失敗勇者と違和感
良い調子のようですね。この様子なら、それ程時間が掛からずに力が貯まりそうですね。
あの悪魔、マフォルスと言いましたか。あれが現れた時はどうした物かと思いましたが、この状況はかなり私にとって都合が良さそうですね。
勇者が存在していることを知っている人間はそれほど多くはありませんが、この戦が終われば勝手に私に感謝をして糧になってくれるでしょう。
そして、あの勇者が悪魔を討伐に成功すれば更に私に力が貯まり、わざわざこんなことをした甲斐がありましたね
従者や周りの力ある物の心を誘導し、あの者がこの世界の為に動こうとするように仕向け、そしてそれが私の力になる。
大神にはばれているでしょうが、かのお方はこのような事は気にされないので問題ありませんが、他の神に知られると少々厄介ではありますが。
そのような些事はどうとでもなりますね。
あの子達がこれからどのように動くか楽しみですね。
by ??????
俺達は悪魔の捜索の為王都を出た。
俺がベロニカさんの所で最後に感知した悪魔の居場所は、この王都をぐるりと囲って入り城壁の外側、王城の裏に聳え立つ巨大な山にある森の東側の当たりだ。
え? 王城の裏が山だと防衛上問題があるんじゃないかって?
それではどうぞご覧ください、この数十メートルに及ぶ断崖絶壁を。
そうなのだ、この王城の裏には山があってそこは木々が生えた森になっているのだが、そもそもその山には入るには王城側からしか入れない様な断崖絶壁が続いている……まあ、普通の人ならね。
通常の冒険者や傭兵ではこのクラスの断崖絶壁を飛び越えることは出来ないし、そもそもそんな危険な事をする人などいない。
それに、間諜などがこの山に入ろうとしても周囲は平原になっていて見晴らしも良いし、普段であれば巡回の兵士が居るのでそうそう入り込むことはできない。
もし入り込むことが出来たとしての、王城付近には城壁もある為その攻略もしなければならないし、そんな所はかなり厳重に警備されているのでわざわざ裏から入る事などしないだろう。
それ以前に、そもそもこの国は他国と戦争状態になったことは一度もないらしい。
まあ、世界を救う勇者が召喚できるのはこの国だけだし、その召喚陣欲しさに戦争でも仕掛け様な物なら下手したら、世界に混乱を招くと言う事で勇者が召喚される恐れがあるからね。
しかしそんなのは俺達には関係がない。
そもそも俺は人外の力を持っている勇者だし、アイリスや白虎の人達もいつも通りであれば難しいかもしれないが、今の状態であればこの程度の事は何とでも出来てしまう。
俺は跳躍しそもそも崖なんてものともせず飛び越え、アイリスはとてもこれから戦いに行く服装ではないがおれと同様に崖を飛び越えた。
白虎の人達、トラオウさんはスターを抱えた状態で俺達同様に飛び越えたが、ミモザさんは異常な脚力で壁を駆け上がり、アルルさんは魔法で空を飛びあがった。
そしてハルさんは……矢の先端に鉤爪状のフックを付けたものを打ち出し、そこに繋がれたロープを伝いあがてくる――一人だけ滅茶苦茶地味だった。
崖を登るとそこは腰のあたりまである草が生えた草原のようになっており、奥の方に木々が生えた森になっていた。
普段誰も立ち入ることのない所なので、誰かが草刈りをしてくれるわけでもないので仕方がないのではあるけど……。
「どうします。これ? 」
「ここはアルルに任せたらいいさ 」
「仕方ないわね。『グラスウィーブ』これでいいわよね」
アルルさんが魔法を使うと、腰まであった草が折り重なるように倒れ込み、森までの間に道が出来上がった。
そう言えば、悪魔が近くにいるかもしれないので魔法使っても大丈夫なのか?
そう思い一応確認してみたが、問題ないそうだ。
そもそも、悪魔が逃げているのであればこの程度の魔法を感知できる範囲には既に居ないだろうし、待ち構えているにしてもこれだけの人数で移動していたら確実にばれてしまうので問題ないとの事だ。
それに、もし近くに異常な気配などがあった場合はハルさんとスターさんが先に察知するだろうから、索敵は斥候役に任せて戦闘役の俺達は今から気を張る必要はないと言われてしまった……確かにその方が効率は良さそうだ。
アルルさんが作ってくれた道をハルさんを先頭に歩き出し、程なく草が無くなり森の領域にたどり着く。
森の中は、ただでさえ夜闇で暗くなっているのに植生が濃い為、月明かりが所々射し込んではいるが殆ど見通すことが出来ない。
『アドバンスライト』
ずんずん進んでいくハルさんに戸惑っていると、アルルさんが魔法で小さな光の玉を複数作り出し辺りを明るくしてくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。ハル! あんたたちは夜目が効くかもしれないけど、普通の人はあんた達みたいに見えないんだからもう少し気を使いなさい! 」
俺の言葉にニコリと笑みを返した後ハルさんを怒鳴り、その声は森に響き渡っていた。
ハルさんは「わりいわりい」と軽く謝っていたが、アルルさんは「ほんと気が利かないんだから」とぷりぷり怒っていた。
そんな二人を他の白虎の人達は生暖かい視線を送っていたが、そんなことに気にしていない二人は喧嘩をしながら先頭を歩いて行くので、俺はアイリスに向かい肩をすくめて見せてから皆で二人の後に付いて行った。
「っ! 止まってください!」
暫く森を歩き続け、もう少しで俺が感知した悪魔が居た場所にたどり着くという所でスターがいつものふわふわとした声ではなく、荒げた様な声を出した。
その瞬間、白虎の人達は直ぐに武器を抜き戦闘態勢に入った為、俺も皆に習い剣を構える。
「……居るのか? 」
「もう少し行ったところから変な気配がします。恐らくこれが例の悪魔でしょう 」
「わかった、ここからは戦闘があるかもしれん。先頭は俺とミモザで最後尾はハル、ボウズと嬢ちゃんはは戦闘が出来ないスターを守りながら進んでくれ 」
トラオウさんの指示に皆が頷き、慎重な足取りで歩みを進めていく。
アルルさんの魔法の光源があるとはいえ、夜の森では遠くまでは見通せないので慎重に進んでいくが、緊張のせいか俺の頬に冷たい汗が流れた。
「ん……あれは? まさか! 」
先頭を歩くトラオウさんが何かを見つけたらしく、そちらの方へ向かい歩いていく。
トラオウさんについて歩いて行くと、何故か不自然に木々が無くなった広場のような所に出た……そして。
「怪しい 」
「いや、これは怪しいという以前の問題では! 」
その広場には、ポツンと小屋の様な物が立てられていた。
見た目は普通のログハウス風なのだが、誰も立ち入らない森の中に真新しい小屋が現れて怪しくないわけがない。
「トラオウ、気配はこの中だけどどうするの? 」
「……行くしかないだろう」
まあそうだよね。流石にこれだけ怪しい小屋を見つけて素通りも出来無し、そもそも気配がこの中からしている時点でいくしかないんだよね。
「……で? 誰が一番に行くんだ? 」
「そりゃ、お前だろうがハル。恐らくないだろうが、罠があった場合の対処はお前が一番だろう? 」
「……ですよねー。はぁ、しゃーないか」
行くしかないとわかってはいたが、そう言いたくなるのもわからないでもない。
ただ、悪魔達は基本的に絡めてではなく直球勝負を挑んでくることが多いので、ハルさん自体もそこまでは心配しているわけではないようだ。
暫くハルさんが扉を調べていたが、やはり罠などは仕掛けられておらず鍵すらも付いていなかった。
「さてボウズ。恐らく扉の向こうにはあのネームドの悪魔が居るだろうがどうする? 」
「どうすると言われましても、この悪魔を倒さないと魔物達の襲撃がいつまであるか分かりませんし。それに、恐らく相手も俺が来るのを待っていると思いますので 」
「だろうな」
俺が探知した位置にわざわざ小屋まで建てて、俺が来るまで待っているなんて俺達と遊びたいのが丸わかりだ。
それに、ベロニカさんの様な人を出さない為にこの悪魔はどうにかしておかなければならないと、なぜだか強く思った。
「行きましょう! そしてさっさとこんな事終わらせましょう! 」
「お、おう。なんだかすごくやる気だな。みんな準備はいいな……ってボウズ、待てって! なんだんだ! とりあえず行くぞ! 」
目の前に悪魔が居ると思うと居ても立っても居られず、俺は剣を抜き一人先行して小屋に向かい駆けだした。
後ろからトラオウさんの俺を留める声が聞こえてはいるが、それでも足を止めずに小屋まで駆け寄り扉を勢いよく開け放った……なんだこれ?
開け放った扉の向こう側には小屋の内側の様な物は見えず、真っ暗で何も見えない。
何も見えないんだけど、何かがこの先にいる事だけは感じられたので辺りを探りながら前に進んだ時。
「っ! ボウズ下がれ! そこは…… 」
「シクラ様いけません! 」
「え? 」
トラオウさんとアイリスがそう叫んだ瞬間、俺の体は闇に抵抗する間もなく吸い込まれ皆の前から消え去った。
「シクラ様!! 」
「まて嬢ちゃん! あれが何かわかっているのだろう! 」
「放しなさいトラオウ! わかっています! わかっていますが、シクラ様をお一人にする訳には行きません! 行かせてください! っ! シクラ様ーーー!」
シクラ様があれに飲み込まれた瞬間、シクラ様の顔が前勇者のアカリ様の顔と重なり、私は叫び声を上げながら駆けだした。
しかし、それはトラオウによって阻まれ、トラオウに羽交い締めにされながらも必死に闇に手を伸ばし続けたが、次第に闇は小さくなり消えて行った。
「ああああああああああ! 」
完全に消えさり、トラオウが拘束を緩めるとアイリスは力なく地べたに座り込み、消えた闇に向かい手を伸ばしたまま叫ぶ声をあげた。
何故私は、あの闇にもう少し早く気が付かなかったのか。
何故、シクラ様が先陣を立たれるのを止めなかったのか。
何故、トラオウの腕を振り払う時にあの力を使わなかったのか。
アイリスが自責の念に囚われ、その頬には一筋の何かが流れて行った。
悲壮感に暮れるアイリスにはミモザとアルルの女性二人がが寄り添いなだめて居るが、男性陣はどうしたらいいか悩んでいた。
「トラオウ、さっきにはやっぱりあれか? 」
「ああ、ゲートだ。 あれは異次元に繋がっているから、勇者ならともかく俺達ではどうする事も出来ない。一緒に中に入ったとしても確実に足手まといになる」
「……そうだな。あれは悪魔が本気で戦う時、周囲の被害を気にせず戦える異次元だからな。あそこから出るには悪魔を倒すか満足させるしかない 」
「っち! 可能性としては考えていたが、こんな風に使われるとは! 俺達は何のためにここまで来たんだ! 」
ゲート、それは悪魔達が作り出す異次元で、その中は作り出した悪魔達が好きなように環境を整えられ、様々な構造物も構築されていると言われている。
その理由は、悪魔達が全力で戦える場所を整えるためと言われている。
実際にゲートに入った物はごく少数で、殆どの者は勇者で悪魔を撃ち滅ぼすか撃退することにより脱出することが出来る。
ただし、この世界ではどうしても地面が陥没したり横槍が入る恐れがあり、戦闘に集中することが出来ない為そのような物を作りだしたのだと言われているが、本当の所は誰にも伝わっていなかった。
そして、こんな混とんとした状況の中一人だけ落ち着いている者がいた。スターである。
彼自身、このような罠がある事には気が付いておらず、そしてあの紙にも書いていない出来事なのだが、焦る様子も無く周囲の警戒をしていた。
(ふぅ。シクラさんがゲートに飲まれた程度でこの騒ぎよう……勇者を心配するなんて無駄だよね。アカリ様も過去に何度かゲートに入り込んでいるが、そのすべてで勝ち脱出してきているし、そんな事心配することもないのにね)
スターはそんなことを考えながらシクラが消えたゲートを眺め、そしてそこまでシクラに入れ込むアイリスに少し違和感を感じていた。
いくらアカリ様から頼まれているとはいえ、本心で好きでもないであろうシクラに対してあのような態度をするなんて、昔のアイリスでは考えられなかったのだ。
(もしかしたら、僕の知らない所でアイリスとシクラさんがそれだけ仲良くなれる様な状況でもあったのかもしれないが、流石におかしい気がする。それに、白虎の皆の行動も何か違和感を感じるな)
アイリスの悲しみ方が演技ではなく本心で悲しんでいるように見え、それと共に白虎の皆もいくらミモザの恩人だからと言ってあそこまで本気で手助けしているのが少々腑に落ちない感じがしていた。
(なんなんだろうこの違和感は……しかも、それを感じているのが僕だけと言うのがまた不思議だ。この件は一時保留にするしかないかな)
スターは一人だけ置いてきぼりを食らったような状況の中、一人周囲の警戒をしつつこれからの事を考えるのであった。




