召喚失敗勇者の新しい仲間?
私が気が付かない内に冒険者になっていたなんて。
しかも、既に銅クラスと言う事は、かなり前からやっていたはずなのに、全く気が付かなかった。
それに、お父様の許可まで頂いているとなると、私がいまさら反対した所で無意味でしょうね。
お父様達は、あの子は大丈夫だからお前が気にする必要はないって言われましたが、腹違いでも私の妹なのですから、心配しないはずが無いでしょうに。
でも、あの子がシクラ様と一緒にウグジマシカ神聖国にもし一緒に行くと言い出したら、どうなるのでしょうか。
シクラ様と一緒であれば、よほどの事が無ければ問題は無いと思うのですが……何か胸騒ぎがします。
byカトレア
「シクラさんおはようございます。」
「「「にいちゃんおはよう。」
「みんなおはよう。今日もいい天気だね。」
子供たちに挨拶を返しながら、窓から見える快晴の空を見る。
「シクラさん、今日は昨日の件で動こうと思うんですけど、空いてる時間はありますか? 」
クリスの言っている昨日の件とは、一緒に旅をしてくれる冒険者を紹介してもらう件の事だ。
「一度城に戻らないといけないと思うけど、たぶん大丈夫だと思うよ。いつ頃がいいかな? 」
「お昼くらいがいいかな。皆に話に行かないといけないから。」
「じゃあそのくらいの時間に行けるように調整してみるね。」
昨晩は、クリスと遅くまで色々話をした。
クリスの本当の名前は、クリスティーナ=ミュラー。
ミュラー侯爵家の四女にあたり、カトレアの腹違いの妹だそうだ。
クリスは物心ついたときには下町で暮らしていたようで、母親が流行り病で亡くなって養護院に引き取られたのだが、その時にクリスの父親であるミュラー侯爵の娘である事がわかったらしく、一度侯爵家に向かい入れられたのだが、クリスが貴族の教育や、窮屈さが嫌で再び養護院に帰ったとの事だ。
クリスの母親は、元々侯爵家第三婦人の侍女をしていたのだが、侯爵のお手付きになって身ごもってしまったことで、侯爵家に迷惑を掛けない為に姿をくらましたとの事だった。
クリスの母親が侍女をしていた、第三婦人はクリスの母親ととても仲がよかったらしく、侍女が居なくなったことを侯爵に問い詰めて不貞の事実を聞き出したが、貴族の男性がそう言ったことをするのはよくある事なので問題にはならなかったが、その相手が身ごもっていたかが、とても問題になっていたのである。
イオリゲン王国では、貴族が妻以外との間に子供が出来た場合、その家が養わなければならないと言う法律があり、もし闇に葬ったりした場合爵位と領地没収という、かなり厳しい罰則が付いているのである。
これは初代国王の勇者が定めた国法であるため、今現在でも改定されていない重要な法律なのだとか。
この法があるため、ミュラー侯爵家はクリスの母親を探したが、クリス母親は実家とも連絡を取っておらず、見つけることが出来なかったようだが、クリスが入った養護院がたまたまミュラー侯爵家の出資の養護院で、慰問に来ていた第三婦人がクリスの存在に気が付き、母親の名前が一致したため侯爵家の庇護下に入ったとの事だ。
実際には、自分にもしものことがあった場合にこの養護院にはいれるようにと、養護院がある場所の近くにクリスの母親が隠れ住んでいたとの事だ。
引き取られた際に、第三婦人の娘であるカトレアが世話係になっていたようだが、その時からあまり仲が良くなかったらしく、今でもしょっちゅう口喧嘩しているんだとか。
まあ、姉妹の喧嘩に口を出すのは厄介ごとに巻き込まれる可能性が高いから、よっぽどの事が限りは仲裁に入る気はないけどね。
養護院で、子供達やシネラリアさんと朝食を食べ終えてのんびりしていると、カトレアとアイリスの二人組が俺を迎えにやって来たので、シネラリアさんに礼を言って養護院を後にする。
道中、アイリスに昨日戻らなかったことをぷりぷり怒られながら、ミュラー家の馬車で王城に帰還する。
馬車での移動中、カトレアは殆ど会話をせずに窓の外を眺めていたのが少し気になった。
いつもであれば、俺とアイリスの会話にちゃちゃを入れることが多いのだが、今日のカトレアはいつもと違い少し沈んだ雰囲気を漂わせている。
城のエントランスに馬車が停車して、皆で馬車を降りていつもの部屋へ向かって行く。
部屋でとりあえず着替えをして、ソファーでコーヒーで一服しながら、今日の予定をアイリスと相談する。
とりあえず、俺に対して訪問予定などは無い様なので、クリスとの約束は問題なくいけそうなのだが、昨日が外泊になってしまった為、今日はアイリスが一緒に同行することになった。
クリスはアイリスの事を知っていたようだが、アイリスはカトレアから伝え聞いた程度の事しか知らないらし……まあ、アイリスは、勇者の従者と言う事で有名みたいだからよくある事みたいだね。
「それでシクラ様。その、クリスと言う冒険者との待ち合わせはいつ頃になるのでしょうか。」
「一応、昼頃としか決めていなかったんだけど、待ち合わせ場所はさっきの養護院だね。」
養護院から王城までは、馬車でおよそ一時間程かかっていたから、昼前に着くにはもう少ししたら向かわないと間に合わないかな。
「そうですか。行きに乗った馬車は帰してしまいましたので、そろそろ向かわないと間に合わなくなりそうですね。」
「そうだね。でも、カトレアが戻ってくるまでもうしばらく待とうかな。例の件を確認してもらっているからさ。」
「かしこまりました。随伴は、私とダイアンでよろしいでしょうか。」
ダイアンは、俺の侍女としてアイリス達と一緒に身の回りの世話をしてくれている少女で、騎士団長のヒューズさんの姪っ子で、娘の居ないヒューズさんに溺愛されているが、実力は騎士団員と同等クラスで護衛としてもそれなりの実力がある。
しばらくお茶をしながらくつろいでいると、カトレアが戻って来た。
「シクラ様、先程の件は国王様と司祭様に了承を頂いてまいりました。ただ、あまり周知なされると問題があるかと思いますので、他国の重鎮や司祭以上の方は問題ないとの事ですが、冒険者や傭兵などの一般人の場合は、表向きは子爵としての身分証を下さるそうなので、勇者と言う事はあまり吹聴しない者にして欲しいとの事です。」
「カトレアありがとう。そうだよね、変な噂が経っても困るからね。それにしても子爵とは、それなりの爵位だけど問題にならないのか心配だよ。」
「そうですね、勇者であるシクラ様がいらっしゃると言う事だけで、下手したら魔王が現れたと勘違いされてしまう可能性もありますから。伝える相手は慎重に選んだ方が良いかと思います。流石に勇者であるシクラ様に騎士爵は低すぎますが、侯爵や伯爵の高位貴族ですと相手方が歓待をしないといけなくなってしまうので、無難なところで子爵にしたとの事です。」
カトレアに確認してもらった例の件とは、ウグジマシカ神聖国に行くにあたって、同行する冒険者に素性を伝える必要が出てきた場合や、他国で面倒事に巻き込まれた際に、俺の素性をどうするか確認してもらっていたのである。
「恐らく、白虎のトラオウなどは気が付いていると思われますが、あの方たちはそう言ったことを吹聴することは無いので問題ないと思われますが、一応むやみに広げない様お伝えした方が良いかと思われます。」
「そうだね。また時間が出来たら一度会いに行ってみるよ。」
悪魔を一緒に討伐したトラオウさん達は、俺が勇者である事は気が付いていそうだね。
でも白虎の人たちは、その辺の事情を周りに話したりする感じではないので、よっぽど大丈夫だと思うんだよね。
「じゃあそろそろ行こうか。」
カトレアが確認して来てくれたことをダイアンにも伝え、対外的には子爵として対応してもらうよう伝えておく。
俺がアイリス達を連れ立って出かける際に、カトレアから少し困ったような視線を向けられていた。
これから会いに行くのがクリスと知っているが、自分が同行すると迷惑をかける恐れがあると言う事で同行を辞退していた。
ただ、本当はクリスの事が心配なので同行したかったんだろうな。
そんなことを思いながら部屋を後にする。
「シクラ様お待ちください。」
アイリス達を伴って養護院に向かおうとするが、そのまま城を出ようとした際に衛兵に止められてしまった。
何事かと思ったら、表向き貴族と言う事になるので、国王陛下が馬車を出してたとの事だった。
先ほど乗ったミュラー家の馬車程ではないが、豪奢な装飾がされた馬車が用意されていた。
馬車に乗り込み養護院に向かう最中に、窓から見える街の様子を伺って見る。
相変わらず様々な種族の人々で町は賑わっており、所々で衛兵の様な人が見受けられ、治安維持にも積極的な事も良くわかる。
ただ、大通りから離れ外壁周辺や立地の悪い路地の奥などでは、クリス達が襲われたような貧しい人達が住んでいるところもあるのは、こういったファンタジー世界ならではなのかもしれない。
王都だからと言って仕事が十全にあるわけではないし、そこは仕方のない事なのかもしれないが、元の世界との格差を感じてしまったりする。
そんなことを考えているうちに、馬車が停車し養護院に到着しており、御者さんが踏み台を用意して扉を開けてくれる……いやあ、本物の貴族みたいな扱いで恐縮してしまう。
馬車が停まると養護院の中から、クリスと見覚えのない三人が出てきて出迎えてくれる。
俺と同年代位の男女とクリス位の女の子が、俺が乗って来た馬車を見て驚きながら礼をする。
男性の方は、茶色い髪を短めに整えたがっしりとした体格の男性で、腰にはショートソードとしっかり手入れされた皮鎧を着こみ、背中には大きめの盾を背負っている。
うん、この世界の人は目鼻立ちがしっかりしていて美形ばかりなので、この男性も同様に美形である。
もう一人の俺と同年代位の女性は、長めの金髪を後ろで縛っている少しきつめの印象の美女で、この女性も手入れをされた皮鎧を着ているが、装備は長めの細剣を腰に据えている。
最後のクリス位の女の子は、ショートに整えた栗色の髪でクリっとした目が特徴的な可愛い女の子だ。
この子は、他の二人とは違い胸当ては装備しているが、手足などの所に鎧はないが代わりの厚手のローブを羽織っており、腰には短剣と短杖を持っている様だ。
「シクラさん、私とパーティを組んでる銅ランクの皆さんです。大盾持ちのウィルさん、細剣のセルリアさん、魔法使いのファセリアちゃんです。」
クリスが俺にパーティのみんなを紹介してくれるが、三人はぎょっとした顔でクリスを見ていた。
何を驚いているかと思ったけど、三人が俺の顔色を窺っていたのが分かったのでなるほど思った。
普通に考えれば、豪奢な馬車からメイド二人を連れた貴族風の男性に、敬語も使わずに話しているのだから、気分を害していないか気になっている様だ。
俺自身はまったく気にしていないが、アイリスとダイアンもカトレアの妹と言う事を知っているので、特に気にした様子も無い。
「やあ、初めまして。トウマ=シクラ子爵と言う。今回はクリスに無理を言って紹介してもらっているのだから、そう硬くならないでね。」
俺の物言いが気になってアイリスが咳払いをするが、俺に本当の貴族の様な立ち振る舞いは無理だって。
「は、初めまして子爵様。俺が……私が、このパーティのリーダーをしておりまする、ウィルと申します。それで、私たちに依頼とはどのような事でございましょうか。」
ウィルは緊張しているのか、物凄くおかしな話し方をしていたので、一瞬吹き出しそうになったが何とか耐えた。
「立ち話もなんですし。もうすぐお昼ですから、店で食事をしながらでも話しましょう。アイリス、どこかいい店はあるかい。」
「それでしたら、陽光宿の個室を借りるのが良いか存じます。上級冒険者達が泊る宿になりますので、商談や相談をする個室が用意されております。」
「じゃあ、そうしようか。この馬車六人乗りなんだけど、移動はどうしようか。」
「でしたら、皆様に乗って頂き私が御者席に行きますよ。」
ダイアンが御者席に行こうとするのを、ウィル達が慌てて止めに入り、女性陣が馬車に乗りウィルが御者席に座ることになった。
馬車での席は、俺の両隣にアイリスとダイアン。
俺の正面にはクリスがおり、その両隣にセルリアさんとファセリアちゃんは、余計なものに触ったりしない様体を縮こませて座っている。
クリスは全く気にした様子はなく、こういった馬車に乗りなれているのか悠々と座っている。
「それじゃあシクラさん行きましょうか。」
クリスの言葉を合図に、馬車は陽光宿へ向かって走って行く。
いつも読んで頂きありがとうございます。
新章を楽しんで頂けていると幸いです。
次回も月曜日更新になりますので、今後もよろしくお願いします。




