失敗勇者と魔剣
なんだかんだ言って勇者様がおられると何かしら事件が起きるものね。
前の勇者様の事はアイリスから聞いていたのだけど、結構そこらじゅうで事件に巻き込まれていたみたいだしね。
シクラ様が残るのであればアプローチしても良かったんだけど、帰られるのであれば仕方ないわね。
それにしても、シクラ様は旅をするのだからそろそろ準備するわよね。そうなったら家の商会で買い物してくれるように言っておこうかしら。
ん? シクラ様が帰って来たのかしら……え? 国王様に会いたい? しかも装備品を貸してほしいってどうなのかしら?
うーん、なんでこんな時にカトレアもアイリスも居ないのかしら、私はあの子達と違って平民なんですけど。
誰に話を通せばいいのか? とりあえず誰か執事捕まえて教えてもらわないと……それにしても……どこかに金持ちで性格がいい男居ないかしら。
by アネモニ=クライン
「――さま」
眠っていた俺を微かに揺り動かし、何か話している人が居る。
「シクラ様起きてー。ねぇシクラ様ってばー」
ぼんやりとした意識の中目を開けると、俺を揺さぶり起こすのはリリーだった。
「ふぁあ……リリーか、どうしたんだい? 」
あくびをしつつ体を起こす……あれ? 何でおれここに居るんだっけ?
「シクラ様ようやく起きた! アネモニが国王様から許可をもらったから起こしてきてって言われたのに全然起きないんだもん! 」
「ごめんごめん。それじゃあどこに行けばいいかな?」
「えっとね。第二武器庫に来て欲しいって」
腰に手を当ててぷりぷり起こっているリリーの頭を撫でて宥めてから、伸びをして一応身だしなみがおかしくない事を確認してもらい、リリーにあんないされ第二武器庫と言うところへ向かう。
リリーの言っていた第二武器庫まで行くには変わったルートで行く必要があるらしい。
まずは正面玄関から謁見の間付近まで行き、門の前を右に曲がり道なりに進むと階段が現れた。
その上り階段を上がると大人が一人が通れる程度の細い通路になっていて、そこから再び道なりに曲がったり階段を下りたりかなり変なルートで進むと少し開けた場所に出る。
そこにはどこかでも見た剣と杖を持った竜を模った門があり、その前には四人の人が立っている。
二人は恐らく衛兵か何かだと思うが、残り二人はヒエンさんとアネモニだった。
ヒエンさんは俺を見ると小さく頷き、扉の中に入って行った。
「シクラ様お待ちしておりました。国王様から許可を頂き装備を整える様仰せつかっております。先に入られました軍務大臣様が色々とご説明して頂けるとの事なので中へどうぞ」
何かヒエンさんらしくない気がしたが、何か理由があるのかな?
中でヒエンさんが説明してくれるみたいだから、アネモニとリリーを連れて中に入ろうとしたら、門番の人に中に入れるのは俺だけだと言われたので、二人は外で待っている様だ。
「これは……凄いな……。」
扉の中は元の世界のでも大きめの家がすっぽり入りそうなほどの空間になっており、その部屋のかに所狭しと様々な武具が並んでいる。
「シクラ殿、ご足労頂き申し訳ない。この第二倉庫はかなり貴重な武具などが収蔵されておりますので、許可を頂いた者しか入る事が許されていないので、シクラ様の侍女達は外でお待ちいただくことになりました」
「そうなのですね。それにしてもヒエン卿自身が装備を見繕っていただけるとは……でもだいじょうぶなんですか? 」
正直少し驚いていた。
現在進行形で戦闘は続いているし、ヒエンさんは仮にも軍務大臣に当たる人だしね。
それに、許可した人しか入れないような所の装備品を借りて、万が一壊してしまった場合の賠償がかなり怖いんですが。
「シクラ殿の武具に付きましては、この部屋の物であればどれでも好きなものを選んでいただいて結構です……が、色々と危険と言うよりも貴重な物も多く、把握している者が限られているのです。把握しており尚且つ手が空いているのが私しかおりませんでしたので」
「そ、そうなんですね。お手数をお掛けします」
「いえいえ。シクラ様のおかげで私なぞはかなり楽をさせて頂いておりますので問題ありません。それに……国王陛下から少し相談もございまして、ここであれば会話が外部に漏れる心配もありませんから」
「どのような相談なんですか? 」
「それがですね……シクラ様への今回の襲撃での報酬の件なのですが……」
国王様がヒエンさんを通して相談したかった件は、俺の功績に対する報奨の事らしい。
なんでも、俺が行った堀を作ったり迷路を作った件や、その後の間引きや作戦などの功績。
そして、耳が早い事にベロニカさんの支配の解除などの功績を鑑みると、報奨金を出さないと問題になるレベルになっているんだとか。
この後ネームド悪魔を撃退もしくは討伐した場合に、爵位などの褒章を与えなければならないんだとか。
普通の冒険者であればそれで問題ないんだけど、そもそも俺が今この世界ではイレギュラーな勇者と言う事と元の世界に帰ると言っていることもあり、正式に何かするのは問題がので代わりに役立ちそうなものを先に渡して代替したいとのことだ。
それに、俺の作戦で火酒などを大量に購入して使用こともあり、かなりの金額が戦費として消費しているし、実際に戦場で戦っている騎士団や衛兵達にも褒章や報酬を支払は無ければならず、国庫の金がかなり怪しくなってきているんだとか。
「ヒエン卿、それで問題ないですよ」
「申し訳ございませんシクラ様。それではそのように手配させていただきます」
俺としても、式典なんかに出たくは無いし役立つ装備が貰えるのであれば問題ないので了承しておく。
本当は多少お金も欲しかったけど、今のチートの様な力があれば稼ぐのはそこまで難しくないだろうから問題ないかな?
「あと、これは何とかなればなんですが、冒険者のランクを銀とかで登録できたりしませんかね? 」
「銀ですが……一度ギルドの方で確認しないといけませんが、しかし何故冒険者の資格が欲しいのでしょうか? 」
「一応身分的には子爵として頂いていますが、正式な子爵ではありませんのでいつもは別の身分が必要になるかなと。それに、冒険者に登録して居れば何かと便利でしょうし」
「それではそちらの方も戻りましたら手配しておきましょう。確か特例条項で何かあったはずですので確認しておきます。」
そう、何かと便利なんですよ……お金を稼ぐには。
基本的に貴族は国に仕え国から給金を貰って暮らすか、何かしら商売やら何かをしてお金を稼いでいる。
しかし、俺の場合は他国に行った際に必要だからという理由での爵位で正式なものではない為給金などは出ないし、この世界での商売と言われても何をしたらいいかわからない。
(実は給金は形式上出るのだが、この時シクラはそのことを知らなかった。)
であれば、元の世界でよく読んでいたファンタジー系でよくある冒険者としてお金を稼ぐのが一番良さそうな気がしたのだ。
アイリス達から聞いた話からすると、冒険者の依頼は一般的に魔獣の討伐及び素材の回収、商隊などの護衛を傭兵と一緒にこなすとかありきたり物ばかりだったので、加減さえ間違えなければ問題なく暮らすことが出来そうなのだ。
「それではシクラ様、武器防具の両方をこの第二倉庫から選んでいただくのですが、この第二倉庫に収蔵されている品はすべて一流の品になり、中には魔剣の様な物もございます。ただ、魔剣は剣が持ち主を選びますので私と共に一度第二倉庫の中を歩いて頂き反応したものの中から選んでいただこうと思います」
「わかりました。」
「そして防具も通常の防具は一切置いてありませんので、いくつか私が厳選したものがありますのでそちらから選んでいただく形になります。もちろん一通りご説明させていただきますので、その中から選んでいただいても結構です」
ヒエンさんの案内で一通り第二倉庫の中を見て回り、良さそうなものを物色する。
シンプルな形の剣から装飾ゴテゴテの実用に満たなそうな装備まで様々なものがあり、一応気になる装備品を一通り見させてもらった。
因みにヒエンさんがおすすめの装備品は、既に入り口付近に集められていた。
ひとまず鎧の方は直ぐに決めることが出来た。
見た目はただのミスリル製の鎧に見えるが、魔法耐性を上げるためにコーティングのように薄く張り付けられているだけで、中身はアダマンタイト製の鎧だ。
腰や脇などの隙間の部分は、エンペラースパイダーと言う魔物の糸で編まれた柔軟性と強度を兼ね備えて布で覆われ、可動性もかなり良いのだがそもそもアダマンタイトとエンペラースパイダーの布が見た目以上の重さがあり、俺の様な規格外の人しか装備が出来ず倉庫の肥やしになっていたとの事だ。
そして、武器なのだが……魔法剣と魔剣それぞれがかなりの量があり、決め手がなく選ぶのが難航していた。
魔法剣は所謂属性が付与された剣で、基本的に魔法と親和性が高いミスリル製かオリハルコン製の剣である。
強度の面ではオリハルコン製の物が良いのだが華美な装飾が施されたものが多く、ミスリス製の物実用性が重視され扱いやすいものが多かった。
そしてもう一つの魔剣だが……これがなかなか曲者ぞろいだった。
例えば、材質はアダマンタイトで属性は闇属性付与しており、とにかく重く振り回すと体が持って行かれてしまう。
他にはオリハルコン製で属性は土属性で良いのだが、何故か見た目が岩でできた大鉈のような形をしており、刃も石を割ったような変な形をしている。
そもそも魔法剣と魔剣の違いは、魔法剣は職人の手によって作成された実戦で使用する剣なのだが、魔剣は悪魔が使用してた武器か古代遺跡から発掘された物で、それぞれに特殊な効果が発揮できるようになっているのだが、実戦で使用するとなるとかなりの訓練が必要になった来る。
特殊な効果とは、闇属性の剣であればただの重い剣と言う訳ではなく、腰に差している間は只のアダマンタイト製の剣と同じ重量なのだが、鞘から抜き出すと闇属性魔法の加重魔法がかかり必要以上に重くなってしまうが、剣をすべて抜き去るまで加重魔法がかからないので投擲や居合の様な攻撃方法ならかなり利点がある。
と、かなり問題はあるのだがどの剣も人の手では作成することが出来ず、悪魔からのドロップ品か遺跡などからのみ入手することが出来、性能自体も破格の物が多い。
俺が倉庫内を見回っている時に気になった魔剣が一つあった。
「この剣はどうおもいますか? 」
「ほう……この剣が気になりますか。この剣は魔剣の中でも恐らく扱いが難しいものだと思われます。」
「扱いが難しいですか。どんな効果があるんですか? 」
「材質はオリハルコン製で無属性魔法が付与されておりますね。詳細な効果は不明ですが、勇者様曰くかなり頑強な剣との事です。」
他にもこの魔剣にしては珍しく、無属性魔法が掛けられていることは分かっているだけど、その効果が不明な剣だ。
効果が不明なのは、鑑定の魔法では剣の材質と何属性の魔法がかかっているかしか分からないということだ。
魔剣自体が所持者を見極めて扱えるだけの力量が無いと効果が発揮されず、切れ味もないただの金属の塊になってしまうため、今の所誰も扱う事が出来ない為ここに保管されているんだとか。
「どう思いますかね? 何か惹かれる所があるのですけど」
「試してみませんと何とも言えませんが。その魔剣も候補として残しておきましょう」
そうやって一つ一つ剣を確認して行き、最終的に三本の剣に絞り込む。
一つ目はヒエンさんがおすすめの火属性の魔法剣で、剣自体はヒヒイロカネ製の赤みを帯びた両刃のロングソードだ。
特殊効果は、剣自体を過熱させヒートソードの様な使い方とファイヤーボールのような物が出せるバランスのいい剣と言えそうだ。
二つ目は、土属性の魔法剣でアダマンタイト合金製の片刃のサーベルだが、特殊効果が所持者に常時身体強化と防御強化の効果がある。
ただし問題点は、サーベルタイプなので片手で扱わなければならないのだが、アダマンタイト合金製性ではあるが重量が普通の人では扱う事が出来ない。
一応俺なら扱う事は出来たけど、問題なのは常時発動している身体強化を持ってしても重量が在るせいで、剣に振り回されることになりそうだ。
そして最後の剣が、俺が気になっていた無属性の剣だ。
見た目は武骨なオリハルコン製のバスタードソードで、何が気になるのかわからないが何となく気になっていたのだ。
ヒエンさんに許可を貰い抜刀するが、特に変わった様子はない。
「何かわかりましたか? 」
「さっぱりです。でも何かが発動しているような感触はあるのですけど」
鞘から剣を抜いた瞬間に何か起こった感触はあったんだけど、身体強化や魔法が使えるとかそういった類のものではない様だ。
「発動されているという事は魔剣がシクラ様を持ち手としてふさわしいと判断したのでしょう。……しかし、肝心の効果が分からないですか……それではあれで試し切りでもしてみますか」
そう言って示したのは、入り口付近に置いてあったマネキンの骨組みの様な物で、そこには少しくたびれた金属製の鎧がかかっている。
「騎士団で処分する予定の鎧だったので、試し切りにはちょうどいいと思いまして。」
「そうですねちょっと試し切りしてみますね」
俺は剣抜き鎧に相対する。
騎士団で練習し始めたころは力加減と刃筋を通すことが出来ずに剣を折ってしまったことがあったが、今は流石に練習しただけありそのような事は起こらないはずだ。
「行きます! 」
俺は鉄製の鎧を袈裟切りに斬りつける……!?
斬りつけられた鎧はガチャンと音がして……剣が描いた軌道のまま袈裟切りに切断されていた。




