失敗勇者と解放
これは夢?
……私は一体何をしているのだろうか。
見えている景色もぼやけているし、音も何かに遮られて居るかのように遠い。
ここは城郭の上? 良く見えないけど、たぶんそうなのだろう……なにか四つの小さなものがこちらへゆっくり近づいてきている……その後ろから大量に何かが押し寄せていく様だ。
あれはなんだっけ? 頭がはっきりしなくて、何か重要な事だったと思うのにうまく思い出せないわ。
二種類の小さなものは段々とこちらへ近づいてきているが、徐々にその距離が縮まっているように見える……あれは……シクラ様!
急に視界が戻り周囲の音も聞こえるようになったが体に異変を感じた。
あれ?体が動かない! 何で! 声も出ない! 何故……ああそうだ、私の体は……悪魔に……。
その瞬間自分に何が起こったのか思い出したが、体を悪魔に支配されなにも出来なくなってしまっているのだ。
シクラ様達の後ろから魔物が迫ってきている! でも、ここからでは距離が遠くてもし声が出せたとしても聞こえない……どうしたら……念話なら!
しかし、魔力を使う事も出来ずシクラ達に伝えることが出来ず、更に魔物達との距離が近づいていく。
ダメ、もう距離がかなり近い、何とか伝えてあげないと!
『後ろです!』
私の声が聞こえたわけではないのでしょうが、シクラ様は後ろを振り返り魔物達に気が付いたみたいですね。
そして、シクラ様達は堀を渡りきり安堵した瞬間に私の意識は再び落ちて行った。
byベロニカ
この魔法であれば、相手に探知を嫌がられてパスを切られてもいいし、もし切られなかった場合でも相手の悪魔の位置がわかるからその悪魔を討伐に向かえば問題なさそうだな。
それにしても、このなんでも魔法を考え付けば使えてしまうこの力は異常すぎるな……それに、魔法の効力やどのようにしたらどうなるとか頭に浮かび上がってくるのはやばすぎる。
もしこれが超越魔法の上の勇者魔法というのであれば、過去の勇者達も自分の想像の限り魔法が使えたことになるからそりゃ魔王だって倒せるよね。
まあこのことは後で考えればいいか、それよりもベロニカさんが先だな。
「こじーらさん、シュレルさん、ベロニカさんに合わせてください。もしかしたらベロニカさんの支配をなんとか出来るかもしれません。」
「ほ、本当ですかシクラ様! あ……しかし、今のベロニカは……すこしアレなのですが……。」
「コジーラ魔導騎士団長良いのではないでしょうか? シクラ様であればもしかしたら何とかしていただけるかもしれません……ただシクラ様、今のベロニカさんを見ても気を確かに持ってください。」
「ゴクリ……わ、わかりました。」
シュレルさんの言っていることが良く変わっていなかったが、恐らくベロニカさん自体に何かが起こって面会謝絶状態になっているのだろう。
コジーラさんがかなり気にしているのが少し気がかりだが、この魔法を使うには対象と接触する必要があるからベロニカさんに合う必要はあるんだよね。
「それと一応確認しますが、悪魔とのつながりが切断されれば支配からは解放されるのですよね?
「そうですが、一時的に切断しても再び悪魔が接触したりすれば再び支配されることになります。」
とりあえず、一時凌ぎだがベロニカさんを支配から解放することは出来るようだ。
解放してから再び悪魔が支配しようと接触する前に悪魔を討伐するなりすれば問題はなさそうだな。
「ただし、入室できるのはシクラ様だけになります。中は狭いですし、ベロニカもあまり多くの方に見られたくは無いと思いますし。」
コジーラさんの問いに他の人も同意していた。
アイリスあたりが文句を言うかと思ったけど、過去にもこういったことにあったのか何も言わなかった。
「ではこちらです。」
シュレルさんを先頭に俺とコジーラさんが後について入っていく。
「ボウズはあの状態を見て大丈夫か? 」
「そうね……あの状態はなかなかに来る物がありますし。」
「シクラ様なら大丈夫……だと思います。それに、もし私があの状態になったのであれば他の方には見られたくはありませんし、私たちが行くのは流石にどうかと……」
「ま、ボウズの胆力の見せ所だな。それにしてもアイリス嬢ちゃん、ボウズに解呪させに行って良かったのか? 」
「なにがですか? 」
アイリスは何を言っているかわからなかった。
トラオウは珍しく言っていいものか迷っていたようだが、あたまをボリボリと掻きながら言いにくそうに言った。
「あー、あれだ、ベロニカがあんな状況になってびびらずに助けてくれたら……惚れちまうんじゃないかなってな。それに、ベロニカは前の大戦の時自分より強い男が良いって言ってたしな。」
トラオウの言葉にアイリスはサーと血の気が引いていった。
ベロニカ自体は特別視するほどの美人ではないが、決して不細工というわけではない。
いままでも男性比率が多い騎士団にいて、若くて結婚していないベロニカは他の騎士団員たちからアプローチを受けていたはずだが、たまに鍛えに騎士団にいっていたがそういった話を聞いたことが無かった。
それに、シクラ様はご自身では自信が無いようですが、この世界においてシクラ様の顔つきはかなりモテル顔であり、もし一般人であったとしても豪商の令嬢や下手したら貴族の令嬢からも求婚が来るレベルです。
そんなシクラ様ですからもしかしたらコロッと行ってしまう可能性が……そんなの嫌!
「だ、ダメです! いえ、シクラ様が本当にそう思われているのであれば仕方のない事ですが、シクラ様が自信が無い事に付け込んで誘うなんて絶対ダメです! ……あ、し、失礼しました。」
「ま、まあ、そうと決まったわけじゃないからな……まあ、がんばれって。」
「そうよ、流石にシクラもぽっと出のベロニカなんかよりアイリスの方を選ぶわよ……たぶん。」
アイリスはいろんな妄想が駆け巡り変な発言をして、赤面し耳まで真っ赤になっていた。
アイリスの勢いに思わず擁護したトラオウとアルルだが、本心ではベロニカの方がまともでシクラには合うのではと思ってしまいお互い顔を見合わせて苦笑いをした。
入り口に立っていた騎士団員達はどう反応してよい物か困り顔で目の前に出来事を見ていたが、聞かなかったことにして仕事に戻って行った。
一方そのころ、扉に入って行ったシクラ達は狭い通路を歩いていた。
先程の扉を抜けると、人一人がギリギリ通れるような広さの通路になっていてこの場所が特殊な場所と言う事を伺わせる。
しばらく歩くと再び金属製の扉が現れ、先頭を歩くシュレルさんが扉を開けて入って行くので続いて入って行くと……そこは少し広めの部屋のような所になっていて、目の前に鉄格子が設置されその奥に……何かが居た。
辺りが暗くて良く見えないが、そのシルエットは……何と言えばいいのか、かなり醜悪な生き物のような物がそこには居て目をそむけたくなる。
大きさは二メートルくらいはあるだろうか、一応人の様な形はしているが全身が膨れ上がり皮もだらだらになって殆ど人の形をしていない肉の塊のような物が居た……まさか……これがベロニカさん?
「シクラ様、これが支配の呪詛によって変質してしまった……ベロニカです。」
「……あ……だ……べが……いどぅの……でずが……はやぐ……ごどじで」
コジーラさんの声に反応して、低くくぐもったような声で聞き取りずらいがベロニカさんは自分を殺してほしいと頼いるようだ……流石にこれは、何とかしなくては。
「ベロニカさんシクラです。大丈夫です、ベロニカさんは必ず助けますから。」
「じ、じぐらざま! いや……ごだいで……びだいで! 」
俺の言葉を聞いたベロニカさんは、重そうな見た目に反して機敏な動きで顔を隠し部屋の隅へと屈みこみ小さくなって泣いている様だ。
そうだよね、あれだけの美人だった人がこんな姿に変質してしまったのだし、シュレルさんでも支配の解除が出来ないと言われてしまい絶望しているのだろう。
だが、俺の魔法で一時的にではあるが解放することが出来るのだからさっさと助けてあげないと。
俺は二人に頷くと、二人も頷き返しコジーラさんは檻の鍵を開けてくれた。
「ごないで……ごないでびょ。」
ガチャンと大きな音がしてベロニカさんはビクっと反応した後、来ないでと連呼してくるが俺が今から使おうとしている魔法は、相手に接触する必要があるから近づかないわけにはいかなかった。
コツコツと俺の靴音が部屋に反響して近づいてくることがわかると、ぶるぶると震えだし嗚咽と様な物が聞こえて来たが無視して近づいていく。
あと一歩でベロニカさんに触れる位置で立ち止まると、ベロニカさんの震えは一段と大きくなり大きな体を一段と小さく縮こませる。
俺はベロニカさんを安心させるために、巨大な肉の塊のようになってしまったベロニカさんに優しく抱き付き優しく声をかける。
「大丈夫ですよ。必ず助けてあげますから、俺を信じてください。」
「ぼんどうじ? 」
「ええ、本当ですよ。今からその魔法を使いますので、気を楽にして待っていてくださいね。
俺が抱き付いた瞬間震えていた体をビクンと硬直させたが、俺の言葉を聞き体から力が抜け腕がだらんと垂れた。
よし、これだけ言って失敗なんかしたら目も当てられないが、あの魔法を考えた時得られる結果がそのままであれば最悪無理やりにでもこの繋がりを断ち切ってやればいいだけだ……その場合、多少ベロニカさんに負担がかかるが流石に今の状態からは解放されるから問題ないだろう。
俺はさっき考えた魔法をベロニカさんに行使する……これは魔法と言っていいのかどうか分からない。
人は自分の容量以上の魔力を体に蓄える事が出来ず、必要以上にポーションなどで回復すればそれは体から霧散してしまう。
しかし俺が考えたパスを辿る魔法は、俺とベロニカさんにパスをつなぎ、魔力をベロニカさんに大量に流し込むこと通常ではそのまま発散してしまう魔力を、相手のパスを利用して魔力を無理やり逆流させて俺の魔力を流し込むかなり無茶な方法だ。
簡単に言えば、人を水の入った容器だと想像して、パスがそこに無理やり繋ぎこんだ管とでも言えばいいのかな?
今は魔力の大きい悪魔の容器から小さいベロニカさんに水が流し込まれて容器が膨らんでしまっている状態で、そこに俺が新しく管を繋ぎ込みベロニカさんの容器を保護しつつ、勢いを付けた水を注ぎこむと相手に逆流していくと言う事だ。
まあ簡単に言っているが、これが出来るのは恐らく勇者である俺以外では恐らく悪魔くらいしかできないだろう。
おっとそんなことよりも、早くベロニカさんを元に戻してあげないとね。
「……やります」
ベロニカさんがコクンと小さく頷くのが見えたので、俺は支配の解除にかかる。
まずはベロニカさんとパスを繋ぐために抱き付いている……と言っても大きくて半分も手が回らないので両肩を抱いているような感じだが、手が当たっている場所から俺の魔力をベロニカさんにつなげるイメージをする。
「っく! 」
つないだ瞬間様々な感情の波のような物が押し寄せてきて手を離しそうになるが、何とか堪えて先に進もうとするが……一瞬悪魔の感情が見えた様な気がした。
なにか嘲笑うかの様なイメージが流れてきてイラっとしたが、集中していないとパスが切れる恐れがあるので流れてくるイメージを受け流す。
「パスは繋がりました。何かおかしなところはありませんか? 」
巨体になった首をフルフルと振り、異常な無い様なのでここから魔力をベロニカさんに送る。
ただし、俺の魔力は普通の人とは違うようなので念のため少量ずつオドを送って行くが、特に変化が無かったので段々と量を増やしていく。
ある程度オドを送ったところで送ったオドでベロニカさん自体を保護していく……と言うかそんなイメージで魔法を使うと勝手に発動されていたんだけどね。
相変わらず時々悪魔の感情が見え隠れするが、これから逆探してやるから覚悟しておけよ。
「最後の仕上げをします! もしかしたら少し苦しいかもしれませんが我慢してください! 」
「おでがい……じばす……」
ベロニカさんは、返事をすると同時に体を縮こまらせてこれから来るかもしれない苦痛に耐えようとしている。
本当は苦痛とは無いはずで、体なのかを何かが通って行く違和感があるだけなのだろうけど、悪魔とベロニカさんを通じてパスが繋がっていることもありわざとらしくそう伝えただけなんだけどね。
俺は意識を集中して魔力をベロニカさんへ送り込む。
「っく……ふあ……ん……あ……あん」
先ほどまでとは違いかなり大量の魔力をベロニカさんへ断続的に流し込むと、何というか微妙に色っぽい様な声を出すので意識が途切れないようにするのが大変だが……悪魔から伝わってくる感情に微妙にぶれが生じ、俺が何をしているのかが相手につたわったようだ。
しかしそれでも悪魔はパスを継続して逆にこちら側に圧をかけてこようとしだしたので、本気で逆探知するかのように更に大量の魔力を継続的に流し込む……見えた!
悪魔の位置を把握した瞬間、悪魔側はパスを切断した……恐らく逃走したのだろうが、相手の顔のイメージまで確認できた。
その悪魔はある意味予想通りの、この街に魔物達を嗾けて来たマフォルスだった。
まあ今はこいつに構っているよりも、ベロニカさんがどうなったかを確認しなければ。
送っていた魔力を止めて、集中するために閉じていた目を開くがベロニカさんは……相変わらずの容姿をしていたが、ベロニカさんに触れていた手に違和感を感じた。
手に視線を向けると、ベロニカさんに体が段々と白くなって行き全身が白くなると、表面の方からさらさらと砂のように崩れ落ちて行った。
「なっ! ベロニカさん大丈夫ですか! 」
「シクラ様落ち着いてください、これは悪魔に支配され変質していた部分が消滅して行っているだけです。」
「そうです! 流石シクラ様の魔法です! また今度面白い魔法を騎士団で見せてください! 」
支配から解放されると元に戻るというのは、相手側から変質させる魔力が途切れるからその部分を維持することが出来ずに元に戻るのか。
そもまま眺めていると、徐々に触れていた場所の感覚が無くなり……遂にベロニカさんの姿が……!?
「って、ええええええ! ちょ、こ、これって! う、うわ! 」
白く崩れていく変質した部分からベロニカさんの頭が見えて体の部分が見え始めたと思ったら、ベロニカさんは一糸まとわぬ姿で現れ、そのままこちらへ倒れ込み反射的に抱き留め、後ろから抱きしめる形になってしまった。
……そしてこの時は慌てていて気が付かなかったが、俺の両手が押さえていたのは……ふたつのやわらかなふくらみだった。
次回も月曜日更新になると思います。




