失敗勇者と交渉
予定より遠距離の所まで魔法が届いたのは驚きましたが、威力は想定内で問題ないですね。
マウシル様より頂いた勅命の勇者の実力の確認に魔物達を使いましたが、あまりにも弱くあまりあてにならないかもしれませんね。
まあ、この国の兵士たちでもギリギリ殲滅できるであろう数しか連れて来ていませんし、あまり被害を大きくしたら神々が何をするか分からないですから、ある程度調整は必要でしょう。
それにしても稚拙な魔法だ。土煙で相手の姿が見えなくなるどころか、無駄に魔力を消費してこちらは一撃目しか効いていない事にも気付きもしない。
やはり勇者以外の人間にはあのこと以外では、あまり価値を見出せませんね。
とりあえずは仕事を致しましょう、勇者の実力の確認と言う簡単なお仕事を。
ヒエンさんと別れた後、俺達は陽光宿へ向かった。
目的はもちろん白虎の皆に協力を要請するためだ。
時間的猶予も少ない事もあり、再びアイリスを抱きかかえ屋根の上を跳びながら移動していく。
屋根を跳びながら街の様子を少し見てみたが、大通りは閑散としており露店はおろか人が全くいなかった、
たまに人を見かけることがあっても、騎士団員か衛兵のどちらかだった。
「誰も居ないね。」
「皆家に閉じこもっているか教会に避難していると思います。」
「教会か……。」
街の中央にある教会に視線を向けると、門が閉ざされていた。
教会は夜を除き門が解放されているが、今は横の通用口が解放されているだけのようだ。
その通用口の奥には人が大勢いて、人垣の向こう側には誰かがいるようでその人の周りに集まっている様だ。
たぶんシュレルさんなどの教会関係者が皆を宥めたりしているのだろう。
そんな光景を眺めながら目的にの陽光宿の前に着地する。
その周辺にも閑散としており、先日の行列が影も形も無かった。
アイリスを下ろして陽光宿に入ろうとするが、扉に鍵がされているのか開かなかった。
「やっぱり宿は締めちゃってるのかな。すみません、どなたかいらっしゃいませんか。」
ノックをしながら叫ぶと、暫くすると奥の方からバタバタと足音がして扉が開く。
「誰かと思ったら、先日のお貴族様じゃないですか。いったいこんな時にどのような御用で。」
「先日はどうもありがとうございました。今日は白虎の皆さんに用がありまして、皆さんはいらっしゃいますか。」
一瞬貴族じゃないと否定しようとしたが、今は一応貴族(仮)だったのを思い出して言わないでおく。
「白虎の奴らならまだ部屋を借りてはいるが、今は出かけているぞ。確か、あの子の所に行くって言ってたな。」
「あの子ですか? 」
前にもどこかでそんな話を聞いた覚えがあるな。
確か初めてトラオウさん達と会った時に、ハルさんとアルルさんが会いに行ってたのがあの子って言ってたよな。
「おう。元々は白虎の連中が保護した子供だったんだが、今は衛兵をやっていたはずだぜ。今だと人だかりが出来ている所に居るんじゃないか? 」
「どんな人かわかりせんかね。」
「確か……色ネズミ族の青年だったはずだが。愛嬌のある顔ともふもふの毛並みで皆を和ませられるから、衛兵でも揉め事に良く駆り出されてた記憶があるな。腕っぷしは弱いけど、場を抑えるにはうってつけの人物ってことで採用されたはずだからな。」
色ネズミ族? 今まであったことのない獣人種だな。
もしかして、ハムスターの様な外見でもしているのかな。
「確か名前は……そうだ、スターだ。スター=シクラって名前だったはずだ。」
「……っ。」
「え、シクラ……ですか? 」
宿屋の親父さんが色ネズミ族の青年の名前を言った瞬間に、アイリスが小さく何かつぶやいたみたいだが、そんなことより俺の苗字と同じシクラと言う名前なのがびっくりだ。
珍しい苗字だと思うのだが、過去に何十人も勇者が召喚されているのであれば同じ苗字の人が居てもおかしくは無いか。
「そうだぜ。確か昔は苗字は無かったはずだけど、誰かに貰ってその名前を名乗っているはずだ。詳しい事は忘れちまったな。ま、とりあえず人だかりが出来ている所に行けばだいたいいると思うから、探していればすぐにみつかるとおもうぜ。」
「ありがとうございます。また、来るときには新しいレシピを持ってきますね。」
「おう、またよろしく頼むわ。」
宿屋の親父さんと別れ、スターさんと言う色ネズミ族の青年を探すことにした。
衛兵をしているのだから前線に居るかもしれないけど、聞いた話だと前線と言うよりも人が多い所で暴動などが起きないようにする為に配置されてそうだな。
「スターさんと言う人が良そうな場所はわかるかい。」
「……」
「アイリス? 」
「え、あ、な、なんでございましょうかシクラ様。」
返答がないので振り返ると、アイリスは何か考え事をしているのかぼーっとしているように見える。
俺が声をかけると、あまり見ない驚いた顔をして反応をするが、いつもと何か違う気がする。
「いや、スターさんっていう人が良そうな場所を聞きたかったんだけど……どこか体調が悪いのか? 」
「大丈夫です……少し考え事をしてまして。」
「大丈夫ならいいけど。アイリスも睡眠殆どっていないんだから、つらかったら早めに行ってね。」
「畏まりました。」
彼女も俺と一緒に昨日は深夜から作業していたから疲れが出ているのだろう。
一回どこかでアイリスだけでも休ませたいけど、無理して付いてきそうだよな。
「えーと。スターの居場所ですよね。恐らく教会か騎士団駐屯地もしくは王城のどれかに居ると思われます。」
「その三か所って何か意味があるのかい? 」
「この三か所は避難場所になっております……が、恐らく王城ではなく、騎士団か教会でしょう。王城は貴族の避難所になりますので、そこに配置される可能性は低いかと。」
なるほど、何かあった際の避難所になっているのか……まあ、教会は何となくわかる気もするけど。
ここから近いのは、教会が一番近いな……次に近いのは騎士団だから、教会を先に行っていなかったら騎士団に向かおう。
「とりあえずは、最寄りの教会に行こうか。そこに衛兵の人が居たら、スターさんの居場所を聞けばいいしね。」
「……そうですね。」
歯切れの悪そうなアイリスに首を傾げながら、先程通り過ぎた教会へと向かう。
門が閉められている為横の通用口に向かうと、入り口には衛兵二人が門番をしている。
衛兵の人にスターさんがいるか確認した所、そこの人垣の中に居ると教えてくれた。
「きゃー!! スターちゃん! こっち向いてー! 」
「次は私がモフモフするのー!」
「違う僕だもん! ねえスター次は僕だよね! 」
「み、みんな、危ないから押さないで。小さな子達も居るんだからね。」
「スターちゃんに叱られちゃったわ! 困った顔も可愛いわ~。」
教会の敷地に入ると、女性や子供たちの歓声と困ったような声が聞こえてくる。
魔物の軍団が襲ってきているような状況だが、ここだけはどこかのアイドルグループの会場の様な騒ぎになっていた。
「凄い人だね。」
「スターは子供や女性に大人気ですから。」
「んー。でも、この人の多さでは流石に見えないね。」
スターさんがどんな人か見てみたかったが、人垣で見えずこの集団に割り込む勇気は無いのであきらめることにした。
まあ、さっきみたいにジャンプしたら見えるんだろうけど、騒ぎになると面倒なので自重することにした。
「スターさんは見れないけど、ここに白虎の人達は来ているのかな? 」
「恐らく来ていると思われます。スターの事は、ミモザとアルルがとても大事にしていましたし、トラオウとハルにとっては弟子みたいなものですから。」
白虎の人達が保護した子供って事だったから、この騒ぎなら心配して見に来ているって感じかな。
それはともかくとして、白虎の人達を探そうと周りを見渡すと、見慣れた大きな白黒の毛並みを見つけた。
「トラオウさんこんにちは。」
「オウ! ボウズじゃないか。こんな日にこんな所で油売っていていいのか? 」
「あんまりよくないですね。ちょっと白虎の人達にお願いしたいことがありまして。」
「まあ何となく理由は分かるが、とりあえず場所を変えるか。ちょっとまってな。」
トラオウさんはそう言うと人混みに入って行き、他の白虎のメンバーを連れて戻って来た。
白虎の人達に挨拶をして一緒に教会の中に入ると、中も人でごった返していた。
集まっている人たちは、広間の様なスペースに敷物を敷いて思い思いに過ごしているように見える。
避難している人たちを避けて奥の扉の方へ向かい、トラオウさんは入り口に居るシスターに話しかけると、シスターが中に入り暫くするとシュレルさんが出て来た。
「司祭殿、少し部屋を借りたいのだけどいいかな。」
「今はあまり中に人を入れてはいない……なるほど。」
「シュレルさんご無沙汰しております。」
「シクラ様、お体はもう大丈夫ですか?」
「本調子ではないですが、体はもう大丈夫ですよ。」
「それはようございました。それでは皆様こちらへどうぞ。」
トラオウさんがクイクイと俺が居ることをシュレルさんに知らせると、簡単に挨拶をして部屋を借りることが出来た。
シュレルさんは部屋に行く途中、教会の人にすれ違うたびに何か指示をしながら進んでいく。
今の教会は市民の避難所になっている為、かなり忙しいのだろう。
申し訳なく思いついて行った先は、セクメトリー様の拝謁をした後話をした部屋だった。
俺とトラオウさんだけ席に着いた。
アイリスは俺の後ろに立ち、ハルさんは壁にもたれるようにしている。
ミモザさんとアルルさんは、トラオウさんの後ろに立ち何か少しそわそわしている様にも見える。
そして、何故かシュレルさんも室内に留まっているが、アイリスや白虎の人達が何も言わない事からもしかしたら、教会の部屋を借りるのは何かルールがあるのかもしれない。
「それでボウズ、一応用件を聞いておこうか。」
「皆さんは今の状況をどの程度ご存知ですか。」
「そうだな。魔物の大群にこの街が包囲されつつあるってことぐらいは知っているが、俺達は騎士団じゃないから詳しくは知らんな。」
「そうですか。一応確認しておきますが、今から話すことは内密にお願いします。」
「安心しな、冒険者は依頼者の情報を漏らしたりしない。」
「ええ、私もセクメトリー様に誓って話を一切漏らさないことをお約束します。」
今から話すことがもし避難している人たちの耳に入ったら、色々問題がありそうだと思い皆に刺しておくが、始めから誰も話すつもりは無い様だった。
「魔物の大群が街を包囲しているのは変わりませんが、その魔物達を連れて来たのは悪魔のようなのです。」
「また悪魔か。ボウズは悪魔にでも好かれているのか。」
「あんなのに好かれたくなんてないですよ。この間だって、ボロボロになってようやく回復してきたところなんですから。」
白虎の人達は苦笑いをしていたが、シュレルさんは表情が引き攣っているように見えるが、話に口を挟むつもりはないみたいだ。
「それで、今回のお願いと言うのはなんなんだ。」
「ええ。これから自分は遊撃として戦場に向かうのですが、その際に白虎の皆さんに一緒に戦っていただけないかと思いまして。」
「一緒にて言うと、ボウズと一緒に他の兵士たちに交じって戦うって事か? 」
「と言うよりも、自分と一緒に危なそうなところに援軍に向かう感じですかね。騎士団の方でも俺自身の力がどの程度なのか分からないので、どのように配置していいか分からない様子なんですよ。」
俺自身、剣を振る分には良いけど魔法を使うとどんな事になるか良くわかっていないんだよね。
イメージしたら魔法は使えるし威力も何となくわかるんだけど、先日使ったアンリミテッドライトニングみたいに急に詠唱が入ったりした場合、アイリスだけでは対処できないし騎士団員達も急には動けないだろう。
だからこそ、臨機応変に対応が可能な冒険者を護衛として付けるのは理にかなってる気がしたし、実力も最高ランクの白虎に護衛を頼みたいのだ。
「ま、ボウズにはミモザの件で借りがあるから力を貸してやりたい気持ちもあるんだが……ちょっと身内の護衛もしないといけなくてな……お前たちはどう思う。」
「ん、ボウズに手を貸すのは良いと思うぜ。ただ、全員で行くんじゃなくて護衛は二人で良いんじゃないか。」
「私もハルに賛成。私はあの子が心配だから残りたいけど、シクラを手伝ってあげたい気持ちもあるのよね。でもバランスを考えたら、トラオウとハルが行くのが良いかしらね。」
「そうね。前衛のトラオウとどちらも出来るハルが適任だと思う、今の状況を考えると戦場はマナがなくて魔法が使えないから役に立たない。」
白虎の皆の意見は、全員ではなく半分なら護衛に出ても良いと言ってくれている。
ミモザさんの言う通り、トラオウさんとハルさんに来てもらうのが現実的な解決策かな。
「と、言う事だが。ボウズ、俺とハルが護衛で良いっていうならその依頼を受けよう。料金は規定の護衛代金で問題ないか? 」
「皆さんありがとうございます。既定の金額なら問題ないとの事でしたので、もし足りないようでしたら少ないですが自分も上乗せさせてもらいます。」
「上乗せ分はいらねぇよ。この間のマヤシカの件で、騎士団から悪魔討伐援護報酬としてたっぷり貰ってあるからな。」
トラオウさんはガハハと笑いながら、俺の護衛依頼を受けてくれた。
それにしても、マヤシカの悪魔討伐で白虎が追加報酬をもらっているとは思わなかった。
ヒューズさんには折を見て、感謝の言葉を伝えておこう。
「ま、それじゃあ行くとするか。ミモザ、アルル、スターの事は頼んだぞ。」
「あなたに言われなくても弟子の面倒は見るつもりです。」
「あの子の事は私たちに任せておいてね。」
「ハル、道具袋から装備を出してくれ。装備を整えたら出発する。」
ハルさんはポーチから小さな袋を取り出し、そこから皆の分の装備品を取り出して渡していく。
俺はこの世界にもゲームの様なアイテムボックスがある事に少し驚いたが、まあ異世界物では良くある話だからねと思いあまり気にしなかった……ただ、少し羨ましい。
後で、アイリスにでもこういった魔道具が他にもあったりするのか確認しておこう。
いつも読んで頂きありがとうございます。
私事で少しバタバタしておりますが、次回も月曜日に投稿予定になります。




