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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
一章
31/220

失敗勇者と魔物の襲撃

 真っ暗な暗闇の中に、二つの火の玉の様なものが浮かんでいる。

 一つは大きな紫色の火の玉、もう一つは紫色の玉よりかなり小さめの青色の火の玉だ。


「あれは本物だったか?」


 紫色の火の玉が揺らめき、言葉のような物を発している。


「あの力はまさしく本物かと、只覚醒には至っていない様子でした。私を倒した時の力は、覚醒していたものと思われます。」


 青い火の玉も揺らめき、紫の火の玉に返事をしている。


「では現状の力を把握するために、先日お前が赴いた所の魔獣を嗾けろ。そして、覚醒した力かお前は再度確認しろ。」


「かしこまりました。」


 青い火の玉はそう言うと、掻き消えるように消えた。

 

「さて、今回のはどの程度の者なのか観戦させてもらおうか。」


 紫色の火の玉は、暫く揺らめいた後消えて行った。



-------------------------------------


 


「数千の魔物ですか。その魔物達は本当にここに向かってきているんですか?」


「巡回中の騎士団員が魔物達の移動を確認したので、近隣の住民は城郭内に避難はさせれたんですが、その後偵察部隊が向かったのですが、大地を覆いつくす程の魔物の集団がこちらに向かっていることを確認したとの事です。」


 大地を埋め尽くすほどの魔物とは一体何匹いるんだろうか。

 数千と言うのはものすごい数と言うだけであって、実際の数は不明と言う事なので一体その魔物達はどこから来たんだろうか。


「この場では詳細な情報はまだわかっておりませんが、騎士団長達を呼び出しておりますので詳しい話はそこでわかるものと思われます。」


「わかりました。」


 城にヒューズさんとコジーラさんが来てくれるなら、騎士団員が遭遇したと言う魔物の大まかな数や種類、それにどこから来たわかるかもしれない。

 少し気になることがあるけど……この場で聞くことではない気がするので、またあとで聞いてみよう。


 今わかっている情報以外は城に行かないとわからない為、三人とも特に会話は無く石畳の道をゴトゴトと音を立てながら進んでいく馬車の音しか聞こえない。

 正面に座るヒエンさんは、目を閉じて考え事をしている様子だし。

 隣に座るアイリスは……さっきの晩餐の時に着ていたドレスのままだった。


 アイリスの着ているドレスは青色をベースに、銀色の糸で花の刺繍や要所に白のレースを使い、可愛らしさの中にも大人の女性としての美しさも引き立てるような意匠が凝らされて一品になっている様だ。

 

 さっきの晩餐の時にはちらっとしか見てなかったけど、いつもとは全く違う衣装に、化粧をして髪も結い上げている姿は、こんな事態の時に考えるようなことではないが、何処のお姫様なのだろうかと思ってしまう程美しかった。

 

「シクラ様、どうかなされましたか? 」


「あ、うん、いや……綺麗だなって。」


「そうですね、このドレスはとても美しいですね。これほどのドレスは私も今まで着たことが無かったですが、私には少々過ぎたドレスだと思います。」


 俺の視線に気が付き声をかけて来たので、咄嗟に本音が漏れてしまったのだが、自分が誉められたのではなくドレスを褒めたのだと思ってしまったようだ。

 アイリスは、自分が来ているドレスを眺めた後、視線を窓の外に向けてしまった。


 アイリスにとても似合っていると思うけど、何かこっぱずかしくて言えず正面を向く俺の視界に、ヒエンさんが顔でジェスチャーをしながら小さな声で「いえ、いえ」と呟き、俺にアイリスの事を褒めろと言ってきた。


 こんな時に不謹慎とは思うけど、アイリスのモチベも関係してきそうだからな。


「そのドレスはアイリスにとても似合っていると思うよ。今まで見た中で今のアイリスが一番綺麗だよ。」


「あ、あり、がとうございます。」


 窓の外を見ながら返事をするアイリスだが、その横顔が朱に染まり耳まで真っ赤になっていた。

 それにしても、元の世界ではこんな事絶対に言わなかったんだけど、この世界に来てからこういったことを言ってもそれほど恥ずかしくなくなってきているな……勇者って、羞恥耐性でも付いてるのかな。


 そんなことをしている俺を見て、ヒエンさんはニヤリと笑ていた。


 そんなことをしている間に、馬車は王城に到着し三人で玉座の間に向かう。

 王城に住んでいたけど、今まで一度も玉座の間には行ったことがないからどんな所だろう……と思いながら歩いて行くと直ぐに玉座の間につながる扉の前にたどり着く。

 この扉にも左右に剣と杖を持つ竜が彫られているが、今まで見た中でも一番豪華に装飾されていた。

 剣の竜は金色に輝き、杖の竜は銀に輝いていた。

 恐らく金と白金で作られていると思うのだけど、ちょっと成金趣味みたいで少しイメージが悪い。


 扉の前には完全武装の衛兵が微動だにせず立っており、顔の部分が見えていなければ置物かと思う程綺麗な立ち姿で扉を守っている。


「我は軍務大臣のヒエン=ミュラーだ。至急国王陛下への謁見を申し込む!」


 入り口に立つ衛兵に向かい大声でヒエンさんが述べる……やっぱりこの人軍事関係の人だったんだな。

 そうでもなければ、騎士団長達を呼び出す事なんか出来ないだろけどね。


 ヒエンさんの言葉を聞き、衛兵の一人が横の小さな扉をノックする。

 扉の顔のある辺りの一部動き、中の人にヒエンさんが来たことを告げ、二言三言話してこちらへ戻ってくる。


「侯爵閣下、陛下は現在大会議室にてお待ちになっております。他の方々も既にお集まりになっております。」


「シクラ様、カタギリ嬢。陛下たちは会議室におられる様だ、着いてきてください。」


 衛兵の言葉に頷き、俺達を先導して歩き出したので、それについて行く。 

 ヒエンさんの先導で歩いて行き、目的の会議室と思われる部屋でノックをして部屋に入って行くので、それについて俺達も入室する。


 会議室には国王と両騎士団長と他数名が、テーブルに置かれた地図を見ながら話し合っているたが、俺達が入って行くのを見た皆が立ち上がり俺達を迎え入れる。

 

「陛下、到着が遅れ申し訳ございます。それと、シクラ様とカタギリ嬢もお連れ致しました。」


「皆も今から始める所だから構わん。それにシクラ様を後で呼ぶつもりであったから丁度良い。シクラ様こちらへいらしていただいてよろしいでしょうか。」


 国王に呼ばれ、俺は国王の横の席に座ることになった。

 俺と国王が席に座ると、ヒューズさんとコジーラさん以外が席に着き、軍議が再開される。


「まずは皆さまこれをご覧ください。」


 机に広げられているのは恐らく、イオリゲン王国の領土の精密地図だろう。 

 元の世界の知識が入っており、等高線まで引かれたかなり詳細な地図で、その地図には大小さまざまな駒のような物が置かれていた。


「急報のあった魔物達の大進軍ですが、進路から察するにやはり目的地はここになる物だと思われます。」


「何が原因か分かっているのか。」


「今の所何が目的で来ているかはわかっておりませんが、この魔物達はその種類からタカヌ地域全域から集まってきているものと思われます。」


「タカヌ地域……先のシクラ様が悪魔と遭遇した辺りか。シクラ様が討伐された悪魔以外の仕業と言う事はないか? 」


「流石にわかりかねますが、可能性はあると思われます。前勇者様が魔王討伐の際にも、魔物達が世界各地で街を襲うと言ったこともございました。」


 ヒューズさんとヒエンさん二人が話し、他の人は今の所発言せずに聞き入っている。

 タカヌ地域とは、俺がこの間行ったマヤシカの森がある地域の事のようで、マヤカシの森から奥の森林、山岳地帯は赤く塗られている。

 他にも森や山の一部には赤く塗られている部分があり、そこは恐らく魔物の領域になっているのだろう。 


「先ほど連絡受けた時は数千と言う事だったが、実際の魔物達の規模はどの程度なのだ? 」


「正確な数はわかりませんでしたが、目算でおよそ一万以上であると思われます。対してこちらは、騎士団員約千名、魔導騎士団員約二若名、そして衛兵が五百名ほどになります。」


 会議室内にどよめきが起こる。

 魔物は一万以上対してこちらは総勢約千七百名、常識的に考えれば数差のは圧倒的な戦力差だ。

 相手が人間ではないので一般的な籠城戦とは当てはまらないと思うけど、攻撃三倍の法則と言う通常防御に徹した相手に攻撃する場合は三倍の兵力が要ると言うのが、現状では五倍以上の兵力差である為圧倒的にこちら側が不利と言う事になる。


「魔物達はどの程度でこちらにたどり着く。」


「魔物達が城壁にたどり着くのは進行速度からして、早くても明日の明朝以降になると思います。」


「城壁はどの程度持ち堪えられる?」


「城壁はよほどの事が無い限り問題ないと思います。東西の城門は大きさがそれほど大きくないので一度埋めてしまい、補強すればよいかと。しかし南の正門は今から急遽補強しても数日が限度かと。魔物は昼夜問わず襲って来るとお思われますので、城門に近寄らせないようにすることが先決かと。」


「他領地からの援軍はどうなっている。」


「現在早馬にて急使を出しましたが……招集や物資の準備がありますので、到着まで早くて三日は掛かるでしょう。」

 

「……なるほど。コジーラ、お前はどう思う。」


「現状では城壁の上より、騎士団員及び衛兵達による弓による斉射と、我が魔導騎士団員の飽和攻撃が最適かと。ただ、矢の数や魔導騎士団員の魔力にも限りがあるため、ローテーションを組み正門を守るしかないかと思います。門の補強と共に我ら魔導騎士団で防御魔法を掛ければ、ある程度時間は稼げるかと思います。」

 

 ヒエンさんは顎を撫でながら「どうしたものかな」と呟いている。

 他の出席している人たちが近くの人達を相談し始める。

 攻撃主体にして守り切るのが良いと言う人や、防御主体にして援軍を待ち挟み撃ちにして殲滅するなど様々な意見が出てきている。 

 

 あーだ、こーだ、言っているが、結局のところどうするか結論が出ずに会議室は混乱している。

 

「シクラ殿は、どうするべきだとお考えかな。」 


「え! ど、どうとは。」


「今回の魔物の襲撃に対して、何か良い案でもないかと。」

 

 急に国王に話しかけられて、どうしたら良いかって聞かれても困るんだけどな……うーん……。 

 机に広げられた地図を眺める……地図の中央には王城のあるキザオカの街、周辺一キロの範囲は畑や平原が広がる起伏の少ない土地である。

 遠方まで見渡せる利点はあるけど、障害物が無いから陣地などを作るのは難しそうだな……せめて日本の掘りとか迷宮みたいな城壁があれば良かったんだけど、この城壁の周りはそう言ったものが一切ない。

 

「……日本の城か……」


 城壁の構造は違うけど、流用出来る所がある事に気が付いた。


「防衛するときは、城壁からの攻撃のみになるって事ですか? 」


「そうなります。周囲に陣地など作成しても孤立してしまいます。」


 孤立しないような地形で、なおかつ大多数の敵と一気に戦わないで済む地形。

 

「国王様、城壁の周辺の地形は元に戻せば多少変えても問題ないでしょうか。」


「周辺の地形ですか……どの道魔物達が襲ってきたら収穫は出来ないでしょうから、ある程度なら問題ありません。」


「わかりました。ヒューズさん、コジーラさん、少し良いですか。」


 国王様からの許可を取った俺は、考え付いたことをヒューズさんとコジーラさんに説明すると、二人は驚いていたが共に俺の案が有効だと言う事になり案を詰めることになった。


 しばらくして会議は解散になったが、俺達は両騎士団長達と共に騎士団員駐屯地に向かい、騎士団会議室に主要な騎士団員達を集めて、今回の防衛線の趣旨を説明する。


 初めはそんな事不可能だと言っている団員達も居たが、ヒューズさんが手順を説明していくと反論は無くなっていった。

 ヒューズさんとコジーラさん双方にて、騎士団員達の配置やローテーションなどを決め、各々が準備の為解散していった。


 準備が整うまでは俺何もする事は無いので、騎士団の食堂で先に食事を取り仮眠をして体を休めておく。

 

「シクラ様……シクラ様……。」


「……ん? アイリス……そろそろ時間か……」


「シクラ様こちらをお使いください。」


 仮眠を取っていた俺をアイリスが起こしに来た。

 中途半端に睡眠をとったせいか頭が少しぼーっとしているが、アイリスが渡してくれた濡れたタオルで顔を拭いたら多少ましになった。 

   

「シクラ様、こちらへ着替えをお願いします。」


 アイリスが渡してきたのは、買ったばかりの鎧一式だった。

 アイリスは既にドレスから着替え、騎士団の女性団員が着る装備一式を身に纏っていた。

 俺は防具一式を身に纏い、アイリスと共に騎士団詰所から出て目的の城門まで歩いて行く。


 辺りは既に真っ暗になっており、月明かりと大通りに設置されている照明灯以外に光源は無く、街は静まり返っているが城門に近づくにつれ、騎士団員の者と思われる話し声が聞こえてくる。



「さてと、これから朝までに何とか仕上げないとね。」


 自分に気合を入れて、俺達は城門の外へと歩いて行く。 


いつも読んで頂きありがとうございます。


次回の投稿も月予備の予定です。

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