失敗勇者と防具
投稿予約ミスってました。
本日、今代の勇者様であるシクラ様が、魔導騎士団長のコジーラ様に面談を求められ、そのまま訓練所に向かわれました。
コジーラ様が騎士団員の訓練を一時中止させ、シクラ様の魔法を確認させていただきました。
天を切り裂くような轟音と共に落雷が標的に命中し、人形を吹き飛ばした威力はなかなかと思いました、勇者様の魔法であればさらに強力なものが使用できたのかと思ったのですが、詠唱をされていたので今代の勇者様は魔法が苦手なタイプなのでしょう。
その後、執務室で詳細をお聞きしていたのですが、シクラ様は先ほどの魔法制御をオドのみでされていたようで、オドのみであの魔法制御は驚愕いたしました。
やはり、勇者様と言うのは常識外れのお力をお持ちになっているようですね。
魔導騎士団副団長 ベロニカ 手記より
ハイテンションで話し続けるコジーラさんを宥めて、また改めて訓練方法を聞きに来ると言う事で話を収め、コジーラさんの執務室を後にする。
「シクラ様、まだ夕食までお時間がありますがどこか寄られますか? 」
アイリスが聞いて来たので今の時間を確認すると、大体十六時頃で夕食は十八時頃なのでまだ少し時間があるようだ。
どうしようかと考えていたのだが、さっき騎士団に着く前に話していた防具関連を買いに行くのが時間的にも場所的にも良さそうなので、剣を買った店に馬車を向かわせた。
鍛冶屋街は騎士団駐屯地と同じく西区にあるが、騎士団は中心側の内壁内にあり鍛冶屋街は外壁と内壁の間にある。
この街は、東西南北と区画を分ける壁と、内壁と外壁の二重の壁に守られた城塞都市なのである。
まあ、王都なのでその辺りは必要なんだろうなと思うけど、内壁は高さも低く五メートル程しかなく、各所に通用門が設けられているので、防衛の面では内壁はあまり意味は持たない様だ。
その代わりに外壁は高さは二十メートル、幅も五メートルもある巨大な防壁としてキザオカの街を守っている。
そんな巨大城壁を眺めながら、馬車に揺られて中央通りと走っていると目的地の鍛冶屋に到着する。
馬車を皆で降りて、目的地であるガンツ武具店に入って行く。
中は相変わらず様々の武具が置いてあり、どの武具も綺麗に磨き上げられており、先日訪れた時と同じ店内である……扉に空いた穴は板切れが乱雑に打たれており、素人仕事の内容から恐らくオッサンが補修したんだろう。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか? 」
相変わらず売る気が無いかのように店内は無人だったので、奥の扉の方に大声で声をかけてみる。
しばらくすると奥の扉から、巨大な体のドワーフの親父さんがむすっとした顔で現れる。
昨日の剣ではお世話になったので、オッサンから親父さんに脳内でランクアップさせる。
「む……なんじゃ、昨日の小僧か。今日は何の用だ。」
ちらっと俺の後ろを見て一瞬変な顔をした。
後ろには一緒に入って来た、アイリスとダイアンの二人が居るが、もしかしたらダイアンの事を知っているのかなと思ったが、直ぐに視線を俺に戻してきたので特にそのことを言及せずに話を進める。
「昨日は武器を見させていただいただけで終わったしまったので、今度は防具の方を見させていただきたくて。」
「ふん、どんなのを探しとるんだ。」
「そうですね……あの剣を振り回しつつ、魔法も使いながら戦うので、軽量で動きやすいのが良いのですけど、良さそうなのはありますか……できればお安いので。 」
「ふん……まあ、昨日買った剣で金が無いんだろうが、あまり安すぎるのはお勧めできんが、少し見繕ってやろう。」
そう言うと、親父さんは並べられている防具の中から数点選び出してカウンターに乗せ、その後またもや裏の扉に入って行き、しばらく待つと中からもう一つ鎧を持ち出してくる。
親父さんがカウンターに並べたのは、四種類の様々な素材で作られた防具一式で、それぞれ違う素材でできている様だ。
「とりあえずは小僧が装備できそうなものを集めてみたが、値段は結構差が出るから安い順に説明するぞ。」
親父さんが用意したのは、皮鎧、魔物の皮を使った鎧、鉄鎧、ミスリル鎧の四種類だ。
「まずは良くあるレザーアーマーだが、鎧の形にした木材に鞣した革を張り付けクリックと言う木の樹液でコーティングして型取りした、駆け出し冒険者の装備として一般的な物だ。値段は一式で銀貨二枚で、これが最低限の装備だな。」
特に装飾もされていない良くある、なめし革を使われた標準的な鎧だ。
値段だ安価であると言うこと以外に、軽量で損傷しても補修が簡単なんだそうだ。
「次はグレイウルフの皮を使ったレザーアーマーだ。さっきのと同じような加工をしているが、皮の厚さや衝撃吸収性のは断然に高い。小手には一部鉄板が埋め込んであるから、殴った際の保護や簡易的な盾になるぞ。銅の上位人から銀に成りたてクラスまで使う、冒険者御用達の防具だ。値段はさっきより高い銀貨二十枚ってとこだな。」
見た目は先ほどのレザーアーマーより、全体的に厚めになっている様だが、触ってみると動きを阻害するような感じはなさそうだ。
「そんでもって次が、プレートアーマーだ。こいつは騎士団員の標準装備に近いが、あれよりも断然いい出来だといえるぜ。胸当ての裏側に皮があって合ってな、これが動きの阻害をなくしてくれる。小手の可動部分は鎖で覆ってあるから、防刃性のは格段に上がるが重量がかなりある。ま、これは冒険者用と言うより騎士用の鎧だからな、値段も金貨一枚ってとこだな……ぶっちゃけ、小僧にはあまりお勧めはしないな。」
この鎧は、騎士団員達が立ち番などをしている時に着ている鎧に似ているが、細部に工夫がされているようだが、実際にこれを着用する気はないのであまりに気にない事にする……それにしても、お勧めしないのになぜ出してきたのか謎だ。
「最後のこいつたぶん買わないと思うが、一応持ってきたがミスリルのプレートアーマーだな。鉄と違って重量がかなり軽く、防刃性能、耐衝撃性能はピカ一だが、値段が金貨五十枚の俺の店一番の商品だ。ま、こんなのもあるぜって持ってきたが、流石に小僧にはまだ早いと思うからさっきの三つの中から選ぶといいぞ。どれも俺が丹精込めて作った鎧だから、他の店の鎧よりもいい物だって事は保証するぜ。」
流石はミスリル製の鎧の値段に驚いたが、合金製の俺の剣ですらあの値段なのだから、やっぱりミスリルのみで出来ている鎧はかなり高かった。
一度は着てみたいファンタジーを代表する鎧だが、流石に値段が高すぎて買う事は出来ないので、親父さんの言う通り先の三種類の中から選ぼうと思う。
とりあえず三種類すべて試着させて貰たが、勇者パワーのある俺にはで重量はどれも問題なく、動き易さも思ったよりは大丈夫そうだ。
普通のレザーアーマーは、胸当て、小手、脛用のレッグガードの三点セットで、コーティングしてあるのでそれなりに防御力はありそうだが、魔物相手なら問題ないが盗賊相手にする際は少し問題がありそうだ。
グレイウルフのレザーアーマーも同様に三点セットで、さっきのレザーアーマーと違いかなり厚みがあり重量もかなり増えてるが、耐衝撃と防刃性能は格段に高く、加工前の皮は鉄製の鋏などではなかなか切れず、ナイフのようなもので何度もなぞる様に切るそうだ……ミスリル製の工具だと加工はかなり楽になるそうだ。
プレートアーマーは、胴から腕までの一式と太ももまであるレッグガードのセットだ。
可動部分はすべて鎖帷子になっており、動きにそこまで影響は出ないが、レザーアーマーと違い柔軟性は無いので多少動きに影響が出そうだ。
「この中からなら、グレイウルフのレザーアーマーか、プレートアーマーのどちらかかな。そう言えば、これって体は守れるけど、頭は何にもないんだけど。」
「普通に考えりゃそのどちらかだな。頭は、個別に調整が必要だから別料金だ。グレイウルフが銀貨二枚、鉄製が銀貨二十枚からだ。」
「あれ? 普通の皮は無いんですか?」
「只の皮のヘルムなんて手間はかかるし、投石位しか意味ないからうちでは扱ってないぞ。コーティングしても良いが、衝撃は吸収しきれないから防具としてはいまいちだな。」
矢も完全に防げないし、剣で斬られた際に衝撃は抑えれないからあまり意味が無いのか。
とりあえずは二種類の中から選ぶんだけど、値段でいればグレイウルフ、見た目や防御力を言えばプレートメイルか。
「シクラ様よろしいでしょうか。」
どちらにするか悩んでいると、アイリスが隣に来て話しかけてくる。
「なんだい?」
「装備品としてはどちらを選んでも問題ないかと思いますが、シクラ様の立場で言えばプレートメイルがよろしいかと思います。」
立場……立場か……そうだよな、表向きは一応貴族、しかも子爵として旅をするのだから、それなりの装備を持っていないと問題が出てくるか。
「ありがとうアイリス。親父さん、プレートメイルを買う事にするよ。一応ヘルムも欲しいからそれもお願いします。」
「あいよ。鎧は今日渡すことが出来るが、ヘルムは微調整が必要だから、ちょっといいか。」
親父さんは俺の頭を眺めたり、手を当てたりしてサイズを測ると、奥に入って行き数点ヘルムを持って戻って来た。
正面がオープンタイプのヘルムと、フルフェイス型のヘルムを持ってきたが、フルフェイス型は視野が狭過ぎて使い物にならないので、オープンタイプの物を指定し試着していく。
何種類か被ったところで、合いそうなものがあったのでそれを調整してもらい、後日取りに来ることになった。
「そう言えば、装飾とかは一切なくていいんだな? 」
防具一式の金額を払おうとしたところ、そんなことを聞いてきた。
「装飾ですか? 」
「おう、騎士団員なら騎士団記章を入れるし、貴族たちは家章もいれる。冒険者達だと、同じパーティと分かる様に入れたりする者もいるな。」
うーん、特に入れる必要は無いと思うんだけど、その辺りはどうしたら良いんだろう。
貴族なら入れるのが当たり前だったら、それを入れないと何か問題が起こりそうだから入れたほうが良いんだろうけど、どんなものを入れていいか分からないしな。
「ガンツ、それは後でも入れることは出来るわね。」
「ま、いつでも入れることは出来るな。彫金や細工が必要な物は新しく作らんといかんが、このヘルムに紋章を入れるだけなら問題ないな。」
「そう言う事ですのでシクラ様、必要であれば後日やって頂けますので問題ないようです。」
流石、アイリスさん。困って居ればすぐさま助け舟を出していただいてありがたい。
親父さんをガンツと呼び捨てにしている所は少し気になるが、向こうも気にしてない様だからいいのかな。
「親父さん、とりあえず調整のみでお願いします。もしかしたら、後日その辺も頼むことがあるかもしれませんが、その時はお願いします。」
親父さんはあいよと言って装備の金額を計算して、俺に提示してくる。
金額は、装備品の調整費用込みで金貨一枚と銀貨二十二枚で、後日紋章を入れる場合はその内容次第で金額が変わるが、大体銀貨一枚には収まるとの事だ。
鎧は麻袋に入れてもらって受け取り、後日調整が終わったヘルムをまた取りに行くことになった。
鎧は、騎士団員達普段装備しているように、鎖帷子を外して基本的に胸当てと小手、そして膝下のレッグガードに分けてもらっておいた。
普段使いじゃ、鎖帷子までつけていると動きづらく、音もジャラジャラとうるさいのからね。
親父さんの店を離れて馬車に戻ると、アイリスがプレートメイルを買ったなら他にも必要な物があると言って、別の店に馬車を回した。
馬車が停まったのは、鍛冶屋街の入り口付近にある大きめの武具店で、アイリス達と共に店に入ってみる。
売っている物は冒険者が使うような武具と言うより、護身用に使用するナイフの様な短剣や狩猟につかう弓矢、一般的な服から皮でできた服の様な物まで様々なものが売っている。
「ここで何を買うんだ? 」
「シクラ様が買われた鎧は、鎖帷子で鎧のない部分を補っていますが、普段使用されるのであれば内側に防護用の皮の服を着るのが良いかと思います。」
そう言えば、騎士団の人達も、内側にはコーティングしていない皮の服を着こんでいたような気がするな。
この世界だと服は基本的に麻か綿だから、少しでも防御力を上げるにはそう言ったものを着こむ必要があるようだ。
「この店はガンツの所の様に一品物ではないですが、品質は安定しているはずですので鎧を脱いだ際の普段使いも出来るものをおすすめいたします。」
そう言ってアイリスは店の中をずんずん進んでいき、目的の皮製の服が並んでいるエリアにたどり着いたんだけど……男性用皮製の服だけででも数十種類も並んでいて、どれがいいか全くわからん。
唖然としている俺を気にせず、アイリスとダイアンはどれが俺に似合いそうか物色していく。
そして、着せ替え人形みたいに何種類も着せ替えさせられて店を出たのは、夕刻近くになっていた。
次回も月曜日更新となります。




