失敗勇者と勇者スキル
ふむこれが勇者ですか、なんだか覇気があまり感じられませんね。
まあ人形の事を勇者は知っているようですし、我々と直接対峙しているわけでないのでそんなものでしょうか。
……しかし、この者の装備は些か勇者としてはかなりしょぼいですな。
剣も魔法剣……いえ合金ですか、鎧は……只の鉄ですか、こんなもの私の前では裸も同然ですね。
何ですかな、この者はもしかしたら勇者ではないのではないかと思ってしまう程貧弱な装備ですね……もう一人も大したことありませんが他の二人は良いですね。
装備は申し分ない、そして経験もかなりあるでしょう……どこかで見たことある顔の気もしますが、気のせいですかね。
まあ、もしかしたら先の大戦の際に戦っているやもしれませんが、とりあえず今はいいでしょう。
それにしても、あの程度の魔物達さっさと片付けて頂きたいですね、そうしないと私が出ていくことが出来ずにつまらないです。
前回の勇者は過去に例のない程の異常な勇者でしたが、今回の勇者もまた異例なな勇者のようですね。
しかしなぜこの国は、勇者が召喚された事を隠しているのでしょう……我々悪魔は勇者が召喚されると即座に解るというのに……もう少しこの人形に調べさせますかね。
トラオウが思い出していたのは、魔導騎士団副団長のベロニカだった。
彼女は前勇者達と行った魔王討伐戦にも参加し、白虎の皆とは戦友の間柄だったのだが、先程休憩場所を提供してもらった際に何か不穏な感じがしていたのだが、それが今となっては嫌悪感を表すまでになっていた。
トラオウ本人もなぜそのような感覚がするのかはわかって居ないが、彼女に近づくのは危険な感じがしていた。
だが、マジックポーションを大量に所持して居そうな者達と言えば魔導騎士団ぐらいであり、マジックポーションを入手しようとしたら確実に彼女がかかわってくるはずだ。
トラオウは自分の勘を信じては居るが、今の事態を考えるともしポーションが足りなければそうも言っていられない。
中級ポーションは人なら銀クラスの魔法使いであれば七、八割は回復できるもので、上級はアルルの様な白金クラスか魔法の得意なエルフなどの種族が緊急時の回復手段として使用するもので、アルルなら全快近くまで行きエルフの冒険者であれば五割から七割程回復できる代物である。
ただ、そもそもシクラがどれだけのオドがあったのかがわからない。
「うーむ。とりあえずは今ある分で試してみるしかないか。アルル、ボウズにこの量のポーションで足りると思うか? 」
「確実に足りないと思うわ。この子はオドだけであれだけの魔法が使えると言う事は、私の数倍……もしくは十倍位はありそうだもの。」
「っな、本気か。」
「本気よ。この子が行った魔法はマナも併用すれば私でもなんとかできるけど、通常オドはマナを誘引する為に使うのであってオドそのもので使うのは直ぐに魔力切れをおこしちゃうわ。だからこそ、マナ広範囲から素早く集めるために優秀な杖が必要になってくるの。それを杖などの魔法発動体もなしにあんなことが出来るなんて、やっぱり勇者は異常だわ。」
アルルの話し方からすると、数倍と言ってはいるが恐らく十倍近くあると思っていいのだろう。
そうなると、最低一日分前借したとしても上級ポーションが十個も必要になってくるのだが、そもそもそんなにポーションが飲めないな。
ポーションの見た目はシクラの世界で言うと缶コーヒー位の要領があり、それを十本も飲むと言う事であれば二リットルもの水分をとることになってしまう。
まあ、飲める人は飲めるだろうけど、普通一気にそんな量を飲んだら気分が悪くなったり吐いたりしてしまうだろう。
「どうされますか? 恐らくシクラ様はこのまま寝ていれば前回同様程度寝ていれば起きられると思います。しかし、前回以上に倒れられると流石に体の方への負担が心配になりますが。前回は三日程意識が戻らず、動けるようになるまでに十日を要したとか。」
「今回どれだけ使ったか分からないが、前回と違ってなりふり構わず使った感じのようだからどれだけ減っているかわからんな。」
流石に困ったな、今あるすべて飲ませても前回と同様の量を消費していたら確実に足らないだろう。
そうなると他に手があるとしたら、ポーション以上に回復させる物などを使用するしかないのだが、流石にエリクサーや賢者の石の様なものは持ち合わせていないし、そう言った魔道具も持ち合わせては居なかった。
もし持っていたとしても、流石にエリクサーや賢者の石は値段が高すぎて出すのは躊躇っただろう。
「あまり意味は無いかもしれないが、上級だけでも飲ませておくか? ボウズのオドの回復速度がどの程度かは知らんが、全く無意味と言う訳でもないだろう。」
「そうですね。教会でもポーションはあるのですが、傷を癒すポーションや解毒のポーションは上級までありますが、マジックポーションは中級までしかありませんから。しかし、よろしいのですか? 上級のポーションはかなり高額とおもいましたが。」
「まあな……だが、ボウズには恩があるからそのくらいで返せるのなら安いものだ。」
「そうだな、命の代金と逆に格安な気がするけどな。」
「ハル、余計な事言わない。それに、もしかしたらシクラの回復速度が異常に高いせいで魔法が使い放題と言う可能性もあるのだから、それだったらポーションは意味はあるわよ。」
「そうね。なんたってシクラは勇者なんだから、何があってもおかしく無いわね。」
「とりあえず飲ませてみるか。」
トラオウは他の仲間たちもポーションを使う事に問題がなさそうなので、シクラにポーションを飲ませようと近寄りポーションを取り出しに手を掛けた時。
「トラオウ、シクラを回復させたいならポーションよりアルルの杖を渡した方が早いよ。」
「なに? スターどういう事だ。」
「そんなことしてなくても、アルルの杖を借りたらすぐだよ。」
アイリスと話をしていたスターが、シクラにポーションを飲ませようとしたトラオウを止めた。
そしてアルルの方へ歩いて行き、アルルの持っていた杖を借りて眠っているシクラの上に置き、その杖に手を握らせた。
「え、な、なに、このマナの動き! 」
「素晴らしい! これが勇者様のお力なのですね。」
「何が起こってるんだ? 俺達にもわかるように説明しろ! 」
「そこら中のマナが私の杖を伝ってシクラに向かって集まって居るのよ! それも尋常じゃない勢いで! 」
アルルとシュレルの二人はマナの動きが分かるようで、周囲のマナがシクラが持つ杖に吸い寄せられ杖を通してシクラの中に流れ込んでいく。
魔法を主体としている二人以外には物理的には何も起きていないのだが、何かが渦巻きシクラへと収束している様な不可思議な状況が発生していた。
数分後、徐々に集まるマナが減少して行き徐々に収まって行った。
「恐らく周囲のマナをシクラ様が吸収されたのでしょう。今この一帯はマナ枯渇状態になっていますね……どれほどのマナを吸収されたのかわかりかねますが、流石セクメトリー様が召喚された勇者様ですね。」
「あんたは……はぁ、司祭に何を言っても無意味ね。それよりも、周囲のマナが一切合切無くなってしまったようだけど、それを吸収したシクラはどうなのよ。」
アルルとシュレル以外の者達は、今まで起きていた減少に付いて行けずみなポカンとした感じになっていたが、アルルの言葉に反応してシクラの様子を確認する。
青白かった顔には少しではあるが朱が射し、大量のマナを吸収したことによりかなり良くなったように見えたのだが、まだ目を覚ますまでには至っていない様だ。
「嘘でしょ! あれだけ大量のマナを吸収したのにまだ回復しないなんて、いったいどれだけのオドを初費してたの。」
「っは! 落ち着けよアルル。シクラの顔色はかなり良くなったんだから後少しなんじゃないか? もしかしたらポーションで回復するところまで来てるかもしれないんだから、騒ぐのは後にしようぜ。」
「ちょっとハル話なさい! って、何抱き付いているのよ! 」
「ぐほ……お、落ち着けよ……」
アルルが暴走してシクラの胸倉を掴んでガクガクと揺らしていると、いち早く回復したハルがアルルを後ろから羽交い締めのようにして抑えたのだが、流石に優しく拘束したため抜け出されて回収した杖で鳩尾にをクリーンヒットを貰ってうずくまる。
攻撃をしたアルルは頬を紅潮させて「ふん」っと言ってそっぽを向いたが、流石に少し気になってちらちらハルを見ている。
アルルの行動が照れ隠しなのは見ればわかるのだが、それを一番見たかったハルは撃沈中で見れなかったようだ。
「そうですね。それでトラオウ、そのポーションはシクラ様に飲ませていいかしら?」
「ああ、そうだな。」
アルルとハルの騒ぎで平静を取り戻したアイリスは、未だに呆けているトラオウから上級ポーションを受け取り、シクラの体を起こしてポーションを飲ませる。
……部屋にいた者達からは顔が見えなかったが、シクラを抱き起すアイリスの顔がすこしにやけていたのは内緒だよ。
アイリスはポーションを飲ませ終えてシクラの様子を伺っていると……シクラの瞼が震え、目を覚ました。
「……あれ、俺はなにし……って、近い近い! 顔が近いってアイリス! 」
「シ、シクラ様! 」
「くぁwせくぁwせdrftgyふじこlp! 」
意識を取り戻したシクラの目の前には、自分を抱き起しながら顔を覗き込んでいたアイリスと目が合い、その距離の近さにシクラが叫んだ。
その反応に、シクラに異常が無い事を感じ取ったアイリスは心配と安堵が入り混じった環状が暴走し、勢いで抱きつかれたシクラは声にならない声を上げた。
「ようやくお目覚めか。」
「……」
「無事でよかったわ……シクラ顔が真っ赤よ、うふふ。」
「ようやく目を覚ましましたねシクラ。あなたにはいろいろ聞きたいことがあります。あなたの魔力量はどれだけ……ちょっとミモザ邪魔しないで。」
「シクラさん元気になったようでよかったです。何か変なものが取り付いていますが、邪魔ならどけましょうか? 」
「シクラ様おはようございます。御加減はいかがですか。」
一人声が出ないほど身悶えている人がいるが、他の人達からは目を覚ましたことを喜ばれた。
何かアルルさんが俺に聞きたいことがあったようだけど、ミモザさんに止められてる。
それにスター……アイリスを変なもの扱いは少しひどい気がするよ。
……というか、俺また意識がなくなっていたのか。
前回の森での戦いでも戦闘後に意識がなくなり、今回も安堵した瞬間に意識が途切れた。
今回も前回も安全になってから意識を失い助けてもらえたからいいものの、これがもし戦闘中に起こったら……戦闘中でなくても自分以外に誰も居なかったりしたら俺は死んでいたのではないか。
勇者として内心少し浮かれていたが、こんな幸運が何度も続かないだろうし、今後元の世界に戻るために旅をしないといけないことを考えると、死んでしまう可能性があるのでは。
「シクラ様どうかなさいましたか? まだ完治されていませんでしたか、少し横になってください。」
「いや、大丈夫だよ。それよりも、何があったか教えてくれるかな。」
俺に抱きついていたアイリスは俺の顔色が悪くなったことに気が付き、俺をベットへ寝かせてくれようとするが横になったからと言ってどうにかなる問題ではないのでそのままベットの脇に腰を掛ける。
俺が倒れた所から今までの事を教えてもらい、俺は初めてスキルなんてものがある事をおしえてもらった。
そして俺のスキルがこんなへんてこなスキルとは……これだと魔法を使いすぎるとまた同じように倒れてしまう。
恐らく、俺が剣の勇者であることから身体強化などで魔力をあまり使わない事を前提で、とどめの一撃必殺用のスキルの様な感じで与えられたのかな?
それにしても、また微妙なスキルが与えられたものだな。
一応スキルの確認方法を聞いて、自分で確認してみるとこのような事が書いてあった。
『スキル:前借(勇) このスキルは使用者が求めた際に発動する。未来からのスキル使用者のオドを前借し、対象にオドを供給する。』
何か微妙に違和感があるスキルだけど、やはり未来で俺が発生させるオドを前借して通常では使用できないような魔法などを使う事が出来るスキルのようだ。
一応今この場にいる人に内容を説明すると……何故かシュレルが驚いていた。
「シクラ様、スキルは前借ではなく前借(勇)なのですね。」
「そうですね、頭の中にそうやって浮かび上がりましたが。」
「その内容が、未来からシクラ様のオドを前借して、対象にオドを供給するで間違いございませんか? 」
「それで合っていますが、何かおかしいですか? 」
前借スキルを知っているシュレル以外はこのスキルの特異性に気が付いていなかった。
と言うよりも、そもそも他者にスキル内容を教えることなどまれであり、他人のスキルなどにあまり興味が無かったのである。
「コホン。あえて言わせていただきますと、そのスキルは異常です。」
俺は異常宣言されてしまった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次回も更新は月曜日になります。




