失敗勇者と白虎
元仲間のスターの様子を見るために教会に来ていたら、シクラのボウズがやって来た。
まあ、ボウズと言ってはいるが経験不足な所があるから呼んでいるだけで、一対一では全くかなわないだろうけどね。
そろそろ、ボウズじゃなくてシクラと呼ぼうか考えておかないとな……流石に勇者に向かってボウズはどうかと思うし。
ま、俺達に頼みがあるって言ってきたからこの状況下では大体予想はしていたが、その中でもかなり楽勝な部類の頼みだな。
ボウズに護衛が必要なのかと思っていたが、今回の事件の裏には悪魔が絡んでいる様だから、実際は悪魔との戦闘になった際の護衛っぽい感じだな。
前回はボウズの訓練のために装備を騎士団の借り物にしていたからいけなかったが、本気の俺達の装備なら前回の下級悪魔程度に後れを取ることは無いだろう。
トラオウも、何が身内の護衛があるだ、本心はようやく恩が返せると思っているくせによ。
それにしてもミモザよ、お前の腕を治す魔道具を買えたのはボウズのおかげなのにお前が行かないっていうのはどうなんだよ……まあいいけどさ。
by 白虎 ハルレクター
ハルさんが道具袋から皆の分の装備を取り出し、白虎の人達は装備を整えていく。
白虎の人達の装備は、先日マヤシカの森に行った時の様な革せいではなく金属製の装備をしている。
恐らくこれが本来の白虎の人達の装備なのだろう。
ハルさんは銀色に輝く薄手の服のような物を着こみ、その上に胸当てと腕と足に鎧を付けて腰に剣と赤い弓を装備している。
ミモザさんもハルさんと同様の薄手の服に、鈍い銀色のフルプレートメイルを着こみ腰には脇差くらいの件を二本据えている。
アルルさんは、マントの下に薄手の服とブレストプレート、手にはアルルさんと同じくらいの大きさの真っ黒な杖で、先端には深紅の水晶のような物が付いている。
そして一番驚いたのがトラオウさんだ。
そもそも姿がいつもとは全く違い、いつものもふもふした毛並みが消え去り、耳と尻尾が見えなければ普通の人種と見間違えてしまいそうな見た目だ……体の大きさは相変わらず大きいので、歴戦のゴリマッチョ重戦士の様な風貌になっている。
装備自体はミモザさんと同じようなの防具と、巨大で剣を背中に背負っている。
女性陣は装備に細かい細工などがなされているが、男性陣はそういった者が殆どない。
唯一装飾されているのは、左肩に書かれた紋章のような物は全員付いている。
「お、そう言えばボウズにこの格好を見せるのは初めてだな。これが本来の俺達の装備だ。」
俺が白虎の人達の装備を眺めていると、トラオウさんはそう言いながら装備について教えてくれた……まあ、一番驚いているのはトラオウさんの姿なんだけどね。
みんなが着ている薄手の服は、ブレイクツリーと言う魔物の素材でできた服で、ミスリル並みの防刃性に耐魔法防御も高いかなり優秀な防具との事。
このブレイクツリーはかなり厄介な魔物だそうで、最低もミスリル製の武器出ないと傷もつけられない魔物で、強い衝撃が加わると硬化する性質があるそうだ。
魔法は超越魔法クラスでないと効かないが、特殊な魔法を使用すると硬化していてもダメージが通るようになるんだとか。
ハルさんとアルルさんの装備はミスリル製だが、トラオウさん達の鎧と武器はあの有名なアダマンタイトでできており、防御力は折り紙付きなんだとか。
ハルさんの弓はヒヒイロカネ製で、軽くて協力な一撃が放てる一品とのこと。
そして、アルルさんの杖は古龍の角を削り出した国宝クラスの一品で、魔法収束やマナを広範囲から集めることが出来、火炎系の魔法を使うと更に威力が上がり敵を焼き尽くすんだとか。
「それでは行きましょうか。シュレルさん場所をお貸し頂きありがとうございます。」
「え、は、はい……シクラ様にセクメトリー様の加護があらん事を。」
トラオウさん達を促し部屋を出る際に、シュレルさんに話しかけるとそう言ってくれたが……俺、勇者なのでセクメトリー様の加護貰ってるんだけど……と思いながら部屋を出る。
「それじゃ、あいつの事を頼んだぞ。」
「トラオウこそ、シクラの事をしっかり守りなさいよ。」
「アルル、俺にハグしちゃってもいいんだ……ゲフ。」
「馬鹿な事言ってないで、さっさと魔物たちを片付けて来なさい。」
トラオウさんとミモザさんはお互いの拳を合わせ冒険者っぽくしているのに、ハルさんはアルルさんに冗談を言って杖で腹を突かれうずくまる。
アルルさん「ふん」と言いながらそっぽを向き、他の二人はやれやれといった感じでハルさんを見ていた。
これから魔物の大群と戦いに行くというのに、白虎のみんなは特に気負った様子は見られなかった。
白虎の皆に感心しながらホールのようになっている所に出ると、避難している人たちが白虎の人たちの装備を見てギョっとした表情をして距離をとり、そこかしこからざわめきが沸き起こる。
皆は顔を見合わせて肩をすくめるが、見つめる人々からは怯えが見て取れる。
「え、なに。この騒ぎはどうしたの? って、みんなそんな恰好をしてどうしたの? 」
「……可愛い。」
騒ぎを聞きつけてやってきたのは、体長百二十センチほどのゴールデンハムスターだった!
白虎の人達と知り合いのようだけど、こんな可愛い物体と知り合いとか羨ましい。
子供位の大きさで二足歩行して、整えられて柔らかそうな毛並みにつぶらな瞳……これを可愛いと言わず何という!
話している言葉は、少し舌ったらずの様な感じで聞き取り辛いが、そこがなお可愛い。
触ってみたくて、手をワキワキさせないようにするのが結構大変だ。
「あらスターちゃん、騒がせてごめんなさいね。今からトラオウとハルがそこに居る私の恩人でもあるシクラと、魔物達の討伐に参加するところなのよ。」
「この人がそうなんですか。初めましてシクラさん、僕の恩人を助けてくれてありがとう。」
「あ、はい……じゃなくて、初めましてスターさん。自分はそこまで大層な事はしていませんよ。それに、白虎の人達にはいつも色々助けて頂いていて、とても感謝しています。」
はぁ……ちっさな体でお辞儀をしてきてめちゃ可愛い。
これが人だかりの出来る原因か、この可愛さならそれもうなずけるな。
「それにしても、何でミモザやアルルも装備付けてるの。」
「ハルが行っちゃったら私たちの装備を出せなくなっちゃうでしょ。置いておくのも問題があるから、とりあえず装備しちゃえってね。」
「うーん。でも物騒だからできればローブか何かで隠しておいて欲しいな。皆もびっくりしちゃってるからさ。」
「そうね、わかったわ。そう言う事だからハル、何か良さそうなものだしておいて。」
「へいへい、わかりましたよ。」
「返事は一回にしないさい。スターがまねしたらどうするの。」
アルルさんに小突かれながら、ミモザさんの装備が隠せそうなローブを取り出して渡す。
アルルさんは、マントの前を閉じて鎧を隠したようだ。
ミモザさんたちに見送られて教会を後にするが……広場に出た際に再び同様のことが起こり、衛兵の人に怒られた。
教会を後にし、俺たちは駆けながら城郭へと向かっていた。
この中で一番足が遅いアイリスにあわせて走っているのだが、よくよく考えると常識外の速度で走っているのである。
移動途中に騎乗して駆けている騎士団の人が居たが、それを土煙を上げながら自動車並の速度で追い越していった。
今まで屋根の上とかを飛んでいたから忘れていたけど、これって日常で走ったら大迷惑になるな……まあ、今は非常時で人もほとんど居ないからいい気もするけどね。
城郭に着いたとき、アイリスはかなり疲労して居たので体力回復の魔法をかけてあげたが、他の二人は疲れた様子は無くピンピンしていた。
俺も別段疲れていなかったので、騎士団の人に言って飲み物をもらい皆に渡した。
ついでに、今の戦況の確認もしておいた。
「それでボウズ。俺たちは何をしたらいいんだ? 」
「一応ヒエン卿からは遊撃をしてほしいということだったので、今の状況を確認したんですが……まだ戦闘は始まっていないみたいなんですよね。」
「どういうことだ? 」
「何故か魔物達はゆっくりと進軍してきているようで、まだ罠の迷路までたどり着いていないみたいなんですよ。」
状況がわからず白虎の二人は頭をかしげている。
俺もさっき騎士団員に聞いたときになぜ? と思ったけど、悪魔が後にいるのでわざと進軍を遅くして威圧でもしているのかと思っている。
「とりあえずここでは状況がわからないので、上に登って確認しましょう。」
二人がうなずくのを確認して、城郭を登っていく。
城郭の上は相変わらず人がごった返しているが、人と人の隙間から魔物たちがいる方向に視線を向けると、ゆっくり歩いてきているのがわかる。
飛行型の魔物達は全体の中ほどの位置にいて、ゆっくりホバリングでもしているかのように見えるほど、徐々に徐々に進んできている。
まだ距離があるが、城郭の上にいる人たちからは緊張した雰囲気が漂っており、ただここにいるだけでも疲れてしまいそうだったので、悪魔と遭遇した塔まで移動して話をすることにした。
塔の入り口の騎士団員に挨拶をして中に入れてもらい、階段を登って部屋の扉を開けて中に入る。
部屋の中には六人ほどの騎士団の人たちがいるが、その中の三人はこれまでも何度かあっている両騎士団長のヒューズさんとコジーラさんと、魔導騎士団副団長のベロニカさんだ。
後の三人も騎士団員のようだが、装備から鑑みるにベロニカさんと同じような立場の騎士団員だと思う。
「おや? そこに居るのはシクラ様達と白虎の人達かな? 」
「コジーラさんお邪魔します。俺の護衛として来てもらった、トラオウさんとハルレクターさんです。」
「久方ぶりだな白虎よ。相変わらずお前たちは面倒な所に顔を出すな。」
「ま、そう言う星回りなんだろう。で、今の状況はどうなっているんだ。」
ヒューズさんが現在の詳細な状況を説明してくれる。
現在、魔物達は人が歩く程度の速度で徐々に距離を詰めて来ているとの事だ。
時々、迷路上空付近を小型の飛行できる魔物が飛んでくるが、弓の射程には入らないギリギリのところで引き返していくそうだ。
現在確認できている魔物達は、皆マヤシカの森に生息している魔物との事なので、そこまで状況は悪くないがブラッドウルフやクイーンビーなどのかなり強めの魔物が相当数いるそうで、騎士団と衛兵だけでは苦戦するだろうとの事だった……まあ、苦戦するだけで負けることは無いらしいが。
ただ、森の奥地に住む魔物達も少数ではあるが確認されているとの事で、その魔物達の掃討が俺の主任務になるそうだ。
奥地に住む魔物はマナが豊富なため強い個体が多いらしく、ブラッドベアと言う熊の様な魔物やキングホーンと言う鹿の魔物がかなり危険だと言う。
ただし、この強力な魔物達は素材としてもかなり有用との事で、形のある状態で回収すればかなりの金額になるとの事なので、出来る限り頑張ろうと思う。
「魔物がゆっくりと来ているせいで衛兵達はかなり動揺しているが、そのおかげで周囲のマナも回復してきている。このペースだと陣地に到達するころには魔導騎士団からの援護も期待できるだろうから、取りこぼしや迂回してくる魔物達の掃討をシクラ様にお願いしたい。」
「わかりました。トラオウさん、強めの魔物をあの一団から引きずり出す方法は何かありますか。」
「まあやってみないとわからないが、遠距離からハルが狙撃をして注意をこちらへ向けさせれば行ける気もするが……この不気味なほど整然とにじり寄ってくる魔物達に効果があるはわからなんな。」
「とりあえずはそれを試してみましょう。ダメならダメでその時には、俺が魔法で周囲事隔離してみます。ただ、そこまで精密には出来ないと思うので、他の魔物達も寄ってきてしまうと思うので気を付けないといけないですね。」
「どうやって隔離するんだい。」
「えっとですね、その窓から見える堀と同じような穴を魔物の周りに空けて、こちらへ来る道だけで残す感じですかね。穴に落とすと面倒なので、周囲の魔物ごと囲う事になってしまいますが。」
俺の説明を聞いてトラオウさんとハルさんは首を傾げる。
今の説明では状況を把握できてないのか?
「ハルさんの攻撃でこちらに来なければ試しますので、見て貰えれば大体わかると思いますよ。」
「いやなボウズ、それって……そのまま穴に落とした方が早くないか? 」
「え。どういうことです? 」
「強力な魔物を倒すのは騎士団に被害が出ないようにする為だよな。ボウズの魔法があれば、穴に落として隔離することが可能って事だろ? だったら始めから戦闘するんじゃなくて、戦闘不能にした方が早いんじゃないかってことだよ。」
「そっか。わざわざ倒さなくても良いのか。」
ハルさんの説明でようやくわかった。
俺が落とし穴の要領で強力な魔物の足元に穴をあけ、這い上がってこない様にしておけば今の段階で戦闘する必要は全くないって事だ。
戦わなければいけないと言う先入観があったから、そんな方法なんて思いつかなかったよ。
「それで、どのくらいの魔物を隔離できそうだ? 」
「うーん。そうですね。オドの残量を気にしないで、そこら中穴だらけにして良いのであれば……五百体くらいはいけると思いますよ。」
「「はあ!? なんだそりゃ! 」」
白虎の二人の大声が部屋の中にこだました。
いつも読んで頂きありがとうございます。
新しい家族が増えて、なかなか忙しいですが何とか更新出来てほっとして居ます。
次回も月曜日更新となりますので、今後ともよろしくお願いします。




