失敗勇者と苦戦
ベロニカさんと別れ、衛兵本部の方へ向かおうと歩みを進めたのだが、トラオウさんだけ城郭の方へ向かい歩いているロニカさんの方を見たまま立ち止まっている。
「トラオウさん、何かありましたか?」
「……ん……いや……何でもない。」
ベロニカさんの背中を見つめていたトラオウさんに声を掛けると、何か微妙な反応が返ってきたが、こちらを向き直り向かってくるときにはいつもの雰囲気に戻っていた。
「ボウズさっさと行くぞ! ヒューズたちと相談しなけりゃならない事はたくさんし、魔物達はこの間も攻めて来てるんだ、時間を無駄にしたらいかんぞ。」
そう言いながら俺の背中をバシっと勢いよく叩くと、いつものように笑いながらハルさんと歩いて行った。
さっき一瞬振り返り際に。険しい表情をしていた気がしたけど気のせいかな。
衛兵本部へ着き、入り口で騎士団長達の所へ案内してもらう。
ベロニカさんの言った通り、衛兵本部の中は休息を取る兵士たちでごった返していて、通路で横になっている人すらいるしまつだ。
案内の騎士団員が扉をノックし、入室許可を貰い皆で部屋に入ると、作戦会議をした時のメンバーがそろっていた。
俺の顔を見たヒエンさんが立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる。
「おお、シクラ殿。素晴らしい戦果でだったご様子ですな。これで、兵士たちの負傷も減ることでしょう。」
「ありがとうございます。ただ、まだまだ魔物達は大量にいますので、自分達にもまだできることがあるか相談しに来ました。」
「そうですな。今は徐々に魔物達を削ることが出来ていますが、あまり長時間になると兵たちの集中力も持ちますまい。今はその件で騎士団長達とどうするか相談しておるところだったのですが、シクラ様も会議に参加して頂きたい。そちらの二人も参加して頂きたい。」
「わかりました。トラオウさん達も良いですか? 」
「ああ、問題ない。とは言っても、俺達は冒険者だから軍の作戦なんて立てられないからな。」
トラオウさんが肩をすくめながら答えると、ヒエンさんはうなずくように首を振った。
そして、俺達を地図が広げられている机まで案内し、現状をヒューズさんが説明してくれた。
現在は、前線の陣地及び城郭からの攻撃は順調に行われていて、今は弓兵をしていた騎士団員と衛兵に休息を取らせているとの事。
休息後は、三交代で弓兵をさせることになっているとの事だが、問題が発生している……それは、矢がいつまで持つかが分からないと言う事だ。
今のように矢の雨を降らすように使用して居れば、半日も持たずに矢が消費仕切ってしまうとの事だった。
街中から矢を集めている様だが、それでも明日の朝までは矢が持たないだろうとの事だ。
一応鍛冶師たちに量産を頼んではいる様だが、作るよりも射るほうが早い為足りなくなるのは時間の問題だそうだ。
弓の攻撃では致命傷を与えられる様な攻撃が可能な人は少なく、ほとんどが動きを鈍らせることくらいにしか効果が無い。
ハルさんみたいに例外は居るようだが、やはり量産されている弓ではそこまで威力が出ない様だ。
弓兵の代わりに魔導騎士団員達が魔法を使用しているが、これも周囲のマナが完全に回復する前に再度魔法を使用していることから、再びマナ枯渇になるのも時間の問題だ。
弓や魔法の援護が無くなれば、陣地で戦闘している騎士団員達は徐々に押され始めることが懸念され、魔物達に陣地を突破される恐れが出てくる。
そうなると、陣地の騎士団員達は撤退する事も出来ずに蹂躙され、魔物達が門を破り街に入って来るだろう。
そうならないようにする為に会議をしているが、解決策が未だに出ずに困り果てていたようだ。
そして、この数時間で討伐できた魔物の数はおよそ一割。
陣地では、一度に十数匹しか相手をしなくていいように調整してしまったために、未だに騎士団での討伐数が上がらない。
しかも、格子状の檻の様な形にしてしまったため、槍の様な刺突武器しか攻撃が出来ない事も、討伐数減少の原因だと言う事だ。
戦闘時間が長引けば兵士たちの疲労もたまり、魔物に囲まれた状態ではまともな休息も出来ず、悪循環な状況になってしまっている。
「俺がもう少し考えて陣地とかを構築しておけば……」
「そんなことはありません。シクラ様の陣地のおかげで、今の所軽傷の者は居りますが死に至るような傷を負ったものは居ません。陣地が無ければ、既に魔物達に城門が突破され城郭内で乱戦になっていたでしょう。」
俺の失敗をヒューズさんがかばってくれているが、どう考えても俺がこの世界の常識を知らなかった為に起きた弊害だ。
俺が一緒に戦闘をしたのが白虎の人達のみで、騎士団員達とは訓練はしていたがこの世界の戦術や先鋒、それに個人の戦力の把握がうまくできていなかったからこんなことになっているのだ。
どうしたらこの状況から切り抜けられるのか……問題点は矢の数と周囲のマナ枯渇、そして騎士団員達がまともに戦闘できずに魔物達の数が減らせず、皆の疲労が解消されない事か。
矢の数は実際に生産速度が追い付かない事はどうしようもないから、他に遠距離から攻撃できる手段を考えればいいのだが、即座に代替の物を考えられるほどに俺は知識が無いし、もしあったとしても兵士達が即座に使用できる事が最低条件だ。
次に考えなければならないのがマナ枯渇だが、そもそもマナと言う物がどんなものなのか、どんな性質があるのかが全く分からない。
ゲームなどで良くあるのが、大気中に漂う魔力とかそう言った表現しかなく、何が条件でマナ枯渇が改善しているのかがわからないとどうしようもない。
そして騎士団員達の陣地での戦闘、対面する魔物の数を減らしすぎたことと、槍などの点での攻撃しか出来ず、線での攻撃が出来ない事で魔物達をうまく処理が出来ていない事だ。
それに、今はまだ門から出入りが出来るから交代は可能だが、今後堀を越えられたり陣地の上を越えてくるような事があれば、孤立状態になり壊滅してしまう恐れがある。
これに対しては、最悪魔法で城郭の下に穴を掘って陣地までの地下通路を作成すれば可能かもしれないが、城郭の基礎部分が倒壊する恐れがある事とその穴から魔物が侵入してきてしまう事も考えられる。
全くいい案が浮かばない……これなら、俺が突撃して行って魔物を減らした方が良いのかと思ってしまったりもしたが、そんなことは誰も許可はしないだろうけどね。
「……直ぐには案が思いつかないです。今まで出た案はどんなものなのですか。」
「そうですか……これまでに出た案は何個かあるのですが、どれもそこまで効果があるものではなく……」
まずヒューズさんが説明してくれたのはマナ枯渇状態の緩和方法だった。
マナとは、この世界の物質及び自然現象などすべての事柄に対して関係しており、植物などから主に発生していると言われているが、風が吹いても発生し火を起こしても発生するとの事だ。
ただ、魔法を使用した風や火などからはマナは発生はせず、一応植物の魔法でもマナは発生させることは出来るようだけど、その場合植物はそのまま消さずに残しておく必要があるらしい。
ヒューズさん達が考えていたのは、篝火などを焚きマナを発生させる方法だが、戦場のマナを補充させられるほどの量は確保できないとの事。
他には、高位の魔物達が体内にため込んだ魔力が結晶化した魔石を使用して魔法を行使する方法だが、そもそも魔石を得られる様な魔物がかなり強い魔物ばかりで、値段がかなり高価でおいそれと使用できないとの事だった。
一応普通の魔物にも魔石がある事もあるようだが、大きさが砂粒ほどしかなく価値が全くないらしいが、一応その魔石を砕けば周囲に魔力が散りマナに還元されるそうだ。
ん? 自然現象……魔物の魔石……そうか、この手があるか。
「ヒューズさん、篝火の様な人が用意した物でも魔法を使用しなければマナは発生するんですよね? 」
「そうです。ただ問題なのは、篝火程度ではマナの発生量が少ないのでそれほどまでの効果は期待できないのです。ただ、炎魔法の威力向上効果もあるので設置した方が良いと思っていますが。」
「わかりました。コジーラさん、今魔導騎士団員が使用している魔法は超越魔法ですよね? 」
「そ、そうですが、良くお分かりになりましたね。魔導騎士団員が三人一組なのは意味がありまして、一人がオドの制御、もう一人がマナの制御をして最後の一人が魔法自体の制御をしております。これにより、単独では使用が難しい超越魔法を行使できるようにし、更に分担を魔法行使毎にローテーションをすることで、個人のオド消費が極端にならない様に調整し、さらに! 」
「コジーラさんストップ! わかりましたから、細かい説明は後日詳しく聞かせて貰いますから。」
「ふむ、仕方ありませんね。シクラ様には後日魔法とはどのような物かたっぷりと講義させて頂きます。」
「は、はい……それとヒエン卿に少しお聞きしたいのですが、この国に火酒はありますか? それと、出来れば液体の油も大量にあればいいのですけど。」
「火酒は鍛冶師達ドワーフが居りますから、結構な量は集めることが出来ると思いますが。液体の油は、貴族位しか使用しませんからそれ程多くは無いですな。獣脂油がを使うところが多いので、あまり一般的には流通していませんね。」
そりゃそうだ。
元居た世界のように発展しているわけではないので、植物油なんて今のこの世界では少ないよね。
まあ、火酒があればとりあえずは何とかなるかな。
「そうですか……でも、とりあえずは何とかなりそうですね。」
「何か思いついたご様子ですが、ご説明頂いてもよろしいですか。」
「はい。簡単に言いますと、ヒューズさんの言っていたことの規模を拡大させるというだけなのですけど。」
そう、規模の拡大。
篝火の様な小さな火ではなく、もっと巨大な炎を起こそうとしているだけだ。
火酒の樽を迷路の穴に投げ入れて、火矢等で火をつける。
それと同時に、陣地の手前の堀の部分にも火酒を入れて穴に落とした魔物達を巻き込み火力を上げると同時に、微量であるけど魔石が含まれている個体も居るだろうから、その魔石をも破壊して周囲のマナに循環させると言う事だ。
これなら魔法を使用しての炎ではないのでマナが発生するし、炎魔法の威力も格段に上がるしね。
それに、炎の迷路を進む間に魔物達に熱によるダメージが入るだろうから、陣地での討伐速度が上がる可能性もある。
ただし、樽を投げ入れるようなことが出来る人は限られているから、準備にはそれなりに時間はかかるだろうけど、今までよりははるかに戦いやすくなるだろう。
そして城郭上の兵士達には、マナが足りなくなった際に弓で攻撃してもらう事の他に、陣地の脇から火が消えない様に火酒を投入してもらい、意地をしていけば何とかなるのかなと思っている。
「っと、こんな感じの事を考えたのですが、どうですか。」
「やってみる価値はありそうですね。ただ、追加で入れる物は火酒ではなく、獣脂にして頂きたい。流石に永遠と火酒を投入していたら、財政的にあまりよろしくないので。」
ヒエンさんの言う通り、流石に追加で入れるのに火酒はもったいないか……それに、ドワーフの人達から酒を無駄にするなって文句も言われそうだしね。
「そうですね、それでお願いします。」
「あの、シクラ様。一つお聞きしたいのですが。」
「なんだいアイリス。」
「はい、誰が火酒の樽を迷路内に投げ込むのでしょうか。」
いい質問ですアイリスさん、そこについても考えていることがあるんだよね。
「投げ入れるのは……トラオウさん達にやってもらおうと思っているのですけど、作戦がありまして。」
「ほう、どんな方法なんだ。ボウズは変な事には頭は周るから大丈夫だろうけど、一応聞いておこう。」
「それはですね……」
俺の説明に戸惑いを見せるが、仕方ないと言って俺の作戦に乗ってくれた……まあ、アイリスだけはかなり渋っていて付いて来ようとしていたけど、アイリスでは難しい作戦になるから却下した。
そして準備の為に席を立ち部屋を出て行こうとしたときに、ヒエンさんに呼び止められ、耳元で小声で良い事を教えて貰えた。
「国王陛下より許可が下りましたので、もしもの時は本気で戦っていただいて構いませんので。」
このタイミングでの許可とは、良いタイミング過ぎて怖いぐらいだけど、これで作戦の成功率は格段にあがることだろう。
次回投稿は、再来週になると思います。




