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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
一章

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39/220

失敗勇者と逆襲

 昼食を食べ、デザートのプリンに手を伸ばそうとしたとき、妻達から魔物達が襲ってきているが大丈夫なのかと聞かれ手を止めた。

 今この国には魔物達の軍勢が襲ってきており、騎士団たちが魔物の軍勢と戦闘を繰り広げているが、この王城は戦場からも遠く離れている為いつも通りの日常が広がっていた。

 しかし、妻達は元々この国の貴族の出身であり、家族などが戦場に出ている為心配している様だ。

 ワシは妻達に心配は無用と言う事を伝えたが、それでも食い下がって来たのでシクラ様が戦場に建っていること、そのシクラ様が作戦を考えて罠などを用意してくださっていることを伝えると、妻達も安心した様だ。

 すると次は娘達が、シクラ様が居るのは良いですけど本気を出すことが出来ないのではなくて? と問いかけてくるので、最悪の場合は正体がばれても良い事などを伝えてあるので大丈夫である事を伝えると、娘達も安堵したようなので先ほど食べようとしたプリンに手を伸ばすが……既にプリンの器は空になっていた。

 左右の妻達を見るが、二人とも昔からポーカーフェイスがうまく「「どうされました?」」としらばっくれられた。

 その時娘の一人が立ち上がり、ワシを挟んで反対側に座っている妻にプリンが半分入った器を渡し、妻はそのまま一口食べた後横に座っている娘にそのプリンを渡していた。

 ぐぬぬ、この者たちはワシのプリンを共謀して取り上げ、お互いに少しづつ食べている様だが……ここで文句を言うと後が怖いからな……。

 息子たちに視線を送ると肩をすくめながら苦笑いをしていることから、恐らく息子たちは強制的にデザートを取り上げられたのだろう。

 こうなったら料理長に言って、始めからデザートの量を増やさせるしかないか。

 

 後日、国王は再びデザートを取られ消沈していた……女性の甘味への欲望は簡単には止められないのである。








「それじゃあボウズ、最後に一発決めてくれ。」


「わかりました。一発大きいのをかましてやりますね。」


 撤収前に一発大きい魔法を撃ちこんでから撤収するので、派手な魔法でもいいかな。

 でも何が良いかな、爆裂系は衝撃が来て邪魔そうだし、水とかは後処理が面倒草そうなんだよね……ま、これでいいかな。

 色々と試行錯誤も必要だろうから、今まで使ったことないやつにしよう。


 そう考えて魔法の構築を始める。

 地面から砂や石が舞い上がり、舞い上がった物同士が結合し徐々に形を帯びてくる。

 現れたのは、三センチほどの円錐状の物体で、空中に数百もの数が浮かんでいる。

 弾丸と言うには尖っているし、材質も岩と砂なのでどこまでダメージを与えられるか分からないけど、見た目的には派手で良いと思う。


「行きます。」


 円錐状の物体を回転させて貫通力を高め、風の魔法で魔物達へ広範囲に攻撃をする。


 甲高い音を立てながら高速で魔物達の集団に襲いかかった弾丸は、激しい音と砕け散った石と砂で煙幕のように辺りを包み込む。

 どの程度魔物達に被害が出たか分からないけど、煙幕のようになる前に弾丸が当たった魔物がのけ反るのが見えたから、それなりに威力はあったはずだから大丈夫だろう。


「煙幕があるうちに撤収しましょう。」


「お、おう。よし、一気に橋を渡り切って橋さえ落とせば一息つけるだろう。行くぞ。」


 トラオウさんの言葉に俺達は橋を目指して走って行く。

 後ろを振り返ってみるが、魔法が着弾した辺りには土煙が上がっており、目隠しになってくれているようだ……まあ、たぶん追って来る魔物いだろうけど一応念のためにね。

 

 わざと砂と石で弾丸を作ったのはこの土煙の為だ。

 核となる石の周りに砂粒を集めて弾丸上にして、命中した際に石はダメージを与えるために、砂は飛び散り地面の砂などを舞い上げるためだ。


 橋の側まで来ると城郭の上から幾人もの人達が手を振ったり、何かを叫んでいるのが見て取れた。

 たぶん俺達の攻撃を見ていた人達が喜んでいるのだと思い、俺は城郭の方に手を振る。


『後ろです! 』


 俺は手を振りながらみんなと一緒に橋を渡っていると、突如物凄い叫び声が聞こえた。


「っ! な、なんだ!? 」


 誰の声かは分からなかったが、声に誘われ後ろを振り返ると……魔物達がこちらへ向かって猛烈な勢いで走って来ていた。

 濛々と立ち込める土煙が仇となり、魔元の達が接近してきていることに気が付かなかった。


「っな! なぜ魔物達が! さっきまで一切こちらに来る様子はなかったのに。」


「そんなことはどうでもいい、走るぞ! ボウズは渡り切ったら橋を落とせ! 」


 全員が全力で橋を渡り切り、俺は魔法を使い橋を落とす。

 橋を落とした瞬間、魔物達の足は徐々に停まって元居た隊列へと踵を返していった。


「は、はははは。いったいなんだったんだ。」


「急に魔物達が襲ってきたが、訳が分からんな。」


「土煙で来ているのが分からなかったですね。誰かわかりませんが、教えて頂けて助かりましたね。」


「そうだね。それにしても、何で攻撃している間は向かってこなかったのに急に襲って来たんだ。」


「わかりかねます。そもそも、今の状況自体が異常なので。」


「ま、良くわからんことを考えても仕方がない。一旦中に戻って休憩にしようや。」


 橋を落とし終えて安堵し、地面に腰を下ろしながら皆で考えるけど、何に反応して襲ってきたのかはよくわからないな。

 トラオウさんの意見で、一旦城郭の中に戻り休憩することになった。


 俺が作った陣地の方には、相変わらず魔物達が押し寄せている様だが、今の所問題なく対処が出来ているようで、城郭からも時折魔法が降り注ぎ魔物達を押し留めている様だ。

 弓矢での攻撃は今はされておらず、代わりに大型バリスタを集団に撃ち込んでいる様だ。


 城門の所に居る騎士団員の人に近場で休憩できる場所を聞くと、城門横の衛兵詰所か衛兵本部なら休憩が出来るとの事だ。

 ただ、詰所は門のすぐ横にあり人少しうるさそうだったので、衛兵本部に向かう事にした。

  

「皆様お疲れ様です。」


「ああ、ベロニカさん。お疲れ様です。」


 衛兵本部へ向かおうと歩き出した所で、騎士団副団長のベロニカさんに呼び止められた。

 

「いえ、シクラ様の魔法のおかげでそれ程疲れておりません。シクラ様達はこれからどちらへ。」


「休憩の為に衛兵本部へ向かおうかと思いまして。」


「衛兵本部ですか……あそこは今皆が休憩していますから休むところが無いと思いますよ。」


「え、そうなんですか。」


「そうなんですよ。今は弓を使用していた者達が休憩に使っていまして……流石に衛兵達にはかなりつらかったようで。」


 そうなのか、それで弓矢の攻撃が無くなっていたのか。

 衛兵本部で休憩することが出来ないのであれば、休憩する場所が詰所になるのか……でもあそこはバタバタしてうるさそうだったけど仕方ないか。


「ベロニカさんありがとう。とりあえず衛兵の詰所で休憩することにします。」


 流石に最後の魔物達の追撃で少し疲れていたからゆっくり休みたかったけど、今から王城や陽光宿のような所に向かうのも時間がもったいないから仕方ないな。

 孤児院と言う手もあるけど、あそこも西側の一番端っこだから意外と遠いんだよね。


「……シクラ様達は静かに休憩できれば問題ないのでしょうか? 」


「え? まあ、そうだけど。できれば次にどうするか相談もしたかったから、人が居ない所の方が良いですけど。」


 詰所に歩いて行こうとする俺達を、ベロニカさんが再度呼び止めた。

 ゆっくり休憩できるのも大事だけど、休憩した後どうするかを相談する時に俺の事を知られないようにもしないといけないからね。

 

「もしよろしければ、シクラ様の要望を応えられそうなところがありますが……どうされますか。」


「出来ればお願いしたいですけど。」


「わかりました。では、こちらへ。」 

  

 ベロニカさんに連れられてきたのは、城門からほど近い位置にある酒場だった。

 通りから少し入った所に建っており、観光などで来る人向けではなく地元の人向けの店なのだろう。

 しかし、流石に今日は店はやっていないようで入り口は閉められていたが、ベロニカさんは鍵を取り出し中に入って行く。


「こちらへどうぞ。」


 戸惑う俺達をベロニカさんが手招きして、中に入るように言って来るので少し戸惑いながら中に入る。

 店の中は、二十人程が入れそうな店内だが、今はだれもおらず静まり返っている。

 カウンターの中を覗き込むベロニカさんは、誰も居ない事に肩をすくめるがあまり気にした様子はなくこちらへ戻ってくる。

 

「シクラ様、この辺りにある長椅子を引っ付ければ横になる事も出来ます。それと、鎧等を脱ぐだけでもかなり違いますので、体を休めて下さい。」


「あの……ベロニカさん。この店って……」


「大丈夫ですよ。ここは私の実家になりますので、お気になさらずに。私は少し奥に行ってまいりますので、みなさんはお寛ぎください。」


 流石にここがどんな所か確認しようとしたら、ここはベロニカさんの実家だったようだ。

 流石に全く他人の店の鍵をベロニカさんが持っているとは思っていなかったけど、流石に少しは説明してほしかった。

 

「ま、とりあえず、休憩するか。ボウズも言われた通り、鎧とか外しておけよ。ここなら帯剣も必要ないだろうから、少しでも横になっておくといいぞ。」


 ベロニカさんとトラオウさんに言われた通り、俺は鎧と剣を外して休憩することにした。

 鎧を外し体を動かすと、背中や肩がバキバキと音がした。

 着慣れていない鎧を着ていたのもあるけど、思った以上に疲れが溜まっていたようで無意識に「疲れたー」と言いながら机に突っ伏す形で伸びをしていた。


 トラオウさん達も鎧を外し楽にしていたが、暫くすると奥からベロニカさんと他に二人……恐らく両親と思われる人が、水で濡らした手ぬぐいと木の器に入ったスープを持ってきてくれた。

 男性の方が俺達に手ぬぐいを渡し、女性の方がスープを皆に渡してくれる。


「皆さん、これを食べて少し休んでいてください。戦闘中にあまり味付けの濃いものを食べると胃が受け付けない恐れがありますので、薄味のスープを用意しましたので飲んでください。」


「ありがとうございます。それではいただきましょうか。 」


 手ぬぐいで汗をかいた顔をぬぐってから、あたたかな湯気の立ち上るスープを頂く。

 店で出す為に仕込みをしていたスープだったものだろうか、スープは塩のみの簡単な味付けで刻まれた野菜が入っているだけだが、野菜から出汁でも出ているのか思っていた以上に美味しかった。

 

 スープを飲むまではそこまでおなかが空いていたわけではないが、あたたかなスープが胃まで届くと急激に空腹感を覚え、すぐさまスープを飲み干してしまった。

 スープを飲み終えた俺にお代わりが必要か聞いて来たが、流石に貰うのはやめておいた。

 


「それで、この後どうするんだボウズ。」


 軽く食事を取り、ある程度休憩しているとトラオウさんから声を掛けられる。


「……そうですね。まず、初期の目標は達成しましたけど、魔物の大群はまだ残っていますし、魔物達の全体像も見えていませんから、一度ヒューズさん達に状況を確認しに行ってから決めてもいいかもしれませんね。」


「ま、そうだわな。ただ、俺達はこれからどの程度戦わないといけないか、どういったことをしていかないといけないか、その辺りをはっきりさせる必要はあるな。」


「ちょっといいか。少し気になったことがあるんだが。」


「ハルさんなんでしょう。」


「なぜ魔物達は攻撃する俺達に反撃はしてこなくて、退却するときに襲って来のか。それに、この戦いが始まる前には数多く居た空を飛ぶ魔物達の姿が殆どないのが気になったんだが。」

 

 魔物達はこちらから攻撃をした際は向かってこずに、退却した際には猛烈な勢いでこちらへ向かって襲い掛かっていたことは、俺も少し気になっていた。

 あれは、俺達だったらか切り抜けられたけど、もし普通の騎士団たちが同じような事をしたら、橋も落とせずにあたらしい道を作ってしまっていた可能性がある。

 それに、後ろから魔物達が迫って来ていた時に声を掛けてくれた人も誰か分からないけど、お礼を言っておかないとね。


 そう言えば、始めクイーンビーなど空を飛ぶ魔物が確認されていたが、今は全く見当たらなかったな。

 蜂型の魔物の他にも、鳥の魔物も結構いた様な気がしたんだけど、地面に居る魔物しか気にして居なくてかくにんを怠っていた。


「そうですね、その辺りも一緒に確認しておきましょう。あとベロニカさん。」


「はい、なんでしょうシクラ様。」


 急に話を振られて驚いて体をビクッとさせていた。


「俺達の遊撃はあんな感じで良かったでしょうか。」


「特に問題ないと思います。大型の危険な魔物だけ、遠距離からピンポイントで倒し、かなり援護になったのではないかと思います。」


 ふむふむ、やはりあんな感じで良かったかな。

 まあ、これからもまだまだ多くの魔物達と戦わないといけないと思うから慢心はいけないとは覆うんだけど、結構うまくやれてたよね。


「それなら良かったです。それでは、一旦衛兵本部へ向かいヒューズさん達とこれからの事を相談しに行きましょう。」


「ま、ボウズがそれでいいならいいんじゃないか。」


「トラオウはボウズを試すのが好きだな。俺もそれでいいとおもうぜ。」


「シクラ様の補佐をするのが私の役目ですので、シクラ様の指示に従います。」


「すみません。私は、この後再び前線に戻らないといけませんのでここで失礼しますね。」


「わかりました。ベロニカさん、休憩する場所だけではなく食事まで頂きありがとうございました。また、後でお会いしましょう。」


「シクラ様達もご武運を。」


 休憩を終え、ベロニカさんと別れたあと俺達は衛兵本部へと向かうのであった。


 





更新が少し遅くなり、申し訳ありません。

次回の更新は出来れば来週予定ですが、もしかしたら年明けになってしまうかもしれません。


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