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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
一章

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34/220

失敗勇者と開戦

 あの時は、我が魔導騎士団の魔法が魔物達を蹴散らしているものと思っていた。

 数人掛かりで発動させる長距離魔法は、命中精度はあまり良くないが広範囲への衝撃で魔物達を粉砕するために私が作り出した魔法だ。

 勇者様の魔法を参考にして作ったが、今回の様な大規模な戦闘でしか使用できないのが困りどころだな。

 それに、空間上のマナを馬鹿食いするおかげで他の魔法が不安定になったり、マナ不足になったりと弊害が大きい。

 勇者様の様な強大なオドがあれば、広範囲から少量ずつマナを集めることが出来るのだが、私や副団長など優秀な魔導士を集めても勇者様一人に太刀打ちできない。

 しかも、強大なオドを持つ人に限って騎士や冒険者になる物が多いので、魔導騎士団に優秀な人材が入ってこない事も問題だな。

 ふむ、やはりこの魔法は素晴らしい、芸術的ともいえる炸裂音に衝撃波……やはり魔法は素晴らしい。

 未完成の悪魔討伐魔法の開発に、この戦が終わったらシクラ様を何とか引きずり込まなくてはな。


by魔導騎士団団長 コジーラ






 悪魔が話しかけてきた瞬間に体が鉛のように重くなり、全身の鳥肌が立って背中に冷たいものが流れる。

 前回の悪魔も強敵ではあったが、この悪魔は格の違う重圧を放っている。


 金属が擦れる様な音が周りから聞こえたので視線だけをそちらに向けると、ヒエンさんの護衛達が震えて鎧が擦れる音のようだ。

 室内の他の人にも視線を向けるが、ヒューズさんやコジーラさんですら微かに震えていた。

 俺の後ろからは剣の留め具を外す音が聞こえたから、アイリスはこの重圧に耐えれているのだろう。


「げ、ゲームだと。」


「そう、ゲームだ。そちら側は魔物達を倒したら勝ち。こっちはこの街の住人達を倒したら勝ち。簡単で簡潔ルールだろ。」


「な、何故そんなことを……いや、悪魔に問うても意味は無いか。」


「こんなことは暇つぶしですね……ふむ。お前は私を前にしても会話が出来るとは……なるほど、勇者の血か。」


 ヒエンさんが震えた声で悪魔に問い、悪魔はこのゲームのルールをこちらに説明する。

 そして、ヒエンさんがこの状況下で悪魔と会話できるのは、悪魔が言うには勇者の血が入っているとの事だが、この国なら結構な割合で勇者の血が混じっている気もしない事も無いが……濃さの問題かな?


 魔物達の襲撃は、この悪魔が引き起こしたと言う事のようだが、なぜこんな事をしたのかまでは話す気は無い様だ。

 本気で暇つぶしの気がしないでもないのが怖い所だけど。


「その条件にお前は入っているのか。」


「……なるほど。私を倒せば魔物達の誘導は無くなりますね。ただ、操っている者がいなくなった魔物がどのような行動をするかは……あなた方なら良くお分かりかと。」


 やっぱり駄目か。

 悪魔を倒した所で、魔物達は森に帰って行くわけではなく、枷を外すだけだから結局のところ人が多いこの場所をそのまま襲う事になるのだろう。 


「それでは、挨拶も済んだことですし始めると致しましょう。存分に私を楽しませてくださいね。」


 悪魔はそう言い残して、高速で魔物集団の上まで飛んでいく。


 悪魔が離れていくと、皆重圧から解放されたのか殆どの人がへたり込んでします。

 立っているのは、俺とアイリス、それにヒエンさんだけだった。


「……あれがネームド悪魔か。目の前にいるだけで何もできなくなるとは。」


「マナ枯渇状態になって居なければ、魔法の一つも叩き込んでやったものを。」


「コジーラよ、虚勢はよせ。あれは我々でどうにかできるレベルの相手ではない。あの悪魔の前に立っていられるのは、勇者の血を色濃く受け継ぐものか修羅場をくぐっている上位冒険者だけだろう。」


「今はそんなことを話している場合ではない。魔物の集団が向かっているのきているはずだから、まずは状況を確認を……っな! 」


「あ……な……ば、馬鹿な。」


 ヒューズさんは口を半開きにながら小さく呟く。

 コジーラさんに至っては、顎が外れたように口を大きく開き驚愕した表情で魔物集団を凝視している。

 ヒエンさんの言葉に二人は晴れている土煙の方へ視線を向け……あれ、固まった。


 二人の視線の先には、先ほどの魔導騎士団員達が行った魔法によりできた、隕石がいくつも落下したかのように陥没した大地。

 そしてその先には、大地を黒く染めるほどの魔物の軍団。

 上空にも靄の様な物が見えるが、恐らくあれは飛行型の魔物達だろう。


 城郭の上で観戦していた騎士団員や衛兵も、この状況を見て誰もが驚愕し恐怖で表情を強張らせる。


 どこからか、カランと何かが落ちる音がした……恐らく誰かが武器を落とした音。

 その音がきっかけになり、ある者は頭を抱えて屈みこみ、ある者はこの城郭から逃げ出そうとした。

 このままでは戦闘が始まる前から戦線が崩壊し、魔物達に蹂躙されるだろう。


「皆の者、狼狽えるな! 我が国は、過去何度も悪魔達に攻められたが落とされたことは一度もない! 騎士団よ、衛兵達よ、我らには勇者様の加護もある。我らが国を守り抜くぞ! 」


「「「う、うぉおおお」」」


 暴走寸前の恐慌状態を留めたのは、ヒエンさんだった。

 ヒエンさんの演説に、兵士たちは士気をある程度取り戻せたようだ。

 両騎士団長も平静を取り戻し、取り乱してしまっていたことを恥じている様子だ。


「ヒューズ、コジーラ。後は任せる。」


「 はっ! 指揮はお任せください。」


「マナが回復次第、魔導騎士団も攻撃を再開いたします。」


「シクラ様、カタギリ嬢。少しよろしいでしょうか。」


「わかりました。」


 ヒューズさんとコジーラさんは即座に騎士団と衛兵の掌握を始め、防衛陣地や城郭の部隊に向かって指示を出していく。

 俺とアイリスはヒエンさんについて行き、先程の衛兵本部まで戻って来た。

 本部に入るとヒエンさんは先ほど会議をしていた部屋をノックして入室していったので、俺達も続いて入室する。

 先ほど皆退出していったので誰もおらず、ヒエンさんに勧められるまま席に着く。


「単刀直入にお聞きします。シクラ様、此度の戦は勝てると思われますか。」


「え、それは一体どういう事ですか。」


 席に着くなりヒエンさんに問いかけられ、少し戸惑う。

 いきなり今回の戦いに勝てるかと言われても、まだ本格的な戦闘は始まっていないので何とも言えない気がする。

 それに、魔法の援護が消えたとはいえ、城郭からの攻撃や陣地からの攻撃も出来るので、勝つか負けるかは判断しかねるところだな……ただ……。


「現状、まだ戦闘が始まっているわけではないので分からないですね。但し、悪魔の介入がどの程度行われるか次第で、今後どうなるか分からないですね。」


「カタギリ嬢はどう思う。」


 俺の問いに頷き、アイリスにも問いかける。

 アイリスは「そうですね」と言って、少し考えている。


「シクラ様のお作りになった足止めは悪魔が回避させてしまうと思いますが、防衛陣地で一度で戦う数は絞られたままですのでそこは有効かと思います。ただ、常時魔物との戦闘になると思われますので、陣地の人員はかなり消耗するかと。それに、もし陣地が突破されればそこに居る人員は逃げ道がありませんので……」


 アイリスが話し終えた所で外から雄たけびの様な声が聞こえて来た。


「悪魔が動き出したか。アイリス嬢の言う通り、魔法で魔物の数が減らせなかった以上防衛陣地の苦戦は必然。そして、陣地が突破されれば城郭からの攻撃しか出来ず、籠城戦になれば一時的に被害は抑えられるでしょうが、最終的には門が破られる恐れがあります。」


 前の会議でも話があったけど、城門に取り付けれると射角の問題から攻撃できる人数が減るから、突破される恐れが高いんだったかな。

 ただ、この辺りの話は前にもしているはずだから、何故俺とアイリスだけ呼ばれたのかが良くわからない。


「……そこで、シクラ様には少しお願いがありまして。」 


「どのような事でしょうか。」


「シクラ様には、遊撃をお願いしたく存じます。」


「遊撃ですか? 」


「実際には遊撃と言うよりも、基本的にはシクラ様の判断で自由にしていただいて構わないと言う事です。」


 うん? 意図が良くわからないな。

 わざわざ俺に遊撃……自由に戦闘してもらって構わないとは一体どういったことだろう。


「シクラ様を囮にするおつもりですか。」


「カタギリ嬢そのような事は断じてない。ただ、我々ではシクラ様がどの位になるのかが検討がつかず、適切に判断が出来かねるのだ。そして、もしもの時の為にカタギリ嬢、あなたにはシクラ様についていた頂きたい。」


「言われなくてもシクラ様について行くつもりです。」


「ならば結構。シクラ様、そう言った事情もあり遊撃をして頂きたいのですがよろしいでしょうか。」


 ヒエンさんは俺の先頭にはかなり期待している様だが、一対一であれば訓練をしているが多数との戦闘経験はほぼないからそこが心配であるんだけど。

 二人で遊撃は結構危ない気がするな……そう言えば、あの人たちには頼めないのかな。

 と言うか、国の一大事にあの人達を頼らないのはなぜだろう。


「ヒエン卿、お聞きしたいことがあるのですが。」


「なんでしょうか。」


「冒険者達には支援を頼まれないのですか? 」


 俺の質問に表情は変えていないけど、ピクリと頬のあたりが動いたような気がした。


「シクラ様、冒険者とは国に囚われず自由に行動することが出来る者達です。こちらから依頼することは出来るのですが、強制は出来ずこのような事態であれば殆どの者は国を去って行きます。既に昨日の段階で数多くの冒険者達は魔物達とは反対方向へ逃げ、残っている冒険者はこの町出身の者か知人が居る者、移動することもままならないような低ランクの者達でしょう。」


「では、冒険者達に依頼はされているのでしょうか。」


「今の段階ではされておりません。そもそもこのような依頼であれば、鉄以上の冒険者に限られてしまいますので、そのような者達は既にこの街には居ないでしょう。」


 やっぱりそんなものか……でも、あの人たちならこの街に知り合いがいる様だったし、もし一緒に戦ってくれれば最高の援軍になる気がするんだよね。


「もし自分が直接冒険者を連れてきた場合、自分達と一緒に戦ってもらう事は問題ないですかね。」


「そうですね……最低でも鉄以上の冒険者であれば問題ありません。報酬の方も規定内であればこちらで用意させていただきます。」


 よし言質は取れたぞ。

 あの人たちがいれば、恐らく協力してくれるだろう。


「それともう一つ、自分が全面で戦闘を開始した場合勇者である事がばれる気がするのですが、そこは大丈夫なんでしょうか。」


 剣で戦う分にはそこまで気にされないと思うけど、魔法を使えば超越魔法以上の威力が出せてしまうだろうし、切迫した状況であれば手加減などはしていられないので、魔法に詳しいものなどであればそれが超越魔法では無いことがわかってしまうだろう。

 そうなった場合、今まで召喚失敗した勇者がいる事を隠してきた意味がなくなってしまうのでは無いだろうか。

 俺が勇者だ! とか宣伝するつもりもないが、勇者であるということだけですり寄ってくる人などもいるだろうから、俺もあまりばれたくないのが実情である。


「シクラ様の危惧しておられることも分かりますが、その辺りを陛下から許可を頂こうと思っております。ただの魔物の軍勢のみであればシクラ様にこれ以上お手間をお掛けさせないようにと思ったのですが、さすがに悪魔……それもネームドの悪魔がこのゲームと称した進軍のみで済むと思えません。」


 なるほどね。

 トラオウさん達の話でもあったけど、悪魔は楽しむのが目的であってこちらを殲滅したりすることが目的ではない。

 魔王に引きられている時は違うだろうけど、基本的には満足してら見逃してくれるってことだけど……悪魔自体が消化不良で戦いを挑んで来る可能性があると言うことだろう。


「シクラ様が戦闘をされた際に、騎士団員達は問題ありませんが衛兵などが居ますので、その場合口止めなどしてもすぐに噂が広がる恐れがあります。その対策として公表してしまうかどうするかをいまから確認して参りたいと思っています。」


「わかりました。自分の方も一緒に戦って頂けるかもしれない冒険者にあてがありますので、急ぎ会いに行ってきます。」


「わかりました。私も急ぎ陛下に許可を取ってまいります。」


 そういうとお互い立ち上がり会議室を出るために扉の前に歩いて行くが、燈遠さんが立ち止まりこちらへ向き直る。


「シクラ様。この度は、我が国の問題に手を貸していただき誠にありがたく存じます。私で何かご協力できることがございましたら、カトレアでも構いませんのでお言いつけください。」


 そう言ってヒエンさんは頭を下げる。


「あ、頭をあげてください。そこまできにしなくてもだいじょうぶですから。」


「しかし、シクラ様はこの国の住人でも無ければ、異世界から召喚された勇者様です。そのようなお方に我が国の問題に手を貸して頂けるのですから。」


「ヒエン卿、自分もこの世界に来て色々な人々と出会い、その人たちを守りたいとおもっているからここに居るんです。お互いに、この世界が守れるように頑張りましょう。」


「感謝いたします。」


 そしてヒエンさんは王城へ、俺とアイリスはある場所へ向かうのであった。



いつも読んで頂きありがとうございます。

次回も月曜日に更新できればと思います。


先日新しい家族が増えたため、執筆時間が減少して更新が少し遅くなってしまい申し訳ありません。

今後も頑張って行きますので、よろしくお願いします。


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