんなことは簡単な話です、六神にとって他の神々は邪魔ものだったのですよ。そもそもタケミカヅチは、異界からやって来ただけありこちらの世界の神々よりも位の高い神で、もし争えば我々この世界の神々の力を合わせても勝てなかったでしょうが、力ではなく対話によって神々を納得させようとしましたが失敗ました。しかし、タケミカヅチの力に目を付けたハイペリカム達六神は、タケミカヅチに皆をまとめるために力を貸してほしいといい、タケミカヅチの力を一部借り受け他の神々の所へ向かって行ったのです。そして……」
マフォルスから再び波動が発生した。
しかも今回は直ぐに抑えずに、そのまままき散らしたまま話し続けた。
「あいつらは、私達他の神々に対してタケミカヅチから借りた神力を更に貸し与えたのです。『異界の神の力は我々とは違うと言う事を身をもって知った方が良い。この力もタケミカヅチの力のほんの一部だから』と言って、神々にその力を使わせたのです。初めはやはり位の違う神の力なのでみなその扱いに戸惑いましたが、次第に扱えるようになるとその力の凄まじさが分かったのです」
やっぱり他の異世界から来た神様ってすごいんだな。
まあ、タケミカヅチ様は俺の世界でもかなり有名な神様だし、やはり格が違うのだろう。
と言うか、いつまで恐ろしい波動を流し続けるんだよマフォルス。
流石に滅茶苦茶怖いんですけど……地面とかめっちゃ揺れてるし、変な音も聞こえてるし。
周りの状況にもビビってはいるが、やはりマフォルスの方が怖いな。
顔つきも既に笑顔ですらなく、凍り付いたような無表情になっているし。
ビビりながら話を聞いている俺の事は一切気にせず、マフォルスはまだ語り続けていく。
「しかし、そもそもこれ自体が罠だったのです。ハイペリカムが渡したのはタケミカヅチの力であることは間違いなかったのですが、その力にハイペリカムは毒の様な神力を混ぜ込んでおり、タケミカヅチの力が扱えるようになったころに初めてその存在に気が付いたのですが、その時には既にハイペリカムの神力の毒が周り、七神以外すべての神々がハイペリカムの操り人形になっていたのです。」
「……へ? マジですか 」
「本当です。そしてまだ続きがあります。ハイペリカム達は、神々の中でも所謂邪神の者達を無理やり束ね、新たな力を持つ神へと変貌させ、他の神々をその眷属に無理やりさせました。タケミカヅチには、説得したが邪神共が力を合わせて他の神々を吸収してこちらと敵対したと話し、強大な力を持つ邪神とその眷属にされた我ら神々にタケミカヅチを襲えと指示をして戦いが始まったのです。そして、その強大な力を持つ邪神こそあなた方の言う魔王。複数の神々の意思を融合させられ、この世界の七神達を滅ぼそうとする存在なのです」
マフォルスの話を聞くうちに、俺はその内容に驚きを隠せなかった。
(それにしても、これが本当だとするとこの世界を揺るがす大問題なんじゃないか? と言うか、信仰の危機的状況になるのかな? )
いつも読んで頂きありがとうございます。
少しこの世界の核心に近づいたシクラはこれからどうしていくのでしょうか?
次話も、この世界神々の話の続きになります。




