失敗勇者と穴ぼこ大作戦
悪魔の目的は一体何なんだろう。
俺は少し考えを巡らせてみるが、良くわからない。
そもそも、魔物の集団で街を襲う事が目的であれば、あんなにゆっくり行軍させずに一気に押し寄せさせた方が良いだろうし、わざわざこちらに宣戦布告の様な事をする必要はないだろう。
この街を攻め落としたいわけでもなく、人々を殺める事が目的でもない様出しよくわからない。
なぜここにやって来たのか、何が目的でこのような事態は起こしたのかまったくもって理解不能だ。
何らかの理由で、マヤシカの森に住む魔物達がじゃまになり、手間をかけない方法として今の様な方法を取ったのであれば理由としては分からなくもないが……アイリスに聞いてみたが、あの森には特に遺跡やそう言った部類の者も無い様な普通の森だと言う。
考えても良くわからないな……とりあえずは、魔物達を撃退して悪魔に直接聞くしかないか。
まずは、この魔物達をどうにかして撃退することを優先するしかないかな。
by 志倉 十誠
白虎の二人は声に出して驚いており、他の騎士団の人達も顔が引きつっている。
騎士団長二人とベロニカさんは苦笑いをして、アイリスはすまし顔だが口角が少し上がっているように見える。
堀を作るような長い時間があればもっと多くの数を落とす事も出来るが、連続して小さく深い穴をあけるにはそのくらいの数しか出せないだろうな。
大きな穴を一気にあける事も出来るけど、そうなると穴に落ちた魔物の処理とかが後からめんどくさそうなんだよね……それに、埋め戻し作業もある事だしあまり大々的にやると後が大変だ……それでも……。
「一万の魔物の内五百した落とせないし、飛行型の魔物なんて対処できないから、その辺りは騎士団の人に任せるしかないかな。」
「……まあ、ボウズだからそのくらい出来てもおかしくないか。そう言えば、ここに居るのはボウズの事を知っているのか? 」
「俺の事って……ああ、勇者と言う事なら騎士団の人は皆知っていますよ。」
「それなら気にしなくていいな。そう言えば、もし落とし穴じゃなく普通に魔物を倒すだけならどの程度の数がやれそうだ。」
「普通にですか……うーん、広範囲に殲滅するような魔法は一回考えてみないとわからないですし、そもそも俺の魔法が魔物にどの程度効くか分からないので何とも言えないですね。」
悪魔には魔法を撃ったことはあるが、魔物自体に魔法を撃ったことは無いんだよね。
まあ、魔物の方が悪魔より強いってことは無いだろうから、魔法自体は効果はあるんだろうけどどの程度効くかは不明な所ではある。
「ふむ。アイリスの嬢ちゃん、ボウズの魔法はどの程度効果がありそうだ。実際にボウズが魔法を使って悪魔と戦っている所を見たのは嬢ちゃんだけだろ。」
「私が見たシクラ様の魔法ですか……悪魔を両断したあの魔法であれば、魔物を複数体同時討伐は可能でしょう。」
「ああ、あれか。」
アイリスに言われてどんな魔法だったか思い出した。
確か空気に石を混ぜて高速回転させながら打ち出したんだっけ、でもあれって単体なら効果がありそうだけど、あれだけ数が要ると威力がかなり落ちそうだよな。
「どんな魔法だったんだ。」
「細かな石を円盤状に高速回転させて相手を切断する魔法ですね。単体威力は強いですけど、数や硬さによっては殆ど効果は無いかもしれないですよ。」
「シクラ様の使われた魔法は、ウインドカッターの発展形のようですね。できれば後学の為に見せて頂けるとありがたい、と言うか見せてください! 」
「ちょ、ちょっと待ってください。わ、分かりましたから、少し離れてください。」
急に詰め寄って来たコジーラさんに気圧されながら、思い出しながら魔法を構築していく。
と言っても、流石にこの部屋内で発動するには危険なので、窓の外で魔法をはつどうさせる。
「ふおおおおおおおお! これが、勇者様の魔法! シクラ様、これは一体どういった原理で攻撃するのですか? 通常のウインドカッターであれば、空気を回転させ相手にぶつける魔法ですが、これはその魔法とは全く違う魔法のようですね! 風魔法と土魔法の両方を同時に行使して、ウインドカッターに岩を混ぜているようですが、こうすることで威力はどのくらい上がるのでしょうか。何か近くで試せるようなものは……そうです、私が土魔法でシクラ様に魔法に岩をぶつければわかりますね。早速やってみましょう。」
周囲の人がドン引きする中、コジーラさんはしゃべり続けて俺の魔法に自分が作り出した土魔法を衝突させた……コジーラさんの魔法は、何とも言えない不快な音を出しながら俺の魔法に両断されていた。
それと同時に俺の魔法も威力が減衰し消失した。
「シクラ様もう一度、もう一度同じまほ……フガフガフガ。」
「コジーラ、今はそんなことをしている場合でないだろう。この戦いが終わってからにしろ。」
「フガフガフガ。フガフガフガ、フガフガフガフガフガ? 」
俺にもう一度同じ魔法をねだるコジーラさんを、ベロニカさんともう一人の騎士団員で拘束した。
拘束してもなおも暴れるコジーラさんをヒューズさんが宥めるが、なんか戦いが終わったらコジーラさんにまた魔法を見せる羽目になりそうだ。
「ん、んん。とりあえず、シクラ様の魔法が魔物に効果がありそうなのは確認できましたな。他にはどのような魔法がお使いになられるのですか。」
「どのようなって言われても、そこまで魔法を練習したこと無いからどんな魔法が使えるか分からないんだよね。だいたいは、どんな魔法をどのように使いたいか考えれば使えると思いますけど。あまり複雑だだとか、広範囲高火力とかだと詠唱や大量にオドを消費するのでなかなか難しいですね。」
「ただ、そこまでの魔法を使われるとシクラ様の存在が公になってしまう恐れがありますね。ですので、緊急時以外は常識の範囲内での魔法行使をお願いしたいです。」
常識の範囲ってどんなんだよとは思ったけど、あの炸裂魔法が三人がかりと言う事を考慮して威力を落として魔法を使えばいい感じかな。
それに今回は、強めの魔物の間引きの為に落とし穴に落とすくらいなので、そこまで気にする必要はないかもしれないな。
塔の外が騒がしくなってきたので窓から外の様子を見渡すと、魔物達の集団は停止している。
……いや、先頭の中央付近の魔物達はそのまま前進しており、迷路の中に入って行くのが見える。
迷路の中に入った瞬間、魔物達は今までのゆっくりした動きではなく、猛烈な勢いで迷路を駆けていく。
しかも、正しい道順が分かっているのかの様に、迷路の道順を間違えずに駆け抜け、直ぐに防衛陣地までたどり着いてしまった。
城郭に居た騎士団員や衛兵は突然の事にうまく弓を当てることが出来ず、パラパラと迷路の穴へ矢が落ちて行ってしまう。
防衛陣地の騎士団員達は急ぎ魔物達を追いこむ広場の方へ駆け寄り応戦するが、城郭からの援護がうまく働いておらず魔物達の数が凄い勢いで増えて行ってしまっている。
「これは! コジーラ、魔導騎士団に指示を出して援護させろ。騎士団には俺が指示を出しに行く。」
「わかった。それでは……『魔導騎士団長コジーラだ。魔導騎士団員はマジックアロー三連射後、各小隊ごとに既定の作戦通り攻撃を開始せよ。』ベロニカ、シヴァオ、作戦通りに行動を開始せよ。」
魔物達の突然の突撃に対処するため、ヒューズさんは塔から駆け下りて行き、コジーラさんは魔法で魔導騎士団員に指示を出してベロニカさんともう一人と共に塔を降りて行ってしまった。
うん、いやね、緊急時にはまともに行動できるのわかったけど、俺達を置いてけぼりってどうなんだよ。
それに遊撃に出るにも、どうやって門の外に行ったらいいのやら。
「ボウズこれからどうするんだ。俺達を雇ったのはボウズなんだから、その辺りは任せるぞ。」
「遊撃に出るにしてもどこからどう攻めるかとか、その辺りの指示もよろしくな。」
とりあえず状況を整理しよう。
まずは城郭からどのようにして下に降りて魔物達と遭遇するか。
次に、正面から行っても仕方が無いから側面に回り込んで目的の魔物を狙撃でおびき出すか、魔法で行動不能にする。
周囲を魔物達に囲まれない為の対策も必要か……その辺りは魔法でどうにかなるかな。
「アイリス。外に出るには城郭の東、西、南の門からしか出られないんだよね。」
「そうです。その門の所からしか出入りが出来ないようになっていますが、東と西は封鎖されていますので現在出入りは出来ません。南の大門からは出入りは出来ませんが、横にある出入り口からはまだいけるはずです。」
陣地で騎士団員が戦っている間はその出入口は封鎖しないだろうから、出ていくなら今の内か。
「ハルさん、狙撃できる距離はどの程度ですかね。」
「そうだな。仕留めると言う距離であれば、ここから陣地の入り口付近までだな。気を向けさせるだけならもう迷路の先まではいけるな。」
陣地まではここからおよそ二百メートル、迷路の先と言うとここから六百メートルもあるんですが……まじか。
「であれば、一旦門から外に出てどちらかの端から堀を越えましょう。堀を越えたら仮設の高台陣地を作りますので、そこから狙ってもらっても良いですか。」
「それは良いが、どうやってあんなの越えるんだ。ボウズやトラオウならまだしも、俺やアイリスは越えられないんじゃないか? 」
「そこは自分が簡易的な道を作りますので大丈夫ですよ。撤収するときには落としてしまえば問題ないですから。」
「それなら大丈夫か……まあ、とりあえず行くか。」
「それでは先導いたします。」
アイリスを先頭に塔を降りて行き、門の横の通用口へ向かう。
城郭の上にごった返していた人たちは、今は弓やバリスタで魔物の集団へと攻撃を開始している為、内側には人が居なかったためちゃっちゃと降りていく。
通用口の前には騎士団員が待機していたが、俺達の顔を見るとすんなりと外へ出してくれた。
門から出ると、少し離れた所に防衛陣地があり、そこに城郭の上から矢と魔法が降り注いでいる。
たまに爆発などが起きているが、恐らく大量の魔物達の死がいが溜まってしまうため、魔法で堀の中へ落としているのだと思われる。
予想していなかった使い方だけど、よく考えればあれほど大量な魔物が居るのだからスペースが埋まり、対処できなくなる可能性を考慮するのを忘れていたのだが、騎士団がうまく処理をしてくれているようで良かった。
「ボウズ、どちらから回り込むんだ。」
「東側から回り込みましょう。迷路の入り口は西側なので、逆方向から回り込んだほうが良いでしょうからね。」
トラオウさん達が頷き、皆で堀の側まで駆けて行き、魔法で橋を完成させる。
幅二メートル程の小さな橋だけど、少人数で渡るには問題にならないサイズだろう。
橋を渡っている最中も魔物達がこちらへ向かってこない注意をしていたが、どうやらこちらには興味が無いようで向かってくる魔物は居なかった。
橋を渡り切り、ハルさんが狙撃可能なところ付近まで近づくが、魔物達は俺が設置した陣地には攻撃していくが、こちらに寄ってくる様子は無いのでこちらにもぱぱっと陣地を構築する。
地面を五メートル程盛り上げ、魔物達がやってくる正面と側面には絶壁にして壁から水平方向に槍状の岩を付きださせ、反対側には簡易の柵を作っておく。
これで簡易の陣地の作成が完了したが、魔物達はまだやってくる様子は無い。
「大丈夫そうですね。ハルさん、狙撃してもらっていいですか? 」
「あ、ああ。それにしても凄い魔法だな。一瞬でこれを作るなんてな。」
「そうなんですか? 深く考えないでやっちゃってますね。」
「ま、ボウズは勇者なんだからそんなもんだろうさ。この陣地、アルルでも装備が無かったらもうしばらく時間かけないと作れないからな。」
「トラオウの言う通りです。これはあくまでシクラ様が勇者だから可能な魔法なのです。」
そんなもんなのかな?
まあ、今の俺の力は神様からもらったものだからちょっと異常なのわかってはいるんだけど……あまり実感が無いんだよね。
門の前の陣地も、今の所は正常に機能して魔物を食い止めている様だし、こちらもサクサク仕事をしないとね。
「まあいいや。まずは手近な魔物を一体狙撃してみるから、それで様子を見てみるか。」
「そうですね、それでお願いします。トラオウさんはもし敵複数来てしまった時には防衛をお願いします。アイリスは、俺の皆の死角から魔物が来ないか確認してもらっていいかな。」
「あいよ。そのために来てるんだからな。」
「わかしました。シクラ様は何があってもお守りします。」
アイリスは相変わらずの反応だけどまあいっか。
「それじゃあいくぜ。」
ハルさんが弓の弦を引き矢を番えて、魔物に向かって狙いを定める。
弦が金属の様なキンと音を立て、矢を発射する。
矢は高速で一体の魔物へと吸い込まれるように命中し、魔物の額を貫いた。
矢が命中した魔物はその場に倒れ込み、他の魔物達に埋もれて見えなくなってしまったが、恐らく倒したのだろう……しかし魔物達は一向にこちらへ向かってくる様子はなかった。
「これなら集団で襲って来ることはなさそうだな。次は……ここからだとブラッドベアが狙えそうだな。ブラッドベアは一撃で倒すことが出来ないから、こっちに来たらトラオウ、ボウズ頼んだぞ。」
「慎重に狙えよ。ここから見える魔物はあまり強いのは居ない様だから問題ないだろう。」
「大丈夫ですよ。最悪魔法を使って吹き飛ばしますから。」
「シクラ様、あまり派手な魔法はお控えになった方がよろしいのではないでしょうか。」
「たぶん大丈夫だよ。今は兜もかぶっているし、白虎と一緒に居るんだからそのくらい出来る魔法使いが居ても問題なさそうな魔法にしておくからさ。」
アイリスはすこし不満そうな顔をしているが、それ以上言うことなく引き下がった。
白虎にはアルルさんと言う白金クラスの魔法使いも居る事だし、そもそも白虎と一緒に居るんだからそのくらい何とかカバーできるでしょ……知り合いの凄腕の魔法使いを頼んだとかなんとかね。
再びハルさんの矢が魔物に向かって飛んで行き、目標のブラッドベアの眉間に命中した。
しかし、距離が遠いせいかうまく刺さらずに衝撃だけを与えたようだが、ブラッドベアは弓の一撃を気にした様子も無く一団から離れるない。
「流石に頭は無理そうだな……それじゃあこれななら。」
ハルさんは再度同じブラッドベアに向かい矢を打ち出し、今度はブラッドベアの腹部に矢が突き刺さった。
ブオオオオという吠えたブラッドベアは、何故か周りの魔物達を襲いだした。
周りの魔物達は攻撃されると一時的に距離を取るが、再び何事もなかったかのように列に戻りだす。
先ほど暴れていたブラッドベアもしばらくするとおとなしくなり、他の魔物同様に戻って行った。
「なんなんだ。激昂したと思ったら、また元に戻って行ったぞ。トラオウ、何かわかるか? 」
「いや、こんなことは初めてだ。そもそも魔物達が整然と街を襲うのも初めてだが、今回の様な状況はあったことがないな。それにあのブラッドベアは一瞬正気に戻ったが、またあの列に戻ったと言う事は何かしらの魔法で操られているのは確実だろう。」
「どうします? こっちを襲ってこないなら、ちまちま攻撃を繰り返せば数は減らせそうですけど。」
「それをやる前に、ボウズの魔法で危険な魔物達を戦線離脱させよう。削るのはその後からでもいいだろう。脅威のある魔物達を先に処理しておけば、向こうも戦線崩壊することは無いだろうからな。」
トラオウさんは陣地で戦っている騎士団たちの方に目を向け、一瞬で状況把握して作戦を立てる。
今陣地を襲っているような低ランクの魔物ならまだ大丈夫だが、高ランクの魔物達が乱入するようになると陣地が崩壊する可能性があるとの事だ。
「危険な魔物はブラッドベアとキングホーンで良い感じですかね?」
「とりあえずはその二種がかなり危険だ。あの陣地の柵を破壊できるのは、今見える感じだとその二種だけだな。」
ブラッドベアは立ち上がると大きい個体だと四メートルほどになり、元の世界の熊同様にかなり強靭な魔物で、大木をなぎ倒したい投げつけたりもしてくるらしい。
もう一体のキングホーンは体高は三メートルを超え、巨大な角を合わせると更に巨大になる。
その巨大な角は鉄の剣を弾き、生半可な威力の魔法は消し飛ばすほどの力があり、キングホーンも陣地に突撃されたらかなりの被害がでるとの事だ。
「さて、それでは行きますかね。穴ぼこ大作戦! 」
危険な魔物達を陣地に寄せない為に、俺は魔物集団に魔法を放つ。
このくそネーミングは、後々皆からクレームを貰う事になった。
いつも読んで頂きありがとうございます。
さてこの章もクライマックスになってきました。
次回からは戦闘メインになって行きますので、アイリス達とのいちゃいちゃは当分お預けになります。
次回も月曜日更新になります。




