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召喚失敗勇者の異世界放浪旅  作者: 転々
一章

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24/220

失敗勇者と冒険者達

 シクラさんって本当に王宮に住んでいるんだ。

 窓から見えた馬車はミュラー家の紋章が付いていたけど、アイリス様とあの人が迎えに来るなんて、ミュラー家の客人じゃないのは確実だね。

 それにしても一体シクラさんって何者なのかな?

 昨日聞いた話だと、王宮にいてアイリス様達が侍女をしているみたいだし、それに私たち全員を抱えて屋根の上に飛び上がれる身のこなし……まるで勇者様みたいね。

 でも、この間の勇者様は女の人でもう帰られたし、今は魔王も居ないから勇者様は居ないはずだから、そんなはずないよね。

 そうだ、早く皆に知らせて集まってもらわないといけなかったんだ。


 慌てて身だしなみを整えて、彼女はパーティーの家に向かって行く、他国に行けると言う冒険心を溢れさせながら。


byクリス 

 俺達を乗せた馬車が陽光宿へ向かっている。


 到着するまでの間、クリスは憧れのアイリスにいろいろ話を聞いていた。

 アイリスも、クリスの質問攻めに丁寧に答えており、意外と相性が良いのかもしれない。

 セルリアさんとファセリアちゃんは縮こまったまま固まっており、緊張して会話に参加できないでいる様だが、二人の会話はしっかり聞いている様だ。

 やっぱりアイリスは、クリスに聞いた通り女性冒険者達の憧れの的らしい。

 魔族には勝てなかったけど、あの攻撃ならそこらの魔物なんて鎧袖一触で討ち倒してしまうだろうな。

 実はアイリスも冒険者にも登録していて、白金クラスの冒険者なのだが、アイリスは前勇者様のパーティに居たおかげなので、実際はそんなに強くはありませんと言っていた。


 アイリスの前勇者との冒険譚を聞いている間に、馬車は陽光宿へ到着したのだが……。


 「いったい何なんだこの状況は? 」


 陽光宿に、商人の様な人や上級冒険者の様な人達が両列を作っていたのである。


「何かあったのでしょうか? 詳しい状況を確認いたしますので、皆さまは馬車でお待ちください。」


 そう言うと、アイリスは馬車の扉を開けると……美味しいそうな匂いが漂っていた。

 シクラ以外が嗅いだことのない空腹を誘うような匂いに、皆が一斉に唾を飲み込んだ。


「この匂いが原因のようですね。この匂いは嗅いだことがありませんが、とても空腹を誘われそうな匂いですね。」


「これは、餃子と唐揚げの匂いだね。」


「シクラ様は、この匂いの原因をご存じなのですか? 」


 アイリスの質問に首肯し、原因となっている昨日のレシピ提供の話を説明する。

 一緒に乗っていた他の皆も一同に驚いており、クリスがこの美味しそうな匂いがする食べ物を早く食べたいと言ってきたので、アイリスを伴って陽光宿へ向かうが、この状況だと流石に陽光宿での食事は難しそうだな、と思いながら陽光宿へ向かって歩き出す。

 

 列を並んでいるのは、陽光宿の宿泊客以外の食堂利用者で、宿泊客の出入りを妨げない様に並んでいるようだ。

 並んでいる人の横を抜けて、宿屋側の受付に向かおうとしたときに、白っぽい人にぶつかりそうになった。


「すみません……ってトラオウさんじゃないですか。」


「おっと、誰かと思ったらボウズじゃねぇか。なんだ、昨日の今日でまた新しいレシピでも売りに来たのか? 」


「いえそう言う訳ではなく。実は……」


 トラオウさんに事情を説明する。


「とりあえず個室が使えるが、おやっさんに直接聞いた方が良いんだが。この状況をみてでわかると思うが、ボウズのおかげでおやっさんが大忙しで手が離せないだろうな。ま、ちょっと待ってな。」


 トラオウさんはそう言うと、宿屋の受付の人に事情を離してくれているようで、話を聞いた受付の人は急いで奥の方に走って行った。


 受付から、こっちを見ながらニヤニヤしているトラオウさんを眺めていると、奥から熊みたいなオッサン……宿の店主が慌てて出て来た。


「昨日のシクラ様がみえてるって……シクラ様、昨日はありがとうございます。」


 飛び掛かりそうな勢いでトラオウさんに詰め寄った店主は、俺を見つけレシピを売ったことの感謝を言われてしまった。

 あの程度の簡単レシピで、金貨三十枚も貰ってこちらこそ感謝したいが、今はそれを話すと色々と面倒な事になりそうなので、ここに来た要件を伝えてみる。


「それでしたら、竜の間をお使いください。エリナ、シクラ様達を部屋へご案内さし上げて。」


 エリナと呼ばれたのは受付に居た娘で、店主からカギを預かり俺達を案内してくれる。


「それじゃあボウズまたな。」


「あ、トラオウさん。今からどこか出かけられるんですか? 」


 俺を案内されたので、そのまま店を出ようとしたトラオウさんに話しかける。


「まあ、酒場があんな状態じゃゆっくり飯が食えないから、どこか適当に食いに行こうかと思ってな。」


「でしたら一緒にいかがです? みんなも大丈夫だよね。」


「トラオウなら問題ありませんね。」

「シクラ様の好きなようにしていいと思います。」

「すごーい! 白虎のトラオウさんと食事出来るなんて楽しみ!。」


 一応皆に確認したが、アイリス、ダイアン、クリスは特に問題ない様だが、冒険者三人は突然の事で驚いているが、俺が視線を向けると首をぶんぶん取れそうな勢いで振っていたので、問題ないはずだ。


「まあ、ボウズ達が良いって言うなら付いて行くか。」


 そんなわけで、トラオウさんも一緒に竜の間と言う個室に向かう事になった。

 まあ、トラオウさんにも一応話があったから、その件も話せたらいいな。


 エリナさんに案内された部屋は、十人が食事が出来そうな豪華な食卓? というか、晩餐会でもやるような机がある部屋だった。

 室内も豪華になっているようで、壁には壁紙が張られて絵画なども飾られていた。

 この世界の一般的な家だと、木板がむき出しの家が多いのだけど、王宮などお金をかけているところは壁紙などを張っているので、この部屋が普通の部屋でないことがわかる。

 たぶん、上級冒険者と貴族とかが依頼の相談なんかをする部屋なのだろう。

 

「シクラ様お掛けください。」


「とりあえず皆席に着こうか。エリナさん、食事のメニューなどがあれば頂けるとありがたいのですけど。」


 アイリスが椅子を引いて俺に着席を促してくるので、座ってからみんなにも席を進める。

 五脚ある椅子の中央が俺で、左右にアイリスとダイアンが座り、その横にトラオウさんが座った。

 反対側には、クリス、ウィルさん、セルリアさん、ファセリアちゃんが座る。

 

 こちら側に座る人は普通にしているのだが、反対側に座るクリス以外は、豪華な部屋に緊張している様だ。

 皆が席に着くと、エリナさんがメニューが掛かれた板を、皆の前に置いていく。

 そのメニューの他に、先程より大きめの板に書かれたメニューを俺の前に置いた。


「小さな板の方が当店の通常メニューになります。そちらの大きな板の方は、本日から始まった特別メニューになります。」


 その特別メニューは、予想通り昨日渡した三種類のレシピを使った料理だった。

 そのメニューには、各料理がどのような料理で、どれだけ美味しいのか、絵も併せて説明してあった。


「私のおすすめは、このテンプラになりますが、ほかのギョウザ、カラアゲもそれぞれおすすめになります。」


 エリナさんがメニューの説明をして壁際まで下がると、おれとトラオウさん以外は興味があるのか、特別メニューのどれにしようか悩みだしたのだが、反対側に座っている冒険者達がそわそわしだしていた。

 

「あ、あの。このメニューなんですけど、金額が書いてないのですけど……。」


 セルリアさんに言われてメニューをしっかり見てみると……本当だ、値段が書いてないけど元々俺がお御馳走する予定だし、そもそもこの世界は食事が安いから問題ないだろう。


「気にしなくていいよ。ここの食事代は俺が持つから、気にせずに好きなのを選んでいいからね。」


「お、いいのか。じゃあ俺は、カラアゲとギョウザとエールをくれ。」

「流石シクラさん! ありがとうございます。」


 トラオウさんとクリスが勢いよく飛びついたおかげで、他の三人も遠慮しながら注文をしてくれた。

 エリナさんが皆の注文を取り部屋か退出したので、食事が出来るまで時間が掛かるだろうから、その間に依頼の件を話す。

 

「ウィルさん、セルリアさん、ファセリアちゃん。この度は、集まってもらってありがとう。クリスには伝えておいたんだけど、依頼の内容は大体わかっているかな。」


「いえ。護衛の依頼と言う事しか聞いておりません。」


 クリスの方を見ると、ぺろっと舌を出してしてごまかしてくる。

 可愛いんだけど、依頼の詳細については話しておこうよ……まあいいけど。

 気を取り直して、依頼の詳細を伝えていく。

 

「しばらくしたら、ウグジマシカ神聖国に向かうんだけど、その際の護衛を頼みたいんだよね。」


「他国への護衛依頼ですか……ウグジマシカ神聖国までは、どれほど日数がかかるのでしょうか? 」


「何かあった時の事を考えて、片道で三十日として見ています。その後は、イオリゲン王国に戻ってくるかわからないので、とりあえずは片道の護衛と言う事になりますね。」


 俺の説明にウィルさんは、腕を組んで考え込みながら、ぶつぶつ小声でつぶやいている。

 クリス以外の二人も、顔を見合わせてなんか複雑そうな顔をしている……クリスだけはウキウキ顔で既にやる気満々のようだ。


 考え込んでいるウィルさんの事は少し気になるけど、まあリーダーとして安全配慮は重要だろうから、慎重なのは良い事なんだけど……そこまで考え込む必要があるのかな?


「ねぇねぇシクラさん、報酬はどの位貰えるの? 」


「そうだね、一人銀貨三十枚位かなって思ってるよ。ああ、道中の食事等も一応こちらで準備する予定だから、その辺りは気にしなくていいからね。」


「そんなに貰えるの! ねえみんな、この依頼受けようよ! こんな仕事めったにないじゃない! 」


 ウグジマシカ神聖国までの銅クラス片道依頼で、一人銀貨三十枚、四人全員でも百二十枚……金貨一枚と銀貨二十枚なので、もしこれで受けてくれるようならありがたい……今後金銭を手に入れる機会がどれほどあるか分からないか、出来る限り残金を残しておきたいんだよね。


「クリス落ち着いて、ウィルが今考えているじゃない。護衛依頼はそんなに簡単じゃないのよ。それに、日数も結構かかるから、その辺りも良く考えないとね。ウィル達や私は家の家賃とかもあるから、長期間家を空けるなら家賃先払いしておかないといけないけど、わたしなんて手持ちがギリギリよ。」


「そっか、私はまだ養護院だから家賃いらないけど、皆は家に住んでるからお金かかるんだよね。」


 報酬に盛り上がっているクリスを、セルリアさんが宥めて居る。


 銅クラスの冒険者だと、一つの依頼に対して多くても銅貨十枚程度、通常の依頼だと銅貨五枚が基準になるから、ひと月で少ないと銀貨一枚と鉄貨幣五枚、最大で銀貨三枚と稼ぎにはなる。

 魔物討伐依頼であれば、魔物の素材を売ってもう少し稼げるらしい。

 だけど装備の手入れや補修にもお金はかかるし、一日で終わる依頼だけとは限らないから、結構かつかつな生活になっているみたいだね。

 まあ、下級騎士で銀貨十枚なんだから、駆け出し冒険者ならそのくらいになるんだろうな。


「それでしたら、前金で銀貨十枚、依頼達成後残りの二十枚の支払いにしましょうか? 」


「シクラさん、良いの! セルリアさん、前金貰えれば家賃払っておけるから行けるんじゃない。」 

 

「前金で銀貨十枚あれば、払えるわね。」


 俺が前金で一部払うと言い出したら、今度はセルリアさんが困りだしたようだ。

 なんだろう、この二人何か隠してる気がするんだけど、気のせいなのかな。


 そんなことを考えていると、扉がノックされエリナさんが料理を運んできてくれたので、この話は食事の後で再度することにした。

 美味しい食事中に悩ませて、美味しく味わえないとかわいそうだしね。

 

 みんなが食事を終えたて、満足顔で紅茶トラオウさんはエールを飲んでいる。

 こちら側に座っているアイリスとダイアンは、静かに紅茶を飲んでいるし、トラオウさんは何杯目わからないエールを飲み上機嫌になっている。

 クリス達は、さっきの料理の感想を言い合って楽しそうにしている。

 

 この状況でまた護衛の話をして、さっきみたいな空気にするのはいかがなものかと、紅茶を飲みながら考えていると、ウィルさんと視線が合い何故か小さく頷いて来た。

  

「ちょっとトイレに行ってくるわ。」


 なるほど、ここに居るメンバーに聞かせられない話があるのか。 

 クリス達がウィルの行動に気を取られている隙に、アイリスの小声で今の状況を話し、俺もトイレに行くふりをして席を立った。


「ボウズ、今日は食堂が繁盛しているから横のトイレ混んでるぞ。二階の突き当りにあるところなら空いてるとおもうぞ。」


 トラオウさんは今の状況を察してか、二階の奥なら話ができると教えてくれたので、礼を言いながら退出する。

 部屋を出ると、少し離れた場所にウィルさんが立っていて、俺が出てくると同時に()()()()をする。


 やっぱり何か訳ありのようだ。

 とりあえず状況説明して、ウィルさんを連れて二階の奥へ向かうが、そこにはトイレは無く普通に宿泊用の部屋があるだけだった。 

 少しためらったあと、扉をノックすると中から聞き覚えのある男性の声が聞こえた。


「誰だ……って、シクラのボウズじゃないか。どうしたんだこんな所まで来て。」


 中から現れたのは、トラオウさんと同じパーティーのハルさんだった。

 ハルさんに事情を説明して、少しの間場所を借りてもいいか確認した所、許可を貰い入室させてもらった。

 ウィルさんには、ハルさん達の部屋なのでハルさんも立ち会う事になるけどいいか確認を取ったが、普通に了承を得られた。


 ハルさんに許可を貰い部屋に入ると、ハルさんは椅子を出してくれるが、ウィルさんは座るのを固辞して立っていた。 


 さてさて、いったいどんな話があるのやら。

 

いつもありがとうございます。

次回も月曜日更新になります。

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